■ラウンジクラシックに戻る■
元のスレッド
スクールランブルIF09【脳内補完】
- 1 名前:浮舟 :04/06/13 12:34 ID:1HPeLaRY
- 週刊少年マガジンとマガジンSPECIALで連載中の「スクールランブル」は
毎週9ページの週刊少年漫画です。
物足りない、もっとキャラのサイドストーリー・ショートストーリーが見たい人もいる事でしょう。
また、こんな隠されたストーリーがあっても良いのでは?
有り得そうな展開を考察して、こんな話思いついたんだけど…といった方もいるはずです。
このスレッドは、そんな“スクランSSを書きたい”と、思っている人のためのスレッドです。
【要はスクールランブルSSスレッドです】
SS書き限定の心構えとして「叩かれても泣かない」位の気概で。
的確な感想・アドバイスレスをしてくれた人の意見を取り入れ、更なる作品を目指しましょう。
≪執拗な荒らし行為厳禁です≫≪荒らしはスルーしてください。削除依頼を通しやすくするためです≫
≪他の漫画のキャラを出すSSは認められていません≫
SS保管庫
http://www13.ocn.ne.jp/~reason/
【過去スレ】
スクールランブルIf08【脳内補完】
http://sports2.2ch.net/test/read.cgi/entrance2/1084117367/
スクールランブルIf07【脳内補完】
http://sports2.2ch.net/test/read.cgi/entrance2/1082299496/
スクールランブルIf06【脳内補完】
http://sports2.2ch.net/test/read.cgi/entrance2/1078844925/
スクールランブルIf05【脳内補完】
http://sports2.2ch.net/test/read.cgi/entrance2/1076661969/
スクールランブルIf04【脳内補完】(スレスト)
http://comic3.2ch.net/test/read.cgi/wcomic/1076127601/
- 2 名前:浮舟 :04/06/13 12:35 ID:1HPeLaRY
- 関連スレ(21歳未満立ち入り禁止)
【スクラン】スクランスレ@エロパロ板3【限定!】
http://pie.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1082689480/l50
【荒らし行為について】
“完全放置”でよろしくお願いします
■ 削除ガイドライン
http://www.2ch.net/guide/adv.html#saku_guide
- 3 名前:浮舟 :04/06/13 12:37 ID:1HPeLaRY
- ネタばれSSも当然不可です。
テンプレはここまでです。
- 4 名前: :04/06/13 13:04 ID:5Sa8V8Nk
- 次スレはこっちでいいのかな?
>>1
乙
- 5 名前:やまぶき色 ◆LlOW5GoY :04/06/13 13:20 ID:1.kX531A
- | ∧
| ゚w゚) サワチカ
- 6 名前:Classical名無しさん :04/06/13 13:30 ID:6gWpwnUI
- スレたて乙です。
- 7 名前:Classical名無しさん :04/06/13 14:44 ID:N7H8Cg6o
- >>1
乙です!
- 8 名前:Classical名無しさん :04/06/13 16:20 ID:cUrJJ65Q
- 兄弟リンク
『工具楽屋』こわしや我聞ブレイク2弾目!
http://comic4.2ch.net/test/read.cgi/wcomic/1081316205/
こわしや我聞で801
http://www2.bbspink.com/test/read.cgi/801/1079198635/
関連リンク
「こわしや我聞」社長&家長 工具楽我聞だぜ!
http://www.alfheim.jp/~narikiri/narikiri/test/read.cgi/TheSun/1084550869/
【スクールランブル】キャラハン雑談広場【こわしや我聞】
http://etc.2ch.net/test/read.cgi/charaneta/1080240220/
尚、これは荒らしとは関係ありません。スクラン住人とこわしや住人の間で
公認済みです。
ひょっとしたら、今後、このIfスレに我聞×沢近のSSが再投下される
可能性がないわけでもありません。
- 9 名前:Classical名無しさん :04/06/13 16:36 ID:UP3rarDA
- >>1
乙です。
それにしても、もう9スレ目ですか。
月日の流れるのは早いですね……。
そろそろID変わってるかな?
- 10 名前:Classical名無しさん :04/06/13 18:00 ID:0XNUd2Yw
- >>1
乙カレリン。
>>9
ところがどっこい変わっていない様子。
さぁスレッド数一桁の最後のスレ。
今回はどんな作品が投下されるやら、今から楽しみだ。
- 11 名前:Classical名無しさん :04/06/13 20:43 ID:gMPH46vY
- 初書きSS投下します。
お題は『サラ麻生』で。
最初なのでベタといえばベタなネタで。
それでは行ってみます。
- 12 名前:Apple of the Eye :04/06/13 20:44 ID:gMPH46vY
「あ、あのっ……! 私、麻生先輩のことが好きです! もし迷惑でなければ……
つ、付き合ってください!」
恥ずかしさのあまり耳まで真っ赤にしながら、少女は彼女の意中の人へと秘めた
想いを打ち明けた。
木々の緑を揺らして、突然の気まぐれな風が吹く。
――何気ない日常の中の、ある日の小さな出来事。
(……来た)
予期していた言葉を聞きながら麻生広義は心情を表に出さないように落ち着けと
自分に言い聞かせた。
神様なんてこれっぽっちも信じてはいないが、今は少しだけいるかもしれないと
思い始めたりもする。……それも悪い方の意味で、だ。
そう、彼にとってこれは――試練なのだ。
ひと気のない放課後の体育館裏。館内からは運動部の声が遠く聞こえてくる。
放課後とはいっても夏の太陽はまだ高い。建物を取り巻く木立は日差しを受けて
涼しげな影を落とすと同時に人の目をも遮ってくれる。
普段から訪れる人間の限られる場所であるが、少し遅い時間であることが周囲を
いっそう特別な空間へと変えていた。
- 13 名前:Apple of the Eye :04/06/13 20:45 ID:gMPH46vY
麻生は意を決して大きく息を吐くと目の前の少女に視線を向ける。
「……せっかくだが俺はあんたのことをよく知らないし、はっきり言って特別な
感情は全く持っていない。第一、相手の都合も考えずにいきなり自分の気持ちを
押しつけること自体理解できねえ。付き合うとか以前の問題だ。悪いな」
――少女の期待を裏切る冷たい声。
ここに来る前から用件を察していた麻生は顔見知りの一年生に対して淡々と用意
していた拒絶の言葉を返した。
努めて表情を殺してはいるが、その瞳にかすかに浮かんだ困惑の色が残酷なまでに
少女の想いを突き放す。
「そう……ですか。こんなところに呼び出して、ごめんなさ……ううっ!」
よほど傷ついたのだろう。
少女は最後まで言葉を続けることができず、途中で麻生にくるりと背を向け
口元を押さえて走り去って行った。
「……」
その背中を見送りながら麻生は小さくため息をつく。
後に残ったのは言いようのない後ろめたさだけだ。
「また断っちゃったんですか?」
不意に麻生の背後から呆れたような声が聞こえた。
振り返らなくてもその声の主が誰か、彼にはすぐにわかる。
「立ち聞きかよ。趣味ワリィな」
麻生は苦々しい顔でそこにいる人物に視線を巡らせた。
- 14 名前:Apple of the Eye :04/06/13 20:46 ID:gMPH46vY
「偶然ですよ? 私、掃除当番ですから」
ブロンドの髪を頭の後ろで清楚に編み上げた、穏やかな顔立ちの少女――麻生の
バイト仲間でもある一年生のサラ・アディエマスは心外だという顔で答えた。
なるほど、確かに体育館の反対側にはゴミの集積場があり、サラは白い大きな
ポリ袋を重そうにずりずりと引きずっている。
こちら側を通る生徒は少ないとはいえ、特別おかしなことではない。
「はいはい。そりゃ悪かったな。全部俺が悪い」
サラの言葉に納得はしたものの、気まずい場面を見られたという意識が先に立って
麻生は全く心のこもっていない謝罪の言葉を吐き捨てた。
言葉と正反対の内心を少しも隠そうとしていないが、麻生の口の悪さはいつもの
ことなのでサラは気にする様子もない。
むしろここで問題なのは今の話の内容だ。
「もったいないなぁ。可愛い娘だったじゃないですか。彼女、泣いてましたよ?」
わずかに眉を寄せて言うサラの言葉には明らかに麻生を責める響きがある。
「……俺にどうしろって言うんだ? まともに口をきいたこともない相手だぞ。
向こうだって俺の何を知ってるんだか教えてほしいくらいだ」
彼女を泣かせたことに対してサラが怒っているのはわかったが、それでも全く
悪びれずに麻生は平然と答えた。
- 15 名前:Apple of the Eye :04/06/13 20:47 ID:gMPH46vY
サラの非難の視線を無視して麻生は体育館脇のコンクリート階段の一番上に腰を
下ろすと当たり前のように煙草を一本取り出して口にくわえる。
彼はいわゆる不良高校生ではなかったが、人並みに煙草を嗜むくらいの嗜好は
持ち合わせていた。
「言い逃れする気ですか?」
麻生がおもむろにライターを取り出すのを見て、サラは慣れた様子でまだ火の
ついていない煙草を彼からひょいっと没収しつつ、静かな口調で尋ねる。
「……聞こえねえな」
麻生はサラの手にある煙草をあっさりとあきらめ、残りの煙草のカートンと安物の
ジッポをポケットに突っ込みながら面倒くさそうに答えた。
「はあ……もっと紳士的な対応ができる人だと信じてたのに」
「何とでも言え」
「知ってます? 恋愛のもつれによる傷害事件の発生率は日本が世界一なんですよ」
「平和なもんだ」
「あ! 先輩に女難の相が……」
「現在進行形でな」
「……。……私、泣いちゃいますよ?」
「勝手に泣け」
- 16 名前:Apple of the Eye :04/06/13 20:48 ID:gMPH46vY
「む〜!」
何を言ってもまともに取り合ってくれない麻生にサラは不満そうに頬を
ふくらませる。
「もう! そんなことばかり言ってるとそのうち誰も好きだって言ってくれなく
なっちゃいますよ!?」
「そいつは静かになって助かるな」
麻生はどこまでもそっけない態度でサラをあしらう。
その態度にサラは心底呆れたという顔で肩をすくめた。
「ヒドイですね。乙女心をモテアソブなんて『女の敵』ですか」
――グサッとえぐる一言。
そもそも自分に非のないことで何でここまで言われなきゃならない――次第に
理不尽なものを感じて彼の堪忍袋の緒も切れる。
「うるせえ! 黙って聞いてりゃ好き放題言いやがって! 大体、そんな言葉
どこで覚えやがった!?」
「女の子にはヒミツが多いんです。あれ? 核心を突いちゃいましたか?」
しれっとした顔で尋ね返すサラ。
「とんだ言いがかりだ。……お前がどう思ってるか知らねえが、さっきの
一年だってたまたま絡まれてるところを助けてやっただけだ。そんなモンで
いちいち惚れたの何だの言われる方の身にもなってみろ。相手すんのも
バカらしい」
親切心でやった結果がこれかとうんざりしたように麻生は言った。
- 17 名前:Apple of the Eye :04/06/13 20:49 ID:gMPH46vY
「……バカらしくなんてないです」
サラはそっと目を閉じて静かに反論する。
「……それがただの思い込みでもか?」
いまさら引くに引けず、口をついて出るのは辛辣な言葉。
そんな麻生の言葉を遮るように、サラは彼の目の前にすっと人差し指を立てる。
「それでも――あの娘にとって先輩は特別で、伝えたかった気持ちはきっと本物
だから――だから精一杯の勇気を振り絞って、ここに来たんだと思いますよ?」
穏やかな、そしてちょっとだけ哀しそうな優しい表情でサラは諭すように
そう言った。
「……」
その顔は反則だろうと麻生は思う。そんな顔をされてしまっては、彼にはもう
どうすることもできない。
それに実際サラの方が正しいのだから、これ以上何も言えるはずがなかった。
わずかな沈黙――。
「悪いとは……思ってる」
まっすぐに見つめるサラの視線から逃れるように目を逸らして、麻生は小さく
ぽつりと呟いた。
女の子の方から告白することがどれほどの決心を要するかくらい彼にもわかる。
けれど――いや、だからこそ、その想いに応えられない以上、相手に期待を
持たせるようなことは言えなかった。
- 18 名前:Apple of the Eye :04/06/13 20:50 ID:gMPH46vY
それが不器用な麻生なりの優しさなのだと本当はサラにもちゃんとわかっていた。
誰かを傷つけて平気でいられるような人ではないのだから。
たった一言だけの短い彼の言葉――でもそれだけで充分。
「――少しは、楽になりました?」
不意に耳に流れ込んできた意外なサラの言葉に、麻生はハッとして顔を上げた。
その瞳に映ったのは、何も言わずに自分を見つめて微笑んでいるサラの笑顔。
「――!」
きっと今の自分は情けない顔をしているに違いない――そう思った麻生は、咄嗟に
もう一度彼女から視線を逸らす。
「……何のことだかわからねえよ」
わかってもらえたことが嬉しくて、けれど心のうちを見抜かれたことが恥ずかしく
思えて――麻生は微かに顔を赤くしながら、それを隠すように憮然として答えた。
それっきり、何も言おうとはしない。
口を開けば意地を張れなくなりそうで、弱い自分を見せてしまいそうで――何も
言うことができなかった。
- 19 名前:Apple of the Eye :04/06/13 20:51 ID:gMPH46vY
サワサワと木々の囁きだけが静寂の中に広がっていく――。
黙ってしまった麻生を見て、サラは少し困ったような優しい微笑を浮かべる。
「……先輩、好きな人いるんでしょう?」
何気ない口調で唐突にサラが尋ねた。
「はあっ!? いきなり何言ってやがる!」
思いもよらない不意討ちに麻生の声が裏返る。
サラの真意を測りかねて、麻生は彼女の表情をちらっと窺う。
これではにかんでいるようなら少しは可愛げもあると思うのだが、彼女はいつもと
変わらないにこやかな笑顔だ。
「なんとなく、です。先輩、今年に入ってから告白されても全部断ってるそうじゃ
ないですか。特別な人がいるくらい、察しはつきます」
興味津々といった顔で瞳を輝かせるサラ。
(誰に聞きやがったんだ、コイツ)
……と思ったが、彼女にそんなことを吹き込むのは謎の多い茶道部の部長くらい
だとすぐに思い当たったので口に出すのはやめにした。
事実、サラの言っていることは当たっていた。
しかし、認めたくはないが麻生の片想いだ。おまけに相手は全く気づいていないと
きている。
だが、その『本人』を目の前にして本当のことが言えるはずがないし、言える
性格の麻生でもない。
- 20 名前:Apple of the Eye :04/06/13 20:53 ID:gMPH46vY
「……んなもんいねぇよ」
麻生は不機嫌そうに答えると、立ち上がって何も言わずにサラの手から重いゴミ袋
を取りあげる。
「あん」
ちょっとびっくりした顔のサラを無視して、彼はそれを集積場のすでにうずたかく
積まれているゴミ袋の山に積み上げに向かった。
「ありがとうござい……マス」
そのぶっきらぼうな優しさにサラは苦笑しながら、ゆっくり彼の後をついて行って
拗ねたような背中に感謝の言葉を贈る。
無愛想でも口が悪くても、こんなふうに彼はいつだって優しい。
柔らかな眼差しでふわりと微笑む彼女の表情は後ろ姿の麻生には見えなかった。
やがて袋を放り投げて戻ってきた麻生は小さくため息をつくとジロリとサラを
にらんだ。
「……お前、そんなに俺を誰かとくっつけたいのか?」
「さあ、どうでしょうね? 例えば先輩に気になっている人がいて、その人のことを
これからもちゃんと考えてくれるなら、私は応援します。
でも、そうじゃなくて、いい加減な気持ちで女の子と付き合うなら、私は反対です」
サラはにっこり笑って、さらりと答えた。
「変な奴だな。……ま、お前にとっちゃどうでもいい話か」
内心の落胆をポーカーフェイスに隠して、麻生は肩をすくめた。
- 21 名前:Apple of the Eye :04/06/13 20:54 ID:gMPH46vY
「アラ、どうでもよければこんなこと言わないですよ?」
意外そうな顔をしてサラは麻生の言葉を訂正する。
「そりゃどうも。……俺はもう行くぞ」
麻生は投げやりにそう言うとサラを残してスタスタと歩き出す。
『……特別だから、ですよ』
サラは麻生の背中を見つめて、彼に聞こえないように小さく呟いた。
「何か言ったか?」
ふと足を止めて麻生が振り返った。
「別に」
サラはすました顔で斜め上に視線を向けてとぼける。
「……教えろ」
聞き流してもよかったが、その態度が気に障ってツカツカと戻ってくる麻生。
「嫌です」
ぷいっとそっぽを向くサラ。
「気になるだろうが! おとなしく言え!」
普段のクールさもどこへやら、もどかしそうに麻生は詰め寄る。
「先輩みたいに、意地悪で鈍感な人には教えてあげません」
つんとしてサラは麻生の横をすり抜け、彼を置いて歩き出す。
- 22 名前:Apple of the Eye :04/06/13 20:55 ID:gMPH46vY
「お、おい?」
怒ったのか?――そう思い、麻生は慌ててサラを呼び止める。
その声にサラはくるりと振り向くと、ぴっと人差し指を立てながら
いたずらっぽく笑ってこう言った。
「『 Let all that you do be done with love(何事も愛をもって行いなさい)』
ですよ。先輩♪」
まぶしいくらいのとびっきりの笑顔。
「はあ?」
その笑顔を見つめながら、麻生はますます混乱する。
「先輩! そろそろ行かないとお店に遅れちゃいますよ!」
体育館の角のところで手を振りながら、元気にサラが呼んでいる。
(ま、いいか……)
心の中で呟くと麻生は彼女の元へと歩き出した。
この瞬間に最高の笑顔を自分に向けてくれる――それだけで今は充分だ。
彼女の瞳の中に、いつも自分の姿が映っていることに麻生が気づくのは
もう少し先の話。それはきっと決して遠くはない未来の話――。
木々の間を吹き抜ける風が爽やかに二人を包み込む。
――何気ない日常の中の、そんな小さな出来事。
fin.
- 23 名前:Apple of the Eye書いた人 :04/06/13 20:56 ID:gMPH46vY
以上です。
いろいろと言い訳したい気もしますが、それは次のSSでリベンジです。
でも、ちょっと気になったことだけ。
・果たして矢神高校に焼却炉はあるのか?
→展開の都合で集積式にしました。イマドキの学校だし。
・そもそもこの二人でいいのか?
→この二人、好きなんですけど♭13を読んでないんでイマイチ自信がありません。
必然的に麻生の性格も掴みきれてないわけで……偽者っぽいかな?
……とはいえ、いまさら後には引けないので2本ほどネタが待機中です。
5巻と本編読んでも書く気力があれば……ですが。
まだまだ練習中ですが、読んでいただいてありがとうございました♪
- 24 名前:Classical名無しさん :04/06/13 21:30 ID:V3kQJTq6
- 本当に初めて書いたSSなんでしょうか…上手すぎです
ちゃんとSSの手順を踏んでいるし、何より読みやすい
内容も素晴らしかったです
二人のやりとりや、
ラストの、サラが麻生に分からないよう英語で言うシーンも最高でした
次回作期待してます
- 25 名前:Classical名無しさん :04/06/13 21:55 ID:XkaztUX6
- なんか2人の雰囲気がイイネー!!
読んでて違和感ないし、何よりサラの描写がカワイイ!
それとなぜか麻生にも萌え(*゚∀゚)
- 26 名前:Classical名無しさん :04/06/14 13:36 ID:UCe9uo0Q
- 「…ただいま」
「あぁ、おかえり拳児君」
「……」
「体育祭で疲れただろう。今夜は私が用意しておいたよ」
「あ、あぁ…」
「…どうした?大活躍だったのにいやに落ち込んでるじゃないか」
「……」(無言で帽子をとる)
「ああ、それか…道理で最近家の中でも帽子をかぶってると思ったよ」
「…ちっ」
「まぁ落ち込むのも無理はないか…で、その頭は沢近君と何か関係があるのかね?」
「なっ!何でそれを」
「やはりそうか…いや、騎馬戦の時の沢近君の落ち方がおかしかったからな。
沢近君がキミの頭のソレを隠すために落馬して足を痛めリレーで転倒したと考えれば
キミが帽子を飛ばしてまで力走したことも含めて全てつじつまが合うなと思ったのだよ」
「なるほどな…全くよく見てやがるぜ」
「それに沢近君とキミは犬猿の仲らしいと聞いてるからな。彼女自身がその頭に直接関わっていなければ
わざわざキミのその頭を隠すために落馬したりはしないだろう」
「んなことまで知ってんのか?…あぁそうか、確か天満ちゃんやお嬢なんかと仲がいいあの女」
「高野君だ」
「そうソイツだ…あの女そういや確か茶道部だったな」
「キミがクラスでうまくやれてるかどうかが心配なのだよ…」
- 27 名前:Classical名無しさん :04/06/14 13:37 ID:UCe9uo0Q
- 「…言ってろ、どうせ面白がってるだけのクセして」
「塚本君とどうなのかも気になるしな」
「なっ、う、うるせぇ」
「…まぁその頭では大変だろうが頑張りたまえ拳児君」
「畜生イトコてめぇ言いたい放題言いやがって…つーか天満ちゃんは
現場に居合わせてたんだから元々この頭のことは知ってたはずだぜ」
「そうなのか…でそもそもその『現場』とやらで一体何があってその頭になったのかね」
「どうもこうもねぇよ。あのお嬢がオレの髭を切りやがって、天満ちゃん達に言われて謝りに来たはずが
何をどう虫の居所悪くしたか知らねぇが急に癇癪起こして頭まで剃っていきやがったんだよ」
「…一体何を言ったんだ?」
「いや、確かに最初はあのお嬢が珍しく下手に出てやがるから日頃のウサ晴らそうと調子に乗って
舎弟になれだろハゲヅラかぶせたりだのして一発貰ったんだが、その後は普通の話してたはずなんだよな」
「ほぅ」
「確かそもそもなんでヒゲ伸ばしてるんだとか全部剃っちまったほうがいいとか何とか…そうそう、確かそこで
天満ちゃんも剃ったほうがいいって言うからソッコーで自分で全部剃ったら突然あのお嬢がキレてジョリっと」
「…なるほど、拳児君も大変だな」
「わかってくれるかイトコ…全く本当に災難だったぜ」
「いや、これからがだよ」
「ん?…あぁ、この頭な。畜生、しばらくはガッコーで物笑いの種か」
「いやそれもだが…」
「???」
「…まぁいい、とにかく頑張りたまえ」
「あ、あぁ…」
fin.
- 28 名前:Classical名無しさん :04/06/14 16:19 ID:Z1t788nA
- GJ!
相変わらず雰囲気出てますねー
- 29 名前:Apple of the Eye書いた人 :04/06/15 00:44 ID:gMPH46vY
- >>24様>>25様
遅くなりましたが、感想ありがとうございました。
誉めてもらえるとは思わなかったのですごく嬉しかったです。
次できたらまた読んでやって下さい♪
- 30 名前:Classical名無しさん :04/06/15 10:55 ID:z9UDQokM
- >前スレ706
熱いSS楽しませてもらいました。
本編以上にライバルの2-Dのキャラが魅力的に動いていたと思います。
ハリーと天王寺との戦いが燃えました。
GJ
>Apple of the eye
麻生かっこいいですね・・・
告白を断る場面が雰囲気が出てて、とっても良かったです。
その反面、サラのキャラがちょっと掴みづらいキャラに仕上がっちゃってますね・・・
そのせいで掛け合いがちょっと読みづらいです。
- 31 名前:Classical名無しさん :04/06/15 16:20 ID:xA19qcsU
- >>29
♪←とかかなり腐女子っぽいので止めた方が良いかも…
- 32 名前:Out of festival :04/06/16 04:57 ID:qWTM3Kjg
「体育祭も、もう大詰めですね」
「ですね」
保健室で、見目麗しい女教師二人が優雅に紅茶を飲んでいる。
現在校内人気女教師のブッチギリ1・2位の姉ヶ崎妙と刑部絃子である。
盛り上がるグラウンドとは距離的にも立場的にも離れたこの場所は、異常なまでに静かさを漂わせていた。
「リレー、どっちが勝つと思います? C組とD組」
「いきなりですね」
子供のように、おかしそうに質問をする妙。
ソレを見て、絃子は役得だな、と思う。
同姓の自分さえも、可愛らしいと思うのだから。
「で、どっちだと思います?」
「ま、個々のタイム、リレーのタイム、見ればどちらもD組の方が速いですね」
「それじゃあ、刑部先生はD組が勝つと思いですか?」
しばし、間――
「これは知り合いに聞いた言葉ですがね、陸上というのは『速いものが勝つ』ではないそうです」
「はぁ……」
「『勝ったほうが速い』だそうですよ」
姉ヶ崎が、ポカンとした顔になる。
それを見て、絃子が少し笑った。
「なんだか答えになってませんね」
「バレましたか」
二人は軽く笑いあい、再び、しばしの間――
- 33 名前:cat meets girl ♭ :04/06/16 04:58 ID:qWTM3Kjg
「そういえば、ハリオ……ああ、ええと播磨くんがC組のアンカーだそうですね」
「そうらしいですね、まったく似合うと思いませんが」
「まあ、刑部先生はなかなか厳しいですね……播磨君にアンカーは向いていないと考えてるんですか?」
絃子はしばらく虚空を見つめると、上品に、まさしくどこかの女帝のように口の端を上げた。
一瞬、妙でさえもゾクリとする妖艶ともいえる笑みだ。
そして、やや呆然としていた妙に言葉を投げかけてきた。
「アンカーに必要なものをご存知ですか?」
「あ、え〜と……足が一番速いコト……ですか?」
「まあ、それもありますが……」
しとやかに絃子はカップに手を伸ばす。
「アイツなら、大丈夫だと思わせてくれる安心感、アイツならどうにかしてくれるという期待感……」
絃子は紅茶をすすりながら、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「そして、なによりアンカーという重圧を撥ね退ける精神的タフネス」
体育祭の喧騒から少し外れたこの保健室では、絃子の声は驚くほど響き渡る。
「足の速さも大事ですか、こういう大舞台です、勝負強さも必要なファクターなんですよ」
にっこりと笑い、カチャリ、と上品にカップを置く。
妙も笑い返して、言葉も返す。
「要は、どれだけ肝が座っているか、根性があるか、ですか?」
「まあ、ざっくばらんに言ってしまえばね」
- 34 名前:Out of festival :04/06/16 05:01 ID:qWTM3Kjg
見もふたもない姉ヶ崎の言いように、絃子も笑いがこぼれる。
二人の笑いが収まると、絃子が先に言葉を出した。
「そしてね、あの馬鹿は、私が言うのもなんですが」
絃子は一度言葉を切ると、思い出したように、今までにない笑顔を見せる。
そして、言葉を続けた。
「恐ろしく、全力で、馬鹿みたいに馬鹿なんですよ」
――遠くで、この体育祭中もっとも大きな歓声があがった。
- 35 名前:Out of festival :04/06/16 05:03 ID:qWTM3Kjg
「まあ、馬鹿だなんて……」
「……まあ、馬鹿ですから」
二人は何度目か、クスクスと笑いあった。それぞれが色々な思惑を込めて。
そのとき、再びひときわ大きな歓声が巻き起こった。
それは、宴の決着と終わりを示す大歓声であった。
「……どうやら、リレーも優勝も決まったみたいですね」
「そうですね」
絃子は興味がなさそうに、視線を紅茶へと送っている。
「先生は結果に興味がないんですか?」
「あればこんな所でお茶なんか飲んでませんよ」
冗談をたっぷり込めて、自嘲気味に絃子が笑う。
それとは正反対に、なにかを見透かしたかのような視線を投げかける妙。
「……あるいは、刑部先生は最初から結果は分かってた、とか?」
- 36 名前:Out of festival :04/06/16 05:07 ID:qWTM3Kjg
絃子は、クスリ、と小さく笑うと、カップを皿の上に置いた。
そして、妙の視線も、言葉も、言葉の外の思惑も、綺麗に受け流す。
「私は未来なんて分かりませんし、知りませんよ。……それではそろそろ失礼させていただきます」
やれやれ、と少し妙は肩をすくめる。
ふと見れば、絃子は扉の前で一度立ち止まったいた。
妙が怪訝な顔で見ていると、もう一度、絃子は唇の端を少しだけ上げた。
そして、一言つぶやいた。
「私が誰よりも知ってるのは、あの馬鹿のことだけ………なんてネ」
今度は、いたずら小僧のような笑み。
もう一度、失礼、という言葉だけを置いて、絃子は保健室を後にした。
置いてけぼりのように、妙は椅子に座ったままにして。
予想通り、ううん、予想以上の強敵だなぁ――
一人になった保健室の椅子に、背中を力いっぱい預けて伸びをしながら、姉ヶ崎はそう思った。
しばしの沈黙と思案の後、むん! 自分にと気合を入れると、元気よく保健室を後にする。
役目の終わった二つのカップが、所在なさげにテーブルの上に残された。
−了−
- 37 名前:Out of festivalの中の犬 :04/06/16 05:08 ID:qWTM3Kjg
- スレたて乙です、そして、一個題名を間違えてる自分
_| ̄|○<ソンナノバッカダヨ…
- 38 名前:Classical名無しさん :04/06/16 09:48 ID:FtBg37xk
- おまいら……そろいもそろって初っぱなから飛ばしてきやがったな。
>>29
>>24にそこはかとなく同意。
ホントにこのスレは初心者のLvが高い。
麻生の喫煙というオリジナル設定がちょっと引っかかりましたが、流れるように進むストーリーが
読みやすさと読了感を底上げしていますね。
確かに麻生とサラに少々違和感を感じましたがそれを補ってあまりある文章力と構成力。
次回作以降も楽しみな職人の誕生となるベネな処女作でした。
>>26
長い。
いつもの会話SSSの人なのかどうか分からないけど説明台詞が多すぎる気がします。
そこら辺を大胆カットすればより読みやすくなり、話の密度も上がるかと。
あと相変わらず晶の名前を覚えていない播磨にはワラタ。
気のせいか会話SSSは播磨と絃子さんというシチュエーションが多いような……。
>>37
姉ヶ崎先生が絃子さんと播磨の関係を知っていることが前提に話が進んでいますね。
そこの点に対する説明が欲しかったです。
あとはもう何というか、ジャブの応酬が続く(時にイイやつを一発)大人の会話が展開されていてGood。
楽しませてもらいました。
- 39 名前:Classical名無しさん :04/06/16 10:21 ID:fab4xAPk
- >>37
最後の絃子さんのセリフが(*´Д`)でした。
ただ、二人の話し方がちょっと堅すぎるような気がしました。
描写は相変わらず巧いですね。GJ!
- 40 名前:Classical名無しさん :04/06/16 17:51 ID:H39HDLXI
- >>37
GJ!
とても読みやすかったです。
>予想通り、ううん、予想以上の強敵だなぁ――
良いですね、実に良い。萌える
お姉さんは二人が従姉弟なのを知ってるのかな?
- 41 名前:Classical名無しさん :04/06/16 21:16 ID:pEz4UIs.
- 「なんてネ」のところで萌え狂った
- 42 名前:Classical名無しさん :04/06/17 18:28 ID:.KKhM2kw
- 限定版の小冊子いいなあ、
SS職人のみなさま、ぜひSSを!
- 43 名前:Classical名無しさん :04/06/17 20:30 ID:vXjrPlwY
- 書きたいのは山々だがまだ手に入れていない orz
- 44 名前:Classical名無しさん :04/06/17 20:39 ID:UP3rarDA
- 一応手に入れたんですが、えらい豪華でしたね。
お姉さんズの過去が衝撃的でした。
でも、一番驚いたのは本編口絵の笹倉先生のカラーだったり。
縦笛書いてたんですが、このままだと絃子先生たちの過去話に流されそうです。
- 45 名前:Classical名無しさん :04/06/17 20:53 ID:K2Kh6IBg
- お姉さんズは最高でしたね。
まあ自分は前から超姉萌え派でしたけど。
- 46 名前:Classical名無しさん :04/06/17 21:11 ID:k6eiuN.U
- 旗派は本編が仁丹が神掛り杉だから、しばらくお腹いっぱいだなー
限定版読んで妄想は膨らむが、残念ながら自分には文才はまるでない orz
SS職人様の妄想に期待してます
- 47 名前:Classical名無しさん :04/06/17 21:35 ID:9u9mt3js
- 限定版が良かったのは同意ですが雑談はそろそろ止めにしましょう。
>>46
そういう発言は曲解すると旗SSはあんまり書かないでくれ、
と言ってると取られかねないので注意。
まぁそんな意図はないと思うけど一応ね。
- 48 名前:cat meets girl :04/06/18 11:00 ID:qWTM3Kjg
気が付けば 逃げに逃げたり 幾星霜
ここまできたら 帰れませんがな
(作者注・上記の短歌は、本編に一切合切拍手喝采、関係ありません)
「う〜〜ん、困ったな〜…」
校舎の横の、小さな並木がある小道
道行く少女が全く悩ましげではないが、悩みながら歩いている。
聞こえる声から察するに、その少女は、多分、恐らく、確か、一応、きっと、本編の主人公の塚本天満である。
その彼女が悩み、困っていることとは、主人公なのに最近出番が少ないとか
ヒロインなのにSSの主役にあまりなっていないとか
そんな些細なことではない(些細か?)。
最近、妹である塚本八雲に元気がないのだ。
理由は分かっている、数日前に失踪した飼い猫、伊織のことである。
姉の身から言うのもなんだが、妹の八雲は
空よりも広く、海よりも深く、ウルトラマンよりも強い、そんな優しい心を持った女の子だ。
伊織が心配でたまらないのだろう、ここ数日の間、伊織を探し回っている。
……数ヶ月前からじゃないか? という気もするが、それはきっと気のせいだ。
気のせいと言ったら気のせいだ(断言)。
- 49 名前:cat meets girl :04/06/18 10:58 ID:qWTM3Kjg
ともかく、天満の身としては、これ以上八雲を悲しませるわけにはいかない。
しからばお姉ちゃんのやることは一つ、伊織をゲットだぜ!! である。
だがしかし、そんなに簡単に伊織が見つかるわけがない。
「は〜…すぐそこに伊織がいればいいのになー」
ガサッ テコテコ テコテコ
「そうそう、そうやって藪の中から伊織がテコテコ出てきてくれれば――」
テコテコ テコテコ テコテコ にゃ〜ん
「いいいいい伊織ぃぃ!?」
天満が歩けば猫に当たる、なんとも幸運なことに、目の前には目標たる飼い猫が。
ご都合主義と言う無かれ、これもまた話の都合である、ご容赦願いたい。
ゲフン、ともかく天満は捕獲捕獲とすぐさま飛びつこうと考えた。
が、それではあの俊敏で賢しげな猫を捕まえられるワケがない。
いやいや落ち着け私、と自分を冷静にさせる天満。
これは願ってもないチャンス、逆に言えばこれを逃すはけにはいかない。
- 50 名前:cat meets girl :04/06/18 11:00 ID:qWTM3Kjg
塚本天満の伊織捕獲作戦がスタートした。
その1・エサで釣る
「よ〜し! エサエサ…伊織はししゃもが好きだから…………あ」
ここでちょっとした疑問なのだが、通常学校にししゃもなんて持っていくか?
たとえ塚本天満でもそれはない、持っていそうなのは烏丸大路ぐらいだろう。
よって失敗以前の問題。
その2・ねこじゃらしで釣る
「ほ〜ら、伊織お出で〜」
伊織、全く興味なしで失敗
その3・ネズミを捕まえて、それで釣る
「………………」
しばらく考えなくても分かることだが、普通に無理。よって失敗
- 51 名前:cat meets girl :04/06/18 11:01 ID:qWTM3Kjg
その4・正攻法
「…伊織」
そっと伊織に呼びかけ、じっと見つめる天満、なに? といった表情で見つめ返す伊織。
「…帰っておいでよ、八雲も、もちろん私もすっごく心配してるよ?」
優しい言葉と少し憂いを帯びた表情で伊織を見つめる。
どこぞのグラサンやら県名少年なら、清水の舞台からカッ飛んで逝きそうな表情&セリフ。
駄菓子菓子、悲しいけど、この子、猫なのよね。
無視ぶっちぎりでステステと歩き去る黒猫。
残されたるは、無駄にトーンやらキラキラやらを背負った少女一人。
完膚なまでに作戦に失敗してしまった塚本天満であった。
- 52 名前:cat meets girl :04/06/18 11:02 ID:qWTM3Kjg
ルックスもスタイルも普通(たぶん)
クラスでも目立たない方―――
運動、ダメ 勉強、ダメ
そんな自分だが、誇れることはある。
それは、八雲のお姉ちゃんであること。
それだけは自信を持って言える、私は八雲お姉ちゃんだ。
今の自分を省みる。
このままで、お姉ちゃんたる資格はあろうか?
いや、断じてないッ!
そうっ! お姉ちゃんがお姉ちゃんたる所以は、お姉ちゃんたればこそッ!
天満の両目がキラリとひかる!
突き出す両手は力と愛!
ピコンと立った、アホ毛がぷりちー!
溢れるパワーは八雲のためにッ!
かつてないほどのぱわぁが塚本天満に漲りだした!
それはもうメータ振り切りぶっちぎり、スカウターだって吹っ飛ばす!
天下無敵、銀河ギリギリブッチギリの最強パワァーは無限大!
全ては妹のために、塚本天満は駆け出した――
- 53 名前:cat meets girl :04/06/18 11:03 ID:qWTM3Kjg
野性の本能か、はたまた動物の第六感か、ともかく伊織は後ろから迫るプレッシャーを感じた。
振り返ると、昼間なのに両目をキュピン☆ と光らせて、疾走、いや爆走して接近する
人間? と語尾に疑問符がつけたくなるソノの物体。
空は轟き地は裂ける、ズドドドドドドド……地響き立てて、ヤツが来た。
「おぉぉおお姉ちゃんパァァ〜ワアアぁぁぁ〜ッ!!!!」
その瞬間、伊織は一目散に逃げ出した。
本能が警告を告げる、ヤツは強い、ひたすら逃げるしかない、と。
しかし、普段からは考えられないスピードで迫る天満。
逃走のプロフェッショナル、百戦錬磨、不敵で無敵の伊織が振り切れない。
かくして始まった、天馬vs伊織の壮絶な追いかけっこ。
伊織の小回り&隠し通路が勝つか、それとも天馬の天地最強のお姉ちゃんパワーが勝つか
よほどの玄人でもまったく先が読めるわけがないだろコンチクショーなこの勝負。
舞台は矢神高校全域、制限時間はナシ。
伊織と天満の、生き残りはかけていないが、なかなかサバイバーのバトルになりそうだ。
- 54 名前:cat meets girl :04/06/18 11:03 ID:qWTM3Kjg
「マテマテマテマテェー!!」
「フニャー!」
まずは軽いお互いベーシックな追いかけっこをする二人。
ドタバタドタバタ無駄に手足を動かしながら、脅威の速さで迫る天満。
しかし、周囲の予想以上にこの猫は冷静だった。
敵はかなりのスピードとはいっても、所詮は人。
伊織はまず、人が入ってこれないような森のなかに飛び込んだ。
通常なら、人間は木々に邪魔されて動きは遅くなる。
……しかし、それは塚本天満には通用しなかった。
「てりゃぁぁぁぁッ!」
キュピン、シュピン、シュババッ!
野生の動きで木々を避け、通常時から数%も速度を落とさず迫る天満。
その慣性の法則を無視した動きは、まるでブースターを搭載しているかのようだった。
あまりに通常離れした動きに伊織の動きも凍りつく。
あわやすぐそこといった所で、なんとか窮地を脱する体たらくだ。
その後、獣道、抜け道、隠し通路、塀の上、屋根の上、教室内
火の中、水の中、草の中、森の中、土の中、雲の中、あの子のスカートの中(キャー)
ありとあらゆる逃走経路を伊織を走り抜ける。
が、バーサーカーのよう色々とブッちぎっている塚本天満には通用しなかった。
時には気にせず、時には無視し、時には破壊し、時には踏み潰し
「マテマテマテマテ! まぁぁーてぇぇぇー!!!」
と、雄たけびをあげながら、ただひたすらに伊織目指して突っ込んでくる。
流石の伊織も汗のマークとスダレを顔に貼り付けて、ビビりつつ、あせりだした。
しかし、この壮絶な追いかけっこ、天満はそこまで無理・無茶・無謀をしている。
この人型二足歩行の暴走台風によって、当然被害者も出てくるワケで……。
- 55 名前:cat meets girl :04/06/18 11:04 ID:qWTM3Kjg
「ハァ……塚本とどうれば仲良くなれるのかな」
ため息をつく男、奈良健太郎。彼はご周知の通り、恋に悩めるこーこーせー
大多数の方が周知、かつどうでもいいと思っているが、本人はやはり考え悩む。
ため息吐きつつ、とぼとぼと道を歩いておった。
と、そんな悩める奈良少年に、聞き覚えのある美声が。
「まぁぁ〜〜て〜〜〜!!!」
彼女に関しては聖徳太子なみに聞き分け可能な奈良健太郎。
振り返れば、愛しい彼の人が大声張り上げ、なかなか必死な形相でこちらに向かっている。
「塚本……もしかして僕に言ってるのかな?」
必死な顔で追いかけて、待てと叫ぶ女の子。
奈良の頭の中で考え出される結論は一つしかない。
「つ、塚本!!」
がばりと前に立って待ち受ける。
- 56 名前:cat meets girl :04/06/18 11:04 ID:qWTM3Kjg
ここで基礎の物理学、というか常識の問題
闘牛以上にまわりが見えてない、驚くべきスピードとパワーで突進してくる
女の子の前にアホみたいに立ちはだかるとどうなるか?
答え、ばこーん。
「ぁあ……」
翼も生えていないのに飛ぶことに成功した奈良。
しかし、古代神話のイカロスよろしく地面に叩き落された。
「…………ぐふッ」
遠のく意識の中、奈良健太郎が考えていたのは
塚本って……か、固い……などということであった。
奈良健太郎、17歳の悲劇である。
- 57 名前:cat meets girl :04/06/18 11:08 ID:qWTM3Kjg
「俺はシチケン(七)」
「あ、俺も〜」
「フッフッフッフッフ、アソ、悪いな……オイチョ(八)だ」
「お前等…どういう引きだ」
2−C教室内。ここにいるのは麻生広義ほか、生徒数名。
彼らは今日も花札でオイチョカブをやっている。
いまどき花札でカブとはジジ臭いにもほどがあるが、まあそれは置いておこう。
たとえジジ臭くとも、かかっているのはお金のマネー。
無論、真剣勝負の真っ只中。
ちなみに現在の状況としては、親の麻生がかなり不利。
「やっとお前にぎゃふんと言わすことができそうだ」
「いまどきギャフンをないだろ」
「やかましい!」
軽口を叩きつつも、内心はちょっぴりあせっている麻生君。
ふと遠くのほうからなにやら騒音とともに地響きが聞こえてきた。
「……ん、なんの音だ? ずいぶん窓の外が騒がしいな」
「「「あ〜? どれどれ」」」
身を乗り出して、窓を見下ろす意外と素直な三バカ
そこで三人が見たもの、それはクラスメイトの女の子が、鬼神のような面構えで
ものごっついスピードで砂煙を撒き散らしながら、黒猫を追いかけている映像だった。
- 58 名前:cat meets girl :04/06/18 11:09 ID:qWTM3Kjg
「「「…………なんだ、ありゃ」」」
ごもっとも。
その異常な光景に、しばらく視線を外せない三人。
そして、そのスキを見逃さない不逞な輩がここに一人。
「オイ、勝負の最中だぞ……ほらよ、カブ(九)だ」
「「「ああぁーーっ!!!!」」」
麻生は事も無げに札を見せて、勝負の結果は親の総取りとなった。
ただし、やや疑惑の残る勝負だったが。
「……アソ、お前…まさか……」
「いいから金を出せ、早くしろよ」
悔しさに泣き咽びながらも、サイフから夏目漱石たちを取り出す野郎ども。
一方、麻生は表情を全く乱さずに、頬杖をつきながら眼下に繰り広げられる勝負を眺めていた。
「それにしても……なにやってんだ、ありゃ」
ごもっとも。
- 59 名前:cat meets girl :04/06/18 11:10 ID:qWTM3Kjg
「あの、ハリーさん、ありがとうございます!」
「フ、当然のコトをしたまでサ」
眩しいまでのルックスとキラリと光る歯に、女子生徒はもうメロメロメロンパン。
キャーキャー言いながら、ハリーのもとから走り去っていった。
「女子生徒への助太刀か、相変わらずだな、ハリー」
いつの間にやら横にたたずむ、およそ全く高校生らしくない剛毅さ持つ男、東郷一雅。
どこかの悪夢な少佐を髣髴とさせるこの男、ハリーも只者ではないと感じている。
自分が聞いた、サムライのような友人を、彼は高く評価していた。
「トーゴー見てたのカ、それにしても日本ノ女の子はシャイなんだナ」
「フム、それが日本の女性だからな、内気ではなく、慎みを持っているのさ」
(すごい遠くで)
「伊織! どこ〜!! あ、ここに居た! 待ちなさい伊織!」
「おわっ! 塚本! ここは男子便所だぞ! のぉぉ〜! そっちは更衣室!!」
「……そして、まれに見せる弱さも魅力のひとつだ
「ナルホドナ、弱さか……ハカナサ、と言ったかナ?」
(やや遠くで)
「……邪魔よ! てりゃぁぁッ!!」バキバキバキッ!
「げ! アイツ木製の柵を突き破りやがった!!」
- 60 名前:cat meets girl :04/06/18 11:17 ID:qWTM3Kjg
「いつも落ち着き、静かに行動する……日本が誇る『静の美』だ」
「『静の美しさ』か……たしかに日本の女性はそうイッタ美しさがあるナ」
(少し遠くで)
「伊織〜ドコドコドコドコドコドコドコ!!! ここかッ! それともここか! あ、そこね!」
どごーん。ばこーん。どごーん。ガガガガガガガ!
「おい、なにやってんだが知らねえが、落ち着けって塚本!」
「とはいえ、お前に女性のことを話すなど、釈迦に説法だったかな?」
「イヤ、おかげでニホンの女性への見識が深まったサ」
ニヤリと笑う二人。
正反対のようで、根本では似ている二人でしか出来ない、息の合った行動だった。
(すぐ後ろで)
「ここにはいなみたいね…………あ! 伊織発見! 待てぇ〜!!」
ここで、ふと気が付いたようにハリーが振り返る。
後方を眺めて不思議がっているハリーを見て、東郷も振り返るが、特にこれといったことはない。
「どうかしたのか?」
「……なにやらさっきカラ後ろガ騒がしくナカッタカ?」
「そうだったか、俺は気づかなかったが」
「そうか、やはり私の気のせいカ……」
ガッツリ気のせいじゃありません、ご両人。
しかし、そんな声が聞こえるワケもなく、二人はザッザッザッと去っていった。
- 61 名前:cat meets girl :04/06/18 11:17 ID:qWTM3Kjg
「……う〜ん、ここまで来ると大分静かだね」
「そ、そうだな」
部活中のはずなのに、グラウンドからやや離れた木陰にて座っている二人。
もっぱらお似合いな二人、とご近所でも評判の梅津茂雄と城戸円の両人である。
まあ部活中、といっても今は休憩時間、ここにいても問題はない
問題はないのだが、梅津の頭の中にはイロイロと思うところがあるらしい。
(こ、今度こそ……俺から、俺から……キキキキキスを…)
真昼間の部活中にナニを考えてやがる、という意見はさておき
二人の関係において、今のところ主導権をすっかり円に奪われている梅津少年。
男の面子(強がりとも言う)にかけて、自分に主導権を取り戻したい!
そう、今度こそ自分が素直に! 積極的に! 自分から! と考えている。
……というのは表向きのことで
実際はただ単にチュー☆ がしたいだけだったりする、梅津君もお年頃だねえ……
コホン、それにしてもこんな部活中に? という疑問も浮かぶが
野外の方が燃えるというのはグル−バルでワールドワイドな共通認識。
そして、ついに一人オーバーヒートな梅津少年は、今がそのときと行動を起こした。
「ま、まど……」
「ニギャー!!」
「待て待て待て待て待て待て待て!!!!!」
横の木立から、暴走する二匹の獣が飛び出してきた。
その二匹(?)は、さんざん二人の周りでバトルちっくな追いかけっこをしたかと思うと、
呆然とする二人の恋人のことなど無視して、というか気づいていなかったのか、
再びズドドドドドドドとドップラー効果よろしく駆けていった。
- 62 名前:cat meets girl :04/06/18 11:18 ID:qWTM3Kjg
「……今のって、塚本さん?」
「……あ、ああ、たぶんな。ただ、俺も自信はない」
奇妙な沈黙とともに、なんともなしに、テンションがゼロに戻ってしまった梅津。
テンションマックスだっただけに、空振ることで一気に落ち込んでしまったようだ。
木に手をついて、意気消沈する梅津少年。
しかし、今の彼は今までの彼とは一味も二味も、アジの開きも違うのだ。
こんなことで落ち込んでいたら。2−Cの生徒などやっていられない。
「ま、円!」
と、あらゆるものを振絞って、ガシっと肩をつかむ、が
「あ、もう休憩時間が終わるね、もどろっか?」
_| ̄|○
そんなお久しぶりネな絵文字が入る。
つくづく運とタイミングとその他諸々が悪い男である。
そうだな、ハハハハ…、と乾きまくった言葉とともに、フラフラとグラウンドへと向かう梅津
しかし、そこに不意打ちィッ!(卑怯とは言うまいね)
チュ♪
「まままままままま円!?」」
「えへへへ、早く戻ろ! 怒られちゃうから!」
顔をやや赤くしながら、たったったと円は駆けて行く。
残された梅津は、頬に手を当てる、微かに残る感触を感じると、顔がゆるゆるに緩む。
ヒャッホー! と叫びをあげながら、全速力でグラウンドへと駆けだした。
- 63 名前:cat meets girl :04/06/18 11:18 ID:qWTM3Kjg
ほかにも、今鳥のナンパを邪魔したり
西本願司の厳選ビデオ20傑を粉々にしたり
盗撮中(本人曰く芸術)の冬木を、女子の前に引きずり出したりと
行く先々で、どこぞの名探偵の孫のように事件を巻き起こす一人と一匹
あまりに激しすぎるバトルに、もはや周りに生徒はいない、まさに荒野の二人。
己を削り、魂を削り、ついでに女の子としてもいろいろと削ったりしながら、追いかけっこは続いた。
しかし、いつかは決着はつくものである。
こち亀に最終回がくる……かどうか実は微妙だが、この勝負も終わりが近づいた。
「はあ…はあ…ここに居るのは分かってるんだからね!」
そう、ついに天満は伊織を追い詰めたのだ。
そこは体育館倉庫、薄暗く、狭い空間、決着の場としては少々閉鎖的だがそれは致し方なし。
「フッフッフ、伊織、年貢の納め時よ、観念してお縄につきなさい!」
まずは鉄製の扉をガコンと閉める。
これで逃げ道は塞いだ、あとはあの猫をとっ捕まえるのみである。
「伊織〜、どこだー、君達は完全に包囲されている〜」
なぜ複数形、というか包囲はしてないだろ、という突っ込みはしないでくれ。
彼女なりにこの状況を楽しんでくるらこそ出る言葉なのだ。
- 64 名前:cat meets girl :04/06/18 11:19 ID:qWTM3Kjg
ゴソゴソ…
キュピン☆ と天満のアホ毛レーダーが反応した(父さん、妖気です!)
物音は1時の方向、2m、静かに、そっと近寄る……
そしてがばちょ! と飛び掛る!
「捕まえた!!!」
がっしり掴んだその物体、抵抗もせずにおとなしく腕の中に納まっている。
よし! と天満が思った瞬間……はて、なぜに伊織はこんなに大きいのか?
「……やっぱりマットは眠りにくい」
「かかかかかかかかかかかかかかかか烏丸くん!!?」
けっ、予想通りだな、という声がディスプレイの向こうから聞こえてきそうだが、気にしない。
これも話の都合と、というか許してくださいゴメンナサイ。
ゲフン、なんと、伊織と間違って、体育館倉庫で寝ている烏丸に飛びついてしまった天満
状況を把握した瞬間、瞬時にバーサーカーから恋する乙女へジョブチェンジ。
「か、烏丸くん、ごめんなさい! 今のはその、えーと、なんていうか……」
「あれ、塚本さん」
「決してそういうつもりがあった訳では……ないとも言えないけどってなに言ってるの私!?」
「おはよう、塚本さん」
会話がかみ合ってねえ、というか会話ではない。
それはともかく、一人テンパイ即リーチの天満であったが、お姉ちゃんパワーは微かに残っていた。
周りを見回して伊織を探す。
さすがお姉ちゃん筆頭、ただの色恋バカとは違うのだ。
- 65 名前:cat meets girl :04/06/18 11:20 ID:qWTM3Kjg
「烏丸君! 伊織…あ、え〜と、これぐらいの黒猫見なかった!?」
「……あれのこと?」
自分の後ろを指差す烏丸、その指の先には、スルリと窓から逃走する伊織の姿がかろうじて見れた。
というか、こいつなんで後ろが見えるんだ? 白眼でも持っているのだろうか?
「あー!!! 伊織!!!」
叫んだところで後のフェスティバル、倉庫の裏は校舎外、もはや追跡の芽は摘まれてしまった。
この数時間に及ぶ激闘はなんだったのか。
これでは死んでいったクラスメイト達(死んでません)に申し訳がない。
「あうう、そんな……」
打ちひしがれる天満、もはや立つ気力も根性もなくなってしまった。
「塚本さん、大丈夫?」
「うう、だいじょうぶぅ〜、烏丸くん、ありがとぉ〜〜」
負けるな天満、きっといつかいいことあるさ!
まずはこの状況をうまく使って、烏丸とカレーにでも食べに行って来い!
きっと、それぐらいの役得はしてもいいだろう。
とまあ、かなり色々ありすぎたが、もはや西の空が真っ赤っ赤に染まっている。
校内に甚大な損害と膨大な被害者を大量生産した二人の壮絶な追いかけっこはこれにて幕。
かくして勝敗は、紙一重ながら伊織に軍配があがったのだった。
fin
- 66 名前:cat meets girlの中の犬 :04/06/18 11:30 ID:qWTM3Kjg
- …最後に英語の文を入れ忘れてる
_| ̄|○<マタミスディスカー
- 67 名前:Classical名無しさん :04/06/18 17:32 ID:9vGUIyyE
- 無敵看板娘のような展開と
某ラノベ作家のような語り口調がなんか新鮮な感じですな。
- 68 名前:Classical名無しさん :04/06/18 17:41 ID:X6i2Dcos
- 弾けた作風にすると一人よがりになっていつもの良さが消えてしまう
と言ってみるテスト。
まああくまで好き嫌いの問題なんですが…
- 69 名前:Classical名無しさん :04/06/18 20:16 ID:2Kp9EKDo
- 新鮮ですね〜こういうトリッキーな作品もたまには面白いかもね。
パロディ要素を全部見抜けたかどうかが気になるなw
- 70 名前:Classical名無しさん :04/06/18 20:25 ID:JbgYONAM
- 好みの問題だろうけど、初期チックな雰囲気で好きだ。
ありがとうございました!
- 71 名前:Classical名無しさん :04/06/19 03:11 ID:VV9cQvLU
- 久しぶりにSS投下します。
先週分のを読んで、思い付いたネタですが……今週分が神がかっていますので
イマイチかもしれませんが(;´Д`)
- 72 名前:Classical名無しさん :04/06/19 03:12 ID:VV9cQvLU
- 「それじゃ、2-Cの勝利を祝って、カンパーイ!!」
美琴の声が、居間に響く。それと同時に、皆の手に握られたグラスが宙に上がり、
そして、お互いのグラスがぶつかる乾いた音が響き渡った。
ここ、美琴の家では、体育祭の勝利を祝い、ささやかな祝宴が開かれていた。
女子リレーで追いつかれてしまった2-Cであったが、その後の男子リレーチームの奮迅の活躍により、
見事に逆転優勝を決めたのだ。
閉会式の後、優勝のお祝いということで、有志達が美琴の家で集まることになった。
メンバーは、おなじみ3バカに4人娘、そしてリレーで活躍した麻生、その他八雲とサラ、
さらには絃子先生と姉ヶ崎先生も集まっているという、そうそうたるメンバーである。
乾杯の後、女性陣が分担して作った料理が、次々と運びこまれ、皆思い思いの料理に箸を延ばしていた。
「えっへっへー、美コちん、どうだった? オレ、結構足速かったでしょう?」
既に半分酔いが回っているのか、今鳥が顔を赤くしながら、隣でのんびり飲んでいた、美琴のほうに近づいていった。
「そうだなー、確かに意外と言えば意外だったが、速かったな……って、あたしにスリ寄るなぁ!!」
酔った勢いで、美琴の胸に自分の顔をうずめようとした今鳥に、問答無用で鉄拳制裁を加える美琴。
「ぐふ……ヤッパE……」
そのままばたりと後ろに倒れ込む今鳥。その表情は、なぜか恍惚の表情が浮かんでいた。
「ったく……って、高野!何撮ってるんだぁ!!」
そんな二人の様子を、なぜかデジカメで撮っていた晶に、思わず美琴が声をあげた。
「……面白そうだし……」
「だぁ!やめろー!!」
- 73 名前:Hard to say I'm sorry :04/06/19 03:15 ID:VV9cQvLU
- 美琴と晶がたわむれている一方で、丁度テーブルを挟んだ反対側では、
これまた微妙に酔った花井が、八雲に話しかけていた。
「はっはっは! 八雲君、僕の勇姿をみてくれたかい!?」
「え……は、はい……」
少し困った様子で答える八雲。
「はっはっは! いやー、照れるなぁ!」
何故か照れ笑いを浮かべる花井。そんな花井を、八雲は、やはり困ったように見つめた。
「よっと──」
ふと、八雲の目の前を、一組の箸が横切る。ふと横を見ると、播磨が自分の席から少し離れた料理をとろうとして、
四苦八苦している姿があった。
「あ、播磨さん……えっと、何かとりましょうか?」
それに気付いた八雲が、自分の横に座っていた播磨に申し出る。
「お、妹さんか。それじゃ悪いけど、そこにあるおにぎり、2,3個とってくれないか?」
播磨は、八雲を挟んで自分と反対側、花井と八雲の間ぐらいにおいてあったおにぎりを指さした。
八雲は、小さく返事をすると、播磨の箸と紙皿をとり、丁寧におにぎりを紙皿の上にのせた。
「あの……ど、どうぞ……」
おずおずと、おにぎりののった紙皿を差し出す八雲。
播磨は、軽く礼を一つ言うと、そのままおにぎりを、自分の口にひょいひょいと続けて放り込んだ。
「ありがとな……お、このおにぎり美味いな!」
「そ、そうですか?……よかった」
播磨の返答を聞いた八雲は、胸をなで下ろすかのように、ほっとため息をつく。
そんな八雲の姿を見て、ふと思うことがあったのか、播磨が八雲に尋ねた。
「――ひょっとして、このおにぎり、妹さんが作ったのかい?」
「え?……あ、はい……」
八雲は、少し驚いた様子で、播磨に答えた。
「そうか。いつかの時も美味かったが、今回も美味いぜ。サンキューな、妹さん」
「い、いえ!そんな──」
八雲は、わずかに顔を赤らめ、播磨のほうから視線を外すかのように、わずかにうつむいてしまった。
随分以前のことになるのに、それでも播磨拳児が覚えていてくれたこと。
小さなことかもしれないが、八雲にとっては、そんな小さな事を覚えていてくれたことが、何よりも嬉しかった。
- 74 名前:Hard to say I'm sorry :04/06/19 03:19 ID:VV9cQvLU
- わずかに顔を赤らめ、うつむく八雲の姿を、少し離れたところにいたサラは、優しい笑みを浮かべながら見つめていた。
「ふふ──よかったね、八雲」
サラは、小さくそうつぶやくと、その形のよい唇から、わずかに笑みがこぼれる。
「うん?──何がよかったんだ?」
サラの横に座って、ジュースを飲んでいた麻生が、不思議そうに尋ねた。
「あ、いえいえ。なんでもありませんよ……あ、先輩。せっかくですし、何か料理とりましょうか?」
サラは、軽く手をパタパタと振りながら、麻生に申し出た。
「そうだな……それじゃ、あそこにある野菜炒めを少し取ってもらえるかな?」
「はい、任せて下さい」
麻生から差し出された紙皿を取ると、サラはテーブルの中央においてあった野菜炒めを、その紙皿の上に盛りつけた。
「はい、お待たせしました。これ、実は私がつくったんですよ」
サラはニッコリと笑うと、麻生に野菜炒めがのった紙皿を手渡す。
「ああ、ありがとう──」
麻生は、サラに軽く礼を言うと、そのまま野菜炒めを口の中に運ぶ。そんな様子をサラは、ニコニコしながら眺めていた。
- 75 名前:Hard to say I'm sorry :04/06/19 03:19 ID:VV9cQvLU
- 「先輩、どうですか?」
サラの問いかけに、麻生は一瞬思案顔を浮かべる。
「ん──そうだな、なかなか美味いんじゃないか?」
麻生にしては珍しく歯切れの悪い回答に、サラは何か思うことがあったのか、
いぶかしげな表情を浮かべた。そして、人差し指をたてると、少し怒ったかのように声をあげる。
「もう、先輩!ちゃんと本当のことを言ってください」
「い、いや、別に嘘をついたわけじゃないんだが──」
麻生は、困ったかのように、右手で頭を軽く掻く。そして、自分の箸で、丁寧に刻まれた野菜を一つつまむと、サラのほうに見せた。
「──そうだなぁ。強いて言えば、下準備の段階で、
野菜にもう少し手を加えておいた方が味が良くなるかな?
でも、このままでも十分にうまいと思うよ」
そんな麻生の答えに、サラは満足したのか、ニッコリと微笑みかけた。
「先輩、ありがとうございます──そういえば、先輩の家って、確かラーメン屋さんでしたよね?」
「あぁ。そうだけど……」
それがどうした?という感じの麻生。
「今度、私に、先輩の野菜炒めの作り方を教えてくれませんか?」
「え? ああ、それぐらいならいつでもかまわないけど……」
麻生は、少し驚いたかのような表情を浮かべる。
「はい。それじゃ約束ですよ」
そう言うと、サラは、嬉しそうに自分も野菜炒めを口に運ぶ。
そんなサラを見ると、麻生は、まるで照れ隠しのように、軽く咳をつくのだった。
- 76 名前:Hard to say I'm sorry :04/06/19 03:22 ID:VV9cQvLU
- 各人が好きな料理に手を伸ばし、思い思いの人と楽しく話を交わす。
そんな楽しげな様子を、沢近は、まるで辺りから取り残されたかのように、
ぽつんと一人で、部屋の端のからぼんやりとながめていた。
「──どうしたの?」
沢近が、ふと声がしたほうを見ると、姉ヶ崎先生が、ビールの入ったコップをもって、立っていた。
「いえ、別に──」
思わず視線を外してしまう沢近。そんな様子に気付いたのか、それともあえて無視したのか、
姉ヶ崎先生は、そのまま沢近の横に腰掛けた。
「そういえば──ええっと、沢近さんだったかな──足のほうは大丈夫? 随分無理していたようだけど……」
「え?──あ、はい。もう大丈夫です……迷惑をおかけました」
驚いたのか、一瞬顔をあげる沢近。だが、一言謝ると、再び視線を床のほうに落としてしまった。
「いいのよ──無事でよかったわ」
姉ヶ崎先生は、そう言うと、優しく沢近に微笑みかける。
しばらくの間、二人は一言もしゃべらなかった。ただ、黙って皆の楽しげな様子を、ぼんやりと眺めていた。
そして、姉ヶ崎先生が、自分のコップを空ける頃、ゆっくりと口を開く。
「そういば、ハリオ──播磨君、足速かったわね」
『播磨君』──その言葉が出た瞬間、わずかに沢近の体がびくりと動く。だが、表情を変えることなく、静かに言葉を返す。
「──そうですね」
わずかに言いよどんだ、沢近の返答。だが、姉ヶ崎先生はそんな様子に気付いた様子もなく、
そのまま楽しそうに言葉を続けた。
「うんうんかっこよかったわね。さっすがハリオ!──あなたも、そう思わない?」
「……はい」
ほんの少しだけ、小さく握りしめられる拳。そして、長い睫がわずかに揺れ動く。
「うんうん、そうよね!」
一方、姉ヶ崎先生は、そう言うと、ころころと楽しそうに笑った。
そして、再び二人の間に沈黙が流れる。
いくばくかの時間が流れた後、その沈黙を打ち破るかのように、沢近が静かに口を開いた。
「──先生、申し訳ないですけど、私はそろそろこの辺で帰ろうと思います」
「そう……お大事にね」
姉ヶ崎先生は、そう言うと、沢近に優しく微笑みかけた。
「──はい」
沢近は、静かに微笑むと、ゆっくりと席を立つのだった。
- 77 名前:Hard to say I'm sorry :04/06/19 03:24 ID:VV9cQvLU
- 途中、部屋を出る時に、美琴に声をかけられる。
「あれ、沢近、どうしたんだ?」
「うん……ちょっと、ね──そろそろ帰ろうかなって」
表情はいつもと変わらない様子であったが、その雰囲気から、
ただならぬ様子を感じ取ったのか、美琴は心配そうに尋ねる。
「だ、大丈夫か?」
「うん。少し足が痛むだけ……それじゃあね。今日はありがとう」
沢近は、ほんの少しだけ微笑んでみせると、静かに立ち去った。
いつもとどこか違う様子に、ひっかかりを感じる美琴。だが、なぜかそれ以上声をかけることが出来ず、
ただ、見送ることだけしかできなかった。
- 78 名前:Hard to say I'm sorry :04/06/19 03:27 ID:VV9cQvLU
- 一方沢近は、美琴の家を出ると、足が痛むのにもかかわらず、思わず走り出していた。
なぜ、走り出したのか。その理由は自分でも分からない。ただ、あの空間にいるのが、なぜかつらかった。
ふと気がつくと、小さな公園の前まで来ていた。辺りは、既に赤く染まっており、
公園の中には、2,3人の子供が、無邪気に遊んでいる姿があった。
「──痛っ!」
足が痛いにもかかわらず、走ったのが災いになったのか、足の痛みに思わず顔をしかめる。
沢近は、自分の左足をみつめると、一つため息をついた。
そして、公園のベンチまでたどり着くと、ゆっくりと腰を下ろす。
しばらくの間、沢近はぼんやりと、公園の中で遊んでいる子供達の姿を眺めていた。
目の前にあるのは、一組の少年と少女の姿。彼らが兄妹なのか、それとも仲の良い友達同士なのかはわからない。
目の前の少女は、どうやらかなり無理なことを、少年に命令しているようだった。
その少年は、困ったような顔をしていたが、やがてニッコリと笑うと、その少女の言うことを素直にきいていた。
そんな少年の反応に、少女は満足そうに微笑むと、再び、二人で仲良く遊び始めるのだった。
沢近は、そんな二人の様子を見て、ひどく自分がみじめに思えた。
そして、そんなふうに思えてしまう自分がイヤになり、再び大きくため息をつく。
ふと、頭の中に、播磨の姿が思い出される。
- 79 名前:Hard to say I'm sorry :04/06/19 03:28 ID:VV9cQvLU
- ──自分が雨の中に濡れていたとき、優しく傘を差しだしてくれた姿
──海で、素っ裸で自分の後ろから抱きついてきた姿
──自分に、力強く告白してきた姿
次々と思い出される姿。
「ふふ……」
なぜか、自然に笑みがこぼれでる。
「──なにニヤニヤ一人で笑ってるんだ?」
ふと上を見上げると、そこには相変わらずのサングラスをかけた播磨の姿があった。
「え──」
何故、彼がここにいるのだろう?
突然のことに頭がまわらなかったのか、なんとも間の抜けた返事を返してしまう。
だが、次の瞬間、すぐにいつもの強気な彼女に戻る。
「──べ、別に。ちょっと休んでいるだけよ。だ、大体、アンタこそどうしてここにいるのよ?
まだ、打ち上げは続いてるんでしょう?」
「う……そ、それはだな……その、先生が……」
播磨の脳裏に、先ほどのやりとりが思い出される。
- 80 名前:Hard to say I'm sorry :04/06/19 03:30 ID:VV9cQvLU
- 「──ハーリオ、ちょっといいかしら?」
「うん、どした?」
サンドイッチを食べながら、くつろいでいた播磨に、姉ヶ崎先生が、突然話しかけてきた。
「悪いんだけど、沢近さんを家まで送ってくれない?」
「?……いまいち事情が飲み込めないんだが……」
播磨がいぶかしげな表情を浮かべると、姉ヶ崎先生は事情を説明した。
「な、なんだよ。そりゃ……だ、大体、お、俺には関係ねェし……」
今までのこともあり、フンと横をむいてしまう播磨。それを見た姉ヶ崎先生は、
なぜか小さく笑うと、わざとらしくため息をつく。
「そっかぁ……うん、ハリオの言うことも一理あるかもしれないわね。
……そういえば、沢近さん、随分足のケガが酷そうだったけど……大丈夫かしら?」
「……ふ、フン! だ、大丈夫なんじゃねえの……多分」
一瞬、播磨の脳裏に、沢近のケガの様子が思い出される。だが、それを打ち払うかのように
右手に持ったお茶を、一気に喉の奥へと流し込んだ。
「そうよね……邪魔してごめんね」
姉ヶ崎先生は、そう一言謝ると、絃子先生のほうへと戻っていった。
播磨は、しばらくじっとしていたが、やがて軽く舌打ちをうつと、ゆっくりと立ち上がった。
そして、そのまま部屋から出ようとしたが、突然、絃子に呼び止めらる。
「おや、拳児クン。どこに行くんだい?」
「え……えーっとだな……そ、そう! 忘れ物! 家に忘れ物しちゃってよ、ちょっとひとっぱしりいってくるわ」
突然呼び止められたことに驚いたせいもあるのか、しどろもどろになりながら答える播磨。
その慌てた様子をみた絃子は、クスリと忍び笑いをもらした。
「そうか……『忘れ物』はちゃんと取りに行かないとな……いってきたまえ、拳児クン」
「あ、ああ。それじゃ!」
播磨はそう言い残すと、そそくさと部屋をでていった。
そんな後ろ姿を、絃子は、優しい目で見送る。
- 81 名前:Hard to say I'm sorry :04/06/19 03:32 ID:VV9cQvLU
- 「──いいんですか? あのまま彼を行かせて……」
絃子がふと横を見ると、自分と同じようにお酒の入ったコップを片手に持っていた、
姉ヶ崎先生が、にこやかに話しかけてきた。
「……どういうことかな?」
「──本当は、引き留めたかったんじゃありません?」
普段、滅多に本心をみせない絃子。その心の内側を探るかのように、姉ヶ崎先生は
じっと絃子の目を見つめた。
絃子は、そんな視線を真っ向から受け止めていたが、やがて、ゆっくりと口を開いた。
「何をおっしゃりたいのか、よくわかりませんが……」
そこまで言うと、絃子は、静かに目を閉じる。そして、つぶやくように言うのだった。
「彼は優しいコです……誤解されやすいですけどね。
でも──だからこそ私は──」
そこまで言うと、絃子はゆっくりと姉ヶ崎先生の方に向き直り、柔らかな笑みを浮かべる。
「──拳児クンを信じていますから」
その迷いのない言葉に、思わずハッとしてしまう姉ヶ崎先生。
だが、次の瞬間には、同じように微笑を浮かべる。
「そうですね──では、刑部先生、一つ乾杯といきませんか?」
「──いいですね。それでは……乾杯」
「乾杯です」
そして、二人はゆっくりとグラスをかかげると、お互いのグラスを軽くぶつけ合う。
カチンという乾いた音が、二人の間に静かに広がった。
もちろん、こんなやりとりが行われていようとは、当の播磨には知るよしもない。
- 82 名前:Hard to say I'm sorry :04/06/19 03:34 ID:VV9cQvLU
- 「と、とにかく! 俺がここにいる理由は、なんだっていいだろう!
……も、もう時間も遅いんだし、そろそろ帰ったほうがいいんじゃないのか?」
播磨が、目の前でベンチに腰掛けている沢近に、少しぶっきらぼうに言う。
辺りは夕日に染まり、一段とその赤みを増していた。
先ほどまで遊んでいた子供達も、自分たちの家に帰ったのか、いつの間にか見えなくなっていた。
「──もうちょっと休んでから帰るわよ」
沢近は、わずかに視線をそらしながら言った。そんな様子に、播磨はやれやれといった様子で、
軽く一息ため息をつく。
「──見せてみろよ」
「え……?」
一瞬、ぽかんとした表情をみせる沢近。
「足、痛むんだろ? 見せてみろよ」
「な、なんでアンタにそんなこと……」
沢近は、ぷいと横を向いてしまう。だが、播磨はそんな様子にはおかまいなしに、沢近の足のケガの状態をみる。
沢近の頬が、わずかに赤く染まる。多分、それは、夕焼けのせいだけではないだろう。
「いいから……うわ、こりゃひどいな」
しゃがんで、半ば強引にケガの部分を見た播磨は、おもわず顔をしかめる。
包帯でぐるぐる巻きにされた左足は、包帯の上からでもわかるほど、腫れ上がっていた。
「……誰のせいでこうなったと思ってるのよ」
横を向きながら、播磨に聞こえるか聞こえないかという小さな声で、沢近がつぶやく。
「ん? なんか言ったか?」
「な、なんでもないわよ! とにかく、私、もう帰るから!」
そう言うと、勢いよくベンチから立ち上がった。だが、ケガのせいかのか、
その端正な顔立ちが、一瞬苦痛にゆがむ。
「──ッ!」
「お、おいおい。大丈夫か?」
さすがに心配になったのか、播磨が声をかける。
「うっさいわね! ほっといてちょうだい!」
そう言うと、沢近はヒョコヒョコと足を引きずりながら、歩き始めた。
播磨は、そんな後ろ姿をしばらく見ていたが、やがて頭を軽く掻くと、沢近のほうに近づいていった。
- 83 名前:Hard to say I'm sorry :04/06/19 03:40 ID:VV9cQvLU
- 「──ったく」
一つ不満の声をあげると、播磨は沢近の前で、背を向けるとそのまましゃがみ込んだ。
「……なんのマネよ」
「みりゃわかるだろ。家までおぶっていってやるよ」
「な! なんでアンタなんかにそんなこと……」
沢再びプイと横を向いてしまう沢近。
「……目の前にケガした女がいるってのに、そのまま帰れるかよ……」
「──え?」
思いもよらない播磨の言葉に、一瞬気を取られてしまう沢近。
「と、とにかく! 人の好意は、素直に受け取っておくほうがいいぞ」
播磨は、沢近に背を向けたままそう言った。一方沢近は、その背中をじっと見つめていたが、
やがて観念したかのように、ゆっくりと近づいていった。
「わかったわよ……言っておくけど、変なことしたら、その場でぶっとばすからね!」
そう言いながら、沢近は、ゆっくりと播磨の背中に、自分の身を預けるのだった。
「ばっ……バッカヤロ! 誰がそんなことするかよ!」
播磨は、不満の声をあげながらも、沢近の体をずり落ちないように固定すると、ゆっくりと立ち上がった。
自分の背中ごしに感じられる、女性特有の柔らかい体。そして、沢近の女性としての香りが、
播磨の鼻をくすぐる。
(へぇ……思ったより軽いんだな。コイツも女の子ってワケか……)
自分の想像以上の軽さに、少々驚きを覚える。
「──こら、ヒゲ! 変なこと考えてないでしょうね?」
突然、背中から、沢近の怒ったような声が飛んできた。
「な、何も考えてねえよ! と、とにかく、お前の家、どっちだよ?」
「……向こうよ」
播磨の肩越しに、沢近は、自分の家へと続く道を指さした。
そして、播磨は、沢近が指し示した方へと、ゆっくりと歩き出した。
ただ黙々と歩き続ける播磨。素直に体を預ける沢近。二人の間に、言葉は一言もない。
辺りはいつの間にか暗くなってきていた。行き交う人々も少なくなり、辺りに聞こえるのは、
ただ風の音と、たまに通り過ぎる車の音、そして二人の息づかいだけだった。
- 84 名前:Classical名無しさん :04/06/19 03:41 ID:qWTM3Kjg
- 支援?
- 85 名前:Hard to say I'm sorry :04/06/19 03:41 ID:VV9cQvLU
- 播磨の肩越しに、沢近は、自分の家へと続く道を指さした。
そして、播磨は、沢近が指し示した方へと、ゆっくりと歩き出した。
しばらくの間、二人は一言もしゃべらなかった。ただ黙々と歩き続ける播磨。
辺りはいつの間にか暗くなってきていた。行き交う人々も少なくなり、辺りに聞こえるのは、
ただ風の音と、たまに通り過ぎる車の音、そして二人の息づかいだけだった。
「──アンタに、まさか一日で二度も背負われるなんてね」
ふと、沢近が肩越しに、話しかけてきた。
「ん? あぁ、騎馬戦のことか。そういやそうだな……」
そして、播磨は、ちょっと照れたように頬を掻く。
「あー、あのよ。あの時はサンキューな……俺の帽子、取れないようにしてくれただろ?」
「……か、勘違いしないでよね! あれはたまたまよ。グーゼンなんだからね!」
沢近は、慌てて取り繕うかのように言った。
「へーへー」
「な、なによ! その言い方、なんかムカツクわね!」
じたばたと背中の上で暴れ始める沢近。
「わ、バカヤロ! 危ないから暴れるなって!」
そう言うと、播磨は、ずり落ちないように、沢近の体を抱え直した。
そして、再び訪れる沈黙。
たまに訪れる車から漏れるライトが、二人を一瞬照らしだし、再び暗闇の中へとけ込んだ。
- 86 名前:Hard to say I'm sorry :04/06/19 03:43 ID:VV9cQvLU
- 「──ねえ、ヒゲ」
何台目かの車が通りすぎたとき、沢近が、ためらいがちに話しかけてきた。
「あん? どうした?」
「──今から言うことは、私の独り言だから……いいわね?」
「な、なんだよ。そりゃ?」
播磨が、訳が分からないといった感じで、振り向こうとしたその時、
沢近の手が、ガッシリと播磨の頭を、帽子ごと掴む。
「『一人ごと』なの! い・い・わ・ね・?」
「イテテテ……わ、わかったわかった。わかったからやめて下さい、サワチカサン」
ギリギリと締め付けられる痛みと、有無を言わせぬ沢近の迫力に、つい降参してしまう播磨。
それからしばらくの間、播磨は沢近の言葉を待ち、黙っていたが、
なぜか背中の上の沢近は、一言もしゃべらない。
「──?」
不思議に思った播磨が、首を後ろに向けようとしたその時、
「──ゴメンね」
ためらいがちにかけられた小さな声が、播磨の鼓膜をふるわせる。
普段の強気な沢近からは、考えられないほどの小さく、消えそうな声だった。
「──素直になれなくて、ゴメンね」
一言一言、ゆっくりと紡ぎ出される言葉。
不思議に思った播磨は、つい声をかけようとする。
「おい、お嬢──?」
「──私がもっと素直だったら──素直にあなたに謝れていれば、こんなことにはならなかったのにね……
本当にごめんなさい」
文字通り、震えるような声で、一言一言つむぎだす。
播磨の両肩に置かれたその手は、わずかに震えていた。
播磨からは沢近の顔を見ることは出来なかったが、なぜかその時は、沢近が泣いているように思えた。
- 87 名前:Hard to say I'm sorry :04/06/19 03:47 ID:VV9cQvLU
- 「あー、あのよ……」
しばらく播磨は黙っていたが、やがてゆっくりと話し始める。
「今から俺が言うことは、俺の独り言なんだが……」
「──」
「……まぁ、その、なんだ……俺は、そんなに気にしてないぜ。それに──」
そこまで言うと、ゴホンと軽く咳払いをする播磨。一方の沢近は、播磨の背中でおとなしく聞いていた。
「──その、今、こうして、ちゃんと素直に謝れているんだから、いいんじゃないか?」
自分で言っていて、少し恥ずかしくなったのか、再び頬を軽く掻く。
沢近は、しばらく黙っていたが、やがてクスクスと笑い出した。
「お、おい。ど、どうしたんだ? 急に笑い出したりして……」
「──ふふ、ばっかみたい。私の独り言に、独り言で答えるなんて……」
そう言うと、沢近は再びクスクスと忍び笑いを漏らすのだった。
「な!なんだよ! 一体だれのせいで──」
播磨が、非難の声をあげようとしたその時、
──キュッ
播磨の首に、沢近の細い腕が、ためらいがちに回される。
沢近は、自分の腕に軽く力を入れると、播磨の背中に抱きついた。
そして、顔を播磨の耳元に近づけると、ささやくようにつぶやく。
「──アリガトね、播磨君」
そう言うと、恥ずかしくなったのか、播磨の背中に、静かに自分の顔を埋める。
「お、おう……」
一方播磨は、なんとも言えない間の抜けたような返事を返すと、しっかりと沢近の体を抱え直し、歩き始めた。
いつの間にか、太陽は、その姿を完全に地平線の向こうに隠し、
雲一つ無い空には、きらめく星空が広がっていた。
- 88 名前:Hard to say I'm sorry :04/06/19 03:49 ID:VV9cQvLU
- 「ふう──」
沢近は、大きく一息つくと、自分のベッドの上に身を投げ出した。
あの後二人は一言もしゃべらなかった。
そして、播磨に無事家まで送り届けてもらった後、自分の部屋に戻っていた。
ちらりと、自分のベッドの上に広げられた、播磨のジャージを見つめる。
「──ふ、ふん! 元はといえば、あのバカのせいなんだから!」
そして、そのジャージから目をそらすかのように、プイと横を向いてしまう。
だが、やがて、恐る恐るという感じで、ジャージを自分の手に取った。
そのまま目の前で広げると、「播磨」とかかかれたネームの部分をじっと見つめる。
「……ホントに、バカなんだから……播磨君のバカ……」
沢近は、誰ともなしにそうささやく。そして、小さな微笑がゆっくりと広がる。
──明日からは、今よりもう少しだけ素直になろう。
いつの間にかジャージを胸に抱くと、沢近は心の中でそうつぶやいていた。
(了)
- 89 名前:Hard to say I'm sorry :04/06/19 03:51 ID:VV9cQvLU
- 以上です。
久々にSS書きましたが、難しいですねえ(;´Д`)
漏れ自信はイトコ萌えなんですけど、旗派もいいもんですねえ(*´д`*)ハァハァ
感想、批判、技術的な指摘、遠慮無くお願いしますщ(゚д゚щ)カモーン
読んで下さった方々、ありがとうございました。
- 90 名前:「DANCER IN THE DARK」 Er ◆i//qLXXY :04/06/19 04:41 ID:SMYnl9Mc
正統派の良作SSのあとで気がひけますが……冬木&舞で。
なんでこの二人かというと……ただマイタケって言ってみたかっただけだったりして _| ̄|○ スマン
- 91 名前:Classical名無しさん :04/06/19 04:42 ID:r5tOG00g
- こんな時間にキターーーーーー
GJ!
- 92 名前:○とりあえず、被写体は周防。○ :04/06/19 04:43 ID:SMYnl9Mc
冬木 武一による、体育祭の定義。それは ”年に一度の、躍動する美の祭典”。
写真に撮らなきゃ、もったいない。
ミョーな義務感のようなものが冬木をつき動かす。
すっかり手に馴染んだ写真機は、トレードマークという枠を超え、もはや身体の一部といった感じだ。
硬質な、冷たい感触が心地良い。
見た目の美しさではない。恋する女の子の内面から溢れ出る、一瞬の美。
それを捕らえるべく、冬木は今日も超ローアングルで攻める。
ごすっ。
ファインダー越しに広がる靴の裏の映像。すんでのところでデジカメを死守する。
自分の顔面を守りきれなかったのは──ご愛嬌。
「みんな真剣にやってるのに、何やってんの冬木くん!」
「ふあ……委員長。もち卒業アルバム用にイベントの写真を」
「嘘ばっか。またエッチな写真撮ってるんだ」
「芸術と言ってくれない? ゲージツと」
「顔も写らないようなアングルで、卒業写真も芸術もあったもんじゃないでしょう」
頬に残るワッフルのような靴痕もそのままに、腕組みで立ちはだかる舞と対峙する。
怒りに満ちた表情の舞に対し、冬木の顔はどこまでもユルい。
「騎馬戦すっぽかして写真撮ってたワケね」
「いやー出たかったのはヤマヤマなんだけど、いかんせん持病の腰痛が……ゴフンゲフン!」
「……なんで腰痛で咳き込むのよ」
- 93 名前:○販売が前提、らしい。○ :04/06/19 04:43 ID:SMYnl9Mc
「いい加減もうやめてよね! みんな迷惑してるんだから」
「なんで迷惑するのさ? サイコーに輝いてる瞬間を記録してるだけなのに」
心外だなァといわんばかりに口を尖らせる。
「やっぱ恋してる女の子は輝きが違うんだよねー」
会話しつつも振り向きざま、一条に向けシャッターを切る。
「言ってるそばからするな──っ!」
すかさず平手で頭をひっぱたく。心なし、叩いた音までがぱこーんと軽い。
「一条さんなんか、二学期からぐっと綺麗になったよねえ。
城戸さんもいいんだけど、すでにウメと付き合ってるから需要が……」
「何の需要よ、何の」
「あとねー沢近さん! 彼女このところ雰囲気が変わってきたと思わない?」
「えーっ、沢近さん? ウソッ! 沢近さんが恋してるってコト?」
ついつい会話に乗ってしまい、ハッとする。
「ま、とりあえず委員長は撮らないから安心して」
「んなっ!?」
「委員長、恋してないでしょ? もう一つ何かが足りないんだよね」
「ブン殴るわよアンタ?」
ヘンな写真を撮られるはイヤだが、面と向かって撮らないと言われると、それはそれでムカつく。
「まあまあ舞ちゃん落ち着いて。だいたいウチの男どもにロクなのがいないんだからしょうがないわよ」
「あ、嵯峨野さんも今んとこ圏外です」
「ブッ飛ばすぞ、テメエ!」
「恵ちゃん恵ちゃん、落ち着いて」
「ええーい止めるな、メガネ!」
「メ、メガネって…… _| ̄|○ 」
- 94 名前:○意外な伏兵、ここにも。○ :04/06/19 04:44 ID:SMYnl9Mc
「もう勘弁ならないわ! データ全消去! カメラも没収よ!」
「げえっ! それはできない相談ですぅ」
脱兎のごとく逃げ出す。
「待ちなさーい! 観念して縛につけーっ」
「待てと言われて待つヤツはいませんよねぇ?」
こうなったら実力行使でいくしかない。
そろそろ女子リレーのスタンバイが始まるころだ。
組対抗戦もいよいよクライマックスを迎えつつあるが、
あんな輩を放置しておいたらクラスの士気にかかわる。
競技そっちのけでグラウンドの隅の方を走り回る二人。
カメラ小僧を捕獲することなど容易いと思っていた。
しかし意外なことに、あの小僧はかなりのダッシュ力を有している模様。
しかも舞は本気で追っているのに、冬木の方にはカメラを構える余裕すらある。
さらにしかも腹立たしいことに、取り上げようとしているそのカメラでヤツは女子リレーの写真を撮っている。
ときに立ち止まり……ときにローアングルのためスライディングしながら。
(なによ……冬木くんってこんなに足速かったの?)
激写のようすをわざと見せつけられているようでカチンときつつも、
思いがけない冬木の身体能力の高さに驚嘆を禁じえない。
- 95 名前:○舞ちゃん、たいていの2-C男子と追っかけっこしている。○ :04/06/19 04:45 ID:SMYnl9Mc
「あんた……ハァハァ……けっこう速いんじゃない」
息を切らして座り込む舞。競技でも全力。応援も、場外戦も全力。いいかげん限界に近づきつつある。
「本気出したら相当すごいんじゃないの?」
「わかってないなァ。こういうのって、ハリキってやらないからいいんだよ」
「なによそれ」
「頑張り過ぎてもいい結果って出ないもんだよ。そう思わない?」
どうにも釈然としない。ガンバらないでどうしていい結果が得られるというのか。
「委員長って、いつも張り詰めた感じでさ。もうちょっと肩の力抜けばいいのに……って」
「……これがアタシなんだもの。力抜いた方が逆に疲れちゃうわ」
「抜き方がわかってないだけだよ、きっと」
「わかんない、そういうの」
ふと漂う沈黙。秋風が気持ちいい。
「……リレー、走ってよ」
「ほへ?」
「梅津くんがブタに轢かれてケガしたの、知ってるでしょ?」
「ああ、あれはワラタ」
ワラタじゃない! と話の腰を折る冬木へゲンコツを振り下ろす。真面目に言ってんのよ。
「次のリレーが勝負なの。最高のメンバーで臨まなきゃ」
「サイコー……で、俺なの?」
「あんたの逃げ足の速さはクラスでトップクラスよ。私が保証する」
全身を使って『んなバカな!』という気持ちを示す冬木。『あり得ない!』
「今までさんざんサボってたんだから、最後くらいクラスに貢献しなさい!」
- 96 名前:○菅よりも速かった。○ :04/06/19 04:46 ID:SMYnl9Mc
「……しょうがないなァ……」
頭を掻き掻き、立ち上がる。
「俺のせいで負けても責任とれないよ?」
「大丈夫! 一生懸命がんばった結果なら誰も文句言わないわ」
「……ウラを返すと一生懸命がんばれってコトね」
やれやれだ。そんなに嬉しそうにしないでくれる? 俺、プレッシャーに弱いんだから。
「ま、善処しましょ。……でも肉離れとかしたらどうしよう」
「さっきあんだけ走っといて何言ってんの!」
意気揚々とした舞に連行されるようにして、クラスの控え席に戻ると……
「勝ちゃあいいんだろ勝ちゃあ!!」
播磨の威勢のいい声が聞こえた。うおおおおおん! 轟く歓声。
菅。麻生。今鳥。花井。──そして播磨。ここに2-C男子の精鋭5名、最高のメンバーが揃った。
「……えっと……」
「晴れてお役御免……てことかな?」
最高のメンバーからあぶれた男。肩をすくめておどける姿がどこか痛々しい。
「あの……ゴメン。その気にさせといて……」
「いいっていいって。そもそもらしくないコトしようとしてたんだから」
「冬木くん……」
「さてと。これで心おきなくヒーロー達……に声援を送る美少女達の姿を……」
パァン!! 号砲が響き渡る中……
まだやってるのかおのれは──ッ!!
らしくいかなきゃねええええぇぇぇぇぇェェェェェ....!
「おい、あの大外のヤツ速えぞ! あれ何組?」
「えーと、C組だけど……カレ、選手じゃないよ?」
- 97 名前:Classical名無しさん :04/06/19 04:50 ID:EJDGC9Tw
- 支援
- 98 名前:○舞ちゃんは撮らないんじゃ……なかったのか。○ :04/06/19 04:51 ID:SMYnl9Mc
組対抗戦は、2-Cの優勝で幕を閉じた。
激しい戦いもノーサイド。陽の落ちたグラウンドで、互いの親睦を深めるレクリエーションが行われていた。
「なんだかなぁ……」
体育座りでダンスの輪を眺める舞。ついさっきまでの追跡劇で……今度こそ、精も根も尽き果てた。
「こうして終わっちゃうと、勝ち負けなんて大したことじゃないて思うのよねぇ。」
誰に言うともなくつぶやいているように見え
そのじつ、その言葉は背後に佇む冬木に向けられている。
思わず苦笑する冬木。昼間のうちに聞きたかったセリフだ。
「終わるまで気付かないのが、委員長らしいんだけどね」
「……チカラを抜けっていうの、一理あるかも」
「でしょう?」
「ぜったい勝ちたい勝ちたいって思って肩肘張ってやってきたけど、
『負けたからってどうなの?』って思えば……こんなにもリラックスして……なんでもできそうって気になれる」
振り返って冬木の顔を見やる。
全競技が終了し、張り詰めていたものが緩んだのだろう。みるみる表情が崩れた。
破顔一笑。
そんな舞の晴れやかな笑顔は、こうこうと輝く火の灯りを浴びて──。
「!………」
引き込まれるようにカメラを構え、シャッターを切る。一枚。また一枚。
「ちょ、ちょっと何? いきなり」
何なんだろう。自分でもよくわからない。炎に照らされた横顔のせい? それとも。
- 99 名前:○その輝きは、プライスレス。○ :04/06/19 04:52 ID:SMYnl9Mc
「委員長……いま恋してる?」 「はぁ? 別にしてないけど……」 「……そう……。それじゃ──」
──俺が恋してるのかも。
「ん? 何て言ったの?」 「あ、いや──なんでもない」
踊りの輪は、いつ果てるともなく回り続ける。
「ねぇ……踊ろっか」
追いかけっこに疲れて、毒気が抜かれたのか。
聞き取れなかった言葉を深く追求することもせず、さんざん追い回した男に手を伸ばす。
せっかくのレクリエーション──参加しなくちゃソンでしょ。そう思わない?
「あぁ、あー……うん」
向こうの方で、これぞシャッターチャンスというべき光景が繰り広げられている。が……
写真なんか撮ってちゃ、もったいない。
片時も離さなかったカメラを、畳んだジャージの上に置き……差し出された舞の手を握る。
柔らかく、暖かい感触が心地良い。
その夜──金髪の令嬢と、誰もが恐れる不良が共に踊る姿が一同の注目を奪った。
同じころ、輪から少し外れた薄暗がりで、ローテーションすることもなく踊るもう一組の男女の姿に気付いた者は少ない。
しかし、彼らを見れば、みな一様にこう感じただろう。
輝いて見える……と。
〜fin〜
- 100 名前:Classical名無しさん :04/06/19 05:08 ID:EJDGC9Tw
- 普通にありそうな展開だ…
…というか本編でこんな展開になっても
ここまで輝かせるのは無理…
GJ!
- 101 名前:Classical名無しさん :04/06/19 07:06 ID:1.uDY9uo
- >>71->>89
乙です! GJ!!!
実際体育祭後ジャージどうしたんでしょうね?
旗派としては,あのままジャージ返さずに抱き枕として…
(*´д`*)ハァハァ
- 102 名前:Classical名無しさん :04/06/19 07:28 ID:1BGaMnQQ
- >>89
指摘カモーンとのことなので、気が付いたところを
・体育祭終了後は夜なのでは?
・沢近を背負っている播磨は頬をかけないのでは?
沢近の独白シーンは間といい、それまでのタメといい、カナーリGoodでした。
でもね、個人的に残念だったのは菅。
菅柳平。
宴には是非とも彼を誘って欲しかった。第一走者だし orz
あと天満にスポットが当たっていないところもチョット残念。
オールキャスト状態はコントロールが難しそうですからね、それぞれが個性的なキャラだけに。
言ってしまえば、詰め込み杉だったのかもしれません。
前半はさらっと流して、後半の旗メインのみでも十分お腹一杯になれますよ。
- 103 名前:Classical名無しさん :04/06/19 07:37 ID:1BGaMnQQ
- >>99
いつも柱が上手いなぁとは思っていましたが
「その輝きはプライスレス」はメチャワロタ(笑)
まさにリレーの別視点、別展開。
マイタケコンビは個人的にもなかなかツボでした。
少し描写で分かりにくい点も見えましたが、漲るパワーで押し切られちゃいました。
マイタケコンビはステレオタイプなキャラですが、組み合わせの妙というか、トムとジェリーというか
テンポのいい展開、ご馳走様でした。
- 104 名前:Classical名無しさん :04/06/19 07:50 ID:ZCGTAP1c
- 時折、予想もつかないカップリングが出てくるから好き。
- 105 名前:Classical名無しさん :04/06/19 14:57 ID:CF9/n8EI
- >ダンサー イン ザ ダーク
追いかけっこの場面がもっとみたかったです。残念。
>cat meets girl
こういうほのぼの展開は良いですね・・・
これくらい完成度が高い作品なら、
本編も初期のような展開になっても良いのになぁ
ところで、パロディなんてありました?
一つもわからなかった〜orz
>Hard to say I`m sorry
無理に全部の派閥に配慮しなくても・・・
それから、集まっているメンバーが不自然です。
なので、せめてメンバー集めの話からやって欲しかったです。
中盤からはひっかかりもなく読めました。
どうも有り難うございました。
- 106 名前:blind summer fish :04/06/19 21:33 ID:hJQv6qv2
-
八月が、そして夏休みがそろそろ終わろうとしている。
それは夏の終わりが近づいていることを示している。
夏が終わるのは嬉しいようでいて、何故か寂しい。
どこまでも広がる雲ひとつない青い空、照りつける太陽、熱されたアスファルトから立ち上がる陽炎、
残りわずかの命を惜しむかのように鳴き騒ぐセミ、蚊取り線香の独特なにおい、なかなか寝付けない夜。
どれもこれも嫌だったと思っていたのに、いざ夏が終わると思うと愛おしくなってしまう。
だが、美琴にとって今回の夏の終わりはいつもと違うものだった。どこか嬉しい反面、
とても切ない。それはどうしてもあのことを思い出さずにはいられないからだ。
そう、失恋してしまったことを。
今となっては、なんとか吹っ切れたつもりではいる。なのに、あのことを思い出すと、まだ胸の
奥がうずかずにはいられない。
そして、失恋と共にもう一つ失ってしまったものがある。
進路についてである。
今まで、好きな先輩と同じ大学に入りたいがために、勉強をがんばってきた。
だが、失恋してしまったことにより、先輩と同じ大学へ行くという目標を見失ってしまい、
最近、勉強にまったく身が入らなくなってしまったのである。
- 107 名前:blind summer fish :04/06/19 21:34 ID:hJQv6qv2
そんなわけで、稽古でそういったことは忘れて集中しようとするのだが、意識しないよう
にすればするほど頭の片隅にもやもやができて、なかなか集中できないものである。
「周防、また悩み事か?」
そんな美琴の様子が気になったのか花井が尋ねた。
「別にそういうわけじゃないけど……。ん、またって?」
花井はしまったという表情をして、それから顔をしかめた。
「いや、花火があった時あたりも何か悩んでいるようだったじゃないか……」
「……そういえば、そうだったな」
あの時は、沢近のことで悩んでいた。それを、花井に指摘されたのである。
そして、その後先輩に振られてしまったのである。
「あの、なんだ、その……。僕でよければ相談に乗るが……」
美琴を気遣うように花井は遠慮がちに言った。
やはり、幼馴染といべきか彼女のいつもとは違う様子に気づいていたようだ。花火の後、
美琴はしばらく空元気というか、無理に明るく振舞っていた。
でも、そのことに気づいている者は誰もいない。美琴はそう思っていた。
だが、花井は違っていたようだ。
当たり前のように傍にいて、家族のようでいて、家族とは違うあいまいな存在。
だからこそ、彼女の様子に気がついていたのかもしれない。それでいて、美琴に気を遣い、
しばらく気がつかないふりをしていてくれた。
そんな、花井らしい少し不器用なやさしさに美琴は嬉しく感じた。
- 108 名前:blind summer fish :04/06/19 21:35 ID:hJQv6qv2
「とりあえず、少し休むか」
そう言って外に向かって歩いていく花井に美琴はついていった。
外は道場の暑ぐるしい熱気と比べると、とても涼しい。
そして、その風が運ぶ夏の夜独特の匂いが気持ちよかった。
また、自分たちの背後にある道場の窓から漏れる光と、月と満点の星空から降りそそぐやわらかな光、
道場から聞こえてくる活気のある声と自分たちがいる場所の妙な静けさ。
それらがとても不思議な雰囲気をかもし出しているように感じた。
「で、やっぱり何か悩み事か? 言いたくなければ別に言わなくてもいいが……」
少し暗いため花井の表情はよくわからなかったが、やはり美琴にことを気遣っているようだ。
「まー、いろいろとあるんだけど、今はとりあえず進路のことでちょっと悩んでいるかな……」
「なるほど、二学期に入ると面談とかいろいろあるからな」
「なー、花井は進路をどうするかはもう決まってたりするのか?」
汗でべとつくシャツが少し気持ち悪いなと思いながら、美琴はふと幼馴染の進路の事が
気になって尋ねてみた。
「もちろん、大学へ進学するつもりだ」
「そうか……」
「周防も大学へ行くんじゃなかったのか?」
「それについて迷っていてな。つい最近までは行こうと思っていたんだけど……。なんか
目標を見失っちまってな。花井は大学で何かやりたいことがあるのか?」
「うむ、まだ特にないが」
「な……。それじゃ何で大学へ?」
美琴は花井のまじめっぷりを知っているせいか、たいへん驚いて聞き返してしまった。
- 109 名前:blind summer fish :04/06/19 21:36 ID:hJQv6qv2
- 「正直に言ってしまえばな、周防。僕は八雲君と結婚した時、幸せで安定した生活を送るための
一歩として大学へ行こうと思っているのだ」
美琴はあきれた顔をして花井を見てしまった。だが、よく考えると自分も似たようなものかも
しれないと思う。そんなことを知ってか知らずか、花井は少し微笑んだ。
「周防、本当は僕だって漠然なことしか考えていない」
そう言って、何か言葉を選ぼうとしているのか、少し考え込んでからたどたどしく口を
開いて喋りだした。
「僕だって将来についていろいろと悩んでいる。ただな、悩んでいるだけじゃ何も始まらない。
悩みながらも先へ進もうとすることが大切なことだと僕は思う。そして、先に進もうとして
いるうちにおのずと答えが見えてくるものじゃないかな。だから、僕は何事にも全身全霊で
挑んでいるんだ」
なるほど、確かにそうかもしれないと美琴は思う。でも花井を見ていると、あまり悩まないで
先走りしすぎているような気もするが……。
「まー、これは僕の考え方でもある。だから、他人に押し付けるつもりはない」
そして、花井は夜空を見上げ、今でないどこかをみつめるかのように懐かしげに目を細めた。
「ただな、このような考え方になったのはお前のおかげかもしれない。小さい頃の何事にも
ひるまずに前へ進むミコちゃんを見ていて、それが羨ましく憧れでもあり、僕にとってヒーロー
みたいなものだった」
あの自分を変えるきっかけとなった夏の始まりの時の事を思い出しながら、そして、そのせいか
美琴の呼び方が昔のものになっていた。
「だから僕もミコちゃんに負けないように、むしろミコちゃんを守れるくらいになろうと思った。
それが今の僕にしたのかもしれない」
自分の正直に思っている事を話したせいか、花井は少し恥ずかしげにしていた。
- 110 名前:blind summer fish :04/06/19 21:37 ID:hJQv6qv2
美琴はそのような予想もしていない告白に驚いて、返事を返すことができなかった。
しかし、確かによく考えてみると小さい頃の自分は今みたいにくよくよと悩まないで、
とりあえず積極的に行動を起こしていたような気がする。
「……そうだな、ありがとう。確かにその通りかもしれない。悩んでいるだけじゃしょうがないもんな」
そして、美琴も昔のことを思い出していた。
道場、小学校、中学校、高校。よく考えてみると、傍にはいつも花井がいた。それが当たり前
のことだった。でも、当たり前すぎて、気づきもしなかった。
二人が離れることを。
今年の夏がそろそろ終ろうとしているように、自分たちの関係も卒業と同時に変わろうとしている
のかもしれない。
離れたら二人の関係はどうなるのだろう。
だから、自然と言葉が出てしまった。
「なあ、あたしと大学で離れたらお前は寂しいか?」
「なっ、いきなり何を言うんだ」
「いや、なんでもない、忘れてくれ。それより、そろそろ稽古に戻るか」
美琴はそのようなことを聞いてしまった恥ずかしさを隠すように、笑いながら花井の背中を思い切り叩いて、
さっさと道場に戻っていた。
花井は戸惑いながら、去っていく美琴の後姿をただ呆然と見ていた。
そんな様子を、夏の第三角形を彩る星座たちが可笑しそうに見下ろしていた。
- 111 名前:blind summer fish :04/06/19 21:40 ID:hJQv6qv2
夏が終わろうとしている。
でも、夏はまた巡ってくる。
それはさも当然かのように、次の新しい夏に向かってまた歩き出している。
ならば、自分も同じように次の新しい恋に向かってまた歩き出せばいいのかもしれない。
そして、巡ってくる夏は前のものと同じとは限らない。
去年より良い夏になるかもしれない。その逆もありえる。
でも、それはすべて自分次第だ。
恋も進路も悔いがの残らないようにしたい。
そのためにも、悩んでいるだけではなく、とにかく行動を起こしてみようと思う。
「――とりあえず、明日髪を切って気持ちを入れかえるか」
美琴は小さくそう呟いて、先程とはうって変わってとてもすがすがしいそうに笑顔を浮かべていた。
そして、やさしくて何処かとても懐かしい夏を感じていた。
――Fin.
- 112 名前:blind summer fish :04/06/19 21:44 ID:hJQv6qv2
- これを書いていたら、久しぶりに道場に行きたくなりました。
それはともかく、限定版が手に入らないorz
- 113 名前:Hard to say I'm sorry :04/06/20 00:56 ID:VV9cQvLU
- >>91
ありがd(・∀・)
>>101
ジャージの行方が気になりますよね…沢近(*´д`*)ハァハァ
>>102
これを書き始めたのが先週分を読んでからなので……まさか体育祭後にキャンプファイアーもどきのことを
するとは予想外ですた(;´Д`)
播磨は頬をかけない……確かに。
ついノリでかいてしまいました、スマソ(;´Д`)
>>105
102氏もかいてらっしゃいますが、登場人物については
完全にこちらの独断と偏見できめました(;´Д`)
当初は菅もイチさんも、笹倉先生も登場予定だったのですが、漏れの技術では収拾がつかなくなったので……
今回は、出来る限り多くの登場人物を登場させ、どれだけ上手く描けるかにチャレンジしてみたのですが、
まだまですね……意見ありがとうございました(・∀・)
- 114 名前:Classical名無しさん :04/06/20 02:18 ID:y3Nccwnw
- ちょっとこないうちに神がたくさん降臨してるっ!
>>66
いつもと感じが変わって凄い楽しめました。
やっぱり初期のコメディーの雰囲気はいいですね。
次回作も期待して待ってます。
>>89
かわいらしい沢近見事です。
播磨カッコイイ!
俺も弦子萌えなんで弦子さんSSリクエストしていいですか?
>>92-99
プライスレスわろた。
写真とりまくってる冬木はクラスメートにどう思われてるんだろうか。
変人揃いの2−Cも舞ちゃんには頭が上がりませんね。
>>112
花井かっけー!
ミコチンは花井のお陰でふっきれたのかな?
- 115 名前:Classical名無しさん :04/06/20 02:20 ID:Zb5W7yog
- 「スクラン+ジャスティス学園要素」という変なネタを思いつく。
…想像するのは愛と友情のツープラトンばかりだが。
某御嬢様の場合:
パートナーがツープラトン発動で相手を突き飛ばす→突き飛ばされた相手の
後ろにいた御嬢様が相手を振り向かせて(この時にっこりスマイル)再び
パートナーの方に突き飛ばす→少し遅れてパートナーが背後から体当たり
(ショルダータックルか何か)を仕掛ける→それに一拍遅れる感じで御嬢様が
助走を付けたシャイニングウィザードを相手の首に
名付けて『ギロチンS.W』(むしろ悪魔将軍かよ)
何故か妙にえげつなくなる辺り暑さで脳がイカれた模様。
もしくは5巻限定版買えなかった後遺症か。(´・ω・`)
- 116 名前:Classical名無しさん :04/06/20 02:42 ID:TShaintE
- 体育祭が終わって続々と神降臨だ((((;゚Д゚))))
GJという言葉で足りるのだろうか?
- 117 名前:Nel blu, dipinto di blu :04/06/20 04:43 ID:qWTM3Kjg
――この曲なんか、美琴ちゃんに似合うと思うよ?
え〜、どれどれ…………………おい、なに言ってるかさっぱり分からないんだけど。
あ〜 うん ハハハ、確かにそうかも。でも、なんだか元気でない?
フ〜ン、確かにな。ま、一応入れとくよ――
- 118 名前:cat meets girlの中の犬 :04/06/20 04:44 ID:qWTM3Kjg
二学期の準備にと、物置を引っ掻き回していると、なにやら懐かしいものが出てきた。
ビッシリ書き込みがされているノート、やたらマーカーが引かれた参考書
何度も解いた問題集、最初の頃はペケばかり、それでも後半は丸が増えていた。
そして、もはや時代に取り残されている、ボロボロになった古いカセットテープたち
MDなんて、もっていなかった中学時代の忘れ物、たくさん詰まった音楽、そして思い出
一番上に置いてあったカセットには、かすれたマジックペンで『受験勉強用』と書かれていた。
- 119 名前:Nel blu, dipinto di blu :04/06/20 04:44 ID:qWTM3Kjg
――はい、これ。
ん? なにこれ?
カセットテープだけど ちなみに60分ね
見りゃ分かるっつーの、それがなんなんだよ?
勉強してるときのBGMや、休憩中のリラックスにいいよ
おお、なるほど。よ〜し、マイベストソングを入れるか!
うん、それがいいと思うよ――
- 120 名前:Nel blu, dipinto di blu :04/06/20 04:45 ID:qWTM3Kjg
夏はまだ秋に役目を交代する気はないらしく、室内にいても汗はにじんでくる。
それでも、動かずにそれを眺める、不思議と、暑さはあまり感じなかった。
そして、思い出す、つらくて、大変で、楽しかった頃を
古いカセットテープは、音楽ではなく記憶を再生させ始めた。
- 121 名前:Nel blu, dipinto di blu :04/06/20 04:45 ID:qWTM3Kjg
――つまり、この方程式は、この数式を使えば……
お、曲が終わった……ということは、今日は終わりだな、いや〜疲れた
う〜ん、でも、ここで終わるときりが悪いから、もう少しだけやろうか……って、アレ?
じゃ〜な、先輩! また明日よろしく!!
あ、美琴ちゃん!! まだ終わってないよ!!
- 122 名前:Nel blu, dipinto di blu :04/06/20 04:48 ID:qWTM3Kjg
そういえば、60分きっかりで、時間を計るのにも役に立ってたっけ。
思えば、受験勉強中は、勉強中でも休憩中も音楽ばかり聴いていたきがする。
嫌いな勉強の紛らわしとしては、なかなか有効だったかもしれない。
あの人は、やはり自分をよく分かっていたようだ
カセットを、ラジカセに入れ、再生ボタンを押す。
くすんだ音がする、そして、一呼吸置いた後に懐かしいメロディが流れてきた――
- 123 名前:Nel blu, dipinto di blu :04/06/20 04:51 ID:qWTM3Kjg
『…Penso che un sogno cosi non ritorni mai piu:
Mi dipingevo le mani e la faccia di blu,
Poi d'improvviso venivo dal vento rapito
E incominciavo a volare nel cielo infinito... 』
静かで、軽快な歌声
正確には分からないが、どこかイタリアのようなラテン系を思わせるメロディ
『Volare... oh, oh!...
Cantare... oh, oh, oh, oh!
Nel blu, dipinto di blu
Felice di stare lassu... 』
- 124 名前:Nel blu, dipinto di blu :04/06/20 04:53 ID:qWTM3Kjg
じっと、じっと貯めて、サビの部分で弾けるように歌う、謡う、謳う
まさに、太陽の下で歌っているような曲
透き通った青空のもと、精一杯歌っているような曲
あの人が私に似合うと言ってくれた曲
思い立ったように、彼女はそのカセットテープを握り締めると、家の外へと出て行った。
- 125 名前:Nel blu, dipinto di blu :04/06/20 04:56 ID:qWTM3Kjg
「……着いたぞ、まったくなぜ僕がこんなに所まで」
「アッハッハッハッハ、悪い悪い、どうやって行くか覚えてなかったんだよ」
二人が立っている場所は、海岸沿いの高台。
そこは、空にも海にも近い場所だった。
夏の空は、雲ひとつなく日差しが照りつけてくるが、それでも暑さは減ってはきた。
空の青には雲があり、海の青には照り返す波が、白く光って見えた。
やはり突き抜けるよう青には、それこそまさしく、まっさらな白がよく似合う。
「あのな……だいたい、なにしに来たんだこんな所に」
「ん? ま〜…ちょっとな。え〜と……」
ごぞごそとポケットから、カセットテープを取り出す。
「なんだ? ずいぶんと古いもののようだが」
返事は、ない
そして、しばらく蝉の鳴き声と木々のざわめきだけが、二人を包んだ。
- 126 名前:Nel blu, dipinto di blu :04/06/20 04:57 ID:qWTM3Kjg
「せ〜の……どりゃ〜!!!」
いきなり、ダイナミックなフォームで右手からテープを空に向かって、海に向かって、投げ放つ
プラスチックのケースが日光を反射して、キラキラと光る。
それでも、しばらくすると、青い世界へと飲み込まれるかのように、視界から消えていった。
しばらく、じっと投げた方向を見つめる一人。
そして、さらにそれを見つめるもう一人。
しばし、静寂の幕が二人に降りる
「……おい、さっきからいったいなにを――」
「うしっ! 帰るぞ!」
突然、笑いながら声高に宣言。
それを見て、パクパクと口を動かし、なにか言いたそうな顔を数秒間だけする。
しかし、それも軽いため息とともに消えていった。
「……わかった、帰るか」
「おう!」
帰り道、二人はなにも聞かなかった、話さなかった
それでいいと思った、それが嬉しかった
分かれ道で、一言だけ
「また、二学期に学校でな」
「ああ、遅刻するんじゃないぞ」
再開の言葉を交わした。
- 127 名前:Nel blu, dipinto di blu :04/06/20 04:58 ID:qWTM3Kjg
「ぼ〜られ! うぉ〜うぉ〜! かんた〜れ〜! うぉうぉうぉ!!」
「な〜に 天満その歌? というかそれ歌?」
「あ、愛理ちゃんひど〜い!」
新学期の登校時、友人がえらく音程が外れて、発音が滅茶苦茶な歌を歌っていた。
「んふふふふ、いい曲でしょ〜、私の今、一番のお気に入りの曲なんだよ!」
「アンタね、だからって小学生じゃないんだから道端で歌うのやめなさいよ」
「いいんだも〜ん。歌は歌いたいときに歌うのが一番楽しめるんだよ?」
さらに呆れる友人、もう一人の友人は、静観を決め込んでいるようだ。
そして、自分は……空を見る、今日は夏と見まがうほどの晴れた日だった。
「うしっ! 私も歌うか!」
「え? ちょ、ちょっとなにを言い出すのよ!」
「お、美コちんノリがいいねぇ! それじゃあいっくよー!!」
「ちょ、ちょっと、アンタ達――」
二人、笑いながら大声で歌いだした
- 128 名前:Nel blu, dipinto di blu :04/06/20 04:58 ID:qWTM3Kjg
Volare... oh, oh!...
(飛ぶよ! oh,oh!)
Cantare... oh, oh, oh, oh!
(歌うよ! oh, oh, oh, oh! )
Nel blu, dipinto di blu
(青く塗られた青の中)
Felice di stare lassu...
(空にいる幸せ…)
E volavo volavo felice piu` in alto del sole ed ancora piu` su
(幸せに飛んで飛んで、太陽よりもっと高く、そしてさらにもっと上に)
Mentre il mondo pian piano spariva lontano laggiu`
(その間に世界は少しづつ遠く 下の方に消えてったんだ)
Una musica dolce suonava soltanto per me...
(甘い音楽が私だけのために鳴ってたんだ…)
- 129 名前:Nel blu, dipinto di blu :04/06/20 05:00 ID:qWTM3Kjg
周りのことなど気にせずに歌いながら坂を上ってゆく。
それを見て、残りの二人も、結局は、やれやれといった感じで後ろを歩いてゆく。
前の二人も、やはり後ろ見て、やっぱり、と笑いあう
ふと、空を見上げた、空はいつものように、そこにある
にっこり 力強く 元気いっぱいに もう一度彼女は笑った
もう、暑い夏は終わった
それでも、夏の置き土産なのか、本日は透き通るような快晴
歌声は、空いっぱいへと広がり、ゆっくりと溶けていく
歌い終わる頃、学校の校門が見えてきた、今から、また新しい出会いと、いつか来る別れがやってくる
そうして想い出は積み重なり、何度でも新たな出会いを運んでくる
まず前を向こう、そして出会いを楽しみにしようと、彼女は小さく思った
「……よ〜し、教室まで競争だ!!」
「ま、たまにはそういうのもいいわね」
「それじゃあ、何かかける?」
「え〜!? 絶対私の負けだよ!?」
心地よい騒がしさが、彼女達を包んだ。
なにか楽しげに叫びながら、四人は教室へと駆けて行く
太陽が見守る中、今日も空は、どこまでも突き抜けるような青空だった――
- 130 名前:Nel blu, dipinto di blu :04/06/20 05:00 ID:qWTM3Kjg
fin
- 131 名前:Nel blu, dipinto di blu の中の犬 :04/06/20 05:02 ID:qWTM3Kjg
また題名ミスに、行数間違い、さらには誤爆ですか、そうですか
意図せず、今月はSS投下強化月間になりそうな予感、むしろ悪寒
□コ <トリアエズ,モウコンンミススシタクナイヨー
ノ| ̄|
- 132 名前:追記 :04/06/20 05:08 ID:qWTM3Kjg
- もちろん、この作品の発想の元は……空というか天(sky)です
まあ、縦笛とは微妙に違うんですがネ
んで、もう一つがこの歌です ttp://pya.cc/pyaimg/spimg.php?imgid=4083
□コ <イイウタディスヨー!
ノ| ̄|
- 133 名前:Classical名無しさん :04/06/20 11:32 ID:crGSWEjM
- 乙です!
朝から楽しめました。
吹っ切れ方が美琴らしくていいですね。
- 134 名前:Classical名無しさん :04/06/20 11:32 ID:crGSWEjM
- ageスマソ
- 135 名前:Classical名無しさん :04/06/20 17:05 ID:n4YaK2uw
- >>112
八雲ラヴのままの癖になんかカコイイぞ、花井。
やっぱり花井は美琴と絡んでる時が一番耀いてるんだよなぁw
>>132
敢えて何も聞かない花井がいい味だしてます。
歌との絡め方が絶妙でナイスです。
- 136 名前:八雲の地球儀 :04/06/20 18:38 ID:H2W7T.YU
- 「サラ……私はね、あきらめない播磨さんが好きなの。播磨さんは私のこと、
姉さんの妹としてしか見てくれないけど、でも私に優しくしてくれるし、
描いたマンガを読ませてくれるから、それでいいの」
「それ、播磨先輩のこと……あきらめてるってこと?」
「私には、最後までよくわからなかったけど、播磨さんは……そういうのが、
播磨さんだって思うの。
もし、播磨さんが姉さんのことあきらめて、私と付き合うって言っても、
それは播磨さんが優しくて、嘘をついちゃうからなの」
「播磨先輩が、本心からそうしたいと思ったら?」
「播磨さんはね、強くて、優しくて、あきらめない人だから。
本当に姉さんのことをあきらめるなんて、きっとできない。
姉さんのこと、あきらめてほしくないの。そういうのが、播磨さんだって思うから」
「やっぱり……私は、姉さんに一生懸命な播磨さんが好き。
私のことを振り返らずに走っていく播磨さんが好き」
私は、播磨さんを遠くから見ているだけでいいから――。
- 137 名前:Classical名無しさん :04/06/20 18:47 ID:H2W7T.YU
- 振られるとしたら、こんな感じで。
ほんの少しの切なさと悲しさと嬉しさを抱いて、生きていくと。
- 138 名前:Classical名無しさん :04/06/20 23:19 ID:.AY5yhTo
- ちょっとホロリ。
いつかそんな饒舌な八雲が見られるんだろうか。
- 139 名前:Classical名無しさん :04/06/20 23:26 ID:gFdEljq2
- >>112
やっぱり、普段のアホな花井と、
美琴の時だけ格好よくなる花井のギャップが良いなあ
そこが縦笛の魅力の一つなのかも
>>132
上手ぇ…!
本編でもありそうな展開だ
美琴のふっ切れ方が凄く自然だと思いました
>>136
八雲は播磨のおかげで
恋を知りそう
まあ、播磨は惚れられることに気付かんだろうけど
そういやエロパロでも縦笛SS投下されてたね
続編モノらしかったけど
- 140 名前:Promised tea :04/06/21 03:11 ID:ZucxUQyg
- 木々の緑はいつしか赤々とした色に変わり、秋の気配が包み込むように広がる日の夕方。
放課後の学生達は、それぞれの部活動に励んでいる。
そして、ここ茶道部も部室にて活動をしていた。
茶道部の部室には晶、八雲、サラの部員に加えて麻生が来ていた。
ちなみに花井は委員会と稽古があるため今日は来ていないが、八雲と会うために半ば本気で委員会や稽古をサボろうとしていた所を舞や美琴に連行されたのはご愛嬌である。
「それじゃあ、私はお茶を淹れてきますね」
「ああ」
軽く言葉を交わすと、茶道部に来た麻生のために、サラは紅茶を淹れに行った。
「初めてね、麻生君がここに来るなんて」
「紅茶を飲みに来てくれってあいつに頼まれたんだよ」
普段ここにくる男性は、花井や播磨くらいなので麻生は珍しい客人だった。
晶は麻生からここに来た理由を聞くと、いつもより楽しそうなサラの後ろ姿をそっと見た後、麻生に向き直った。
「それで来てあげるなんて、なかなか麻生君もいい人してるわね」
「……そんなんじゃねえよ」
晶の少しからかうような台詞に、いつものように無愛想な表情で、しかしどこか歯切れ悪く麻生は答える。
- 141 名前:Promised tea :04/06/21 03:13 ID:ZucxUQyg
- 「なあ」
「何?」
「茶道部って普通和風じゃないのか?」
「そうね」
「なんでここは洋風なんだ?」
「簡単に言えば趣味ね」
「……なるほど」
茶道部の部室といえば普通は和室で畳というイメージだが、ここは洋風の部屋であった。
といっても確かに紅茶用のティーセットもあるが、晶などは日本茶をメインでやっている。
それもどこで着替えているのか着物まで着ている本格仕様だ。
それを疑問に思った麻生だったが、晶から返ってきた返事は単純明快。
各々が自分の好きな分野をやっていたら、いつのまにかこうなっていたのだった。
ちなみに部屋は顧問である刑部先生の趣味でこうなったらしい。
その後もサラが用意をしている間二人は会話をしていた。
クラスの中でもクールと言われる晶と麻生は普段めったに話すことはない。
しかし、仲が悪いわけではなく、お互いに用がないと喋らないだけで、現に今二人は割と自然に会話をしている。
この場面を冬木あたりが目撃していたらさぞかしクラスの噂のネタにされていただろう。
「ところで」
「なんだ?」
「サラとは付き合ってるの?」
「い、いきなり何言ってんだよ!」
「あら、違うの?」
「あいつとはただバイトが……」
「私のこと呼びました?」
「な、なんでもねえよ」
- 142 名前:Promised tea :04/06/21 03:14 ID:ZucxUQyg
- 晶の直球な質問に思わずどもってしまう麻生。
なんとか晶の言葉に反論しようした瞬間、サラが紅茶の用意をして戻ってきた。
絶妙なタイミングで現れたサラに動揺しつつも麻生は必死にごまかした。
「そうなんですか?」
「ふふ」
なんのことか解っていないサラが晶の方へ向き尋ねるも、晶は微笑を浮かべるのみだった。
晶のその雰囲気から、もしかしたらこうなると全て解っていて話をしていたんじゃないかという気さえしてくる。
サラは、そんな二人を見ながらどうしたんだろうと思いつつもにこやかにカップに紅茶を注いでいた。
「はいどうぞ先輩」
「さんきゅ」
「これ、お茶菓子です」
「ああ、ありがとう。塚本さん」
「いえ」
サラが紅茶を出すと、サラが紅茶を淹れている間に用意してたのであろお茶菓子を八雲が差し出す。
麻生はサラと八雲にそれぞれ礼を言いながら受け取ると、八雲へと向き直る。
「それから、その……結婚式の時は行けなくて悪かった」
「そんな……用事は仕方ないですよ」
「ありがとう」
お互いに言葉をかける麻生と八雲。
二人の間に穏やかな空気が生まれる。普段は男性が苦手な八雲だが、麻生のようなタイプはそんなに苦手ではないのかもしれない。
しかし、普段なら八雲が苦手な男性と自然と話せる場面には、一番に喜ぶのに二人の雰囲気に何故か不満気なサラ。
- 143 名前:Promised tea :04/06/21 03:15 ID:ZucxUQyg
- 「むー」
「な、なんだよ」
いつも明るいサラの少し拗ねた様な雰囲気に、一体何事だと少し構えてしまう麻生。
「いーえ、なんでもありません!私の事は『あいつ』とか『お前』なのに八雲のことは『塚本さん』だったなんて事は、全然気にしてません!」
自分と八雲の扱いの違いを不満だと訴えてくるサラに、思いっきり気にしてるじゃないかよ。という言葉を飲み込み、フォローの言葉をかけようと思った麻生だが、今そんな言葉をかけても逆効果にしかならないだろうと思い、何も言わずにサラの淹れた紅茶に口を付けた。
「……美味い」
「そ、そんなお世辞にごまかされたりはしませんよ」
「俺はお世辞は言わないんだがな……」
「サラ……」
「……ふぅ、解りました。もう怒ってませんよ」
麻生の素直な感想と八雲の心配気な表情に、サラは表情を緩めて言った。
「その代わり先輩、紅茶のお礼に今度の日曜日買い物に付き合ってください」
「な、何!?この紅茶はお前が飲みに来てくれって行ったんじゃねえかよ」
「女の子の手作り紅茶はそれくらい高いんです」
「いや、だからだいたいこれは……」
「それに女の子の前で他の子といい雰囲気になった罪はとっても重いんですよ」
「いい雰囲気って普通に話してただけじゃねえか」
「それは先輩が鈍感で女心がわかってないからダメなんです」
「あーもう……わかったよ。日曜だな」
「はいっ」
- 144 名前:Promised tea :04/06/21 03:16 ID:ZucxUQyg
- 突然のサラの要求に理不尽さを感じた麻生だったが、すっかり普段のペースを取り戻したサラにはどんな言葉も受け流されるだけで、結局麻生が折れてサラと日曜日出かける約束をすることでまとまった。
「なんだかんだでいい二人組みね」
「そうですね」
一方晶と八雲は、二人を見ながらそんな感想をもらした。
日曜日、なんだかんだといいつつも二人は一緒に買い物へと出かけるのであった。
しかし月曜日、しっかりとその現場を冬木に押さえられ、クラスの奴、特に男達から問い詰められる麻生がいた。
- 145 名前:書いた人 :04/06/21 03:25 ID:ZucxUQyg
- ということでサラ×麻生でした。
今回はちょっと書式を変えて台詞と地分の間を一行あけてみました。
自分で書いたSSを振り返ってみるとサラ×麻生がこれで3本目Σ(゚Д゚;)
サラ×播磨も入れるとサラだけで4本目Σ(゚Д゚;)
サラのカップリングだと麻生か播磨か花井くらいしか浮かばないんですが、播磨は天満や沢近、八雲その他にも色々、花井は美琴があるし……と思うとなぜかサラ×麻生になってしまった_| ̄|○
やはり自分はサラ好きのサラ派だと思ってしまいました。
- 146 名前:書いた人 :04/06/21 09:25 ID:ZucxUQyg
- 追記。
誤字や表現がおかしいところが_| ̄|○
1行目『秋の気配が包み込むように広がる日の夕方』→『秋の気配が包み込むように広がっていく、そんな日の夕方』のがいいかな?
142の14行目『用意してたのであろお』→『用意してたであろう』
一番最後の『クラスの奴』→『クラスの人達』のがいいかな
自分で誤字指摘とか泣けてくる_| ̄|○
それはさておき、今回は拗ねたり怒ったりと少し感情の変化が激しいサラを表現してみたかったんですが、うまくいったのやら。
サラの出番はいつになるやらと思いつつ追記もどきでした。
- 147 名前:Classical名無しさん :04/06/21 10:13 ID:JZmhiykM
- GJ!見事なサラ×アソSSを頂きました。
個人的にこれくらいの長さで上手くまとめられるの好きなんですんなり
読めました。ところでデートの描写を省くあたりが以前サラ×アソのデ
ート書いた人だと思うんだけど違うかな?
作風の偏りは気にしなくていいと思います。俺なんか旗一直線ですんで。
- 148 名前:Classical名無しさん :04/06/21 16:50 ID:VUd1n2Do
- >>146
全体的に拙い。
描写が説明っぽいし、会話続きの所は誰が喋っているかわかりにくい。
八雲なんか突如現れたように感じた。
サラの感情変化は良かったので、もう少し文章力を高めると
よりよい作品になると思う。
- 149 名前:Classical名無しさん :04/06/21 19:43 ID:qWTM3Kjg
- >>146
それじゃあ自分も少しだけ
上の人が説明っぽくなる、と感じたのは、たぶん人名を使いすぎなのでは
>サラが紅茶を出すと、サラが紅茶を淹れている間に用意してたのであろお茶菓子を八雲が差し出す。
>麻生はサラと八雲にそれぞれ礼を言いながら受け取ると、八雲へと向き直る。
ここらへんとかが、私的にちょっとくどく感じました、これを
サラが紅茶を取り出し、その間に、事前に準備していたのだろう、八雲が皿のお菓子を盛り付ける。
すっかりもてなされてしまった麻生は、素直に二人に礼を述べ、紅茶とお菓子を受け取った。
そして、なぜか八雲のほうに向き直ると、彼にしては珍しく、すまなさそうな表情を作る。
といった感じとか
内容は、めずらしくやきもちを妬くサラが可愛くてイイですネ
追記に書いてあるとおり、表現できてると思います
□コ <マア、アクマデザレゴトディスカラー
ノ| ̄|
- 150 名前:Classical名無しさん :04/06/21 23:59 ID:Qi0ozA1Y
- >>148>>149
指摘サンクス。次回は描画部分をがんばって書きます。
>>147
147さんがさしてる話とは違うかもしれませんが、デートの話自体は書いたことあります。
- 151 名前:Classical名無しさん :04/06/22 02:22 ID:rd/aOuq6
- 以前、スクランのファンサイト(某共和国)に載せてもらってたSSが保存してあるのですが、
このまま放置するのももったいないなと思うので、
こちらのスレに投下したいなぁと思っています。
それでこのスレの皆さんに質問したいのですが、
投下しようと思っているSSには、オリキャラが出るのですが、(しかもバリバリの主役で)
オリキャラ登場の作品はOKでしょうか?
結構「オリキャラはちょっと・・・」っていう印象の人も多いような気もしますので、一応聞いてみます。
(ましてやスクランはカップリングで好きな人も多い作品なので)
もし、「オリキャラはダメ!!」という意見が多かったら素直に回避しますので・・・
- 152 名前:Classical名無しさん :04/06/22 02:48 ID:nfJljaSk
- >>151
オリキャラ云々という話題はSSである限りついて回る代物だが
個人的には完成度次第だと思う。
言ってしまえば商業作品クラスまで純度、完成度の高いものならばオリキャラだろうがなんだろうが
問題ない。スレとしての狭義の意味で考えてもセーフだろう。
逆にここに投下されるもの(それも初投下)にも満たない凡庸な物なら
正直よそへ行ってくれ。
つまり、ここで求められる物はスクランキャラが織りなす関係であり世界であって
それを壊すだけの存在ならば受け入れる道理はない。
- 153 名前:Classical名無しさん :04/06/22 06:20 ID:8C5YN6v.
- 前に某共和国で読んだアレだと思いますが、あの設定はちょっと私にはいただけませんでしたね
なぜかというと、スクランッぽさが全く出ていないと感じたので、主に播磨が影薄すぎるとか
主人公が、超人ぽいとことか、烏丸の性格とか・・・・・・
まあ、個人的意見なんで気にしないのが吉です。かといって全く気にしないのもどうかと思いますが
ってどっちだ(#゚Д゚)ゴルァ!!
- 154 名前:Classical名無しさん :04/06/22 06:36 ID:I8QmN2Q2
- オリキャラの主人公の設定で一番頂けないのが、「超人」
こればかりはご勘弁下さい。
- 155 名前:Classical名無しさん :04/06/22 07:50 ID:nV0mTAP2
- というかオリキャラは絶対無理。
余りに地雷です。
- 156 名前:Classical名無しさん :04/06/22 11:01 ID:gWgl1d0U
- あらま、探してみたんだけど、共和国とやらはもうなくなっちゃってるのか〜。
とりあえず投下希望。
そこまで言っといて読ませないのが一番酷いです!生殺しです
- 157 名前:Classical名無しさん :04/06/22 11:36 ID:MiFlBWSQ
- >言ってしまえば商業作品クラスまで純度、完成度の高いものならばオリキャラだろうがなんだろうが
>問題ない。スレとしての狭義の意味で考えてもセーフだろう。
そうか?
- 158 名前:Classical名無しさん :04/06/22 12:12 ID:RopKxP9E
- >157
本人がそう思っていても、他人からすると全然到達してない場合が
あるからな……。
- 159 名前:Classical名無しさん :04/06/22 12:14 ID:lcAV6xNg
- 世界観が違わなければいいんじゃないかな。
クラスメートの一人として、レギュラーたちと絡むとか。
超人は勘弁。
- 160 名前:Classical名無しさん :04/06/22 12:18 ID:lcAV6xNg
- >>151
某BBSの「スクランSS投稿スレ避難所」なら
オリジナルも受け入れてもらえると思いますよ。
- 161 名前:Classical名無しさん :04/06/22 12:39 ID:gLZvySZs
- あそこに「載せてもらってた」んだろ?
いくら閉鎖したからといって別の所にも同じ物を貼るのはいただけないな。
「せっかく書いたのに勿体ない」って気持ちも分かるが、
「載せてもらってた」あそこの管理人さんに悪いだろ。
ついでに言うけどオリキャラ使うことの「手段と目的」が間違ってたりしないか?
1.スクランに出ている既存のキャラじゃ駄目な役割だから使う。
2.既存のキャラでも出来るのに自分の作ったキャラを動かしたい、だから使う。
1だと確かにオリキャラ使うしかないが、既存のキャラで出来ないってことはその作品には合ってない。
極端な例だが「どこぞの壊し屋と某金髪ツインテール」のヤツのように。
そんなの投下されても…その、なんだ。困る。
2は言うまでもないが論外だ。「超人」「最強」なんてもっと駄目だ。
オリキャラでモブじゃなく主人公&<153氏の意見からすると、
私の主観ではそれは「スクランのSS」ではなく「スクランのキャラを使った何か」にしか見えん。
俺は勘弁して欲しい。長文スマソ。
- 162 名前:Classical名無しさん :04/06/22 12:52 ID:gWgl1d0U
- >132
ぼ〜られ! うぉ〜うぉ〜! かんた〜れ〜! うぉうぉうぉ!!
良い歌ですね。朝からもう流しっぱなしです。
FLASH、保存はしたけど再生の仕方がわからない・・・orz
SS、最初の方の形式、ちょっと読み辛いかもです。
一行空けてあるのが回想で、空けてないのが現在の場面ですよね。
でも123とかになると、そのお約束とも違ってきてますし・・・
125からは最高です!
出来れば海岸にはバイクの二人乗りで来てて欲しいとこですね、雰囲気的に。
少なくとも花井は運転できなさそうなのが残念です。
ヴォーラーレ!・・・CD買おっと。
- 163 名前:Classical名無しさん :04/06/22 13:43 ID:9vGUIyyE
- >>161は御剣
- 164 名前:Classical名無しさん :04/06/22 14:17 ID:RopKxP9E
- >162
初心者っぽいので分かりやすく解説。
1.どこでもいいからてきとーなフォルダを開く
2.「ツール」→「フォルダオプション」を開く
3.「ファイルの種類」を選択
しばらく待つと、ずらっとファイルが並ぶので
「SWF」を選ぶ。
「拡張子、SWFの詳細」と出てくるので、「変更」を選択し、
プログラムのインターネットエクスプローラーを選ぶ。
こうすると、「SWF」のファイルを開くときは常にIEで開くように
なるので、FLASHが見れる。
ま、FLASHビューアーを使った方がいいかもだが。
- 165 名前:Classical名無しさん :04/06/22 14:23 ID:xz4s1Ku.
- 「ダブルクリック」から「アプリケーションの選択」でいいんでないの?
- 166 名前:Classical名無しさん :04/06/22 16:56 ID:6u9oPyRg
- まぁとりあえず見たいだけならブラウザにドロップすれば済む。
- 167 名前:リレー愛理サイド :04/06/22 17:37 ID:6gWpwnUI
- アイツは言った。
「お嬢 勝ってやるよ お前の為に」と。
戸惑う私にアイツは振り向き、ビシッと指を差す。
「それで貸し借りはなし! いいな!」
私は黙って頷いた。
初めて言われた言葉だった。
ちょっとだけ、嬉しかった。
放送に導かれ、選手達が入場してくる。
アイツは、アンカーに決まったみたいだ。
女子の声援に、花井君と共ににやけるアイツ。
(ま、こんなもんよね)
私は少し、あきれていた。
そして、リレーがスタートした。
D組と先頭を争う、いい勝負になっている。
第4走者の花井君からバトンを受けたアイツが走り出した。
グングンと先頭との差を詰めていく。
その姿に、他のクラスからも拍手や声援が飛ぶ。
(何よ… ガンバるじゃないの)
- 168 名前:リレー愛理サイド :04/06/22 17:37 ID:6gWpwnUI
- アイツが懸命に走っている。
もう少しで先頭のハリー君に追いつく。
そんな時、アイツが叫んだ。
「この俺に奇蹟をおおおおおお!」
一気に先頭を交わして、ゴールイン。
これで、C組の優勝が決まった。
そして、アイツのハゲが全校生徒にさらされた…
体育祭後のレクリエーション。
みんなでオクラホマミキサーを踊っている。
アイツは、ハゲをさらしたまま、ポツンと校庭の隅に座っていた。
私はアイツに近付いて、手を差し出し、話し掛けた。
「踊るわよ」
アイツは表情を変えずに言った。
「何言ってんだよ、お嬢。 お前は足を…… そして、俺はハゲ……」
辞退しようとするアイツに尚も言った。
「恥ずかしくなんかないわよ」
アイツの手を取り、踊り始める。
「この私と踊るのだから、胸を張りなさい」
アイツにそう言った直後、ズキッと足が痛んだ。
アイツの胸に飛び込むような形で抱きかかえられた。
厚い胸板。 暖かい手。
約束を守って、優勝したんだよね。
私の為に走って、ハゲを皆に知られて…
「オ、オイ お嬢…」
アイツに顔を見られないようにして、体を離す。
「ヘーキ 平気よ 今日だけは特別… 特別だからね!」
そう言って、踊りつづける。
他の生徒に見つかっても、構わなかった。
今夜だけは、このヒゲと踊りたかったから……
- 169 名前:リレー愛理サイド :04/06/22 17:39 ID:6gWpwnUI
- 沢近側から見た、29号です。 久しぶりのSSは難しいです。
- 170 名前:田上 賢一 ◆z94pwuLo :04/06/22 17:45 ID:MKE/Ryho
- ∧田上∧
(@≧д≦)<読ませてもらいました
皆さん 上手いです 頑張ってください
草木の陰から応援しておりますタノ〜
- 171 名前:Classical名無しさん :04/06/22 20:54 ID:pCFL5q0Y
- ぶっちゃけ妄想ですが、こんなのもアリでしょうか?
- 172 名前:祭りの夜 :04/06/22 20:57 ID:pCFL5q0Y
- 日の暮れた校庭で定番のオクラホマミキサーの軽快なリズムに乗って、キャンプファ
イヤーを囲んだ大勢の男女が輪を作って踊っていた。その顔のどれにも満ち足りたもの
が浮かび、昼間の健闘を互いに称え合っている。
踊る相手を次々と変えて、今まで見知らぬ他人だった者と言葉を交わし、味方であっ
た者と笑い、敵であったものと親交を深め、誰もがいまのこの時を楽しんでいた。だか
らこそ、一人輪から離れているその姿が気になった。
「八雲、どうしたの?」
隣に居たサラが不思議そうな顔をして尋ねてきた。視線を戻し、それになんでもない
と首を振って答える。
「そう? それじゃあ、わたしもいってくるね」
少し首をひねったサラは、それでもすぐに納得するとこちらに手を振ると、人の輪へ
と向かって歩いていった。その背中を、無事に合流を果たすまで見届けた後、再びあの人
に視線を戻した。相変わらず、膝を抱えて座り込んでいた。さっき見たときも落ち込んで
いるように見えたが、いまはより顕著にそう見えた。
- 173 名前:祭りの夜 :04/06/22 20:58 ID:pCFL5q0Y
- 「播磨さん……」
そっとその人の名前を呟く。播磨拳児さん。姉さんと同じクラスの人で、伊織を助けて
くれた人。動物に好かれていて、動物の言いたいことが分かって、漫画も書ける凄い人。
時々急に叫んだりして驚かされることもあるけれど、親切で、優しい人。そして、生まれ
て初めてわたしに出来た、男の人の、知り合い。
播磨さんと自分との関係を思うたび不思議な気分になる。部長や花井先輩のように、先
輩後輩の関係ではなく、サラのように友達、というわけでもないと思う。だからといって、
決して他人ではない。果たして自分にとって播磨さんとはどんな人なのだろうか?
そのまま思索の海に沈みかけそうになるが、慌てて首を振り我に帰った。今はそんなこ
とを考えるより、播磨さんのことだ。
視線の先では播磨さんは一人ぼっちだった。今日の体育祭で、クラスを優勝に導いたの
だから、本来ならみんなに囲まれているはずなのに。
誰もが腫れ物に触るかのような態度で、播磨さんを見ないようにしていた。時々目を向
けている人も居たけど、その人もすぐに目をそらしていた。やはり、ゴールしたときのア
レのせいなのだろうか? でも、それでもおかしいと思う。たしかに驚くかもしれないけ
れど、結局それは髪の毛が有るか無いかというだけの事なのに。
視線の先では、播磨さんがますます落ち込んでいた。
- 174 名前:祭りの夜 :04/06/22 20:58 ID:pCFL5q0Y
- このままではいけない、と思う。なんとか元気になってもらいたかった。でも、一体ど
うすればいいのだろう?
すぐに一つの考えに思い至った。そうだ、一人だから落ち込むのなら、話し掛けてみよ
う。それでも駄目なら踊りに誘ってみるのもいいかもしれない。
これには自分で驚いた。とても自分が考え付くような行動ではなかった。普段とはまる
で正反対の積極的な考え。これではまるで姉さんみたいだ。少しためらいが生まれる。果
たして自分にそんなことが出来るだろうか?
でも、そのためらいは、寂しそうに踊りの輪を眺める播磨さんの姿を見るとすぐに消え
た。決意を固めて一歩を踏み出す。播磨さんまでの距離は十五歩ほど。一歩、また一歩と
近づいていく。
高まる緊張を必死で押し殺して、逃げ出したくなる気持ちを、播磨さんの姿を見ること
で抑えながらゆっくりと歩み寄る。声をかけたら元気を出してくれるだろうか? 踊りに
誘ったら喜んでくれるだろうか?
頭の中で元気になった播磨さんの姿を思い浮かべると、自然に口元が緩んできた。さっ
きまで鉛のようだった足が、気がつくと羽の様に軽くなっていた。播磨さんはもう目前だ
った。少し大きめの声をかければ届くに違いない。
あと三歩進んだら声をかけよう。そう心に決めて一歩目を踏み出す。期待に胸を膨らま
せてもう一歩。そして声をかけるために息を吸いながら、最後の一歩を踏み出そうとした、
その時だった。
「踊るわよ」
誰かが、私よりも先に声をかけていた。誰かが、播磨さんを踊りに誘っていた。
月明かりに照らされている輝くような金の髪。おもわず吸い込まれそうになる綺麗な瞳。
素っ気無く出されたその声は、それでもよく通った。同性のわたしでもハッするほど綺麗な
その人は、姉さんの友達の沢近さんだった。
- 175 名前:祭りの夜 :04/06/22 20:59 ID:pCFL5q0Y
- 「何言ってんだよ、お嬢。 お前は足を……そして、俺はハゲ……」
「恥ずかしくなんか無いわよ」
誘いを断ろうとする播磨さんの言葉をピシャリと切って捨てると、沢近さんは強引に播磨
さんを立たせると、輪に向かって歩いていった。リレーの時に転んだ所為だろうか、沢近さ
んは足を引きずっていた。それでも苦痛などおくびにも出さずに播磨さんを引っ張っていく
と、みんなから少し離れた場所でゆっくりと、ぎこちなく踊り始めた。
わたしはそれを黙って見送った。播磨さんはめんどくさそうな顔をしていたけど、それが
照れ隠しだということは少し緩んだ口元からすぐに分かった。沢近さんも仕方がない、とい
う顔をしたけど、時々小さく笑っているのを見て楽しんでいることが分かった。
どうやら播磨さんは元気になったらしい。自分の行動が無駄になったのは少し残念だった
けど、それでも良かった。たどたどしく、それでも楽しそうに踊る二人の姿を眺めながらそ
う思う。わたしは安堵の吐息を吐くと、眉をしかめた。おかしい。もう問題はないはずなの
に。
胸の中に正体の分からないモヤモヤとしたモノがあった。姉さんのところに行こうと思っ
ても、播磨さんたちから視線を外すことが出来ない。一体何なのだろうか?
私の視界の中で、不意に沢近さんの体がよろめいて播磨さんの胸に倒れこむ形になる。
途端にモヤモヤとした何かが針のようになってわたしをつついた。チクリ、と鋭い痛みが
胸に走ったような気が、した。
月の光に照らされて、星々の祝福を受けながら踊る二人を、わたしはよくわからない痛み
を抱えながら、ずっと見つめ続けていた。
- 176 名前:書いた人 :04/06/22 21:01 ID:pCFL5q0Y
- 最後の場面で、一年二人が出てなかったので書いてみました。
他の方々と比べて質が落ちるとは思いますが、批評お願いします。
- 177 名前:Classical名無しさん :04/06/22 21:52 ID:HDijov2w
- ひひょう
- 178 名前:Classical名無しさん :04/06/22 21:53 ID:HuyQrJ.Q
- GJです。
上手いじゃないですか。
八雲の一人称、結構しっかり描写できてると思いますよ。
八雲(・∀・)イイね
- 179 名前:Classical名無しさん :04/06/22 22:07 ID:MHWL0qws
- >>176
同じことを妄想していたので、すんなりと読み進められました。
細かい描写についてですが、せっかくのキャンプファイア?なので、
沢近の描写などに活かせば良かったかもしれません。
例えば、
「踊るわよ」
炎がひときわ高く燃え上がり、遠くから歓声が聞こえる。
照らし出された金色の髪が夜目にも明るく飛び込んできた。
沢近さんだ。綺麗な人。
また、八雲の視点で描写を続けるならば、見えないはずの
ものは、描かない方が良い気もします。
あと、
>誘いを断ろうとする播磨さんの言葉をピシャリと切って捨てると、沢近さんは強引に播磨
>さんを立たせると、輪に向かって歩いていった。
好みの問題かもしれませんが、私は....ると、....ると、と書くなら、文章を分けます。
最後になりましたが、大変、好印象を受けました。今後も頑張ってください。
長文失礼いたしました。
- 180 名前:Classical名無しさん :04/06/22 22:19 ID:MHWL0qws
- >>176
ごめんなさい。良い作品だからこそ、もう一点だけ。
>鉛のようだった足が、気がつくと羽の様に軽くなっていた。
他に手段が無い場合を除き、使い古された表現は、努めて
避けるほうが望ましいと思います。
播磨への想いから、ともすれば逃げ出したくなる気持ちを
乗り越えて歩みだす八雲を描くのならば、歩き方などを
通じて彼女の心理を描くと良いのではないかと思います。
愚にもつかないことを申し上げましたが、今後もたくさんの
作品をお見せください。楽しみにしております。
- 181 名前:Classical名無しさん :04/06/22 22:57 ID:9u9mt3js
- >>176
GJ!
本編でもこういう事描いてくれればいいのに。
物凄く上手くなる片鱗を感じました。
これからもどんどん投稿して下さいね。
期待してます
- 182 名前:Classical名無しさん :04/06/22 23:01 ID:Fxxuq7bM
- >>151
作品を見ないことには何も言えない。ただ、人を選ぶと思うなら、HPでも作って
巣にこもった方がいい。
>176
GJ!!
ただ、少しインパクトが物足りなかったかも。
……同じことを考えていたせいかもしれないw
- 183 名前:Classical名無しさん :04/06/22 23:20 ID:qWTM3Kjg
- >>176
やっぱりみなさん考えたんですね、こういう展開
>>162
文と文の間を2行あけてるのが回想です
なので、123は回想ではなく、現在の描写です
124の余白は、しばらく時間が経過していることを表現したつもりだったりします
□コ <マギラワシクテスイマセンデシター
ノ| ̄|
- 184 名前:祭りの夜 :04/06/23 00:28 ID:pCFL5q0Y
- お褒めの言葉をありがとうございます。
指摘された点は、自分でもどうしたものかと悩んでいた部
分でしたので次回からは改善できるよう頑張ります。
それでは改めて、批評していただきありがとうございました。
- 185 名前:心穏やかに :04/06/23 01:52 ID:sQbiejfg
- 休日の繁華街、私は一人の男と一緒に歩いていた。
一緒にいる男は今鳥恭介。
もしどういう奴かと聞かれたなら、金髪の髪に間延びした雰囲気、可愛い女を見かけたら声をかけずにはいられない典型的な軽い男だと私は答えるだろう。
今まで私は、今鳥に幾度となくデートに誘われ、その度に軽くあしらっていたが、あまりにもしつこい為、その勢いに押しきられる形でデートをすることになってしまった。
私も律儀に付き合う必要などないのかもしれないと考えはしたが、押し切られたとはいえ一度OKした誘いを勝手に断るような事はしたくはなかった。
しかし、実際いざデートとなると普段の軽そうなイメージとは違い、デート中の今鳥はよく気がつき、少なくとも悪い印象ではなかった。
それに、すごく楽しそうだからだろうか、私もあんまり色々考えないで楽しもうといつしか思っていた。
思えばいつもそうだ、今鳥は自分の気持ちを言葉や態度で素直に表す。
単純バカだと言ってしまえばそれだけだが、あまりにも自分に正直な今鳥はどこか憎めず、いつのまにかその雰囲気にのまれてしまう。
不本意ながらその光景は、友人の塚本天満に夫婦漫才みたいだと言われたこともあった。
正直な話、私は今鳥がそれほど嫌いではない。
憎めない雰囲気もそうだが、今鳥と話している時は不思議と悩み事や考え事を忘れてしまう。相手をしているだけでいっぱいいっぱいなだけかもしれないが。
ふと、少し前を歩く今鳥の後ろ姿を見つめてみる。
その姿はいかにも楽しそうで、足取りは軽い。
私はそんな姿を見つめながら、もう少しだけ、こいつのバカに付き合ってやってもいいかなと思った。
- 186 名前:151 :04/06/23 01:56 ID:x9F7UcNE
- 一日待ってみましたが、やっぱり反対意見の方が多いですね。
大人しくスルーしておきます。
特に>>161さんなどの言ってることは至極当然のことですね・・・
いつかスクランキャラ「だけ」で面白いものが書けるようになったらまた来たいと思います。
- 187 名前:Classical名無しさん :04/06/23 01:59 ID:sQbiejfg
- はい、というわけで今鳥とデートしてる美琴のモノローグ風味SSSです。
美琴は意外と今鳥の空気に解きほぐす部分もあったりするのでは……という感じで書いてみました。
あんまりイマミコの需要は無いような気もしますが、そこんとこはなんとなくです。
- 188 名前:187 :04/06/23 02:03 ID:sQbiejfg
- あとがきで誤字が…
解きほぐす→解きほぐされるですね。
美琴が今鳥を解きほぐしてどうすんだと_| ̄|○
- 189 名前:Classical名無しさん :04/06/23 06:35 ID:mvLKFheQ
- 神がイパーイ
>>169
グッジョブです!沢近の気持ちがよく出てていい感じですね
>>176
おにぎりグッジョブ!
偶然でしょうが直前の方のSSと同じ場面で、脳内でリンクして楽しんでしまいました。
批評するようなことなんて特にないんですが、
改行位置だけ気をつけるともっと読みやすかっただろうと思います。
>>186
HPを作ってそこに乗せてみるのはどうですか?
>>187
イマミコグッジョブ!
今鳥は子供っぽいところがあるので美琴とはいいカップルになりそうなんですけどね。
- 190 名前:Classical名無しさん :04/06/23 09:55 ID:sjS764LA
- はじめまして。
他の作品をネタにSSを書いていたりする者ですが、今更ながらスクランに傾倒
してしまい、思い付きを元に、一編、書かせていただきました。
というわけで、投稿させていただきます。
- 191 名前:Without Me :04/06/23 09:58 ID:sjS764LA
- ゆらゆらと揺れるかがり火に、浮かび上がる二人の姿。
綺麗だ。
少女は、そう思った。
チクリ。
胸を刺す、今まで感じたことのない痛みに、塚本八雲は。
ギュッ。
服の裾を、少しだけ強く、握り締めた。
School Rumble
♭−α Without Me
「また……視え始めた……」
こんな時に……思ってはみるものの、どうしようもない。
好きだ好きだ可愛い綺麗な太もも胸元触りたいオクラホマミキサー踊らないのかなキャンプファイヤー火に照らされる君も綺麗だ
思念。
流れ込んでくる想いに、八雲はそっと眉を顰める。
月齢の周期に合わせて強くなる力。そして、今がピーク。
ただでさえ、男の子を苦手としているのに。
相手の想いが視えている状態で、手を携えて踊るなどと、出来るはずがなくて。
八雲は一人、輪から離れて、座っていた。
普段ならば、隣には、親友のサラがいるのだが。
膝を抱えて座る八雲の視線の先、かがり火を中心に輪を作る生徒達の中に、
彼女はいた。
今、彼女が話しているのは、確か、サラと一緒のバイト先の……先輩。
……名前……思い出せない……
――――塚本八雲、人の名前を覚えるのは苦手―――――
- 192 名前:Without Me :04/06/23 09:58 ID:sjS764LA
- 羨ましい。
ふと、八雲はそう思う。
サラは、男の人に気軽に話しかけ、話しかけられている。
翻って、自分は。
話しかけられることは、多々ある。
だけど、話しかけるのは、とことん苦手としていて。
それは、相手の想いが、視えるからかもしれない。そう考えたこともある。
実際、思春期の少年達の、時にあからさまな想いを前にすると、言葉に詰まってしまうから。
そして、もう一つ。
自分は視えているから、相手の考えていることがわかる。理解できる。
だから、相手を知ろうとする必要がない。そうせずとも、わかってしまうから。
ならば、何故、話す必要があろうか?
でも、それではダメ。
煌々と燃え盛る炎を見つめながら、八雲は自分に言い聞かせる。
このままだと、男の子と仲良くすることなど、出来るはずがない。
姉の言っていたことが、頭をよぎる。
男の子と話すのは、楽しいこと。
烏丸という男の子のことを、にやけながら話し続ける姉の顔を思い出して、微かに微笑む八雲。
自分も、あんな風に、誰かのことを、笑いながら、話すことが出来るのだろうか……
――――塚本八雲、恋に恋するお年頃――――
- 193 名前:Without Me :04/06/23 09:59 ID:sjS764LA
- 「やあ、八雲君」
唐突にかけられた声に顔を上げると、そこには。
「こんなところで一人で座ってないで、一緒に踊らないかい?」
「……花井先輩……」
眼鏡に映る、燃え盛る炎。いや、燃えているのは、彼の瞳、か。
「さあさあ、立って。もうすぐ、音楽が始まってしまうぞ」
無意味に笑いながら、彼は八雲の手を引いて、立ち上がらせようとする。
ヤクモンと踊れるぞやったわーい
ビクッ。
視えた、彼の強い想いに、八雲は思わず、差し出された手を振り払ってしまう。
「あ……」
怪訝そうに見つめてくる花井の顔を見て、後ろめたい思いを抱く八雲。
彼は何も、悪いことは考えていない。他の少年達と比べて、己の心に正直なだけ、ましなのかもしれない。
だが、あまりに直接的すぎて、たじろいでしまうのだ。それゆえ、他の人よりも、苦手にしていると言ってもいい。決して、嫌いではないのだが。
「あ、あの……す、すいま……」
「おーい、花井。委員長」
謝ろうとする八雲を遮るように現れたのは、花井のクラスの担任教師、谷だった。
「む。何ですか、谷先生」
「あ、花井。女子の数が足りないから、お前、女側にまわってくれな」
「な、何ぃぃぃぃぃっ!!八雲君と踊る夢がぁぁぁぁ!!」
――――花井 春樹、夢、潰え――――
- 194 名前:Without Me :04/06/23 10:00 ID:sjS764LA
- 肩をぐったりと落としたまま立ち去る花井の姿に、八雲はほっと胸を撫で下ろす。
そして、探す。
彼の姿を。
何故か、彼だけは、視えない。
だから、か。力に潰されそうになると、無意識に彼を求めた。
彼の前なら、自分が、普通の女の子でいられるような気がして。
彼。
キリンの人。伊織のトゲを抜いてくれた人。動物に優しい、あの人。
播磨拳児。
そして。
- 195 名前:Classical名無しさん :04/06/23 10:01 ID:sjS764LA
- 「あ」
そっと吐く、息。
どこか、悲しげに聞こえたそれが、自分の声だと気付かず。
目を、奪われる。
少女の、金の髪を照らし、跳ねる紅の光。
輝く瞳は、楽しげに揺れていて。
重ねられた手。
音楽に合わせて揺れる体。
男の方は、少し不器用なのか、動きが硬く、少女がリードして。
踊る。踊る。
彼の目は、サングラスに隠れていて。
その表情を、人に見せない。
口元は、きつく締められていて。
だけどそれは、慣れない踊りに戸惑っているからのように見えて。
綺麗な人だと、知っていた。
一緒に、肝試しをしたこともある。
美貌。性格。サラとは違う意味で、八雲は、彼女に憧れを抱いてもいた。
その彼女が。
今、踊っている。
彼の手を取って。
播磨拳児の、手を取って。
チクリ。
また、痛みが走る。
胸の奥に、突き刺さる。
八雲は、目を離せないでいた。
睦まじく踊る、二人から。
炎のゆらめきに浮かび上がる、一つに繋がった影から。
- 196 名前:Without Me :04/06/23 10:04 ID:sjS764LA
- ふと、我に返ると。
八雲は、何時の間にか矢神神社に来ている自分に気付いた。
「あ……れ……?」
思い出そうとして、閃光のように脳裏に浮かぶ景色。
播磨さんと、沢近さんが、踊っている。
手を繋いで。
時に、体を寄せ合って。
ギュッ。奥歯を軽く、噛み締める。
瞳が何故か、わずかに潤んできて。熱を持ち、激しく打つ心の臓。
ニャー。
声と同時に、足元に感じる柔らかい感触。
「伊織……」
散歩に出てきたのだろうか。体をこすりつけながら、じっと、見上げてくる、金の瞳。
「…………」
何も言わず、彼の体を抱きかかえる八雲。
少し、落ち着いて。
だけど、余計に、ぽっかりと心に開いた穴に気付いてしまって。
強く、抱きしめる。ぬくもりを求めて。
「ニャァッ!!」
「あ……ごめんなさい……」
苦しそうに叫び、爪を立ててくる伊織に、彼女は謝り、束縛を解く。
地面に降り立ち、再び彼女の顔を見つめる伊織の目は鋭く。まるで、ひどい扱いに、抗議するかのように。
- 197 名前:Without Me :04/06/23 10:05 ID:sjS764LA
- 「ごめんなさい……」
屈み込み、そっと背中を撫でる。
やがて硬かった体を緩めて、喉を鳴らし始める。
ニャーニャー
月の光に、浮かび上がる、心の声。
視える。
伊織の……猫の心は、視えるのに……
「視たい……な」
初めて、少女は願った。
「播磨さんの……」
その先の言葉を、彼女は飲み込む。
いけないことを、言ってしまいそうだったから。
空を、見上げる。
雲ひとつなく晴れ渡った空に、白い月が、輝いていた。
目に痛いほどに、強く、光を放っていて。
劣らず白い、八雲の頬を、こぼれ落ちる、涙。
その中に、光る、煌きは。
誰にも知られず、消えていった。
――――しかし少女は、想いの名をまだ、知らない――――
- 198 名前:Classical名無しさん :04/06/23 10:10 ID:sjS764LA
- というわけで、八雲視点の話を書いてみました。
どうでしたでしょうか?ご感想をお聞かせ頂けると、嬉しく思います。
P.S.上げてしまい、申し訳ありませんでした。
- 199 名前:Classical名無しさん :04/06/23 10:43 ID:Ee9LgiCs
- >>198
グッジョブ!
柱が書いてあって新しいタイプのスクランSSですね
花井哀れw
これからもぜひスクランSS書いてください
- 200 名前:Classical名無しさん :04/06/23 13:00 ID:7VBN8m9c
- GJ!
いいねこのシチュは。
とても読みやすく、そして萌えました。
皆さん八雲視点上手いですねぇ。
- 201 名前:Classical名無しさん :04/06/23 13:51 ID:JZmhiykM
- これはいいSSですね。
これからはオリジナルな話も期待してます。
不思議なものだ…本編であれだけ旗展開を見せられるとおにぎりのSSを見た
だけで新鮮な気持ちになってしまう。
まぁ俺鉛筆派なんですけどね。
- 202 名前:Classical名無しさん :04/06/23 16:31 ID:XRtrbONc
- 同じく鉛筆派の俺としては
密かに『秋は夕暮れ』の続きを待ってるぞ。
>>198
GJ!
八雲の心境がとても上手く描写できてると思います。
やっぱりみんなあのシーンで八雲が何をしてたか気になるんですね。
これからもスクランのSSバシバシ投下お願いしますね。
- 203 名前:Classical名無しさん :04/06/23 20:54 ID:ShTscBW.
- >>198
読点が打たれすぎていて読みにくいと思ったのは自分だけかな?
そういう表現方法なんだろうとは思ったけど、どうにも読みづらく感じました。
同様に「〜〜〜て。〜〜〜て。」と連用形で動詞を結ぶ技法も違和感が……
あと本文に雑誌で柱にあたる文章があるのも読みづらいというか
メール欄や名前欄に入れた方が良かったと思います。
(そう言う手法を使っている職人さんもこのスレに存在しています)
内容は話の結びに自ら嫌悪している能力を求め欲するくだりがかなり気に入りました。
神社へ場所が移ったのは、八雲の孤独感を演出するためでしょうか?
何にせよ一人っきり(伊織除く)で思い悩む描写としては良かったと思いました。
こんなレスが付くようなスレですが、良かったらこれからもスクランSSの投下をお願いします。
- 204 名前:Classical名無しさん :04/06/23 21:57 ID:qmlfIyEQ
- ここで流れを読まずに長編とか行ってもいいですか、と訊いてみる。
正味70KB弱とかおかしなことになっているので、場合によっては
避けようと思っているのですが……
- 205 名前:Classical名無しさん :04/06/23 22:05 ID:TShaintE
- >>204
いったれいったれ
- 206 名前:Classical名無しさん :04/06/23 22:06 ID:IVH38MNY
- 構いやしねー
あんたの実力はみんな知ってる
- 207 名前:Classical名無しさん :04/06/23 22:40 ID:nV0mTAP2
- キボン
- 208 名前:Go let it out :04/06/23 22:40 ID:NzeHyjs.
- 体育祭が終わり夜空も暮れ始め、校庭ではキャンプファイヤーを中心に全校生徒がフォークダンスを踊っている。校舎のスピーカーから流れる音楽に合わせ、大きな人の輪がリズミカルに動いていく。
勝ったクラスの生徒も、負けたクラスの生徒も、全員が笑顔でダンスを踊っている。祭りの終わりを惜しみながらも、皆がこの一瞬を心から楽しんでいた。
そのダンスの輪から離れ、一人たたずむ少女がいる。
校庭のはずれの芝生の上に腰をおろし、両膝を抱えてフォークダンスを眺めていた。
「八雲。あなたは参加しないの?」
突然声をかけられたことに驚き、少女が声がした方を見上げると、いつの間にやら隣には同じ部活の部長が立っていた。高野晶だ。彼女もまたフォークダンスを眺めていた。
「高野先輩・・・」
そうつぶやくと、八雲は再びフォークダンスに目を移した。
「・・・私は・・・こういうのは苦手ですから・・・」
フォークダンスの音楽にかき消されてしまいそうな、そんな小さな声だった。
- 209 名前:Go let it out :04/06/23 22:41 ID:NzeHyjs.
- 「あら、それはどういうことかしら?苦手なのは踊ること?それとも、その相手?」
晶が八雲に顔を向けた。その顔には、いつものように表情と呼べるようなものは無かった。
八雲も晶を見上げ答えるが、
「先輩、それは」
言葉は最後まで続かない。
「どちらにせよ同じことよね。」
見詰め合う二人。
「でもこれだけ大勢人がいるんですもの。一人ぐらい、いてもいいんじゃないの?」
「・・・」
その言葉で、八雲が晶から視線を外した。
彼女が座ったまま新たに視線を向けたその先は、校庭の中心でのフォークダンスの人の輪ではなく、彼女達がいる場所とはまた別の校庭のはずれだった。そこではたった一組の男女が二人きりで踊っていた。その踊りは、どこかぎこちない。播磨拳児と沢近愛理だった。
「なるほど、ね」
「そんな、私は・・・」
別に、と、どこかあせったように八雲は視線を晶に戻した。
その姿を見て、こう言った。
「でもね、八雲。いつまでも二人だけで踊っているわけでは無いでしょうし、それに踊る相手は一人だけと決まっているわけでもないわ」
「・・・・・・」
うつむく八雲。
「彼ならきっと断りはしないわ。あなたも知っているんでしょ」
「・・・はい」
と、小さな声で、小さくうなづく。
- 210 名前:Go let it out :04/06/23 22:42 ID:NzeHyjs.
- そのうなづく八雲の姿を見て、晶はかがみながら手を差し出した。
その手と晶の顔を交互に見上げる八雲。
「じゃあ、楽しんできなさい。せっかくのお祭りなんですから」
そう言って晶は、もう一度手を八雲に差し出した。
その顔は、かすかにではあるが、確かに微笑んでいた
八雲は驚きの表情を見せたが、すぐに表情を引き締めてうなづくと、その手を取り勢いよく立ち上がった。
「はいっ。ありがとうございます。先輩」
どこか恥ずかしがりながらも、しかし笑顔でさっとお辞儀をすると、八雲は、播磨と愛理が踊るその場所へ走っていった。
その後ろ姿を眺めながら、晶がつぶやく。
「ありがとうございます、か。八雲は誰かに背中を押してもらうを待っていたのかしら。」
その彼女が眺める先では、八雲が拳児に向かって小さく右手を差し出していた。播磨は驚いたのか、愛理とのダンスをやめ、慌てて首をきょろきょろ回し自分に指を向けている。そして播磨を蹴飛ばしてその場から離れていく愛理。
「でもね、八雲。お礼を言われても困るわ。だってこれは自分のためでもあるんだから」
そうして、晶は全校生徒が踊るフォークダンスの輪の方角へ再度視線を戻した。
- 211 名前:Go let it out :04/06/23 22:42 ID:NzeHyjs.
- どこまでも単調な音楽に合わせ、ぐるぐるとまわり続ける人込み。その中から、砂煙をまき上げながら走ってくる、眼鏡をかけた背の高い男がいた。花井春樹である。
花井は晶の目の前まで来ると、中腰で両膝に手をあて、肩で息をしながらこう尋ねた。
「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ。た、高野君。や、八雲君を見かけなかったかね」
「あっち」
晶は無表情のまま、即座に八雲がいる方向とは逆を腕を上げて指し示す。
「そうか、ありがとう」
花井は、ぽんと晶の肩を叩くと、晶が指を指す方向へ走り去っていった。
「八雲くーん、僕と踊ってくれないかー」
再び砂煙を上げながら走る花井。
晶はその後ろ姿を眺めていたが、やがて見えなくなる。ようやく指し示していた腕を下げ、ふう、ため息をつくと小さく肩をすくめた。自分の右手を見つめる。
「どうしていつもこうなのかしら。私も誰かに押してもらう必要があるのかしら」
そうつぶやき、今度は空を見上げた。
すっかり暗くなった夜空の中、キャンプ・ファイヤーの火花だけがどこまでも高く上っていった。
- 212 名前:HAL :04/06/23 22:45 ID:NzeHyjs.
- 初トライです。
どんどん叩いて下さい。
改行のこと全く考えてなくてすいません。
- 213 名前:Classical名無しさん :04/06/23 23:08 ID:OWuo7Fi.
- >>190
お疲れさまでした。
SS書き慣れているだけあって、テンポよく読むことが出来ました。
八雲の独白という形式で進む展開は、
読んでいて面白かったです。SS書き手の一人としても、随分参考になりました。
体言止めを多用する形式は、個人差があるのでしょうが、私自身はよかったと思います。
>>212
初トライ、お疲れさまです。
キャンプファイアー後の、八雲のやりとりを題材に取り上げているようですね。
私も人のことは言えないのですが、説明的な文章がやや多めのような気がしました。
そのため、テンポが多少悪いようにも感じました。
晶と八雲という着眼点は面白かったと思います。
次回作、頑張って下さい。
- 214 名前:Classical名無しさん :04/06/23 23:17 ID:uOyky652
- おにぎり(お子さまランチ)と見せて晶×花井キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!!
- 215 名前:Classical名無しさん :04/06/23 23:21 ID:2jc5Aloo
- >>204
一つ言えることは、全部を投下するだけで三十分以上かかると言うことだ。
いっつも長編の自分が言うんだから間違いない。
ワクワク(´∀`)
- 216 名前:オクラホマ :04/06/23 23:29 ID:6gWpwnUI
- 体育祭は終わった。
ウチのクラスの優勝だった。
俺のハゲを全校生徒にさらして……
校庭では、踊りが始まっていた。
俺は、踊りの輪の中には入らなかった。
一人で皆の様子を見ていた。
メガネは、人数あわせで女子の側に回っていた。
天王寺のヤツが、周防と踊って真っ赤になってやがる。
天満ちゃんがこっちを見ている。
が、俺は目をそらした。
今の姿は、見られたくなかった。
- 217 名前:オクラホマ :04/06/23 23:30 ID:6gWpwnUI
- みんな、見てみぬフリをしている…
楽しそうにオクラホマミキサーなど踊って…
ま いっか
これで もう 頭を隠す必要も無くなったワケで
また… 一人ぼっちに逆戻り か
そうだよな…
不良の俺にゃ これがお似合いだよ
そんな事を思っていると、声を掛けられた。
- 218 名前:オクラホマ :04/06/23 23:32 ID:6gWpwnUI
- 「播磨さん……」
妹さんだった。
俺の隣に座り、話し始める。
「あの……リレー、凄かったです……」
「ああ…… でも、それでこの髪型がな……」
「あ……」
「カッコ悪いトコ、見せちまったな」
俺がそう言うと、妹さんは首を振った。
「そんな事無いです。 他の人はどう思うか判らないけど、私にはカッコよかったです」
「そっか。 なんか、いつものマンガを見て貰ってる時みてえだな」
「え…そ、そうですね」
- 219 名前:オクラホマ :04/06/23 23:32 ID:6gWpwnUI
- 妹さんにマンガを見て貰う時、こんなやり取りになる。
今の俺には、そんな気遣いが嬉しかった。
妹さんのおかげで、元気が出てきたみたいだ。
「なあ、妹さん。 また、マンガをみてもらえねえかな?」
「は、はい。 こちらこそ」
「よし、じゃ、帰って原稿でも描くかな」
腰を上げた俺に、妹さんが手を差し出す。
「え?」
戸惑う俺に、妹さんは真っ赤になりながら言った。
「あ、あの…よければ、その… 一緒に…踊ってくれませんか?」
俺は、妹さんの差し出した手を掴んだ。
「いいのか? 俺で……」
頷く妹さん。
ぎこちないながらも、妹さんと踊りだした。
(いい子だよな、妹さん)
そう思ったら、妹さんはハッとして、はにかんでいる。
「? どうした?」
「い、いえ、なんでもありません」
そう言う妹さんは、嬉しそうだった。
炎に照らされる妹さんが、綺麗に見えた……
- 220 名前:オクラホマ :04/06/23 23:35 ID:6gWpwnUI
- 播磨の相手は八雲でもいいんじゃないかと思い、投下しました。
- 221 名前:Classical名無しさん :04/06/23 23:39 ID:gFdEljq2
- ということはワードで20ページ強ですか
こりゃ長編だ
ワクワク(´∀`)
- 222 名前:Classical名無しさん :04/06/23 23:45 ID:oYZbWct2
- 本誌で萌え尽きそうになったので書いてみました。
《投下》
- 223 名前:夢にも思わない 1/4 :04/06/23 23:46 ID:oYZbWct2
- いつもと同じ昼休み。
違うところがあるとすれば、播磨くんがお昼なのに教室にいることでしょうか。
午後の授業の間じゅう疲れた表情で「腹減った……」なんて言っているときもあるのに、
今日は購買のパンを複数個机の上に並べて満足げにうなずいています。食べ盛りです。
でも、その場所は塚本さんたちのグループが机をくっつけてお昼を食べるために、
沢近さんや高野さんが占領している場所だったりします。知ってるのかな?
案の定、定位置を奪われてご機嫌ナナメの沢近さんが来ました。何か言いたげです。
「えっと…… どいてくれない? 昼はアンタ教室にはいないのが普通でしょ?」
今から食事を摂ろうとしているの播磨くんの様子を気にもしないようなその一言。
校内最凶の不良なはずの播磨くんに笑顔を浮かべながら立ち退きを迫る彼女の横顔は、
何か個人的な恨みの炎を燃やしているかのような、凄絶な美しさを醸し出していました。
場違いな感想かもしれないけれど、すごく、奇麗……。
激辛カレーパンの袋を今から開封しようとしていた播磨くんもこれには驚いたようで、
自分の席でお昼を食べるという当たり前の平穏を守るため、すぐその要求を拒否します。
「お断りだ。俺が給料日のありがたさを味わおうってときに邪魔するんじゃねえ」
アルバイトをしているのならお昼ごはんくらいの出費は全く堪えないと思うのですが、
給料日でもない限り購買のパンも買いたいように買えない懐具合のようです。
何にそんなにお金を使っているのかは知らないけれど、身体は大切にしてほしいな……。
そんなことを考えていると、廊下際の席にいた吉田山君が声をあげました。
「播磨さーん、そんな場所じゃあ化粧臭いでしょ。こっちなら平気っスよ」
彼は播磨くんの舎弟(を気取っているけど、あんまり相手にされていない人)なので、
いつも一人でいる上に時々動物に話し掛けたりしている兄貴分を心配しているようです。
「お前らみんなうるせーよ。頼むからたまの昼飯くらい落ち着いて食わせろや……」
なのになんともつれない返事。吉田山君しょげちゃいました。
- 224 名前:夢にも思わない 2/4 :04/06/23 23:47 ID:oYZbWct2
- その会話を聞いていた周防さんが、申し訳なさそうに播磨くんに話し掛けます。
「あー、だったらあたしたちも席を外したほうがいいか? 絶対騒がしくしちゃうからさ」
「ちょっと美琴、何遠慮してるのよ。そんなのこいつが我儘言ってるだけじゃない。
こいつがツンツン頭のところに行けば丸く収まるんだから、ほら、さっさと移動する!」
そう言ってたくさんのパンを勝手に抱えて持っていこうとする沢近さん。
「何しやがる。俺はこの場所が気にい…… ――っ!」
立ち上がろうとして腕を机にぶつけてしまったのか、近く響くくぐもった声。
その時持っていたカレーパンの袋は手から離れてそのまま床にゆっくりと落ちていき……。
次に私の見た光景は、沢近さんの上靴がそれを完全に踏みつけてしまっているものでした。
「あ……」
沈黙に包まれる教室の一角。いくら彼女がおそるおそる足を離しても、時は戻りません。
はみ出した具が「もうこのパンは食べるには適さない」ことをこれでもかと主張しています。
「ちっ、何やってんだ。俺が片付けるからてめえは周防の前の席にでも座ってろ」
「しょうがないわね。そのパンの代金は弁償させてもらうけど、それでいい?」
沢近さんはそう言って、抱えていたパンを机に戻してから財布を取り出しました。
……エルメス? 他の人が持っていたらイミテーションかもと思うけど、彼女だから本物?
でもその小銭入れ部分を開こうとしていた沢近さんの腕を播磨くんは掴み止めて、
「弁償なんていらねえよ。これは俺の不注意だしな」
低い声でそう呟きました。―――気のせいか、窓際を意識したようなポーズを取って。
「へえ…… 私だったら絶対同じもの買ってきてもらうのに。二個くらい」
「播磨にも播磨なりの美学があるんだろ。ていうか塚本、お前は食い意地張りすぎだ」
「美学か。そう言えなくもないね。動機はなんとなくわかるけど」
その方向には、カレーパンの残骸を片付けだした彼を見ながらお弁当を食べる三人組。
窓際を見ていた播磨くんと、彼を呼び捨てにしていた周防さん。何だかひっかかります。
この二人って、ひょっとして……。
- 225 名前:夢にも思わない 3/4 :04/06/23 23:48 ID:oYZbWct2
- そのちょっとした騒動も終わって、今聞こえるのは隣からの微かなため息ばかり。
あっという間に片付けを終え、喜び勇んで食事に取り掛かっていたはずの播磨くんです。
さっきまで机の上にあった何個かの菓子パンは、もう袋だけの存在に。
なのにまだ物足りなさそうな視線をその空袋に送っては、名残り惜しそうにつく吐息。
きっと食べそこねた激辛カレーパンのこととか考えてるんだろうなぁ……。
体が大きいからたくさん食べないと足りないんだろうけど、そんなにお腹空いてるのかな?
ちら。
私のお弁当箱には、まだ箸をつけていない俵おにぎりがふたつ。
これを播磨くんに渡してみたらどうかなという考えが、一瞬頭に浮かびました。
残り物なんて喜ばないかもしれないけれど、空腹な人に食べてもらうのが一番いいよね。
考えていくうちに、なんだかとてもいい思いつきのような気がしてきました。
いつもならなんだか話をしにくい雰囲気の播磨くんだけど、思い切って話し掛けてみます。
「播磨さん。これ、余ってるんですけど、食べませんか?」
今までだったら「播磨くん」と言っているところですが、今日は「さん」付け。
男子で一番親しいはずの吉田山くんがさん付けだったので、それに倣ってみました。
そうしようと思った理由はよくわからないけれど、……ううん。わかってます。
平然と呼び捨てとかにできる周防さんを見ていて、なんだか羨ましくなったから。
何ヶ月も隣りの席にいたのに、見た目ほど怖くないとてもいい人だって知っているのに、
いつまでたっても友達にすらなれない自分を変えてみたかったから。
身長差のある播磨くんを斜め下からしっかりと見つめて、答えを待ちます。
でも、播磨くんは一瞬嬉しそうな顔をしたのち、私の差し出した箱を押し止め、
「いや、ありがてえが気持ちだけで充分だ。それほど腹が減ってるわけじゃねえからな。
あとその呼び方はやめてくれねえか? 面映ゆくってかなわねえ」
と、困ったような表情を浮かべながら言いました。
- 226 名前:夢にも思わない 4/4 :04/06/23 23:49 ID:oYZbWct2
- その一瞬の表情の変化で、なんとなくですが言いたい事は理解できました。
やっぱり不良である以上、女の子から施しを受けたりはできないということのようです。
そんなやせ我慢をしている播磨くんは、かっこいいのにどこかかわいくて。
勇気を出して話し掛けてみて本当によかったと思います。
「それに、おにぎりにはあんまりいい思い出がねえんだ……。
何故だか知らねーが辛い記憶の中でばかりおにぎりを食ってるような気がしてならねえ」
そっぽを向いて小さな声で続く播磨くんのひとりごと。だからパン派なのかな?
それにしても、「播磨さん」という呼び方がダメだったら、なんて呼べばいいんだろ?
いまさらくん付けに戻すのもいやだし、周防さんのように呼び捨てにもできないし。
あ、そうか。
「はい。わかりました、拳児さん♥」
―――ぶはあっ!
窓際ですごい音がしました。何があったのかとその方向を見てみると……。
沢近さんの噴いたコーヒー牛乳が、周防さんのシャツを斑に染めあげていました。
白いシャツに茶色いコーヒーは後からでちゃんと色が落ちるかどうかすごく心配です。
クラスに残っていた皆がそちらを注視する中で、照れたような顔で播磨くんが言います。
「笑われてるじゃねーか。周防にも迷惑がかかっちまったし、その呼び方もなしで頼む」
残念。呼び方はやっぱりくん付けにしておくべきのようです。こくりと頷きます。
あとで服が濡れてしまった彼女にも謝っておかないと。
そのまま播磨くんは席を立って、お腹をさすりながら教室の外へ出て行きました。
周防さんがその後姿を教室から見えなくなるまでじっと恨めしそうに見ていたけれど、
その視線は「どうにかしてくれないのかよ、おい」という哀願の思いが混じっているよう。
なんだかこの二人、お互いに結構意識しあっているんじゃないかという気がしてきました。
播磨くんの女の子の好みはまだよくわからないけれど、私も頑張…… れるかな?
《おわり》
- 227 名前:222 :04/06/23 23:51 ID:oYZbWct2
- 今週のマガジン本誌で美琴にとりなしを頼んだ隣子が見れたせいでやや鉛筆寄りに。
オリキャラ不要論議の直後にこういう無茶をするのはどうかとも思ったけど、勢いです。
>202
待たれても、続きは……。
- 228 名前:Classical名無しさん :04/06/24 00:09 ID:OWuo7Fi.
- 今日はSS大盛況ですね。
>>216
播磨の一人称による展開、見事です。
文章も読みやすく、頭の中に情景が浮かぶようでした。
お疲れさまでした。
>>222
隣子、最高です(・∀・)
隣子からみた、第3者的な視点による話の進め方、読んでいて楽しかったです。
最後のセリフのところでは、思わず顔がゆるみました。
お疲れさまでした。次回作期待しています
- 229 名前:Classical名無しさん :04/06/24 00:40 ID:gaY3Yrcw
- >>226
それはやりすぎ……隣子、強いな……
- 230 名前:Classical名無しさん :04/06/24 01:02 ID:Z1t788nA
- >>227
文句なく面白い。
隣子はいいですね。モブから格上げの日も近いか?
あと鉛筆テイストも良い感じです。
- 231 名前:Every Breath You Take :04/06/24 01:54 ID:qmlfIyEQ
- ……そろそろいいかな、ということで。
さてまず――
使用上の注意
限定版ブックレットを読む前に書いた、ということを念頭に置いていただけると幸いです。
あとはもう、いきなりエピローグの2から始まる謎構造だとか、その辺り。
タイトルはThe Policeの同名曲より、その他そこかしこに数多の出典によるフレーズや、果ては実在しないものまで
登場しますが、あまり気にしないのが吉だと思います。
――では、一度くらいはやっておきたかった似非長編。
この半年間の感謝を込めて――
- 232 名前:Epilogue II :04/06/24 01:54 ID:qmlfIyEQ
- Epilogue II
――変わってない。
それが再びこの地に降り立って、まず彼女が思ったことだった。
いくつかのささやかな手続きを終え、トランク一つで佇む空港のロビー。
異邦人たる少女を取り巻くのは、異国のざわめき。
――でも。
初めてこの国にやってきたときと違うことがある。
それは。
――思い出がある。
かつて過ごした一年足らずの時間、その中での出会い――そして別れ。
――約束がある。
帰ってきた、と彼女は思う。
あの騒がしくも懐かしい日々に。
- 233 名前:Epilogue II :04/06/24 01:55 ID:qmlfIyEQ
- ――大丈夫。
そのとき、ふと名を呼ばれた気がして少女は辺りに目をやる。
「あ……」
まず目に入ったのは、一番会いたかった友人の笑顔。軽く手を上げて自分も笑顔で返しながら、改めてその後ろに
視線を動かせば、見知った顔がずらりとならんでいるのに気がつく。
――帰ってきた。
そちらへと歩を進めながら、今更のようにそれを実感する。
そして、まず何を言おうか、頭の片隅に置いていたそんな考えは、目の前の友人の笑顔にあっさりとその必要を失う。
「お帰り、サラ」
言葉とともに差し出されたその手を取って。
「――ただいま、八雲」
とびきりの笑顔で、少女は答えた。
- 234 名前:Prologue :04/06/24 01:56 ID:qmlfIyEQ
- Prologue
「――分かりました。急な話ですが仕方ありませんね」
「申し訳ありません。私達もいろいろと手を尽くしたのですが……」
苦渋をにじませる両親に習うように、少女も小さく頭を下げる。
「謝られることではないですよ。世の中、ままならないことが多いものです」
「そう言っていただけると助かります」
「いえ、お気になさらず。――では」
「はい、よろしくお願い致します」
席を立ち部屋を出て行く両親と、それを見送る教師。
少女は座ったままでそれを見ている。
「……」
からからとドアが開き、からからとドアが閉まる。
――そして、静寂。
無音という名の音が静かに響く。
「……それで」
やがてそれを打ち破るように、教師――絃子が口を開く。
「君はそれでいいのかな」
疑問なのか、確認なのか。小さな呟き。
「別れを告げられるのは、辛いですから」
少女――サラは淡々と答える。
静かに微笑んで。
「……分かった。では皆には伏せておく、それでいいんだね」
ほんの一瞬。
「はい」
けれど確かに間を置いて。
サラはそう頷いた。
――――"Every Breath You Take",
or The place promised in our merry days.
- 235 名前:§1 Every single day :04/06/24 01:56 ID:qmlfIyEQ
- §1 Every single day ―― Dec.20 Mon.
/1
「ねえ、八雲。最近さ、サラって何かあったのかな?」
「……ごめん、私も分からないんだ」
「そっか……八雲にも分からないんだったらしょうがないね……」
そんな会話を交わしたのは、もう何度目だったか。
視界の中、教室の中心で友人たちと談笑しているそのクラスメイト名前を心の中で呟く。
サラ・アディエマス。
彼女の様子がどこかおかしい、それに気がついたのがいつだったかを思い返してみる八雲。
それほど前ではないはずだし、逆につい最近というわけでもない。
――ただ。
ただ気がつけば、いつのまにかどこか彼女は変わってしまったと、そう思う。
具体的にどこが、と訊かれたなら答えに窮してしまうような些細な変化。
見た目には変わらず、いつものように笑い、いつものように会話する彼女。
それでも、八雲は思ってしまう。それがあくまで『ように』に過ぎないと。
気づいている者は決して多くない、ひどくささやかな、けれど確かな違和感。
そんな僅かな差異が静かに折り重なり、不安という形を成して彼女を苛む。
何度も訊いてみようと思った。
『……サラ』
けれど。
- 236 名前:§1 Every single day :04/06/24 02:02 ID:qmlfIyEQ
- 『ん? どうしたの、八雲』
そこにあるのは笑顔。だから、訊けない。
訊けばきっとそれを壊してしまうから。
『……ううん、なんでもない』
結局、逡巡の末に紡がれるのはいつもその言葉。本当に言いたかった言葉だけが胸の奥に仕舞い込まれ、堆積し、
そしてまた、不安という名の痛みとなる。
絵に描いたように絡み合い落ちていく螺旋――その中で、思い出だけが消えない。
あの日、野犬から護ってくれた彼女は、以来ずっと傍に在り、誰より一番近くにいると、そう思っていた。生来の
性格の所為か、上手く周囲と馴染めずにいた八雲を、まるでそれが何でもないことのようにその輪に溶け込ませて
くれたサラ。始めはその環境の変化に戸惑っていた八雲だったが、いつしかそれを当然のことと考えられるようになり、
自然とそう振る舞えるようになっていった。
いつだって、彼女は優しくそれを見守ってくれていた。
そんな記憶に彩られた二人の距離、それが今の八雲には漠とした、ひどく遠いものに感じられる。
まるで背中合わせに立って、それぞれ自分の正面に向かって指を伸ばしているような――そんな絶望的な距離。
限りなく近くて遠い場所に身を置いて、今日も八雲は一人問う。
――どうしてそんな、寂しそうに笑うの?
心の中のそれに答はない。
クリスマスと冬休みを目前に控え、どこか浮き足立つ教室の中、ただ不安だけが澱のように降り積もる。
- 237 名前:§1 Every single day :04/06/24 02:02 ID:qmlfIyEQ
- /2
「――なんですよ」
「ほう、それはまた……」
放課後の部室、楽しげな会話を交わすサラと絃子の声が響く中、軽く相槌を打つだけの八雲は、伏し目がちの視線を
紅茶が注がれたカップの上に落とす。そこに映るのはひどく物憂げな自分の表情。
こういうときだからこそ、とは思うものの、そう簡単に気持ちはついてこず、何より、なんでもないように振る舞うのが
正しいのかどうか、それすらも分からない。駄目だ駄目だと考えていても、あふれた想いは自然溜息になる。
「……八雲、大丈夫?」
「あ……」
気がつけば、こちらを覗き込んでいるサラ。当然本当のことなど言えるはずもなく、なんでもないよ、と取り繕ってから、
そろそろ帰るね、と逃げるように立ち上がる。
「あれ、もう帰るの?」
「……うん、買物しなきゃいけないし」
まだカップに半分ほど残っていた紅茶を一息に飲み干して、それじゃ私も、と一緒に席を立ちかけるサラを、付き合わせ
ちゃうと悪いし、とやんわりと制する。
本音を言えば、以前のように二人並んで、取り留めもないことを話しながら歩きたい、そう思う。けれど、今は出来ない。
この薄氷の上を渡るような、そんな今の関係を壊してしまう――そんな気がしてしまうから。
「それじゃ刑部先生、失礼します」
軽く手を上げる絃子に小さく一礼し、またね、とサラに声をかけてから八雲は静かに部屋を出た。
- 238 名前:§1 Every single day :04/06/24 02:04 ID:qmlfIyEQ
- その後ろ姿を見送ってから、ん、と軽く一伸びして立ち上がる絃子。歩を進める先は窓際、そこから外を眺める。
冬らしく低い空は、けれどまるで何の問題もない、と言わんばかりに青く晴れ上がっている。
「なあ」
そんな空を見つめながら、背後のサラに絃子は問う。
「幸せというのは何だと思う?」
「幸せ……ですか?」
唐突なその言葉に少し首をかしげてから、世界平和なんてどうです、とサラ。
「それはまた随分と大きく出たね」
「でも不幸じゃないよ、きっと。私はみんなが幸せであればいい、って思ってますから」
「……そうか。じゃあ」
そこで振り向く絃子。
見据えるのはサラの瞳。
「もう一つ訊いておこうか――君の幸せとは何かな?」
「? それは今……」
「いや、私が訊いているのは『君自身の幸せ』だよ」
「……それは」
重ねられた言葉にわずかに俯くサラ。
「別に今答えてくれなくても構わないよ。そうだな、では宿題にしておこうか」
提出期限は無制限だ、と小さく笑ってみせる絃子。
「さて、そろそろ君も帰った方がいい。この時分、暗くなるのは思っているより早いものだしね」
一瞬何かを言いかけたサラだったが、結局頷いてそのまま立ち上がる。
「片付けは私がやっておこう。それじゃ、気をつけてな」
「――はい」
わずかな沈黙と返す言葉、そして小さな微笑み。そんなものを残して出て行くサラ、そして入れ替わるように。
「お邪魔します」
「ようこそ、笹倉先生」
- 239 名前:Overture :04/06/24 02:03 ID:qmlfIyEQ
- Overture
入ってきた葉子に大仰な一礼をしてから、コーヒーでも入れるよ、と絃子。
「君はインスタントで十分だよな」
「あ、どういう意味ですか、それ」
「いやいや、別に他意はないよ?」
保温になっていた電気ポットからこぽこぽとお湯を注ぎながらのそんなやりとりに、先刻までのどこか重苦しい空気が
ゆっくりと払われていく。
「さて――」
出来上がったコーヒーを葉子の前に出し、その向かいに腰掛ける。
「――どこから聞いてたのかな?」
「……分かっちゃいました?」
「まったく、立ち聞きはあまり褒められたことじゃないよ。君のことだからたまたまだろうけどね」
少しバツが悪そうに頬をかく葉子。
「……で?」
「そうですね、塚本さんが出て行った辺りです」
あの、とわずかに迷う素振りを見せてから問を口にする。
「何かあったんですか、あの二人」
「君の所には話はいってないのか。直接関係ないとは言え、この学校ときたら、まったく……」
これだから、と小さく呟いてから答える絃子。
「彼女、帰るんだよ。国に」
「――え?」
「こっちにその可能性もある、って話が来たのが月の頭、本決まりになったのが一週間前、かな」
「そうだったんですか……」
「もっとも水面下ではいろいろあったんだろうね、あの子が変わりだしたのはもう少し前からだ」
事実だけを淡々と告げていくその顔に、表情はない。
- 240 名前:Classical名無しさん :04/06/24 02:10 ID:2jc5Aloo
- 支援せずにはいられない。
( ´Д`)
- 241 名前:Overture :04/06/24 02:10 ID:qmlfIyEQ
- 「私の方で動くように仕向ければ今みたいにはならなかっただろうけど、それじゃ意味がないんだ」
「……出発は?」
「26日、休みに入ったらすぐだ」
「それじゃ……!」
「ああ、時間がない」
それでも信じてるからこうしたんだけどね、という笑みは様々な感情が交錯する複雑なもの。
「……それで、だったんですね」
何かあったのか、という顔をする絃子に、塚本さんのことです、と話し始める葉子。
「最近、よく美術室で絵を描いてるんです、彼女。でも……」
「でも?」
「人物画なんですけど、いつも同じ所でやめちゃうんです――表情を描こうとして」
顔のない肖像――それを思い浮かべ、小さく唇を噛む絃子。
「気になりますか? ……その、担任として」
「……それだけじゃないさ」
分かってるんだろう、というその表情は寂しげな笑み。
「大切だから、傷つけたくないから知らずその相手を傷つける。……まるで何時かの何処かの誰かさんみたいだ」
「……刑部さん」
「ま、そんなどうしようもないくらいの大馬鹿者のことはいいとして、だよ」
『刑部先生』ではなく『刑部さん』と。友として呼んでくれた友人に応えるように、なあ葉子、と絃子は言う。
「本当に取り返しがつかない、そんなことそう多くはないんだ。大抵の場合時間がどうにかしてくれる」
「……ええ」
「やり直すことだって、取り返すことだって、掴み取ることだって出来る。……でもね」
私は、と。遠くを見るような眼差しで。
「後悔はして欲しくないんだ。出来なかったからじゃない、やれることをしなかった、そんな後悔を」
その言葉に何も言わず頷いた葉子に、ありがとう、そう言ってからぽつりと呟く。
「得難いものだよ、本当に――」
まったくさ、と一つ溜息。
「――親友というヤツは、ね」
そして手放しちゃいけないんだ、と。
- 242 名前:§2 With every step you take :04/06/24 02:11 ID:qmlfIyEQ
- §2 With every step you take ―― Dec.21 Tue.
/1
「……」
無人の美術室に、鉛筆を走らせる音だけが響く。
スケッチブックを埋めていく黒い線を見つめながら、八雲は思いを巡らせる。
――サラ。
以前何度かモデルになってもらおうとしたこともあったが、その度に、私なんか描いてもしょうがないよ、と
断られてきた。それでも毎日顔を合わす間柄、姉である天満を除けば、高校に入ってから一緒に過ごした時間は
一番の相手、本人が目の前にいなくても描ける自信はあった。
――なのに。
思い返せば、彼女はいつだって微笑んでいたというのに。
それなのに、その笑顔がどうしても思い出せない。
脳裏に浮かぶのは、あの泣き出してしまいそうな笑顔だけ。
「っ……」
そして今日も、その部分だけを残して鉛筆を動かす手は止まってしまう。出来上がったのはもう幾つ目になるのか、
顔のない肖像画。溜息とともにページを繰れば、粛々とそれが並んでいる。
嘘でもいいから描いてしまえ、とそう思い、けれどそれは出来ない、といつも踏みとどまる。
そうしてしまえば、今までのすべてさえ嘘になってしまいそうで。
「……サラ」
やり場のない想いを胸にその名を呟いたとき、ふと視線を感じる。
ここのところ、こうして絵を描いているとどこからか毎日感じられるそれ。決して悪意によるものではなく、じっと
静かに見守っているような眼差し。
ただ、その主だけがいつも見つからない。どうせ今日も、そう思いながら辺りを見回してくるりと振り向いた視線の
その先、教室の入り口に、いつもなら影も形も見えない人の姿。
「……笹倉先生」
そこで微笑みながら小さく手を振っていたのは、笹倉葉子その人だった。
- 243 名前:§2 With every step you take :04/06/24 02:11 ID:qmlfIyEQ
- 「最近塚本さん頑張ってるな、って思ってね」
邪魔しちゃったかな、と教室に入ってきた葉子は、そんなこと、という八雲の言葉に、ありがとう、と言ってから
そこかしこに立てかけられた絵を眺めながら話し始める。
「あ……じゃあいつも見に来てるのって先生なんですか?」
「毎日じゃないけどね。塚本さんがよく来てるのは知ってるよ」
それはつまり、何を描いているのかも知っている、ということ。胸元にスケッチブックを抱える八雲の手に、わずかに
力がこもる。けれど、葉子は何も訊かず、何も言わない。
「……あの、先生」
「何かしら」
それが、まるで自分を待っているようにも思えて、自ら話し出す八雲。
「先生は描きたいものが描けなくなったこと、ありますか?」
「……それは技術的に、じゃないんだよね」
「はい」
そうだな、と言いながら、ゆっくりと八雲の前に腰掛ける葉子。
「あるよ、私にも。どうしても描いたものに納得出来なくて、こんなはずじゃないって」
「……どうしたんですか、そのとき」
おずおずと、不安と期待の入り混じった瞳で見上げるようにして尋ねる八雲。対する葉子は瞳を閉じて、思い出を辿る。
「描いて描いて、好きだったはずの描くことが嫌になるくらいまで描いて、そしてね」
「……そして?」
さらりと。
「描くのをやめちゃった――なんて、何かの受け売りみたいだけどね」
ほら、あの魔女の女の子の、と微笑む葉子。
- 244 名前:§2 With every step you take :04/06/24 02:13 ID:qmlfIyEQ
- 「やめちゃった……んですか?」
「完全に、じゃないけどね。ただ、離れてみるのもいいんじゃないか」
懐かしそうな表情、遠くを見つめる瞳。
「近すぎても見えないものってあるから、そんなこと言われてね、ああそうなのかなって」
あれは効いたな、と小さな呟き。
「駄目押しはね、それは君が本当に描きたいものなのか、もう一度ゆっくり考えてみることだ、これかな」
「本当に描きたいもの……」
「そのとき思ったの、私はこの人を描いてみたい、自分の持てるすべてで……なんてね」
幸せそうに笑う葉子。それは、為すべきことを、為せることを、為したいことを見つけた者の笑み。
「絵を描くっていうのはね、とても難しくてとても簡単なこと、私はそう思うの」
「……はい」
「そしてね、自分が傷つくことも、相手を傷つけることも、どちらも恐れないで踏み込む勇気が必要なときもあるの」
「踏み込む、勇気」
「……私はそれに助けてもらったから」
これは絵に限ったことじゃないけど、そう話を結ぶ。
「なんだか、話し過ぎちゃったね」
「いえ、そんなことありません」
ありがとうございました、と頭を下げて荷物をまとめ始める八雲。
「いいえ、どういたしまして。今日はもう帰るんだ」
「はい。……私も考えてみます、いろいろ」
それでは、と教室を出て行こうとしたが、あ、と思いついたことがあって足を止める。
「あの、先生。さっきのお話の方とは今も……」
「ええ、今もちゃんと友達だ。一番大事な、ね」
葉子の答は、やはり笑顔とともにあった。
- 245 名前:§2 With every step you take :04/06/24 02:14 ID:qmlfIyEQ
- /2
「今日は先輩だけですか?」
いつものように――ただし一人で――部室を訪れたサラが、文庫本に目を落としている晶にそう声をかける。
もっとも、今日『は』と言ったものの、いつも通りと言えばいつも通りの光景である。
「ウチの方針は開店休業だからね」
それに対しては別段何も思っていないのか、冗談とも本気ともつかないような答えを返す晶。
「いいんですか? 部長がそんなこと言ってて」
「いいんだよ。来る者拒まず去る者追わず、本気でお茶をやりたいなら教えるけど、そこまでじゃないでしょう?」
「うーん、そうですね。あ、でも来る者拒まず、って花井先輩は……」
「彼は別格」
どうやらこれは本気らしく、にべもなく言い放つ。そんないつもながらの態度に苦笑しつつも、どうしてなんです、と
尋ねてみるサラ。しばらく考えて晶の出した答は――
「――なんとなく」
これ以上ないというくらいに『らしい』解答に、今度は思わず吹き出してしまう。
「なんとなく、ですか。それじゃしょうがないですね」
「そ。まあ、あれくらいじゃ懲りないよ、彼」
それはそれで楽しいのか、小さく――本当に小さく笑みを浮かべて、再び手にした本に目を落とす。
一方、どこか手持ち無沙汰なサラ、なんとはなしに備品の点検や整理をしてみるものの、気分はどこか落ち着かない。
結局それも数分で終わってしまい、溜息混じりに椅子に腰を下ろす。
部屋に在るのは静かなページをめくる音だけ。これもまた、ある意味で以前ならよくある光景、決してそれを不快に
感じることなどなかったはずなのに、今のサラはそこに居心地の悪さを見てしまう。
「先輩、何読んでるんですか?」
結果、しばらく迷ってからもう一度晶に声をかける。うん、と返事をした晶は、どう答えるかしばらく考えた様子だったが、
やがて映画のノベライズ、と口にした。
「映画ですか。どんなお話か訊いてもいいですか?」
「そうだね……」
- 246 名前:Classical名無しさん :04/06/24 02:18 ID:70cTw0GE
- 凄いな!
支援します。
- 247 名前:§2 With every step you take :04/06/24 02:18 ID:qmlfIyEQ
- かいつまんでそのストーリーを話す晶。
人々が争うのは『怒り』という感情を持つからである――そんな理由から、薬物により感情の発露を押さえ込むことで、
恒久的な平和を実現しようとする社会。一見それは成功しているようで、けれど一方では薬物摂取をやめ、芸術を始めとした
『感情』を必要とする行為を愛でる者たちを、一方的に『排除』していく。
その中で、『排除』の実働部隊の一員であった主人公は、友人がそんな『反乱者』の一人であったことを知り、彼を自らの
手で『排除』してしまったことから、社会に対し疑問を持ち、やがて反乱の中に身を投じることとなる――
概略をまとめるならば、このようになる。
「どう思う?」
語り終えた晶が問うてくる。いつものポーカーフェイスで見つめるのは、サラの瞳。
「よくある話……なんて言っちゃいけないんですよね」
「うん、これだけならそうかもしれないね」
恐る恐る、といった様子で答えたサラを肯定する晶。ただし、でもね、と言葉は続く。
「この世界を作り替えるために、結局主人公は戦って敵を『排除』するの。それに、物語はこの反乱が起きたところで終わってる。
それが上手くいくのかどうかは誰にも分からない。ただ、一つの『戦争』が始まった――分かるのはそれだけ」
彼女にしては珍しく饒舌に、淡々と言葉を綴っていく。
「感情がなければ争うこともない、でも笑いあうことさえ出来ない」
――謡うようなその言葉は。
「けれど笑いあうためには傷つけあうことも覚悟しないといけない」
――小さな棘のように心に刺さる。
「ねえ、サラ――」
――そして。
- 248 名前:§2 With every step you take :04/06/24 02:19 ID:qmlfIyEQ
- 「――どちらが正しいと思う?」
誰と争うこともなく、けれど誰とも交わることなく生きていく。
誰と争うとしても、それでも誰かと交わり生きていく。
――そのどちらが正しいか、そんな問いかけ。
『みんなが幸せであればいい、って思ってますから』
『――君の幸せとは何かな?』
昨日のやりとりが脳裏をよぎる。鈍い痛み。
「私は……」
わずかにうつむき、知らず拳を握りしめたサラが、それでも答えようとしたとき。
「ごめん、意地悪だったかな」
「え……?」
晶の方が先に口を開く。
「これはね、どちらが正しいかじゃないと思うの、本当は。ただ、選ぶというのがどういうことなのか、それだけ」
どちらを選んだとしても、何も傷つけずにいることは出来ない。それでもどちらかを選び、進んで行かなくてはいけない。
そういうことなのだと、晶は言う。
「だからさっきの質問はちょっと意地悪だね。答えられないのも分かる」
「……先輩」
「でもね、それを考えるのは悪いことじゃないと思う」
そう締めくくり、それじゃ私は、と立ち上がる。
「あなたはどうする?」
「……もう少しだけ、残っていきます」
「……そう。それじゃ戸締まりよろしくね」
はい、というサラの返事を聞いて、晶は出て行き、一人部屋に取り残されるサラ。窓の向こうの空には、いつのまにか
夕闇の翳りが足音をひそめて忍び寄ってきていた。
- 249 名前:Prelude :04/06/24 02:19 ID:qmlfIyEQ
- Prelude
――美術室。
八雲の姿が見えなくなるまで見送ってから、椅子に腰を下ろす葉子。
「……塚本さん」
頑張って、と小さな囁き。
「今の私が描きたいのは、あなたたちの笑顔だから」
宵闇が遠く忍び寄る教室の中で、その言葉だけが確かに響く。
――校庭。
昏い蒼の混じり始めた、けれどまだ目の醒めるような赤光の中、立ち止まって校舎を振り返る晶。
「……ごめん、サラ」
紡がれたのは謝罪の言葉。
「私には何も出来ないから……」
その先に続く想いはもはや放たれることなく仕舞い込まれ、晶は再び歩き出す。
――冬の宵。
それは驚くほどに素早く空を黒く溶かしていく。
音もなく、ただ静かに――
- 250 名前:§3 With every step you take :04/06/24 02:20 ID:qmlfIyEQ
- §3 With every step you take ―― Dec.22 Wed.
/0
――その日。
前日の雨天という予報とは裏腹に、空は朝から素晴らしいくらいに晴れ上がっていた。
蒼く、ただ蒼く――
- 251 名前:§3 With every step you take :04/06/24 02:20 ID:qmlfIyEQ
- /1
「っしゃ、終わりっと」
「あー! そこまだでしょ!」
授業はなしの、やることは大掃除のみ、加えて翌日が祝日ともなれば――何をか況や、という状況。掃除もそこそこに
飛び出していく者、それを連れ戻す者、様々な駆け引きと高々度の情報戦がその裏では行われている、とはもっぱらの噂。
微笑ましいと言えば微笑ましい、そんな光景にわずかに顔を綻ばせる八雲。しばらく続いていた鬱々とし気分を変えさせた
のは、やはり昨日の葉子との会話。
――歩きだそう。
ただ待っているだけでは変えられないことがある。だから、たとえそこに何があっても。
――決めたから。
なら、後は最初の一歩を。
「サラは今日何か用事ある?」
その距離を縮める為に。
- 252 名前:Classical名無しさん :04/06/24 02:23 ID:ShTscBW.
- 読み終わるまでは眠れない。
私怨じゃなくて支援。
- 253 名前:§3 With every step you take :04/06/24 02:25 ID:qmlfIyEQ
- 「ううん、大丈夫だよ」
記憶の中の姿に手を伸ばすように。
「それじゃ、二人でどこか行こうか」
距離を置いてみるのもいい、葉子はそうも言った。
けれどそれは逃げ出すということではなく、一度近づけるところまで近づいて、それからだと。
「――うん、そうだね」
久しぶりに、そう笑うサラ。
けれど、やはりそれは八雲が見たかった笑顔ではない。
じくり――滲むような鈍い痛み。
――でも。
八雲は思う。
もう逃げたりはしないと。
それが、小さい、けれど確かな、彼女の誓い。
- 254 名前:§3 With every step you take :04/06/24 02:26 ID:qmlfIyEQ
- /2
「ホント、なんだか久しぶりだよね、こういうの」
「……うん」
そして、一日は終わりを告げようとしている。
最後に、とカフェテリアで軽い休憩を取る二人。時刻は既に黄昏時、普段なら燃えるような茜色に染まる空、けれど
今あるそれは、思い出したように予報を追いかけて、天を覆うのは鈍色の雲。
じきに降り出す――そんな空を窓越しに見上げながら、もう一度だけ考える八雲。
学校を出た二人が向かったのは、駅前のメインストリート。学校帰りに高額の持ち合わせなど当然あるはずもなく、
お決まりのウィンドウショッピングをしながら、幾つかの店を巡った。
洋服、アクセサリ、エトセトラ。目を輝かせてそれらを見てまわり、喜々として会話するサラのその姿は、八雲に
とって本当に随分と久しぶりに見るかつての彼女の姿で。
――このままでいいんじゃないか。
そんな思いが脳裏をよぎった。
その向こうに何かがあるのは絶対に確か、それでも目を瞑ってしまいさえすれば、こんなにも幸せだから。
何事もなかったように。
当たり前のように。
あの騒がしくも楽しい日々を。
――それでも。
「ねえ、サラ」
「ん? 何?」
――果たすべき誓いが、ある。
「……少し、歩こうか」
- 255 名前:§3 With every step you take :04/06/24 02:26 ID:qmlfIyEQ
- 昼間と同じその道は、しかし低く垂れ籠めた空に引きずられるように、どこか沈んで見える。クリスマスを目前にした
意匠や電飾の色彩だけが、現実と乖離したように自己主張をしている。
そんなちぐはぐのモザイク染みた通りを、サラを背後に八雲は黙々と歩く。初めこそ言葉を投げかけてきていたサラも、
彼女の雰囲気に何かを感じ取ったのか、今はただ黙ってその後に続いている。
やがて辿り着いたその場所は。
「……学校?」
どうして、という顔で疑問を口にしたサラにも足を止めず、そのまま中へと歩を進める八雲。
――そして。
「……ここで初めてサラに逢ったんだよね」
中庭の中心で、ようやく口を開く。
「それまでは、ただのクラスメイトだった。でも、あの日からそうじゃなくなったよね」
そう言って瞳を閉じる。
目蓋の裏には色褪せない光景。
吠える野犬。
腕の中の伊織。
――とても大きく見えた、サラの背中。
「『サラって呼んで』、そう言われたのが嬉しかった。友達になれたって思えたから」
きっとそれが、どこか浮世離れしていた彼女が周囲に溶け込んでいく分岐点。
「あれからずっと、サラのこと友達だって思ってる」
それは今も。
- 256 名前:§3 With every step you take :04/06/24 02:26 ID:qmlfIyEQ
- 「……だから教えて」
そしてこれからも。
「――サラ、私に何か隠してる」
その言葉に、うつむいていたサラの肩がびくりと震える。
「私じゃ力になれるか、役に立てるかどうか分からない。でも友達だから」
一言毎に、突き刺さるような痛みを訴える心。
けれど、もう逃げないと決めたから。
「今じゃなくてもいい、でも必ず聞かせて」
返事はない。
それでも。
「私は……私はずっと待ってるから」
- 257 名前:§3 With every step you take :04/06/24 02:27 ID:qmlfIyEQ
- /3
「私は……私はずっと待ってるから」
そう言った八雲の顔が見られない。
――どうしても、うつむいた顔が上げられない。
何かを言おう、そんな思考は胸の奥で空回りし続ける。
――そもそも、一体何を言おうというのか。
どれくらいそうしていたのか、地面だけが広がるその視界の片隅で動き出す八雲。
「……っ!」
ようやく上げられた顔、そして見えたのは去っていく彼女の姿。
けれど、待って、という言葉は声にならなず、かは、という吐息だけが空気を揺らす。
伸ばした指は空を掴み。
踏みだそうとした足は一歩も動くことなく。
ただその後ろ姿だけが小さくなっていき――消える。
「や、くも」
くずおれそうな身体からようやく放たれたその声は、まるで自分のものではないかのように歪に捻れ、届けるべき相手に
届くことは決してない。
- 258 名前:Classical名無しさん :04/06/24 02:28 ID:70cTw0GE
- 支援てどのくらいの頻度ですれば良いんだ?
- 259 名前:§3 With every step you take :04/06/24 02:30 ID:qmlfIyEQ
- ――ぽつり、と。
そんなサラの上に、遙か空から水滴が落ちてくる。ぽつり、ぽつりと、様子を窺うようにしていたそれは、やがて数を増し、
強さを増し、途切れることのない雨へと変わる。
厚い雲の向こうで沈み往く陽に翳り往く景色。
その中で、サラはただ立ち尽くす。
「――雨、止まないや」
遠く聞こえる車の音。それだけを残して、不規則という名の規則に乗った水滴の奏でる旋律で、世界は閉ざされていく。
「……八雲」
呟きはそんな雨音に掻き消され、何処にも届かない――筈だった。
「ときには雨に打たれてみるのも悪くはないと思うが……どうもそういうわけではないみたいだね」
不意に背後から聞き覚えのある声。一瞬息を詰まらせ、そしてゆっくりと振り向けば。
「……刑部先生」
そこにあったのは、深いブルーの傘を差して佇む絃子の姿だった。奇遇だね、と本気か冗談か分からないいつも通りの
その口調は、責めるでもなく、問い詰めるでもなく、ただサラへと向けられる。
「さて、こんなところで立ち話もなんだし、何よりこの季節にそのままではね」
行こうか、そうすっと差し出された傘は。
「……はい」
――とても大きく見えた。
- 260 名前:§3 With every step you take :04/06/24 02:30 ID:qmlfIyEQ
- /4
「取り敢えず風呂を沸かしてくるよ。しばらくそれで我慢してくれ」
道すがら、サラのことをおもんばかってなのか一切口を開かなかった絃子。家に到着したあとの第一声はそれだった。
その言葉に従い、手渡された大きなバスタオルを頭からぼっくりとかぶり、濡れた衣服を脱ぐサラ。
「……お邪魔します」
そう言って足を踏み入れたのはリビング。シンプルな内装に、目立つものと言えば大型のテレビくらいのもの。ある
意味で実践主義とも言える絃子には相応しい様子である。
――と。
「あれ……?」
そんな中、場違いな空気を放っている物を見つけるサラ。
――ぬいぐるみ。
360°、どこから見てもそうとしか見えないそれは、部屋の片隅でひっそりと愛嬌を振りまいている。
「悪いね、もう少し……っと、どうかしたのかな?」
「あ、いえ……」
準備を終えたらしく、こちらへと戻ってきた絃子に尋ねられ、なんとなくバツが悪く誤魔化してしまう……が、その
視線を辿って言わんとすることは悟られてしまったらしい。
「ああ、それか。私じゃなくて居候のだよ」
変なところで寂しがりなヤツでね、とやや呆れたような表情。
「他に住んでる方がいらっしゃるんですか?」
「いらっしゃると言うか……ま、さっき部屋にきっちりと押し込んでおいたから気にしないでくれ」
「はあ……あの、ご挨拶とかは……」
「いらないいらない、そんな気をつかう必要は微塵もない。それに、その恰好は些か刺激的だと思うよ」
今更のように自分がバスタオル一枚、などというとんでもない恰好でいたことを思い出すサラ。同性である絃子の
前とはいえ、頬が熱くなるのを感じる。
- 261 名前:§3 With every step you take :04/06/24 02:31 ID:qmlfIyEQ
- 「着替えは適当に見繕っておくよ。若干問題がないわけでもなさそうだが……」
何を見てそう言ったのか、サラが追った視線のその先は――
「……先生、ひどいです」
「いやいや、客観的な事実、というやつだよ。それより」
ふ、と表情を崩す絃子。
「ちゃんと笑えるじゃないか。安心したよ」
「――あ」
そこで初めて、どういう訳か自分が安心していることに気がつく。あのとき八雲の背中を見送った不安は、決して
消えてはいないものの、今心の中の大半を占めているのはそれではない。
それが何故か――その理由を考えて、一つのことに思い当たるサラ。
今、自分はこの人に頼っているのだと。
皮肉めいた物言いの裏にある優しさ。
突き放したようでそばにいる距離感。
言葉にしてしまえばどうということのないそれは、つまり刑部絃子という人の魅力。それは誰しもが持っている
わけではない、不思議と人を惹きつける力。
「そんな風に頼ってもらえると、教師冥利に尽きるというものだよ」
「先生……」
ゆっくりと、独り抱え込んでいた何かが解けていく感覚。
「さて、それじゃどのみち帰りは遅くなる。電話の一つも入れておくといい」
- 262 名前:§3 With every step you take :04/06/24 02:31 ID:qmlfIyEQ
- くい、と指差された電話を前にして。
「……一晩だけ泊まっても構いませんか?」
知らず、サラはそう尋ねていた。限られた時間の中、もし何かを変えようとするなら今しかないと、直感がそう
囁いている。
「ふむ、君がそれでいいと言うなら私は別に構わないよ。ただしちゃんと許可はもらうこと」
はい、と頷いて、一番馴染みの、けれど実際にかけることはそう多くない番号をプッシュする。
「あ、お母さん? ……あのね、今日友達の家に泊まるんだけど」
友達、という単語にわずかに眉をひそめる絃子。一方、サラはそんな様子にも構わず、電話の向こう側に告げる。
「――塚本さん」
「……何?」
思わず呟いたその言葉にも、目を瞑って。
「うん――うん、それじゃ」
かちゃり、と受話器を置いた。
「……嘘、ついちゃいました」
えへへ、とサラは笑った。自分の意思で、自分のために。
「やれやれ、そんなことまで教えたつもりはないんだがな……」
苦笑混じりの溜息を一つの絃子、そして遠くからは小さな電子音。
「ほら、さっさと入ってきたまえ。夜は短い」
「はい!」
- 263 名前:§3 With every step you take :04/06/24 02:32 ID:qmlfIyEQ
- ――と、そうは言われたところで、いざ入浴するとなれば手を抜けないのが女の子。サラがあがってきたのは随分と
経った後。そして絃子も絃子でそれを読んでいたのか、計っていたようなタイミングで出来上がる紅茶。
「君が淹れるのにはとても敵わないけどね」
「……おいしいです」
微笑みとともに差し出されたそれは、確かにとてもおいしくて――とても暖かかった。
しばらくの間、無言でそれを味わう二人。
そうやって一息ついてから。
「もう大丈夫、かな」
正面からサラを見据える絃子。
ゆらりと鎌首をもたげる不安。
それでも。
「……はい」
サラはしっかりと頷いた。
そして――
- 264 名前:Classical名無しさん :04/06/24 02:34 ID:70cTw0GE
- 支援
- 265 名前:§3 With every step you take :04/06/24 02:36 ID:qmlfIyEQ
- /5
――雨が、落ち始める。
言うべきことはすべて言った、そう思う八雲。けれど、そこにあるのは達成感などではなく、ただ斬りつけられた
ように痛むその胸。
――こんなにも辛いことなんですか?
心の中、葉子に向かって問う。
顔を背けず、逃げずに踏み込んだ先。
うつむいたままのサラの姿。
そうさせてしまった自分。
間違ってはいないと、そう思うのに。
――雨は降り続ける。
鞄を開ければ傘はある。それでも、八雲は差そうとはしない。
そうしていれば、誰にも涙を見られることはないから。
だからただ、冷たい雨の中を歩き続ける。
黙々と。
まるで、それが犯した罪への罰だとでもいうかのように。
- 266 名前:§3 With every step you take :04/06/24 02:37 ID:qmlfIyEQ
- 「……ただいま」
家に帰り着くころには、上から下まで完全に濡れ鼠になっていた。どうやったら汚さないで入れるか――回らない
頭でそんなことを考えながら、ぼう、と玄関先に立ち尽くす。
「あ、お帰り八雲。遅かった……」
とてとてと奥から小走りに出てきた天満の言葉が途中で消える。
「八雲……?」
「……どうしよう、ねえさん」
その姿を見て、張りつめていたものがふっと途切れる八雲。容赦なく降りしきる氷雨に感覚をなくしかけていた足は、
もはや身体を支えることなく、ゆっくりと前に倒れかけ――
「八雲っ!」
――そして天満に抱きとめられる。
決して大きくはないその体躯で、やわらかく、しっかりと妹の身体を抱きしめる天満。
「姉さん、濡れちゃう……」
「……八雲だってびしょびしょだよ」
背に回されたその手に、ぎゅっと力がこもる。
冷えた身体を暖めるように。
「ね、八雲」
耳元でそっと囁かれる言葉。
「何があったか、全然分からないけど」
それでも、と。
「大丈夫だよ。私には分かるもん」
「……どうして」
「――だって、私は八雲のお姉ちゃんだぞ」
天満は微笑む。
誰よりも、何よりも。
強く、優しく。
- 267 名前:§3 With every step you take :04/06/24 02:38 ID:qmlfIyEQ
- ――そんな風にして一段落がついて。
「ちょうどお風呂沸いてるから入っちゃって」
「うん……でも姉さんも……」
言われて、あー、と自分の姿を見回す天満。当然と言えば当然ながら、ずぶ濡れの八雲を抱きしめたのだから、彼女も
またずぶ濡れである。
「私は後でいいよ、八雲の方が冷え切っちゃってて大変だもん」
「……でも」
こんなときでも姉のことを第一に考えてしまう八雲、何はなくとも妹第一『お姉ちゃん』、拮抗する状況。
「――あ」
と、そこに妙案を思いついた、という様子の天満。
「だったらさ、一緒に入ればいいんだよ!」
「え……? 姉さん、それは……」
「うんうん、そうだよ。ほら行こっ、八雲!」
言うが早いか八雲の背を押して目的地へと一直線。こうなるとどうしたところで止められない、と為すがままの八雲。
- 268 名前:§3 With every step you take :04/06/24 02:38 ID:qmlfIyEQ
- ――そして結局。
湯船に首までしっかりつかる八雲の目の前に、鼻歌交じりに身体を洗う天満がいたりする。身体を洗う、そんなどうと
いうこともない行為も、天満がやれば不思議とこの上なく楽しそうに見えて、心に安堵を覚える。
落ち込むこともあれば、勘違いは数知れず、それでも持ち前の底なしの明るさで、いつでも前向き一直線――そんな
姉の姿に、絶対に敵わない、そう思う八雲。
『お姉ちゃんだから』――それだけで親身になってくれるこの人は、たとえ家族ではなかったとしても何かの理由で、
或いは何の理由もなく、助けてくれるに違いない。
一番近くにいる一番大切な人――それが塚本八雲にとっての塚本天満。
だから。
「今日は早く寝た方がいいよ」
風呂上がり、そう言って部屋を出て行こうとする彼女を。
「待って、姉さん」
自然、呼び止めていた。
誰よりも大切な人だから、心配はさせたくないから。
「もう、大丈夫なんだよね」
そんな表情を、正面から受け止める天満。
「……うん」
しっかりと頷く八雲。
そして――
- 269 名前:§3 With every step you take :04/06/24 02:38 ID:qmlfIyEQ
- /6
そして――
「それじゃあ――」
「それじゃ――」
――錆びついた歯車が再び回り出す。
「――話を聞こうか」
「――話、聞こうか」
- 270 名前:Variation :04/06/24 02:42 ID:qmlfIyEQ
- Variation
――深夜、学校。
冬の嵐が踊る屋上に、一つの影が在った。
影の主は一人の少女。
その長い黒髪は吹き荒ぶ風にも揺れることなく。
その白い肌は打ちつける冷たい雨にも濡れることなく。
まるで刻を止めたかのように、微動だにせず少女は独り。
その瞳は閉じられて。
その耳だけが澄まされる。
「聞かせて」
ごう、という風の中。
「あなたの答を」
囁くような声だけが響く。
「――ヤクモ」
- 271 名前:Classical名無しさん :04/06/24 02:43 ID:yRovJj7Y
- 支援します。頑張れ
もう寝るんで感想は明日…
- 272 名前:§4 It's you I can't replace :04/06/24 02:44 ID:qmlfIyEQ
- §4 It's you I can't replace ―― Dec.23 Thur.
/1
「そっか、それで最近八雲元気なかったんだ」
話が終わって、天満のもらした第一声はそれだった。
「……気づいてたの? 姉さん」
「私は八雲のお姉ちゃんなんだぞ」
さっきも言ったけど、というその顔は、これ以上ないくらいに得意満面。その一点に関しては、何があっても
譲れない――譲りようもないのだが――ところらしい。そんな天満の様子に、知らず八雲の表情も緩み、和やかな
空気が流れる。
その中で重ねられる天満の問。
「八雲はさ、自分が間違ったことしたって思ってる?」
「……ううん、そんなことない」
「信じてるんだよね、サラちゃんのこと」
「うん」
「だったら大丈夫だよ」
今日三度目の『大丈夫』、その言葉が八雲の心に優しく響く。
「ずーっと仲良くできたらいいんだけどね、友達ってそれだけじゃないんだよね。ケンカすることだってあるし、
気まずくなっちゃうことだってあるし。でもね、ホントに友達だったら絶対仲直り出来るの。怒っても泣いても、
友達はやっぱり友達だから」
微笑む天満。
「八雲はケンカとか全然しないからよく分からないかもしれないけど、そうなの。それにね、一回そういうのを
乗り越えたら、あとはもうずっとずっと仲良しなんだから」
だから大丈夫だよ――最後にもう一度、ダメを押すように。
「……ありがとう、姉さん」
心から礼を言い、そしてふと気になったことを尋ねてみる。
- 273 名前:§4 It's you I can't replace :04/06/24 02:44 ID:qmlfIyEQ
- 「姉さんにもそんな人、いるの……?」
「えっと……ケンカはしたことないかも……」
「……え?」
つい今しがた、自分がとうとうと語ったことを否定するかのような発言。
「あ、でもほら、ケンカしなくても仲がいい人は仲がいい、って言うか……」
しどろもどろになって、それでもどれだけ自分の友達がいい人なのかを説明しようとする天満。その姿に、この人
こそ絶対にケンカが出来ない人だ、そう思う八雲。
「……ね、その……って聞いてる? 八雲?」
「あ、うん。聞いてるよ」
「ホントに……? 何だかさっきからずっと笑ってるみたいだし……」
「笑ってる……?」
「うん、ずーっとにこにこしてる」
「……笑ってたんだ、私」
それは本当に、随分久しぶりのような気がして。
「……? 八雲?」
「なんでもないよ。それより、何の話してたんだっけ……」
「やーくーもー」
そんな穏やかな空気に包まれて、夜は更けていき――そして。
「ん……」
八雲の前には、そのまま床で眠り込んでしまった天満の姿がある。暖房を効かせてあるとは言え、この季節に
毛布の一枚もなしに寝入ってしまう、それもまた彼女らしさなのかどうなのか。ともあれ、慣れた手つきでその
身体を抱え上げ、部屋へと静かに運ぶ八雲。腕にかかるのは、どこにあれだけの元気が詰まっているのか、そんな
ことを思わせるほどの軽さ。
「……姉さん」
どんな夢を見ているのか、幸せそうな寝顔の主をベッドのうえに横たえる。
「おやすみ」
そしてありがとう、と。
もう一度だけそう言って、八雲の一日は終わりを告げた。
- 274 名前:§4 It's you I can't replace :04/06/24 02:45 ID:qmlfIyEQ
- /2
「成程、ね」
身じろぎ一つせず、じっとサラの話に耳を傾けていた絃子が呟く。
「……あんな八雲、初めて見ました。いつもは私の方が、八雲はもっと自信持っていいよ、なんて言ってるのに、
いざ自分から前に出てきた八雲の姿を見たら、何も出来なくて。嬉しかったんです、本当は。あんなに私を
想ってくれる人がいて。……泣いてくれる人がいて。なのに、私……」
最初から全部話しておけばよかったですね、言葉は自嘲めいた笑みとともに。
「それはどうかな?」
「……え?」
けれど、絃子はそれを肯定しない。
「そう思うのは、この『今』があるからだよ。白状するとね、確かに君の選択を聞いたときにあまりいいようには
転がらないとは思った。だからと言って、どちらが正しいかは結果を見ないと分からない。一般論がいつでも
通用する訳じゃないんだ。過去を振り返って未来にフィードバックする、それは大いに結構……むしろやらない
方が問題だな、いろいろと。でもね、君にとって今はそのときじゃない。目の前にやるべきことがあって、」
そして、と。
「自分がどうしたいのか、それはもう分かっているんだろう?」
「……はい」
「なら、私がとやかく言うようなことはないさ。為すべきことを為せばいい。きっと、君はもう間違えないよ。
……本当はね、そんなに難しいことじゃないんだ。ただ、人間時々目の前が見えなくなることがある。それ
だけのことだ」
Take it easy、結構じゃないか。目を閉じさえしなければね――そう笑って。
「彼女の覚悟はちゃんと受け取れたんだ。だったら次は君が応える番だ」
話を締めくくる絃子。
「さて、そんなところかな。今の君ならこれで十分過ぎるくらいだろう。疲れてるだろうし、今日はもう寝た寝た」
「……あの」
ん、と軽く伸びをして立ち上がりかけた絃子を呼び止めるサラ。
- 275 名前:§4 It's you I can't replace :04/06/24 02:44 ID:qmlfIyEQ
- 「先生も昔、こういうこと……あったんですか?」
「……世の中、なかなか思った通りには生きられてないものさ」
返答は、そんな答と呼べるかどうか微妙なもの。ともあれ、それを最後に絃子は立ち上がり、こっちだよ、とサラを
手招きして寝室へと案内する。
「多少ちらかっているかもしれないが、気にしないでくれ」
「ここ、先生のお部屋ですか?」
一体どこがちらかっているのか、と思わせるほどに整理整頓が行き届いた部屋を見回してながら尋ねる。
「ああ、そうだ」
「だったら先生はどこで……」
当然のように、部屋にはベッドが一つしかない。
「ん? 私ならその辺で適当に寝るさ」
「そんな、悪いです。いくらなんでも」
「と言われてもなあ……ふむ」
何かを思いついたのか、そのまま廊下に出て、
「居候クンの部屋で寝るというのはどうだろうね」
途端、がたん、という壁を蹴り飛ばしたような音がする。
- 276 名前:Classical名無しさん :04/06/24 02:48 ID:jmK3k85U
- (・∀・)支援
- 277 名前:§4 It's you I can't replace :04/06/24 02:49 ID:qmlfIyEQ
- 「冗談だよ、冗談」
それに対してか、今度はそう言ってにやにやしながら戻ってくる。するとどこかでもう一つ、今度は控えめに、
かつん、という音。
「そんなわけで、だ」
「え? あの、何が何だか……」
「ま、先生の言うことは聞くものだよ。じゃ、おやすみ」
言い残すが早いか、有無を言わさず部屋を出て行く絃子。
「あ……」
結局、どうあってもこの部屋で寝る以外に道はないらしい、とようやく悟る。絃子の性格からして、その他の選択肢
はそもそも存在しない、ということだろう。
「刑部先生……」
そしてそれもまた、優しさの一つの形ではあると思う。不器用ではあるけれど。
――けれど。
不器用ではあっても、決してそれは手を抜いたものなどではなくて、何よりも真摯なものであるからこそ、誰かに
届き、そしてその周りに集う人々がいる。
「ありがとうございます」
いつか自分も、あんな風に誰かに気持ちを届けることが出来るだろうか、そう思いながら部屋の灯りを落とす。
『出来るさ』
――その晩、サラは夢を見た。
そうやって綺麗に笑う、絃子の夢を。
- 278 名前:§4 It's you I can't replace :04/06/24 02:51 ID:qmlfIyEQ
- /3
―――嵐が去って。
「おはよう」
「……おふぁよ」
とろんとした寝ぼけ眼の天満を迎えるのは、とんとんとん、とリズミカルな音を立てて包丁を動かす八雲。昨晩の
ことを考えれば、ここで立場が逆ならば、というところなのだが、塚本天満とはそういう人物ではない。
完全無欠にはほど遠く、どちらかと言えば目立つのは欠点。それでも皆に愛されているのが彼女の魅力、といった
ところになる。友人たちに言わせれば、天満は天満だから、らしいが。
ともあれ、ようやく布団を抜け出してきた、という様子の天満は、引き続き安楽の地を求め、今度はコタツへと
潜り込もうとしている。フー、という先客たる黒猫の呻り声もなんのその、どこかの唄のように丸くなる。
「もう、姉さん……」
口ではそう言いながらも、もはや恒例となっている毎朝の光景、取り立てて注意するでもなく、手早く朝食の準備を
こなしていく。白いご飯に卵焼き、豆腐の味噌汁にほうれん草のおひたし、と食卓に並べられていくのは典型的な和風
の朝食。パンにコーヒー、それにサラダ、という洋風な朝食も嫌いではないが、いざ作るとなると、出来るだけ自分の
手が入れられるものを、と考えてしまう八雲だったりする。
「ご飯だよ」
その言葉にもぞもぞとコタツからはい出して、いただきます、と手を合わせる天満。本能的になのかどうなのか、
そういうところはきちんとしている。そして一口二口、と箸を進めていくうちに眠気も飛んできた様子で、ごちそうさま
を言う頃にはいつもの彼女、洗いものは私がするね、と率先して立ち上がる。
「八雲は今日どうするの?」
「学校に行くつもり」
てっきりサラに会いに行くと思っていたのか、食器をゆすぐ天満の手が止まる。
「学校? 何かあるの?」
「うん。やりたいことがあるから」
今日こそはちゃんと彼女の絵を描こう、そう考えていた八雲はしっかりと頷く。
今ならもう迷わずに描けるはずだから、と。
「そっか。大事なことがあるんだね」
それ以上は聞かず、がんばって、と天満は笑う。
言葉にしなくても届くものはあるから――そんな笑顔で。
- 279 名前:§4 It's you I can't replace :04/06/24 02:52 ID:qmlfIyEQ
- 「失礼します」
ちょっと早すぎたかな、そんなことを考えながら職員室の戸に手をかける八雲。祝日とはいえ、熱心な活動を行って
いる部活動も多く、誰かが常駐しているその部屋に鍵はかかっていない。からからと鳴るその戸を引いて、中に足を
踏み入れると、馴染みの声がかけられる。
「あら、塚本さん」
「笹倉先生、いらっしゃってたんですか」
「ええ、ちょっといろいろあってね」
答えてから、美術室の鍵よね、と机の上に置いてあったそれを差し出す。
「あの、先生が何かされるんでしたら、私は無理に……」
「遠慮する必要なんてないわよ。それに、私はこっちに用事があるし」
ほら、と書類をひらひらと振ってみせる。
「心置きなくどうぞ。――それより」
「……何ですか?」
「いいことあったんだね、何か」
- 280 名前:§4 It's you I can't replace :04/06/24 02:52 ID:qmlfIyEQ
- 「え……」
「今の塚本さん、すごくいい顔してるもの。このあいだとは全然違う」
「そう、ですか……?」
「うん。そう――何か見つかった、そんな顔」
見つけたもの。
それなら分かる、と脳裏にその姿を思い描く。ピントのずれた写真のように、ぼやけていたそのイメージ。それが
はっきりと一つの像に結ばれていく。
――サラの笑顔。
「――はい」
「それならもう大丈夫ね」
『大丈夫』、昨日天満に言われたのとまったく同じその言葉に期せず微笑んでしまう。
「笹倉先生のおかげです」
「あら、私は何もしていないけど?」
とぼけているのかどうなのか、小首をかしげてみせる葉子に、それでも構わない、と思う八雲。一番最初に自分の背を
押してくれたのは、葉子の言葉だった――それは絶対に確かなことだったから。
「ありがとうございました」
だから、鍵を受け取った八雲は、深く深く、頭を下げた。
- 281 名前:§4 It's you I can't replace :04/06/24 02:55 ID:qmlfIyEQ
かちゃり、と鍵を回して美術室に足を踏み入れ、どこかすえた匂いのするその教室のカーテンを引いて窓を開け放つ。
吹き込んでくるのは、緊とした冬の風。
そんな風に吹かれながら、もう一人、礼を言うべき相手の名を呼ぼうとして――はたと気がつく八雲。
「……名前」
よくよく考えれば、彼女の名前など聞いていないし、ましてそれがあるのかすらも分からない相手。思わず途方に
くれそうになった――その背中に。
「……肝心なところで詰めが甘いのね」
そこがあなたらしい気もするけれど、とかけられる声。
「久しぶりね、ヤクモ」
「うん、久しぶりだね」
音もなく宙から現れた少女に、よかった、と微笑んでみせる八雲。
「ずっと見ていてくれたんだよね」
毎日感じていた視線、けれどその第一候補、葉子が見に来ていたのは毎日ではない。
そして、決して見当たらない視線の主。
――なら、その齟齬を埋めるのは。
- 282 名前:§4 It's you I can't replace :04/06/24 02:55 ID:qmlfIyEQ
- 「ありがとう」
少女の沈黙、それは肯定と同意。
「ねえ、どうして……」
「……意味なんてないわ。私はあなたに興味があるの、ただそれだけ」
変わらない表情と淡々とした口調。その裏に真意があるのかさえも読み取ることは出来ない。
それでも。
「それでも、ありがとう」
「……」
この気持ちは確かなものだから、と言葉を重ねる八雲。それを黙って聞いていた少女は、やがて話をそらすように
まったく違うことを口にする。
「もう迷ってはいないようね」
「……うん」
「そう――」
その顔に幽かに笑みが浮かんだのは、目の錯覚か――八雲がそれを確かめるより先に、少女は次の言葉を放つ。
「――ほら、お客さんよ」
はっとして振り返れば、教室の入り口に、大きく肩で息をする――
「八雲――」
「――サラ」
- 283 名前:§4 It's you I can't replace :04/06/24 02:59 ID:qmlfIyEQ
- /4
「おはようございます」
「ん、おはよう……にはちょっと遅いかな」
昨日は気持ちが張りつめていたせいか、ほとんど自覚はなかったものの、やはり精神的にも肉体的にもそれなりの
極限状態にあったサラ、深い眠りから覚めたのは、遅い冬の朝よりもまだ遅く、随分と陽が高くなってからだった。
「すみません、私すっかり……」
「昨日が昨日だから仕方ないさ。それに、そろそろ起こそうと思っていたしちょうどよかったよ」
確かに、見れば居間のテーブルの上にはパンとサラダが並び、あとは飲み物を淹れれば準備万端、という状態に
なっている。きちんとオーブンで焼き目を入れているパンに、即席のようでよくよく見れば細かいところで凝って
いるサラダ、とブランチにしてはなかなか豪勢な仕様。
「すごいですね、先生」
「褒められるほどのものじゃないが……まあ、料理は嫌いじゃないしね」
こぽこぽと音を立てるコーヒーメーカーのスイッチを切り、出来上がったコーヒーをカップに注ぎながら、どこか
照れたようにして答える絃子。
「さて、それじゃ食べようか」
- 284 名前:§4 It's you I can't replace :04/06/24 03:00 ID:qmlfIyEQ
- 「あの、居候さんは……」
居候さん、というのは変な呼び方、とは思いつつも、他に呼びようもなくそう訊いてみるサラ。
「ああ、それは別に気にしなくてもいいよ。なに、一食や二食抜いたところでどうなるようなもんじゃない」
「はあ……」
昨晩同様、にべもない台詞で切って捨てられる。本当にいいんだろうか、そう気にはなるものの、家主が言うのだから、
ととりあえず納得して席に着く。
「いただきます」
「どうぞ。君の口に合うといいんだが……」
謙遜なのか、そんな台詞を口にする絃子だったが、サラダを一口頬張ったサラの感想は、おいしいです、の一言。
「……すごく、おいしいです」
そして。
「あ、れ。どうして……」
理由もないのに、悲しくもないのに、涙があふれて止まらなくなる。
「せんせい、わたし」
黙ってハンカチを差し出す絃子。
「ありがとう、ございます」
――止まらない。
まるで昨日の雨のように、その涙が止まらない――
- 285 名前:§4 It's you I can't replace :04/06/24 03:01 ID:qmlfIyEQ
「……変な顔じゃないですよね」
結局時間にすればわずか数分ほど、それでも一生分のそれを流し尽くしたような気分のサラ。洗面所で嫌というほど
洗顔を繰り返し、泣き腫らしたその目蓋も誤魔化せたはず、と絃子に尋ねる。
「ああ、ついさっきまでぼろぼろ泣いていたようにはとても見えないよ」
「……先生」
「冗談だよ。今の君はね、そう――」
うん、と頷いて。
「――とてもいい顔をしているよ。それじゃ、行ってくるといい」
笑顔で送り出す絃子。
「はい、行ってきます」
だから、送り出されるサラもまた、笑顔で家を出た。
- 286 名前:§4 It's you I can't replace :04/06/24 03:01 ID:qmlfIyEQ
- 塚本家の前、インターホンに伸ばした自分の手が震えているのに苦笑するサラ。
「仕方ないなあ……」
声を向けた先は自分。しっかりしろ、私――そう心の中で囁いて、ボタンを押し込む。
ぴんぽーん。どこか間の抜けた音が冬空の下で響く。ふと空を見上げてみる。青。快晴だ。
「はーい」
やがて、ぱたぱたという足音とともに聞こえてきた声は八雲のものではなく。
「――あ、サラちゃん」
「こんにちは、塚本先輩」
出てきたのは姉の天満。それも、何故か、参った、という表情をしている。あまり見たことのないその様子に、内心
首を捻りつつも、恐る恐る尋ねる。
「あの、八雲は……」
「あのね、さっき学校に行くって出かけちゃったんだ」
「学校……ですか?」
「うん、やりたいことがあるんだって」
ごめんね、と謝る天満に、こちらこそ連絡もなしに、と頭を下げる。
「それじゃ、学校に行ってみますね」
「あ、ちょっと待って!」
くるりと振り返ったところを呼び止められ、何ですか、と向き直ろうとしたそのとき。
「え、あ、つ、塚本先輩?」
――後ろから抱きしめられた。
やさしく、ぎゅっと。
「あのね、」
そこで途切れる天満の声。何かを言おうとして、でもそれが言葉にならない――そんな気配。
「先輩」
その背に天満の温かさを感じたまま、立ち尽くす。
「あのね、」
やがて天満はようやく、ただ一言を口にする。
「大丈夫だから」
とくんと――脈打つの鼓動の音と、その言葉を、サラは確かに聞いた。
- 287 名前:§4 It's you I can't replace :04/06/24 03:02 ID:qmlfIyEQ
――そして、サラは学校へと向かう。
ゆっくりとした歩みはやがて早足となり、そしてもつれるような駆け足へと加速していく。
身を切るような冬の寒さも気にならない。
ただ、吐く息の白さだけがその冷たさを伝える。
「は、あ……っ」
倒れ込むようにして辿り着いた昇降口、靴を履き替える、そんな動作さえもどかしい。
「やく、も」
彼女はどこにいるのか。
教室――違う。
彼女のやりたいことは何か。
部室――違う。
直感の出した答は。
なら――あそこしかない。
刹那、身体はまた動き出す。
――そして。
「八雲――」
「――サラ」
驚いたような顔で八雲がこちらを見つめている。
鼓動が早くなる。
このまま逃げ出してしまいたくなる。
けれど、今やるべきことはここにあって、ここにしかない。
「八雲」
もう一度その名を呼ぶ。
また歩き出すために。
「あのね、私――」
- 288 名前:Interlude :04/06/24 03:02 ID:qmlfIyEQ
- Interlude
「君に会いに来ただけのつもりだったんだが……」
見つからないよう、そっと美術室の様子を窺いながら小声で囁く絃子。
「雨降って、というやつかな」
そこにあるのは確かに二人の笑顔。そうですね、と頷く葉子も笑顔。
「さて、あとは、と……」
おもむろに携帯を取り出し、二言三言の短い通話を交わし、満足げな表情で電源を切る。
「これでよし」
「何かあるんですか?」
「ま、いろいろとね」
そうやって質問をはぐらかし、もう一度教室の中を見やる。
サラがどうやって伝え、また八雲がどう受け取ったのか、それは分からない。分からないが、何より確かなものが
そこにあると、そう思う絃子。
「……よかったよ、本当に」
「刑部さんのおかげ、もあると思いますよ」
「まさか。私は何もしてないよ、動いたのは彼女自身だ」
「そうですか? でも昨日中庭で……」
言いかけた葉子を、待て、と止める。
「……見てたのか、葉子」
「ええ、たまたまですけど」
- 289 名前:Interlude :04/06/24 03:07 ID:qmlfIyEQ
- 「最初は不干渉のつもりだったんだよ……」
当事者がどうにかしないと意味がないからさ、とにこやかな葉子を見てから軽く天を仰ぐ。
「無理に決まってるじゃないですか、そんなの。刑部さんは計算より感情で動く人ですから」
「……そんなことは」
「ない、ですか。それじゃ思い出せるように話してあげます。最初は……」
「あー、分かった。悪かった」
そうだよそうだったよ、とふてくされたように言う絃子に、ダメ押しの一言。
「私は感謝してますよ、あの頃の刑部さんに」
そして今も、と。
「……どっちかと言えば、それは私の台詞なんだけどね」
「何か言いました?」
「いや、別に」
聞こえないように、普段は胸の奥にしまってある本音を囁いて空惚ける。そんな絃子を怪訝そうに見ていた葉子
だったが、埒があかないと思ったのか、ところで、と話題を変える。
「少し前からやりたいと思ってたんですけど……」
小さく耳打ち。
「成程、それはいい」
聞いた絃子もすぐさま同意。その視界の隅には笑顔のサラ、そしてスケッチブックと鉛筆を手にした八雲。
「あの二人の絵か、それはきっと――」
「――いい絵になるわ」
教室の中で二人を見守っていた少女もまた、そう呟いた。
- 290 名前:Classical名無しさん :04/06/24 03:08 ID:4U7OZYW6
- 支援ッス
- 291 名前:§5 Long for your embrace :04/06/24 03:08 ID:qmlfIyEQ
- §5 Long for your embrace ―― Dec.24 Fri.
/1
どこか気の抜けた終業式――実際、やることと言えば『ありがたいおはなし』を訊く程度。ならば生徒の心がこの先の
休みに一直線なのは道理というものである――も終わり、校舎全体に漂うのはどこか浮ついた空気。
そんな中、余所とは違う雰囲気に包まれているのが1-Dの教室。。
朝のHRでされた、式の後に大事な話がある、という絃子の言葉、そして。
「なあ、昨日の連絡網、なんだったんだ?」
「さあな、とりあえず何が何でも明日は空けとけ、って話だったけど」
昨日の絃子の電話の正体がそれである。理由は告げず、されど相手にそうするか、と思わせるのは教師であること以前に
絃子の絃子たる由縁でもある。……もっとも、さすがに今回は、クリスマスなのに、という声もあるようだが。
ともあれ。
そんな要因が絡み合い、緊の色を帯びた教室に、職員室での打ち合わせを終えた絃子が戻ってくる。
「悪いね、遅くなった。……さて」
一度言葉を切り、じっくりと教室中を、一人一人の顔を見渡す。
「うん、全員いるな。じゃあ――」
「――はい」
促されて立ち上がるサラ。そのままゆっくりと前に進み出る。それがあまりいい知らせではないと、そう直感的に悟っている
者が多いのか、注がれる視線は不安げな様子が大半を占める。
その一つ一つをしっかりと受け止めてから、我がことのように心配そうな顔をしている八雲に手を振って、サラは話し始める。
「――国に、帰ることになりました」
一言。
それで教室のざわめきが消える。
「本当は余計な心配かけたくなかったから、言わないでおこうと思ってたんだけど、それじゃ駄目だってやっと分かったから。
さよならは言われるより言われない方が、そっちの方が辛い……よね」
その迷いや葛藤は言葉にしてしきれるものではない――それでも、出来る限りの想いを込めて言葉を紡ぐ。
「……だから」
そしてそこからあふれた想いは涙へと変わり、うつむくサラ。
- 292 名前:§5 Long for your embrace :04/06/24 03:09 ID:qmlfIyEQ
- ――そこに。
「んじゃ、盛大になんかやらねーとな」
「そうね、絶対に忘れられないくらいにしないと」
声が上がる。
「え……?」
「なんか最近様子がおかしいからさ、どうしたんだ、って心配してたんだぜ」
「アンタね、そんな簡単に言わないの。さよなら、っていうのはね、言う方がずっと辛いんだから」
一転してざわめきに包まれた教室、そこかしこで交わされる会話は皆彼女を想った温かいもの。恨み辛み、そんな馬鹿げた
ものはどこにもない。
「みんな……」
「私はね」
呆然とするサラに語りかける絃子。
「教師としてはまだまだ未熟だけど、人を見る目はそれなりに持ってるつもりなんだ。その私から見てね」
にわかにお祭りめいてきた教室を、先ほどと同じように見渡して。
「このクラスはそれなりに自慢出来るクラスだよ」
そして君はその中にちゃんといる、自信を持ちたまえ、と。優しく微笑む。
「……先生」
「よかったね、サラ」
まだ呆としているその隣には、いつのまにか八雲が立っていて、その手をとってそっと握る。
「――さて」
そんな二人の様子に横目で微笑みつつ、混沌としてきた場を再び仕切る絃子。
「盛り上がっているところに残念な話なんだけどね、彼女の出発は明後日だ」
その言葉に、しんと静まりかえる教室。
「要は時間が余りない、ということだ。でもまあ、心配はしていないよ。一日で一生分の思い出を作るくらい、君たち
ならなんてことないだろう」
と言うわけでだ、そう言って取り出したのは、近隣の大型テーマパークのパンフレット。
「明日の予定、ちゃんと空けてあるだろうね――?」
- 293 名前:§5 Long for your embrace :04/06/24 03:09 ID:qmlfIyEQ
- ぐるりと教室を見渡して。
「――私のおごり」
その言葉にどっと沸く教室――しかし。
「……と言いたいところなんだけどね、あいにくと逆立ちしたって全員分は無理だ。だから特別に主役の二人だけ、
ということにしたいんだが」
どうかな、と言うより先に、えー、という声が上がる。もっとも、笑顔から放たれるそれは予定調和の中の抗議、
当然受ける絃子も、フン、と不敵に応える。
「何を言っている。これはね、大きな貸しだよ。何せこの私に散々心配をかけてくれたんだからな、金銭なんかで
返せるものじゃない。きっちりと付き合ってもらう、ということだよ。――これからも、ね」
にやりと笑った絃子の、その最後の言葉に再び沸く教室。
「先生……」
驚いたような、はにかんだような、そんな表情のサラ。そしてそれを優しい眼差しで見つめる八雲。その空気に
満足した様子で、教室が静まるのをしばらく待ってから、もう一つ、と話を続ける絃子。
「これも申し訳ないんだけど、本日午後のこの二人の優先権は私にあるんだ」
悪く思わないでくれよ、という台詞にまたしても上がる不満の声。
「分かりやすいクラスだね……折角のクリスマスイブだよ? 恋人とでも何でも過ごせばいい」
これが火に油を注ぐ、ということなのか、極一部を除いてさらに大きくなる不満の声。『付き合いたい』と『付き合える』
の間には、幾光年もの距離がある――それが現実。世の中なんて、そんなもの。
「ああ分かった、そう騒ぐな、まったく……。なに、君たちにも素敵なプレゼントがあるんだ、それで我慢してくれ」
プレゼント――その単語一つであっさり静まりかえる教室。単純明快さもここまで来るとどうしたものか、とは思うものの、
自分の高校時代を思い返し、そんなものか、と納得して。
「――では私からのせめてもの気持ちだ、しっかり受け取ってもらおうか」
そう言って絃子が取り出したのは――
「通知票かよ!」
――暗転。
- 294 名前:§5 Long for your embrace :04/06/24 03:11 ID:qmlfIyEQ
- /2
「……冗談の分からない連中だ」
「さすがにあそこで通知票はないと思いますよ? ねえ、八雲」
「うん……」
三度巻き起こった教室の紛糾をぞっとするような――比喩ではない――笑顔一つで一掃し、さっさとその作業を終えた絃子。
二人を連れ立って向かう先は約束通りに葉子の待つ美術室である。まったく、と呟くその姿は意外に本気で拗ねているらしく、
まあまあ、とサラになだめられている。
そんな二人を見て、ようやく心に安堵を覚える八雲。確かに、昨日の一件で二人の間のわだかまりはなくなったと思っている。
それでも、本当にたった一日で以前のような関係に戻れるのか――そんな不安は小さく燻っていた。
けれど、それももうどこにもない。目の前で笑うのは、確かにいつものサラ――そう信じられる。
「どうかした? 八雲」
「ううん、なんでもない」
さすがに面と向かって言うのは恥ずかしく、とりあえず取り繕ってみたものの、その向こうではお見通し、といった様子で
にやにやと笑う絃子の姿。抗議の一つもしようとしたところに、目的地へと到着する。
とんとん、という絃子の軽いノックに、いらっしゃい、と顔を出す葉子。
「準備は出来てますから、どうぞ」
その言葉に従って足を踏み入れた教室は、昨日までと違い机が隅に片付けられており、窓際には大きな古ぼけたソファー。
そして、まだ無地で白一色の大きなキャンバス。
「私たちはここ……ですよね」
「うん、そう。適当にお喋りしていてくれたらいいよ、そんなに時間はかけないし」
「……そうなんですか?」
葉子の言葉に小さく首をかしげる八雲。確かに、通常絵画は一時間やそこらで完成するようなものではない。
「あんまり二人の邪魔するのも悪いしね、今日はデッサンだけのつもりだから」
「心配しなくても、彼女の絵の出来は私が保証するよ」
壁にもたれかかりながら、我がことのように確信をもって答える絃子。何せ長い付き合いだしね、と続けられた言葉に、あ、と
サラが反応する。
「お二人は学生時代からのお友達なんですよね」
「うん、そうなるかな」
「もしよかったら、その頃のお話なんて聞かせてもらえると……」
- 295 名前:§5 Long for your embrace :04/06/24 03:12 ID:qmlfIyEQ
- 途端、ぴたりと動きを止める絃子。
「……いや、それはだな」
「いいですね、それ」
教師二人、まったく正反対のその答。
「……聞いてもあまり面白くないだろう?」
「私はそんなことないと思いますけど」
抵抗は試みてみたものの。
「大体、昔の話にいいところないじゃないか、私は」
「そんなことありません。十分過ぎるくらい格好良かったですよ?」
あっさりと翻弄される刑部絃子――そんなものを初めて見た二人は、初めこそ驚いていたものの、やがてなんだか可笑しく
なって笑い出してしまう。
「先生、私その話聞きたいです」
「……私も」
綺麗な援護射撃を受けて、ほら、と微笑む葉子。こうなるとどうやったところで分が悪いのは絃子の方、元より昔から肝心な
ところで葉子に頭が上がらない、というのが始末に負えない。
「分かったよ。まったく……」
折角昨日、と溜息混じりに言いながらも、話すしかないのなら、と気を引き締め直す絃子。
美化することも、卑下することもなく、あの頃の自分たちのことを正しく語ろう――そう決める。
「――もう、ずっと昔の話だよ」
そうやって、絃子はゆっくりと語り出した。
昔々の話、刑部絃子が笹倉葉子という無二の友人を得た頃の話を。
- 296 名前:Classical名無しさん :04/06/24 03:16 ID:gaY3Yrcw
- 支援?
- 297 名前:Nocturne :04/06/24 03:20 ID:qmlfIyEQ
- Nocturne
――その日はお祭りだった。
後になって思い出したとき、サラが抱いた感想はそれだった。
朝一で入場したテーマパーク、次々に乗ったアトラクション、待ち時間の他愛のない会話、数え切れないくらい撮った写真。
語り尽くすことなど出来るはずもない、そんな一生分の思い出が詰まったその日のことを、ただ一言で表わすなら。
――その日はクリスマスで、そしてまさしくお祭りだった。
そう、サラは思う。
そんな魔法にかけられたような長く短い一日、その最後――
「なんだか変な風に気を使われちゃったね」
「……うん」
苦笑混じりのサラの隣には八雲。最後は、と考えてくれたのだろう。友人たちは少し離れた所で一団になっている。一応
引率めいたことをしていた絃子は、現像は間に合わせるさ、と含みのある笑いを残し、皆のカメラとともに一足先に帰って
いった。翌日は用事があるということだったが、晶に委細は任せてあるとのこと。
――そして。
「でも、八雲と二人っきりになれるのなんて、これが最後だもんね」
「サラ……」
まるでなんでもないように告げられたその言葉が、八雲の胸に突き刺さる。
「――でもね」
そんな八雲にその先を続けるサラ。
- 298 名前:Nocturne :04/06/24 03:22 ID:qmlfIyEQ
――ドン。
同時、夜空を切り裂くようにして打ち上がり始める花火。
「私――」
冬の夜空に大輪の花が咲く。
「――八雲に逢えてよかった」
次々と、途切れることなく。
「――私も」
その下で、見守られるようにして。
「サラに逢えて本当によかった」
二人は静かに向かい合う。
ずっと、その魔法がとけるまで――
- 299 名前:§6 I'll be watching you :04/06/24 03:22 ID:qmlfIyEQ
- §6 I'll be watching you ―― Dec.26 Sun.
/1
――翌日、空港。
祭の後には現実がやってくる。それが世の常ではあるものの、予定よりわずかに遅れて空港のロビーに到着した
サラは、まだ自分にかけられていた魔法がとけていないことを知った。
ずらりとそろったクラスの面々に加え、天満、晶を始め、拳児、春樹、美琴に愛理、そして修治の姿までもが
そこにはあった。前日用事があると言っていた絃子を除けば、関わりのあったメンバーの大半が顔を揃えたことになる。
――ありがとうございます。
信じてはいたものの、それが当たり前過ぎてわざわざ祈ることもなかった――そんな存在に、サラは初めて感謝した。
- 300 名前:§6 I'll be watching you :04/06/24 03:23 ID:qmlfIyEQ
- 「よかったね」
驚きと好奇心が先に立ち、クラスメイトのところよりまずそちらに来てしまった彼女を出迎えたのは、天満のそんな
一言だった。三日前、大丈夫と言ってくれたその人の姿に、だからこの人はお姉さんなんだ、そう思うサラ。
――姉さんは姉さんだから。
八雲のはにかんだ笑顔が脳裏に浮かぶ。
「――はい、ありがとうございます」
うん、と頷く天満は満面の笑顔。その横で、次は春樹が口を開く。
「何か言おうと思ってきたのだが……」
その必要はないようだね、と満足げに言う。
「いい顔をしている、それなら……っ!?」
大丈夫、と言おうとしたその首を後ろから美琴に絞められてもがく春樹。
「周防、お前、何を……」
「お前にゃそういうの似合わないって」
なあ、と同意を求めてくるが、さすがに本人を前に頷くわけにもいかず、あはは、ととりあえず笑っておく。そんな
サラに、やっぱりいい子だね、と美琴。
「コイツのことでもいろいろ世話になったね。向こう行ってもさ、そのままでいなよ。それできっと大丈夫だから」
「……はい」
数えるほどしか会っていない、けれどその強さという名の優しさを十二分に見せてくれた相手に、笑顔で頷く。
「……あなたも十分恥ずかしいこと言ってるじゃない」
「いいだろ、別に……それより、私は沢近が来てる方が驚きなんだけど」
呆れた、という顔で横合いから口を出してきた愛理に、逆に言い返す美琴。
「それは……いいじゃない、別に。一度でも会ったことのある相手がいなくなるなんて、寝覚めが悪いじゃない」
そっぽを向いてどこか照れたように言う愛理。確かに、サラからすると花火の際に一度会ったきりの相手、来てもらって
嬉しくない、などということはないが、そこまでしてもらう関係かと言われると首を捻るところ。
「愛理はね――」
「っ、晶! 余計なことは言わなくて……」
「美琴」
「ん」
「ちょ……っ!」
そこに楔を打ち込むのはやはり晶。反論しかかった愛理だったが、その指示を受けた美琴にあっさりと口をふさがれる。
- 301 名前:§6 I'll be watching you :04/06/24 03:23 ID:qmlfIyEQ
- 「愛理はね、心配してたんだよ。自分も似たようなものだから」
「え――?」
「……ああもう、そうよ。悪い?」
言われてしまうと引き下がれないのか、わずかに天を仰いでから開き直る。
「私もね、向こうに残してきた人たちがいるの。でもこちらでも――」
そこでちらりと周囲に視線を走らせてから、恥ずかしそうに言う。
「――その、友人は出来たわ。そして向こうのことだって忘れた訳じゃない。だから」
――だから。
「あなたも胸を張りなさい。決して不幸になりに行くのではないと」
それだけよ、と。最後まで言い切ったその顔はもう真っ赤になっている。
「いいこと言うね、珍しく」
「美琴、あなたね……」
にやにやと笑う美琴に詰め寄る愛理、どたばたがまた始まりそうな雰囲気に、慌てて、沢近先輩、と声をかける。
「あの、ありがとうございます、本当に」
「まあ、頑張りなさい。難しいことじゃないわ」
そう答えた笑顔は、恰好良い、まさしくその言葉がぴたりとはまるものだった……が。
「それじゃ美琴、分かってるわね……?」
「いや待て、さっきのは高野がだな……」
「ごちゃごちゃ言わないの!」
ひょいひょいと逃げ回る美琴に、追いすがろうとする愛理。端からすると微笑ましい光景にも見える。
「あの二人はあれが普通だから」
「はあ……」
淡々とそう言ってから、それじゃまず、と頭を下げる晶。
「ごめんね」
「……先輩?」
- 302 名前:§6 I'll be watching you :04/06/24 03:24 ID:qmlfIyEQ
- 唐突に謝られ戸惑うサラに、そのままで続ける。
「本当はね、刑部先生から聞いて知っていたの。……でも、何もしなかった」
だからごめんなさい、と。頭を下げ続ける晶。
「そんな、先輩は全然悪くないです。全部私が……」
「あなたならそう言うと思った」
そこで顔を上げ、続く言葉を遮る。
「だからこれで差し引きなし、サラも自分のことを悪く言わないで」
そう言ってから、今度は何かがぎっしりと詰まった封筒を取り出す。
「刑部先生から頼まれてた昨日の写真だね」
「……こんなに。よく現像間に合いましたね」
「蛇の道は蛇、だよ」
はぐらかすような返事に、訊いても無駄と経験から判断して、一番上の一枚を抜き取る。
「――これ」
そこに写っていたのは逃げていく野犬、そして安堵の表情で地面にへたり込む自分の姿と黒猫を抱く八雲。
二人が初めて会話を交わした、あの日の光景だった。
「成程、それがサービスね」
「サービス、ですか?」
「ええ。現像してくれた彼がね、事情を話したらそういうことなら、って」
「そうなんですか……」
いつのまに撮られたのかも分からないその写真は、けれど確かに決定的な光景を切り取っていた。それ自体は
褒められる行為ではないにしろ、写真というものに対する情熱は感じられる、そんな一枚。
「それじゃ、まだまだ待ってる人もいるようだし」
初めて見せる――そんな綺麗な笑顔と一緒に、元気で、と締めくくる。
「はい、先輩も」
そんな人に涙は見せられない、とどうにか堪えて笑顔を作って一礼し、次の相手――播磨兄弟のところに向かう。
- 303 名前:Classical名無しさん :04/06/24 03:26 ID:gaY3Yrcw
-
- 304 名前:§6 I'll be watching you :04/06/24 03:30 ID:qmlfIyEQ
- 「お待たせしました、先輩。それに修治君も」
「――おう」
頭をかきながら一言そう答えるだけの拳児にじと目の修治。
「兄貴、こういうときはもうちょっと気の利いたこと言おうぜ……」
「うるせえ。俺はこれでいいんだよ」
「いいんだよ、修治君。来てくれただけで私は十分嬉しいから」
どこか似たもの同士のやりとりに思わず微笑みながら、そんな言葉を返す。
「その、なんだ……世話んなったな、いろいろとよ」
それが精一杯、といった様子で、ありがとよ、と拳児。不器用なその様子は、やはり微笑ましい。
「いえ、私の方こそ楽しかったです」
そう答えてから、それじゃ今度は修治君かな、と話の水先を向ける。すると、途端威勢のよさは影をひそめ、
兄同様に頭をかきつつ、あー、と言葉を探す弟の姿。
そして。
「……俺」
「うん」
「俺、八雲姉ちゃんが好きだけど、サラ姉ちゃんのことも好きだ」
「……修治君」
「だから――」
そこで言葉に詰まってうつむくその頭を、拳児の大きな手がわしわしと乱暴になでる。修治もそれを振り払うことはない。
「ありがとう、修治君」
その胸の奥の葛藤すべてを汲み取れるとは思わない、けれど自分を想ってくれるその気持ちは本物だと感じたから。
「先輩」
「任せとけ。コイツの世話は昔からよくやってる」
なあ、とかけられた声に、うるせえ、とようやく顔を上げる修治。そこにあるのは泣き笑いの表情。
「――また、会えるよな」
問いかけと確認の言葉。
「うん、絶対に」
- 305 名前:§6 I'll be watching you :04/06/24 03:31 ID:qmlfIyEQ
- /2
「もうすぐ行っちゃうんだよね……」
「……うん」
「サラがいないと寂しくなるな」
「何言ってるの、一番寂しいの八雲なんだから。ねえ?」
「え、あ……うん。そう、かな」
「ほら見なさい。それにね、アンタには私がいるんだから、それで我慢しなさい」
「……お前な」
出発までの時間を惜しむように、サラと八雲を取り巻く友人たちの談笑は途切れない。くだらないと言ってしまえば
それまでの、だからこそかけがえのない時間。その中心で一緒に笑いあいながら、この光景を心にしっかり刻みつけようと
辺りを見回す。
「あ……」
その視線が天満のそれと交錯する。笑顔で手を振ってくる彼女にこちらも手を振り返しながら、つい先ほどのやりとり
を思い返す。
最後の一言、それは迷わずに言えたと思う。いつかきっと、この騒がしくも楽しい、そんな喧噪の中に戻ってくる――そう
考えながら再び巡らせ始めた視界に、思いがけない相手が映る。
「――麻生先輩」
ロビーの入り口、たった今着いたというように、肩で息をしているのは広義の姿だった。思わず、ごめんね、と周囲の
友人たちに断ってからそちらに駆け寄る。
- 306 名前:§6 I'll be watching you :04/06/24 03:32 ID:qmlfIyEQ
- 「なんとか間に合ったみたいだな」
「先輩どうしたんですか、私何も言ってなかったのに……」
「店長から聞いた」
店閉めて自分が行く、なんて言い出すから大変だったけどな、と呆れ顔を見せる。
「……で、代わりに預かってきた」
そう言って取り出したのは、一枚の色紙。
「先輩、これ――」
「ああ、店長から常連の客まで総出の寄せ書きらしい」
白い正方形を埋めるのは、びっしりと書き込まれた黒い文字。余白の方が少ないのでは、そう思わせるほどの代物。
「すごいですね……」
「それだけお前が大事にされてる、ってことだろ」
「それはすごく嬉しいんですけど……」
語尾を濁らせてしまうその訳は。
「……確かに意味が分からないな、これじゃ」
ですよね、と言いながら見るそこにあるのは、すべて漢字。中国語を話せない二人にはその意味は読み取れない。
「まあ、向こうに行ったら暇見つけて読んでくれ。それで――」
そこで珍しく言い淀む広義。先輩、と様子を窺うサラの声に、ああ、と複雑な表情を見せてから。
「――帰ってきたときにでも教えてくれよ」
そう言った。
一瞬の沈黙。
- 307 名前:§6 I'll be watching you :04/06/24 03:32 ID:qmlfIyEQ
- 「……先輩」
「……なんだよ」
「それ、誰に言えって言われたんですか?」
その一言に、大きく溜息をついて肩を落とす。
「分かるよな、やっぱり」
「当然です、先輩ってそういうこと絶対言わない人ですから」
それで、誰なんです、と重ねられた問に、店長だよ、といささか投げやり気味に答える。
「手紙で確認取るから言わなかったら、ってな。そこまでするか、普通」
「……店長らしいですね」
どっと疲れた、という様子の広義に、でも、と続けるサラ。
「別に言わなくてもそんなに問題じゃないですよね、それって」
「……まあな」
「それじゃ、先輩の意思で言った、って思ってもいいんですよね?」
またしても、沈黙。
それを破ったのは広義の一言。
「……やっぱお前、変わってるよ」
「いえいえ、先輩ほどじゃないですよ」
そんなやりとりの後、どちらからともなく笑い出す二人。何が可笑しいのか、それもよく分からなかったものの、
しばらくの間そうやって笑いあう。
「じゃあな」
ひとしきりそうしてから、時計に目をやって別れを告げる。
「はい、ちゃんと待ってて下さいね?」
悪戯っぽく言ったサラのその言葉に、小さく、けれど確かに広義は頷いた。
- 308 名前:§6 I'll be watching you :04/06/24 03:33 ID:qmlfIyEQ
- /3
――そして、長かった祭にも終わりの刻が訪れる。
航空機への搭乗が始まり、ロビーの出口に両親と並んで立つサラ。
見送る面々がその正面にずらりと並び、代表するようにして八雲が一歩前に出ている。
「皆さん、お世話になりました」
一人一人の顔をしっかりと見つめながら、背をぴんと伸ばしてサラが言う。
「それじゃ、お別れです――そして、またいつか」
そう言ってから、八雲の方に歩み寄る。
「――じゃあね、八雲」
「うん。またいつか、絶対」
そんな短い別れの言葉、そして契約にも等しい約束を交わし、しっかりと互いの手を握りしめる。その向こうからは、
誰が始めたのか拍手が鳴り始め、やがてそれは万雷の響きとなる。ロビーにいた他の乗客たちが怪訝そうな顔をするが、
鳴りやむ気配をまるで見せない。
「……ありがとう」
その拍手を背に受けて、心の隅に気恥ずかしさを覚えつつ、それでも。
振り返ることなく、サラは搭乗口へと歩き出した。
- 309 名前:§6 I'll be watching you :04/06/24 03:33 ID:qmlfIyEQ
- Finale
「――時間だな」
学校の美術室、窓際の席に腰掛けていた絃子がぽつりと呟く。
「そんなに気になるなら行けばよかったじゃないですか」
それを聞いて、絵筆を片手に苦笑気味に言う葉子。
「こういうのはね、生徒たちだけでやるからいいんだよ。それに私はそこまで気にしているわけじゃ……」
「朝から時計見ながらそわそわしてたじゃないですか。それにあの子たちは気にしませんよ、そんなこと」
きっちりと返され、む、と言葉につまる絃子。
「それで、本当の理由は何です?」
「……」
「お・さ・か・べ・さん?」
「分かった、分かったよ。言えばいいんだろ」
ふん、と言うその顔は、しかし窓の外を向いたまま。
「――みっともないだろう」
「……刑部さん?」
「いい歳して、あまり見せたくないんだよ」
涙なんてさ、背を向けられている葉子にはその表情は見えない。けれど、きっと微笑んでいるのに違いないと
彼女は思う。目の端に涙を浮かべつつ、それでも。
「昔から変わりませんね、そういうところ」
「……そんなものさ、人間なんて」
一呼吸置いて振り返った瞳に、涙の跡は既にない。つまりそれが刑部絃子であると、改めて思う葉子。
- 310 名前:Classical名無しさん :04/06/24 03:37 ID:gaY3Yrcw
-
- 311 名前:Finale :04/06/24 03:44 ID:qmlfIyEQ
- 「さて、私のことはいいとして、だ。君の方はどうなのかな」
そう言って立ち上がり、つかつかと葉子に歩み寄って後ろからその絵を覗き込む。
「ほう――」
キャンパスの中に踊るのは、柔らかな色彩、そして光。薄く塗り重ねられた絵の具が独特の淡い色合いを湛えている。
「いい絵じゃないか、なかなか」
「ふふ、モデルがいいんですよ」
思わず呟いたそんな感想に、笑みとともにそう返す。
モデルとなった少女二人は、穏やかな笑顔をこれ以上の幸せはないといったように浮かべている。
「……でも」
納得はしているものの満足はしていない、そんな様子で首を捻る葉子。
「何か足りないんですよね、まだ」
「ふむ、言われてみればそんな気もするな」
微笑みを浮かべる二人の少女。
窓の向こうの青い空。
しばらくそれをじっと見つめていた絃子だったが、一つのことを思いつくと葉子にそれを耳打ちする。
「あ、いいかもしれませんね」
その言に従い、早速画面に描き入れ始める葉子、やがてそれは在るべき場所に収まった――そんな印象さえ与えるほどに、
キャンバスの上で七色の色彩を放つ。
――虹。
それが欠けていた最後のピースの名前。
「雨上がりの空にはね――」
謡うように呟いて、絃子は窓の外、彼女のいる空を見上げる。
「――虹が架かるんだ」
- 312 名前:Epilogue I :04/06/24 03:45 ID:qmlfIyEQ
- Epilogue I
――懐かしい記憶がある。
窓の向こう、機体の下に広がる白い雲海を見つめながら、彼女は思う。
――まず、何を言おうか。
それはまだ考えていない。
――時間は、もうあと少し。
けれど不思議と不安はない。
――きっと、大丈夫。
そのときになれば、一番相応しい言葉が自然と出てくる、そんな確信めいた予感。
――交わした約束がある。
視界を埋めるのは、果てなく広がる白い世界。
その向こう、今は見えないけれど、やがて必ず見えてくるはずの光景のことを、彼女は想う。
雲のむこう、約束の場所。
二番目の故郷である、その地のことを――
―――――――― Every move you make, Every vow you break
Every smile you fake, Every claim you stake
I'll be watching you. ――――――――
- 313 名前:Every Breath You Take :04/06/24 03:46 ID:qmlfIyEQ
The story is closed, and opened.
――かつて交わした約束と、いつか還るべき場所へ。
と、いうことで。
白とか黒とか抜きにして、あの初登場のイメージをそのまま貫けばどうなるか、それが出発点。
受け入れられるかはさておくも、自分にとってのサラ・アディエマスという形は描けたかと思います。
最後に。
長々とお付き合いして下さった方、お疲れさまです、そしてありがとうございました。
それでは。
……ここまでが事前に用意しておいた後書き、以下リアルタイムです。
終わった、というのが一も二もなくまず、の感想。
支援して下さった方々、大変お手数おかけしました。
経験上もう少しなんとかなると踏んでいたんですが……時間帯も時間帯だったため、申し訳ない次第。
いやしかし、いろんな意味で書くところから最後は投下するところまで、ひたすら疲れました。
しばらくはのんびりしたい、と思いつつ、最後に。
二 章 間 違 え た _| ̄|〇
「§2 Every word you say」だと思って下さい……ラストのFinaleが一つ転けてるのも言わずもがなで……
ではとりあえず寝ます……
- 314 名前:Classical名無しさん :04/06/24 03:48 ID:ShTscBW.
- >>313
嗚呼、うん。
これだ。
これが読みたかったんだ。
多くの言葉は不要。
胸に去来する感謝という名の波動を収束させ一言。
ありがとう。
- 315 名前:Classical名無しさん :04/06/24 03:50 ID:sjS764LA
- すごく楽しく読ませていただきました。
素晴らしい作品を、どうもありがとうございます。
これからのますますのご活躍を、心から願っております。
- 316 名前:Classical名無しさん :04/06/24 03:56 ID:gaY3Yrcw
- 乙ですー。
ここまで完成度の高い作品読めたらもう言うことありません。
サラ八雲、天満もいい味出してますね。
そしておいしいところを持っていくのは麻生w
ではでは、これで一段落ということで、のんびりしてくださいな。
→もう4時ですねー。おやすみなさい。
- 317 名前:190 :04/06/24 10:47 ID:sjS764LA
- >>199 >>200 >>201 >>202 >>203 >>213
皆様、批評・感想、本当にどうもありがとうございました。色々と力づけられました。
たいして文才のない私ですが、これからも精進していきたいと思います。
というわけで、拙作『Without Me』の続編を、投稿させていただきたいと思います。
神のごとき上手さの『Everu Breath You Take』の次、というのは大変緊張いたしますがw
比べられると、下手さが際立つようにも思います……なので、暖かく見守っていただける
と嬉しく思います。
なお、柱について御意見を幾つかいただきましたが、当面は旧作どおりにしていこうかと
思っています。名前欄に書くことも考えましたが、そこは作品の題名でいきたいと愚考
いたしましたので。意見して下さった皆様、ありがとうございます。そして、我が儘を
お許しくださいませ。
それでは、またよろしくお願いいたします。
『Crossing Border』
- 318 名前:Classical名無しさん :04/06/24 10:49 ID:sjS764LA
- 目を閉じるたびにフラッシュバックする、あのシーンのせいで、ろくに寝ることも出来ず。
結局、まんじりとすることもなく、うとうととし出した頃には、東の空がすでに朝焼けに
染まり始めていた。
「八雲、どうしたの?」
充血した目で現れた妹を見て、天満が驚いたような声を挙げて、近寄ってくる。
「うん……ちょっと、眠れなくて……」
「……そう」
何か言いたげに口を開いた彼女だったが、どこかいつもと違う八雲の様子に、かける
言葉を見つけられなかったのか、半端に頷いて、黙る。
そのまま、朝食の席に着く二人。会話もないまま、ただ箸を動かす音だけが狭い部屋に
響く。
チラチラと、こちらを見つめてくる天満。
何かいつもと違うな八雲元気出せ
「…………」
普段ならば、心配させまいと、笑顔の一つも見せる八雲なのだが。
何故か今ばかりは、無理をして、自分を装うのが嫌で。
「ごちそうさま」
だから、逃げるように、食卓から立ち上がる。
「ちょ、ちょっと八雲」
慌てる天満。しかし、聞こえない振りをして。
「お弁当……ここに置いてあるから」
手早く準備をして、靴を履く。
鏡に映った自分の姿を、横目で盗み見る。
硬い、とよく言われる。だけど、今日は、それで良かったと思った。
「いってきます」
小さな声を残して、八雲は家を出る。
追いかけてくる天満の声と、伊織の鳴き声を背に受けながら、彼女は、歩き出した。
いつもより、ほんの少しだけ、速く。
――――それでも、小学生に負けてたり――――
- 319 名前:Crossing Border :04/06/24 10:50 ID:sjS764LA
- School Rumble
♭−β Crossing Borders
季節は容赦なく過ぎ去ろうとしていて、挨拶を交わしながら追い抜いていく同級生
達の服装も、夏服と冬服の両方がいる。
八雲は、まだ夏服だ。残暑はとうに通り過ぎているが、かといって、凍えるほど寒い
というわけでもなく。
猫と同じ、と姉にはよく笑われている。夏の暑さも、冬の寒さも苦手で。
だが今日は、燦々と照る日差しも気にならず。
うつむいた顔にかかる前髪。
そういえば随分と、切りに行っていない。
気分転換に、帰りに美容院に行こうか。ふと、八雲はそんなことを思う。
髪の毛と一緒に、こんな嫌な自分も、振り払ってしまいたい。
- 320 名前:Crossing Border :04/06/24 10:51 ID:sjS764LA
- 好きだ
背中に走る、緊張。慌てて、辺りを見回すと。
ドドドドド、そんな擬音が聞こえてくるかのような勢いで、何故か校舎の方から、
駆け寄ってくる少年が一人。
その名を、花井春樹という。
好きだ
「やあ、おはよう。今日もいい天気だね、八雲君」
言葉を背負いながら、無駄に胸を張って声をかけてくる花井に、八雲は当惑してしまう。
「え、ええ……おはようございます……」
ペコリ。深々とお辞儀をして、彼を視ないようにする。が、一向に立ち去る気配はない。
それどころか、
「うん。体育祭では、八雲君と踊ることが出来なくて残念だったが」
話し始めた彼に、八雲は諦め、そして覚悟を決めて頭を上げる。
好きだ
彼の、思念の強さに圧倒されて、八雲は思わず、半歩、身を引いてしまう。
が、彼女のそんな行動に、花井は気付いた様子もなかった。
そこでふと、気付く。彼がどこか、浮ついた……心ここにあらず、といった態を
示していることに。
好きだ
それでも、八雲を好きだと思う気持ちが、弱まることがないのは、ある意味、立派な
のかもしれないが。
――――花井 春樹、八雲バカ一代――――
- 321 名前:Crossing Border :04/06/24 10:49 ID:sjS764LA
- 「時に、八雲君。尋ねたいことがあるのだが」
逆光に、人差し指で軽く持ち上げた眼鏡がキラリと光る。
何をだろう。思いながら、小さく、はあ、と声を漏らす八雲。
「他でもない、播磨のことなんだが」
冷たい手が、心臓を握ってきたような、そんな衝撃。
口の中が一気に乾いてしまう。普段から動きの鈍い舌が、完全に止まってしまって。
漏れそうになる驚きの声を、喉で必死に留めようとする。
まさか、この時、この場で、この人から、彼の名前を聞くとは思っていなかったから。
「奴が色々と、迷惑をかけていたんじゃないかい?」
「……そんなことは……」
例え、そうであったとしても、貴方が言うことではないのではないか。
無意識に浮かんだ考えに、八雲は少し、驚く。
それは小さな、本当に小さな反発。
だけど、姉以外の人間を悪く言われて、そんな風に思ったのは初めてのことで。
「屋上で、キ、キ、キ、キ……」
猿のように、しばらくうめいた後、やっと、花井は言葉を繋ぐ。
「キ、キスをされそうだったじゃないか」
「……え……?」
『ここでキスしちゃってもいーかな?』
『え……あ、ハイ……いいと思います』
――――5巻、p85。花井、まだ勘違い中――――
- 322 名前:Crossing Border :04/06/24 10:51 ID:sjS764LA
- 「あ、あれは……その、違い、ます……」
播磨との、やりとりを思い出して、八雲は頬を染める。
確かにあの時、誰かの思念を感じたような気がしたが、それが花井のものだとまでは
わからなかった。
……二人きりだと、思っていたのに。
また心に生まれる棘。
変だ。常ならぬ動きを見せる自分の心に、驚き、戸惑う八雲。
さざなみが、生まれる。普段は鏡のように穏やかな想いの水面に。
「……クク……ククク……」
唐突に、含み笑いを浮かべる花井に、八雲は思わず体を強張らせる。
「アッハッハ、いや、勘違いをしてしまって、すまない、八雲君」
何が、ですか。
問いかける前に、また口を開く花井。
「そうだよなぁ。八雲君が、キスを許すなんて、そんなことがあるわけないものな」
ザワッ。
左胸の奥に走る、嫌な感触。微かに、眉を顰める八雲。
立ち去りたい。ここを、一刻も早く。
だが。
「それに、播磨は沢近のことが好きらしいからな」
- 323 名前:Crossing Border :04/06/24 10:52 ID:sjS764LA
- 揺れる。揺れる。
炎が、揺れる。
揺れる。揺れる。
少女が踊る。
彼が踊る。
照らされて、ゆっくりと。繋いだ手を離すことなく。
足をわずかにひきずる彼女。彼は、気遣うように、労わるように、優しい顔を時に
見せていて。
「うむ。まさか、あいつが沢近のことを……応援しないとな……」
花井の言葉が、徐々に、徐々に遠くなる。
落ちていく、意識。深い闇に引きずられて。
ぽっかりと開いた穴。黒を生み出し、心を埋めていく。
どうして?
わけもわからぬまま、翻弄される八雲。
ただ感じるのは、これが、彼の話を聞いたからだ、ということだけ。
- 324 名前:Crossing Border :04/06/24 10:53 ID:sjS764LA
- 「八雲君?」
かけられた声に、ハッと気付くと、すぐ目の前に花井の顔があった。
驚いて体を強張らせる八雲に気付かず、彼は笑いながら、軽く彼女の肩を叩いてくる。
「まあこれで、播磨が八雲君にちょっかいを出してくることもないだろうし」
そしてまた、笑う花井。
八雲は唇を軽く、噛み締める。
「良かったな、八雲君。もう無理に、あいつと顔を合わせる必要はないんだ」
キッ。
常はどこか遠くを見つめているかのような八雲の瞳が、鋭く光り、花井を睨みつける。
凛と一文字に結んだ唇、寄せられた眉。
血と共に、火が流れているような感覚。
指先の、細胞の一つまで、燃え盛れとばかりに、熱くなってくる。
「…………」
そして、開いた口から、心の叫びが、たぎろうとした瞬間。
「八雲!!おはようっ」
- 325 名前:Crossing Border :04/06/24 10:53 ID:sjS764LA
- 「あ……」
かけられた声に、行き場を失った炎は霧散し、言葉は生まれることなく、宙に
吸い込まれていった。
「サラ」
金の髪に朝の光をまとわせながら、駆け寄ってくる友の姿。
あの熱が嘘のように、嘘のように、心は落ち着いてきていて。だが、今度は奇妙な
虚脱感が、体を支配する。
「やあ、サラ君。おはよう」
「おはようございます、花井先輩」
にこやかに笑う彼女に、彼もまた笑顔で返す。
そこに、悪意は欠片もなく。
わずかに目を細めて花井を見る八雲は、激情に流されずに済んだことを、親友に
感謝する。
あの時、自分が何を言うつもりだったのか、はっきりと覚えているわけではない。
だが、口にしてしまえば、花井だけでなく、己すらも傷つけていただろうことは、
はっきりとしていて。
こうして、一歩離れて見れば、わかる。彼は決して、八雲を傷つけようという意思等、持っていない。
ただ、ほんの少し、不躾だっただけ。それも、責められるほどのものではなく。
「それじゃあ、私達、行きますね、先輩」
「うむ。良い日を、な。八雲君。それに、サラ君も」
莞爾と笑い手を振る彼に、軽く頭を下げつつ、八雲を引っ張るようにその場を立ち去る
サラ。
手を引かれながら、八雲は、改めて思い、そして言葉を彼女に送る。
「ありがとう、サラ」
振り向いて笑った彼女の顔は、同性の八雲がほんの一瞬、ドキッとするほど、可愛い
ものだった。
――――サラの笑顔、信者多し――――
- 326 名前:Crossing Border :04/06/24 10:54 ID:sjS764LA
- 「……どこ、行くの?」
ずんずんと引っ張られていくうちに、自分達が教室に向かっていないことに気付く八雲。
このまま行くと、茶道部の部室につくだろう。
「一時間目、さぼっちゃお、八雲」
「……え……」
どちらかといえば優等生なサラの口から出た言葉に、八雲は驚きの声を上げる。
だが構わず、彼女は手を引き続ける。一度だけ、横顔で微笑み、頷いて見せただけで、
何も言わず。
……さぼる、か……
だんだん勉強は、難しくなってきている。加えて、どこでも寝てしまう体質が災い
してか、授業を欠席しがちでもある。
しかし。
八雲は彼女に抗うことなく、歩み続ける。
授業に出るのが嫌になったわけではない。ただ、一人になりたくなかった。机に
向かっている間は、皆と一緒にいても、孤独だから。
心落ち着く存在の側に、いたかったのだ。
ましてや、優しいサラが、自分のことを案じてくれているのであれば、どうして断る
必要があるだろうか。
もう一度、彼女は小さく呟く。
「ありがとう、サラ」
――――八雲、人生初めての自主休講――――
- 327 名前:Crossing Border :04/06/24 10:54 ID:sjS764LA
- サラが入れてくれた紅茶を、一口飲む。
口の中に広がる香り。ほんの少し入れたミルクが、舌触りを滑らかにしている。八雲の
好みに合わせて、それほど甘さはない。砂糖は、ほんの一さじ。そして少しのシナモン。
茶道部に誘われた時に、サラが入れてくれたものと、同じようで、だけど微かに違う。
目を閉じ、香りに身を包まれて気付く。前の時よりも、穏やかで、優しい。
微笑を浮かべながら、サラが種明かしをする。茶葉が違うのだ、と。
「どう?落ち着いた、八雲?」
不思議と和む匂い。まだわずかにさざめいていた心が、癒されていく。
コクリ。頷いて、カップをもう一度、口に運ぶ。
紅茶のぬくもりが、友の優しさそのものに思えて。
八雲は、体の奥底から暖められた、そんな感覚に包まれる。
「じゃ、ちょっと、話そうか」
自分の分の紅茶を入れた後、八雲の向かいの椅子を引いて座るサラ。
そして、慈母のような眼差しで、見つめてくる。
「何があったの?八雲」
何があったのだろう、自分に。
それを知りたいのは、八雲自身だった。昨日から、私はおかしい。
もっと正確に言うならば。
あの時。
踊る二人を、見た瞬間から。
おかしくなってしまっている。
- 328 名前:Crossing Border :04/06/24 10:56 ID:sjS764LA
- 黙りこくってしまった八雲に、サラはわずかに苦笑して、質問を変えてくる。
「さっき、花井先輩に、何を言われたの?」
ますます俯いてしまう八雲。だが今度は、待つことなく彼女は言葉を繋げてきた。
「八雲、すごく怖い顔してたよ」
「……そんなに……?」
「うんうん。こんな感じ」
言ってサラは、両の人差し指で、眦を引っ張り上げる。怒った様を表しているのかも
しれないが、彼女がやると、ただ可愛いだけで。
クスッ。八雲は思わず、微笑する。
「あ、笑ったな」
こいつめ。言いながら、手を伸ばし、人差し指の先で八雲の頬を突っついてくるサラ。
身をよじって避けようとしても、体を乗り出してまで追っかけてくる。
しばしの間、じゃれ合う。響く、笑い声。
「もう、大丈夫みたいだね、笑えるなら」
椅子に座り直しながらの彼女の問いかけに、八雲はコクリと頷く。
正直、適わないと思いながら。
彼女は自分のように、人の心が視えるわけではないはず。
なのに、まるで伝わっているかのように、はっきりと読み取ってしまう。相手の想いを。
そして、今も。
八雲を支えてくれている。その、穏やかな微笑で。
「で?何があったのかな?」
見つめられているだけで、彼女の腕に抱きしめられているかのよう。
だから、八雲は、頬を緩めて。
重い口を開ける。
自分の中に、言葉を探しながら。
- 329 名前:Crossing Border :04/06/24 10:58 ID:sjS764LA
- それほど、内容のつまった話だったわけではない。
だが、八雲が自分の想いを、より正確に伝えようと、様々に惑いながら言葉を選んだ
せいで、話し終わった時には、一時間目終了の予鈴まで、後五分となっていた。
遅々として進まない彼女の話に、辛抱強く聞いていたサラは、今、黙りこくったままだ。
そして、八雲も。
すでに普段の彼女の一日分の言葉を、費やしただろう。軽い疲労と、しかし、それに
勝る爽快感を感じていた。
心は随分と、軽くなっている。言葉にすることで、鬱々とした気持ちを吐き出すことが
出来たのかもしれない。
そして、闇が消えた心に残る、想いは……
「ええと、八雲?」
やや歯切れの悪い物言いで、サラが問いかけてくる。
不思議なほど、落ち着いた気持ちで、彼女に向かい合う、八雲。
「つまり、さ……昨日、播磨先輩と沢近先輩が一緒に踊っているのを見てから、
落ち着かなくて」
八雲は、ゆっくりと首を縦に振る。
昨日の夜から今朝まで、あんなにも動揺していたのが嘘のようだ。こんなにも、冷静に受け止められるようになるとは。
- 330 名前:Crossing Border :04/06/24 10:58 ID:sjS764LA
- 「さっき、花井先輩からも、そんな話を聞いて、思わず怒っちゃった、と」
もう一度、同じ動作を繰り返す。
先ほどまでの、情緒不安定な彼女は、もういない。そこにいるのは、事実をありのままに受け入れた少女。しゃんと背筋を伸ばして、椅子に落ち着いている。
そんな八雲を見るサラが、今度はどこか迷っているかのようで。
おずおずと、口を開く。
「ねえ、八雲。わかってるの?」
三度、彼女は頷く。
はっきりと。
その様を見て、ほっと、肩の力を抜くサラ。そして浮かべる笑みは、深く、慈しみに
満ちていて。
「そう。そうなんだ、八雲」
「……うん……サラ……」
笑う、八雲。
その笑顔は、今までに見たどんな表情よりも輝いていると、サラが感じるほど、美しいもの。
薄い桃色の唇が、紡いだ言葉。それは。
「私……播磨さんのことが……好き……」
――――そして少女は、一歩を踏み出した――――
- 331 名前:190 :04/06/24 11:04 ID:sjS764LA
- また上げてしまった……申し訳ありません。
終わりまで読んでいただければわかるかと思いますが、実はこの話、まだ続いたり
します。
こんな拙い作品ですが、批評をいただけると、嬉しく思います。
どうか、よろしくお願いいたします。
P.S.私は別に、花井を嫌っていたりしませんw 確かに扱いはやや悪いですが、
まあ話の流れということで。
- 332 名前:Classical名無しさん :04/06/24 11:31 ID:ZpESnkKI
- 乙ー。
なかなか熱情的な八雲ですな。
続きが気になります。
沢近だけでなく、姉との対決もありますかね?
- 333 名前:Classical名無しさん :04/06/24 11:45 ID:jIR8Dyqc
- >>313
長編おつかれさまです。
手に汗握って読んでました。
やはり長編は連載ではなく一度に読むと最高ですね!
- 334 名前:Classical名無しさん :04/06/24 12:02 ID:6gWpwnUI
- >>313 お疲れ様でした。
こんなSSを書けるように精進します。
- 335 名前:Classical名無しさん :04/06/24 12:54 ID:F4v0FbcA
- >>313
お疲れ様です。
素晴らしい作品です、とても良かったの一言です。
>>331
お疲れ様です。
こういう八雲も良いですね。
続き期待してます、私も対決があるといいなぁと思ってます。
- 336 名前:Classical名無しさん :04/06/24 13:00 ID:fn86/Of2
- >>331
GJ!
相変わらず可愛い八雲を描かれますね。
心理描写とても良いと思います。
これからどのように盛り上がっていくのか楽しみに待ってますよ。
- 337 名前:Classical名無しさん :04/06/24 17:29 ID:sFhja0ko
- >313
むしろ天満に萌えでした。
お姉ちゃんパワー大炸裂でしたね。
それから、お腹が空いた播磨が台所を漁りに行った所をサラにみつかり、
「どろぼー!」っていう展開を希望
- 338 名前:Classical名無しさん :04/06/24 18:54 ID:TShaintE
- >>313
忘れてました。
School Rumble は2つの最終回があることに、
まさにコレは♭の最終回と呼ぶに相応しいと思えます。
素晴らしい長編、お疲れ様です。
- 339 名前:313 :04/06/24 22:33 ID:qmlfIyEQ
- 一晩明けて見返して、なんともはや、と思いつつ、久方ぶりのレス打ち。
>206
実力……と呼べるようなものがあるかは分かりませんが、やりたいことはやったつもりです。
あとは気に入っていただけるか否か、ということで、神のみぞ知る、とかなんとか。
>215
三十分どころの騒ぎじゃありませんでした。己の見通しの甘さにぐんにょりです。
>252
あっさりばれるリベリオン、そして実はノベライズは出版されてないんですよね、これ。
おかげでDVDを購入したり。
>314
そこまで言っていただけると、嬉しいやら恥ずかしいやらもうよく分かりません。
むしろありがとうはこちらの台詞です。
>315
普段が短いものばかりのため、どんと一発やらかしてしまったのでしばらくまったりしそうです。
書きたいものはきっとまだまだあるし、増えていくと思いますが……
>316
むしろ一番おいしいのはやはり教師コンビですよ、と主張してみます。
思っていた以上に『主役』を張ってくれました。
- 340 名前:313 :04/06/24 22:35 ID:qmlfIyEQ
- >333
連載、一括、どちらがよいかは時と場合によりけり、です。
これも切れ目切れ目ははっきりしていたので、連載でもよかったのですが、そうすると書き上がるか不安だったため、
というのが顛末です。その辺の匙加減も考えないと、と思ったり。
>334
や、自分のは山無し落ち無し萌え無しの平坦構造、このスレに目指すべき人は他にたくさんいますよ。
いえ、本当に。
>335
長さにかまけて、という部分もあったかもしれませんが、喜んでいただけたならそれ以上のことはなく。
>337
先生!それどんな展開ですか!
>338
ひっそりコンセプトとして『最終回』はあったので、そう思ってもらえると嬉しいです。
実際はこういう重い部分なんてすっ飛ばして、綺麗にあっけらかんと終わってくれると思いますが、それはそれで。
書きたいものを、が根底にあるのは当然ですが、やはり喜んでもらえると存外に嬉しいものです。
何度も繰り返しになりますが、ありがとうございました。
――では、またいずれここでお会い出来れば。
- 341 名前:Classical名無しさん :04/06/24 23:25 ID:o5z0EXIs
- 体育祭の後片付けも終わって、レクリエーションのオクラホマミキサーが始まった。
私には、どうしても一緒に踊って欲しい人がいた。
幾度かの踊りの誘いを断りつつ、私は踊りの輪の中にあの人を探す。でも、なかなか見
つからない。
ようやく見つけたのは夕日も沈んだ頃だった。あの人は輪から外れた隅の方で一人寂し
く座っていた。声をかけたかったが、何となく躊躇われた。彼はなにか悲しそうに遠くを見
つめていたから・・・
そっとしておくべきかなとも思う。
でも・・・
───あの人と一緒に踊りたい───
その気持ちが勝った。勇気を振り絞り、彼を誘おうと近づく。
そして・・・
「踊るわよ」
彼を誘ったのは私ではなかった。
───沢近先輩!?───
私は知っている。彼女は彼と一緒のクラスで・・・
とてもいい人で・・・
とても綺麗な人で・・・
そして、男の子達に人気のある人・・・
踊りの輪の中に入っていく二人。私にはその二人がとても幸せそうに見えて・・・
私はあの人のそんな姿を見ていたくなかった。
気が付いたら家に帰っていた。
そのまま布団に入る。今日のあのことをどうしても忘れたくて。
- 342 名前:Classical名無しさん :04/06/24 23:27 ID:o5z0EXIs
朝。顔を洗おうとして、鏡に映った自分の目が真っ赤に充血しているのに気が付いた。
───あぁ・・・私、泣いてたんだ・・・───
あのことを忘れたくて早く布団に入ったのに、寝ていてもそのことは心から離れなかった
みたいで、胸が痛くなる。
学校へと向かう道。花井先輩に呼び止められた。いつもなら先輩が近づいて来るのは
わかるはずだけど、今日は気が付かなかった。多分、あの人のことで心がいっぱいだっ
たから。
「単刀直入に聞こう!八雲君。君と播磨のヤツは付き合っているのかね!」
(播磨と付き合っているのかね!)
いつもの通り、心の声と現実の声がステレオで聞こえてくる。二つの声が私の心に鋭く突
き刺さる。
「・・・いえ、違い・・・ます・・・」
胸の痛みに耐えながら何とか声を絞り出した。
「そうか!それを聞いて安心した!いや、つまらないことを聞いてしまって悪かった!」
嬉しそうに高笑いをしながら去っていく花井先輩。
それを見つめながら、今までの播磨さんとの大切な思い出を反芻する。
これまで、何とか播磨さんの心が見えるようにと必死に努力してきたつもりだった。
でも、もう彼の心は見えないだろう。播磨さんの心の中には、私の入る余地なんて殆どな
いのだろうから・・・
けれど・・・けれど、私は努力を止めない。
播磨さんが私のことを想っていなくても、私が彼のことを想っているという事実が変わる
わけではないのだから。
───今日からはもっと頑張ってみよう───
そう考えると少し心が軽くなった気がした。
- 343 名前:Classical名無しさん :04/06/24 23:30 ID:o5z0EXIs
- 色々悩んだけど、せっかく書いたんだからと書き逃げ。スマソ。
- 344 名前:331 :04/06/25 09:35 ID:sjS764LA
- 皆様、感想をどうもありがとうございます。
>>332
改めてみると、八雲が別人のように見えますね……反省。
>>335
続き、書きました。対決は……お楽しみ、ということで。
>>336
可愛い……ありがとうございます。盛り上がらせることが出来るように、
頑張りたいと思います。
それでは、『Without Me』『Crossing Border』の続編です。
『She wants to move』
- 345 名前:She wants to move :04/06/25 09:36 ID:sjS764LA
- この想いに、気付かない方が、良かったのかもしれない。
そんな風に思うこともあった。
痛みを知らないですんだのだから。だけど……
School Rumble
♭−γ She wants to move
ふとした瞬間に思い出す、彼の顔。真面目な表情で、描いた漫画の感想を求めてくる姿。
それは、普段の様からは全く想像できないもので。
授業中に何度も、メールを確認する。センターに問い合わせては、空っぽのBOXに小さく溜息
を付いて。
机の上で組んだ腕に、顔を埋める。
『トーン処理』
そうサブジェクトのついた初めてのメールは、消えないようにしっかりと保存してある。
勿論、その後に幾度か届いたものも、全部。
内容など、あったものではない。ただ、何時、暇か。どこで会うか。用件だけ書かれた簡潔な
ものだ。それでも。
確かな絆のように思って、八雲は。
何度も見直しては、そっと、ほんの少しだけ。
誰にも気付かれないぐらいに、顔をほころばせるのだった。
- 346 名前:She wants to move :04/06/25 09:38 ID:sjS764LA
- 『すまねぇな、妹さん』
『いえ……』
あの日、偶然に彼と出会い、そして原稿の感想を求められ。
メモ用紙に書いて渡された携帯の番号と、メールアドレス。
それはとても簡単なものだったので、八雲はすぐに覚えられたのだけど、それを口に出すこと
はせず、渡された紙をじっと眺めたものだった。
その紙を、バイトの休憩時間が終わりに近づいていたので、慌てて万石のサイン色紙の裏に
セロテープでとめたのだが、すっかり忘れてしまっていて。
『あれ?これ、誰の番号?』
先に気付いたのは、渡したサイン色紙を興奮に髪を揺らしながら見ていた天満だった。
『…………!』
慌てて天満が手にした髪を奪い取る。それはもう、普段の彼女からは想像できないほどの速さで。
『……!ごめんなさい』
呆気に取られる姉の顔に、自分が何をしたかを思い出し、顔を暗くする八雲。
『と……友達の……だから……』
『あ、そうなんだ。ごめんね、八雲』
姉とはいえ、知られたくないことだってあるよね。そう言って、満面の笑顔を見せる天満に、
八雲はわずかな罪悪感を抱く。
彼が言っていたことを思い出したのだ。女に携帯番号を教えるなんて、初めてだ、と。
天満は、八雲の姉であると同時に、播磨の同級生でもある。だから、知られてまずいことは、
決してないはず。
そのはずなのに。
あの時は、自分でもよくわかっていなかった。どうして、教えたくない、などと思ってしまった
のか。
今は……少し、わかる。
自分だけのものに、しておきたかったのだ。
私だけ、という特権。
――――八雲、恋する乙女モード発動中――――
- 347 名前:She wants to move :04/06/25 09:39 ID:sjS764LA
- 自らの胸に潜んでいた想いに気付いてから、三日が経った。
待ち人からのメールは届かず、顔を合わせることもなく。
それは今までと、何の変わりもない毎日だったはず。なのに、何故かとても、味気ないように
思えて。
変わったことと言えば、もう一つ。
言い寄ってくる男が増えてきたようだった。
「それはね……」
サラにそのことを言うと、苦笑を浮かべながら、教えてくれた。
「ほら、あれ。あの噂」
単語だけで、わかる。沢近と播磨がデキている、という噂だ。
悲しそうに眉を顰め、うつむく八雲。サラもつられて、一瞬、黙りこくるが、すぐに言葉を
繋げる。
「それで、沢近先輩を狙ってた人達が、今度は八雲に目を向けてきた、ってこと」
「……?」
繋がりがよくわからず、目をしばたかせると、また彼女が浮かべる、苦笑。
「わからないなら、いいよ。知らなくてもいいことだから」
そして見つめられる。優しく。
軽く首をかしげると、今度は微笑まれる。
よくわからなかったけれど、サラが笑っているならいい。八雲は思い、それ以上、考えるのを
やめた。
――――八雲、恋愛音痴は変わらず――――
- 348 名前:She wants to move :04/06/25 09:39 ID:sjS764LA
- 「それよりも、八雲。ずっとメール待ってばかりじゃなくて、さ」
意図的に、なのかもしれないが、サラは話題を変えてきた。
「こっちから送ってみたらいいじゃない」
カーッ。瞬時に紅潮する八雲。スカートを掴んだ手に、力が入る。しわがよるぐらいに。
ドクンッ、ドクンッ
跳ね、暴れる心臓。破れないかと、心配するほどに。
「可愛いな、八雲は」
机を挟んで向かい側に座るサラが、そっと顔を寄せてきて。
覗きこむ。間近に見た、濃紺の瞳に、余計に熱くなる頬。
「まだ、そこまでは、出来ないか」
サラの吐息が鼻にかかる。
それはどこか芳しく、紅茶の匂いがした。
八雲も、考えないではなかったのだ。
だが、自分の恋心と向かい合って、認めることが出来たからと言って、簡単に変わることが
出来るわけではなくて。
受信トレイにある、彼から送られたメールとは別に、保存されたメールがある。
下書きのまま、眠っている未送信のメール。八雲が寝れない夜に、思いのまま親指を動かし、
作り上げたそれは、今でも送信されることなく、残り続けている。
『播磨さんの漫画、私は好きです』
そう末尾に記されている。元は、『漫画』という単語は、『ことが』だった。
自室で頬を染めながら、打ち直したにも関わらず、未だ想いは、携帯から飛び立つことなく、
翼を休ませている。
彼からのメールが届いたのは、それから一週間後のことだった。
――――播磨からのメールだけ、着メロは別――――
- 349 名前:She wants to move :04/06/25 09:40 ID:sjS764LA
- 「いやぁ、毎度毎度すまねぇな、妹さん」
「あ……いえ……」
真向かいにドカッと座った播磨の一言に、八雲は微かに頬を染めて、頭を振った。
少しずつ秋の匂いが近づいてきているにも関わらず、彼は相変わらずの白のタンクトップに、
七分丈のジーンズ、足元はつっかけ。そしてトレードマークになった帽子。
対する八雲は、白地に、薄い赤の水玉のタンクトップの上に、淡い桃色のヘンリー、そして
白のミニスカート。唇を彩る桃のグロスは、今日のためにサラと買いに行ったもの。
「今日はバイトじゃないのかい?」
「えっと……休み、だったんで……」
本当は、バイトが入っていた。
以前までなら、休憩時間に喫茶店を抜け出して会い、用件を済ませていたのだが。
『え?休みたい?』
『あの……早く上がらせてもらうだけでもいいので……』
少しのんびりしたところがあるが、普段は何一つ文句を言わず、黙々と働く八雲の、珍しい
我が儘に、店長は少しうなった後、
『まあいいや。代わりの人は、こっちで探しておくから』
『……ありがとうございます』
深々と頭を下げた八雲に、彼は笑いながら言った。
『デートの予定でも入った?相手は、前に来た、あのサングラスの人?』
『……!!』
『あ、やっぱり?何だか嬉しそうな顔、してるからさ』
まあ頑張ってきなよ。言って、もう一度笑う彼に、八雲は再び、しっかりと頭を下げた。
渡された原稿を、一枚、また一枚とめくっていく。
その八雲の姿を、じっと見つめる播磨の様は、まるで睨んでいるかのよう。
時折、視線を感じて目を上げると、
「あ、いや!すまねぇ!!俺、こっち向いとくなっ!!」
慌てて言って、背中を向けてしまう。
- 350 名前:She wants to move :04/06/25 09:41 ID:sjS764LA
- 最初は確かに、怖いと思った。今でも時々、あまりの視線の強さに、そう感じることはある。
だが、それだけ真剣なのだということが、理解できるようになってきた。
そう考えてみれば、当たり前なのかもしれない。
今まで、人に見せるために絵を描いたことはないが、もしもそうなったとしたら、自分も彼
ぐらい、真剣になるだろうと思ったから。
いや、絵に限らない。お茶を入れるのだって、同じだろう。御飯を作ることだって。
チラリ。
筋肉隆々の大きな体を縮めて、小さな椅子に座り、テーブルの上に置かれたままのアイス
コーヒーをストローで吸うその姿が、妙に可愛く思えて。
クスッ。微かに、笑う。そして。
またおにぎり……食べてくれるかな……
「んっ!?な、何か、おかしなところ、あったか!?」
その笑顔を勘違いしたのか、身を乗り出し、肩を掴んでくる播磨。強い握力に痛みを覚え、顔を
しかめる八雲。
「あの……痛い……です」
「お、おっと、すまねぇな、妹さん」
冷静さを取り戻し、椅子に座りなおす彼の、その大きな手に目を奪われる。
まだ、肩に残る熱。つい、ほんの一瞬前まで、触れられていたのだと思うと。
もう少し、あと少しだけ、あのままでも良かったかも……
自然と浮かんでくる考えに、早くなる鼓動。ドクン、ドクンと音が耳元で聞こえる。
サングラスで隠れて、見えない瞳が、じっと自分から離れないのを意識しながら。
まだ少し、怖い。だけど、嬉しい。八雲はふと、そう思った。
――――ある意味これも、『吊り橋効果』なのかも――――
- 351 名前:She wants to move :04/06/25 09:41 ID:sjS764LA
- 「いやぁ、いっつも、妹さんの助言はありがたいぜ」
トントン、と原稿をテーブルの上で揃えながら言う播磨。
「……はぁ……」
小さく呟いて頷く八雲、しかしその目元は微かに赤く染まっている。
胸の内にゆっくりと広がっていくぬくもり。暖かなそれを、逃さないように、そっと胸に手を
添える。
「けど、何だな、いっつも俺の我が儘、聞いてもらってばっかで、悪いな」
「あ……いえ……そんなことは……」
どこか申し訳なさそうに言う播磨に、慌てて八雲は彼の言葉を打ち消す。
だがその後に続けて何も語ることが出来ず、落ちるぎこちない沈黙。
自分の不器用さを責める八雲。いつも、肝心なところで……
「あー、その、何だ」
鼻をかき、明後日の方向を見つめながら、播磨が口を開いた。
「何か、俺に出来ることってねえか?」
「え……?」
「まあ、その、何だ。恩返しってやつだな」
彼の心は、視えない。だけど、わかった。照れているのだ、と。
ふっと、表情を和らげる。本当に、この人の前だと自分は、普通の女の子でいられる。
だからこそ苦しいこともあるのだけれど……それもまた、至福。
「そんな……気にしないで下さい……」
「いや、そういうわけにはいかねぇ」
遠慮をする八雲に、しかし播磨は何故か胸を張って。
「借りはちゃんと、返さねぇとな。漢として」
「男……ですか」
小首をかしげる。
言っていることは、よくわからない。だが、感謝されているのだと知って、悪い気はしない。
問題は、一体何をしてもらうか、ということなのだが。
顎に手をあてて、考え込む八雲。じっと黙って、彼女を見つめる播磨。
「……!」
突然、閃いたことを、八雲は口に出す。
「動物園に……連れていって下さい……」
- 352 名前:She wants to move :04/06/25 09:42 ID:sjS764LA
- 「お帰り〜八雲」
「……ただいま、姉さん」
挨拶もそこそこに、自室に戻る。
着替えることもせず、ベッドに倒れこむ八雲。
ニャ〜オ。毛布の上で丸くなっていた伊織が、抗議するかのように一声、鳴いた。
「動物園……?」
訝しそうな表情を浮かべる播磨に、
「あの……ピョートル達に……久しぶりに、会いたくて……」
ふと、思い出したのだ。彼と知り合うきっかけになったのが、キリンのピョートルだという
ことを。
そして気が付くと、言ってしまっていた。自分の口にしたことに顔を赤らめながら、しどろ
もどろになりつつも、何とか言いたいことを説明しようとする八雲。
もっとも、逆にその方が良かったのだろう。下手に考えるとまた、いつものように、舌が
回らなくなってしまっただろうから。
「そりゃ構わねぇぜ。あいつらも、妹さんに会いたがってたみたいだしな」
軽い、播磨の答え。
それでも、八雲は、とても嬉しくて。
ニコリと、笑ったのだった。
目を開けると、窓に差し込む、白い月の光。
いつの間にか、寝てしまっていたのだろう。枕元では先ほどと変わらぬ姿勢で眠る伊織の姿が。
起こさぬようにそっとベッドを出て、窓を開ける。
スズムシの奏でる音色が、遠くから響いてきていた。
――――リーン、リーン、リン――――
- 353 名前:She wants to move :04/06/25 09:42 ID:sjS764LA
- そういえば、こんな日だったな。月を見上げながら、八雲は記憶の海をたゆたう。
キリンのピョートルを連れ出して、夜中の公園で遊んでいて。
突然、走り出した彼を追いかけて、見かけたのが最初だった。
彼はもう、そんなことなど忘れているだろう。そもそも、覚えてなどいないかもしれない。
機会があれば。ふと、八雲は思う。
教えてあげたい。あの時、そこに自分がいて、それが出会いだったことに。
マァオ
足にまとわりついてきた伊織の体をそっと持ち上げ、胸に抱く。左手で彼を支えながら、右手で鞄の中から携帯を取り出す。
新着メールが、一件。開けると、サラからのものだった。
今日の首尾を問うてきたそれに、簡単に返信する。
『また明日、話します』
ちょっと悩んで、最後に、絵文字のハートを入れる。
自分のキャラでないとは知っている。だが、今の自分の気持ちを過不足なく表してくれている
かのように思って。
そして、もう一件。
送ることが出来ずにいた、メール。下書きのそれを送ろうとして、思いとどまる。
何度も考えて、結局、出来上がったのは。
『今日は、楽しかったです。動物園、私はいつでもいいので、播磨さんの予定に合わせます』
そんな簡潔なもの。元からの文は、結局、末尾だけ。
『播磨さんの漫画、私は好きです』
今は、これでいい。
動物園に行くのも、きっと、デートなどと彼は思っていないだろう。
だけど、それで十分だと、八雲は思っていて。
心が芯から暖められていく。自然と、笑顔になる。
もう一度、彼女は空を見上げた。
彼と出会ったあの日と同じ月が、優しい光を、彼女に投げかけてきていた。
――――次回、動物園デート――――
- 354 名前:344 :04/06/25 09:45 ID:sjS764LA
- 相変わらず、八雲が別人のようになってしまいました……
いかがだったでしょうか?楽しんでいただけたなら、幸いです。
末尾に書きましたように、次回は動物園デートです。
- 355 名前:Classical名無しさん :04/06/25 10:40 ID:fab4xAPk
- GJ!
なんか萌えが強化されてきたような(*´Д`)
八雲描くの上手いですね。
続きが楽しみです。
けど柱はいらないかもしれない。
- 356 名前:Classical名無しさん :04/06/25 14:08 ID:kTLsJdw6
- >>354
いいですね。
八雲が恋したらそんな感じだろーなーと思いました。
- 357 名前:Classical名無しさん :04/06/25 14:48 ID:5pERr/JM
- >>354
お疲れ様です。
八雲萌えますね。
次は動物園デートですか、これまた期待してます。
- 358 名前:Classical名無しさん :04/06/25 14:51 ID:5pERr/JM
- ageちまった、すいません。
- 359 名前:Classical名無しさん :04/06/25 15:16 ID:Gw/ENQV6
- >>354
GJ!
俺あなたの書く八雲好きだよ。
これからも連載頑張ってください。
柱に関しては、良いのもあったけどいらないのもあったという印象です。
例えば
>――――播磨からのメールだけ、着メロは別――――
は良いなと思ったし必要かなと思ったけど、
>――――八雲、恋する乙女モード発動中――――
>――――八雲、恋愛音痴は変わらず――――
とかは、折角の良い雰囲気を切ってしまう気がしました。
もちろん話は凄い面白いし大好きですよ。萌えるし
続きが楽しみです。
- 360 名前:Classical名無しさん :04/06/25 15:20 ID:4IuKXFcg
- 八雲かわいいよ八雲
- 361 名前:Classical名無しさん :04/06/25 17:49 ID:2/xo3W9.
- >>354
悶えながら読ませていただきました。
俺もあなたの書く八雲大好きだよ。
続き期待してます。
ただ、ちょっと「、」が多い気がしたかな。
それともリズム作ってる?
- 362 名前:Classical名無しさん :04/06/25 19:29 ID:qFH214Cg
- >>354
シリーズを通して楽しませてもらっています。
独特の間をもった語りで、自分としては読みやすいです。
P.S.
・吊り橋効果
・マァオ
以上の二ヶ所でワラタ
- 363 名前:The phantom appeared :04/06/25 21:26 ID:LleS7Q/o
- 今週の読んでたら なんとなく
幽霊の女の子が書きたくなったので投下してみます
批判いただければ幸いです・・・
- 364 名前:The phantom appeared :04/06/25 21:31 ID:LleS7Q/o
(何考えてるんだろう・・・私・・・)
広い部屋で独りでいると、いろんな考えが頭を巡り、急に
カーッと恥ずかしさがこみ上げてくる。外からさす光が窓辺の
お気に入りの小物類に反射して輝く
「・・・なんであんなことしたんだろう」
脳裏に、あの体育祭でのレクリエーションの光景が映る
その場の勢い・・・というのだが、後になってこんなに
後悔するだなんて、そのときは思いもしなかった。
あんまり好きじゃない、むしろ嫌いだったあのヒゲを
いつからこんな思いで見るようになったんだろう
アイツが突然、告白してきた日のことを思い出すと、胸
が苦しくなる。あれ以降、私・・・どっかおかしい
(・・・恋なの?)
でもほかの女の人にも声をかけている。馬鹿みたい!
サルで 軽薄で 不良で 頭の中身も外見も薄くて、何度
あのヒゲ面を蹴っ飛ばしたいと思ったことだろう。
でも いつからか、それがうれしくなってきた
私のせいでヒゲをそり落とし、髪を刈ってしまった事
うまく謝れなかった事、借りを返そうとしたけど、逆に
アイツから慰められた事、そしてアイツと踊った事・・・
最近の出来事を振り返ると、いつもあのバカの顔が浮かんでくる
「それが、恋なの?」
- 365 名前:The phantom appeared :04/06/25 21:34 ID:LleS7Q/o
不意に、部屋の隅っこから声が聞こえてきた。もちろん
部屋には誰も居ない、それどころかこの家中見渡しても
今はナカムラたち以外には誰もいないはずだ
「天満?」と沢近はつぶやいた それはありえないことだと
分かっていたのだが、なんとなく、そう感じさせる声だった。
部屋の隅からはなにかひんやりとした存在感が感じられた
生気のない装飾品や人形の感じとは違う、また人間や動物の
気配もしない。
「ずいぶん多くの恋に恵まれているのね。アナタは」
それは、小さな女の子だった。整った可愛らしい顔と
長い髪は、確かに天満に似ていたが、全く知らない子だ
「誰・・・ナニを言ってるの?」
突然目の前に現れた少女に、戸惑いながらも訊ねた
「教えて?」 少女は繰り返す
「あなた誰よ!」怖くなって声を荒立てる沢近、しかし
次の瞬間、女の子の髪が伸びたかと思うと、沢近愛理の
体を締め付けた。まるで、海であの馬鹿に羽交い絞めに
されたときみたいに動けなかった
- 366 名前:The phantom appeared :04/06/25 21:36 ID:LleS7Q/o
「私 こう見えても 人間じゃないの」
にわかに信じ難いが、よく見ると、裸足のままののままの
足は中に浮いていた。(人間じゃない?)沢近は驚いて
叫び声をあげようとしたがとしたが、口をふさがれた
「彼のことがそんなに好きなの?
――あなたにこんな事をした男が?」
そんなわけないでしょ 否定しようとしたが、口からは「んーんー」
という呻き似た声が出るだけだった。外見からは全く想像できない
すごい力で拘束され、まるで抵抗できなかった
数秒間、沈黙が二人の間に舞い降りた、少女は何も言わない
しかし少女には何か伝わったようだ。いや、見ためは少女にしか見えないが
この子はやはり人間ではないらしい。少女は質問を続けた
「じゃあ どうして それを・・・」
「そのジャージを嬉しいと思ったの?」
きつく締め付けていたすこし髪を緩めると、再び問答が始まった
一瞬で元の長さに戻った髪がやわらかにゆれていた
ジャージだけではない。一人雨にぬれていたときに差し出してくれた
傘。 こんなに優しくしてもらってるのは私だけ・・
ホンとイライラさせる奴だけど私はアイツのそういうところは・・・
「・・・嬉しかったわよ」
- 367 名前:The phantom appeared :04/06/25 21:41 ID:LleS7Q/o
「あなたは 彼が好きなの?」
沢近は、とっさに口がYesとつぶやきそうであったことに驚いた
だが頭がそれを拒絶した、誰があんな奴を・・・
しかし自分自身の中でも、何が彼の思いで
どれが自分の感情なのか分からなくなってきた
「どーでもいーでしょ」
アイツがわたしを好きなんだ
アイツがわたしを好きなんだ
自分でも混乱していた、どれが自分の考え、希望で どれがアイツの
で、そして何が真実なのか?
(本当はどうなのよ 沢近愛理?)
一瞬、他に何も考えずに自問自答した
「ちょっと前は 烏丸君を狙っていたのにね」
「違ぅ・・。それは天満でしょ・・」否定しようとしたが、できなかった
実際、夏が来る前は、彼のことが気になっていた
何か人とは違うところがある人を好きになるのは、天満と似ているように思えた
でも彼にときめいたり、ドキドキする事なんて全くなかった
「その前にも、ずっとその前からも、たくさんの男の人から愛されて・・・」
違う、みんな 周りのみんなが勝手に・・私・・じゃない
少女はさらに続ける
「その上アナタは何を望むの?」
「・・・・」
「答えて、あなた何を望むの?」
- 368 名前:The phantom appeared :04/06/25 21:47 ID:LleS7Q/o
「・・・私は誰も好きになっていない・・・」
「自分の気持ちにウソはつかないで」 少女は見透かしたように強く言う
「ウソじゃない・・・」沢近も強く言い放ち、そして言った
「私は、ただ欲しいだけ・・」
「私は・・・私が欲しいのは恋なの! こう・・・芯からゾクゾク
するよーなね!!ただの恋ならいつだってできる
でも本当に私が望む恋は、もっとすばらしいモノだと思う・・・
今じゃなくてもいい。けれど、いつか必ず手に入れてみせるわ」
だから 私は・・・アイツに・・・そういいかけたが、声にはしなかった
少女は微笑を浮かべると、自らについて話した
「私はね 年をとらないの 私・・幽霊だから」
「幽・・霊? Phantom?」沢近が呟く
頷く少女
「恋・・この答えだけは見つからないの・・ 大人になれないから」
同じだ・・と沢近は思った、私も大人になれてない・・・
「前にも、別の子に同じような質問をしたの・・・」
少女は言う。テーブルのうえの紅茶の液面がかすかにゆれる
「・・あなたと全く違うタイプだけど、言ってることは同じかもね」
少女の言ったことはにわかに信じられなかったが、沢近はコクンと頷いた
「ありがとう また 来るわ・・・・」
- 369 名前:The phantom appeared :04/06/25 21:53 ID:LleS7Q/o
- 気がつくと、部屋には誰も居ない、いつものまま、独りソファーに座っていた
窓辺の陽はいつのまにか傾きかけていた。息を吐くと、どっと湧き出た疲れから
横になりたい衝動に駆られた。たまらなくなり、ソファーへ飛び込んだ
「そう あいつが私を・・・」うつ伏せのままつぶやいた
沢近は、やっと一番適切な言葉を見つけた
「まあ アイツが私に惚れるのも当然よね? あんなヤツめったに居ないし
アイツが 私に恋を運んでくるなら!私だって・・・、こう今までにないような・・・
まぁ 信じられないけど、あいつは私に惚れてるんだから 何とかなるわ・・」
あいつは私が好き
私はあいつが好き
気がつくと、口元の緩みが止まらなかった。
――少し近づいてみよう
あの日借りたままのジャージをパンと引っ張ると、沢近愛理は
・・あの一瞬、私のすべてを差し出して付き合える人とめぐり合えたと思った
その輝きが消える前に、やって見なきゃ損よね?
たまにはいいよね こういうのも
「まっ お返しぐらいなら オッケーよね?」
沢近は独りで、最高の微笑の準備をしながら、鏡を一瞥して
またいつもの日常へと戻ろうとしていた。
- 370 名前:Classical名無しさん :04/06/26 01:17 ID:jCJ2GJLk
- >>354
グッジョブ!!
八雲はかわいいですね。
長さが適度で、ちょうどスクラン本編読んでるぐらいなので見事としかいいようがないです。
次回もすっげー期待してます。
>>363
沢近が烏丸に粉かけてたなんて設定ありましたね〜、初期は。
キャラをうまくつかってて面白かったです。
- 371 名前:Classical名無しさん :04/06/26 07:35 ID:44iwDcsc
- そんな設定がどこに…
- 372 名前:Classical名無しさん :04/06/26 12:45 ID:H6nAMYN6
- 遠足のバス内では?
- 373 名前:Classical名無しさん :04/06/26 12:59 ID:e0ROVpJQ
- あと、失神坂の回もだな
- 374 名前:蕗月 :04/06/26 16:09 ID:87uZqOJE
- こんな話、あったらいいなあ
ということで初投稿
- 375 名前:BAD BOYS TWO BAD :04/06/26 16:11 ID:87uZqOJE
「ちくしょー、っ痛ーなあ」
オレは2−Cに籍を置く普通の生徒だ。
顔もそこそこ悪くない、と思うし
自慢じゃないが中学からやっているボクシングではこの前、県大会にも出場したほど。
不良ではないと思うが、それでも深夜徘徊してて、
ちょくちょく仲間を見つけるくらいかな。
今もこうして友達の友達に呼び出されつまらないヤンキーの縄張り争いに借り出され、
その帰路についているというわけだ。
お? なんだありゃ? カツアゲか?
おーおー可哀想に2・・3、4人がかりか。
ありゃ近頃ここらへんで幅きかしてる奴らじゃねーか
・・・やめやめ、違う道で帰ろ。
ちょっと申し訳ねーけど、運が悪かったと思って金渡しちまいなよー
あんな大所帯に関わったら、命がいくつあってもたりねーっての。
ん? 向こう側から、あ、播磨クンじゃねーか?
相変わらず恐え。
そのままカツアゲ現場まですすんでいって・・・?
あっ! 真ん中の奴をなぐった!?
すげぇ、ありゃ前歯は全部いったね
結構綺麗な顔してたのに。明日っから人前でれねーな
・・・
あ?もう終わった・・・?
4人もいたのに?
す、すげえ。言葉が出ないってこういう時につかうんだな・・・
カツアゲされてた奴完全にビビッちゃってるよ。
そりゃ目の前で全員病院送りにされちゃあね
播磨クン、どうするんだ?
- 376 名前:BAD BOYS TWO BAD :04/06/26 16:13 ID:87uZqOJE
- やっぱり「助け賃だ」なんて言ってカツアゲるんかな
あ、振り向いた!相手もう泣きそうだよ!
そして・・・え?
何も言わずに・・・行っちゃった・・?
・・・え?
カツアゲされてた奴も困惑してるみたいだ
・・・なんか、イメージと違うな
強さで言うなら噂以上だったけど。
播磨クンの喧嘩、初めてみたぜ・・・すげえ
格闘家のはしくれとして、素で感動しちまった
興奮して眠れねえぜ
オレはこれでもボクシングには真面目だと思ってる
こうして週3回はジムにかよってるしな
昨日の夜は興奮して寝られなくて、ん〜眠いぜ。
ふとウェイトトレーニングのコーナーに目をやる
お〜お〜
今日もいるいる、2−Dの天王寺だ。
すごい勢いで100kgのバーベルを持ち上げている
- 377 名前:BAD BOYS TWO BAD :04/06/26 16:13 ID:87uZqOJE
- 彼はこの業界では結構有名人らしい
オレも自分では真面目に通ってると思っているが、天王寺には負ける
ほぼ毎日のように通っているとのことだ。
一説には、天王寺はあらゆる格闘技を始め、
アメフトなんかのプロからもオファーが来るほどだそうだ
それでもプロに行かないのは
「プロに行く前に倒さなくてはならん奴がいる」
だからだそうだ。前にそう他人が話しているのを聞いたことがある。
・・・前に世界チャンプを出したことのあるジムの人たちとの試合で
みんな病院送りにしたことのある奴なのに、
天王寺が勝てない奴なんているのか・・・?
どうやら、なんとも世界は広いらしい。
しかし天王寺の奴も人は見かけによらないっつーか、
女性には変に親切だし、ここでもめごとは起こしたことないし、
ひいてはエアバイクのところでナンパされてるひとを助けてるのを見たこともある。
「ま、モテそうにないツラだけどな・・・」
おっと、口にでちまった
聞かれて・・・ないよな?
んなことより早く今日のノルマをこなすか
- 378 名前:BAD BOYS TWO BAD :04/06/26 16:14 ID:87uZqOJE
- ふう、練習の後のソコイチのカレーは格別だぜ!
・・・ん?ありゃ天王寺と・・・
昨日、播磨クンにやられてた奴ら?
見覚えあるし派手に包帯巻いてるから間違いない・・・
変にタイミングあっちゃってるみたいだな
・・・気になるな、・・・よし!
路地裏に入って?
うう〜ん、聞こえない、もうちっと・・・っと!
どれどれ?
「だからよ〜。お前もハリマには恨みあるんだろ?
だからよ、その借りを全部一気に返してやろうっての。分かる?」
あいつは・・・播磨クンに前歯全部もってかれたヤツだ
あ〜あ、見る影もねえや
「100人は仲間呼ぶからよ。これであいつも終わりだ。
そこでだ。あんたにもハリマを殴るチャンスをやるっつってんだよ」
100人!? んな馬鹿な、一人相手に!??
「・・・・・いつだ?」
「おっ?乗り気かい。そうこなくっちゃ。へへ、
明日だ、ヤツの登校中を狙う。場所はあの近道の林道だ
広いし、隠れる場所も申し分ねえしな。それじゃ頼んだぜ」
むっ、やばいこれ以上は見つかる!?
さっさとずらかるか・・・
- 379 名前:BAD BOYS TWO BAD :04/06/26 16:14 ID:87uZqOJE
- ・・・しかし、凄いことを聞いてしまった。
天王寺の表情はよめなかったけど、やっぱり不良だからな
播磨クンが目障りなんだろうな。
さすがに播磨クンでも、100人+一騎当千の猛者には、
勝てない。だろう、いくらなんでも。
・・・どうすっかなー。
でも相手はあの冷酷無比のギャング100人、どう考えても、
そ、それに別におれは別に友達って訳じゃないし、
ただのクラスメートで、痛い思いするのも・・・
そもそも勝ち目なんてないし。
・・・・・
うん、聞かなかったことに・・・するか・・・?
そしてオレはいつも通りに学校へいった
少々の罪悪感が伴うが、まあ致し方ない
播磨クンの席は・・・空席だった。
1時間目が終わり、2時間目が終わり・・・
それでもやっぱり空席だった
「んだぁ?播磨の奴ここの所ちゃんときてたのに」
「どうせサボりでしょ?あのヒゲはもともと不良なんだし」
「愛理ちゃん、そんな言い方ないよ!でも、めずらしいね!」
クラスメートの中にも気にし始めた人がいるらしい。
・・・事情を知っている身としては、なんとも居心地が悪かった
- 380 名前:BAD BOYS TWO BAD :04/06/26 16:15 ID:87uZqOJE
- そして、昼休みになってから
「・・・ちぃ〜す」
・・・播磨クンが来た!?
「ヒゲ、どうしたのよ今日は・・・って何その傷!?」
「んだよ播磨、喧嘩か!?」
「う、うるせえ!!
なんでもねえよ!」
「何でも無い訳ないでしょ!ちょっと見せなさいよ!ちょっと!?」
教室を出てってしまった。
まさか・・・100人を・・・?うそだろ
そしてどこか釈然としない思いのまま放課後を迎えた
播磨クンはあっちこっち包帯と絆創膏を貼り
それでも最後まで授業を受けていた。
大分詰問されてたみたいだけど、話は聞こえてこなかった。
変わったことと言えば冬木が
「おいおい!ビッグニュース!!なんでもこの街までちょっかいだしてた
大所帯のギャングが今日壊滅したってよ!
警察が一斉検挙したって!凶器とかたくさんもってたから一発で、
でも、警察が来る前に全員ぼこぼこだってさ。
通報は匿名で。誰がやったかわからないけど、奴ら口々にあの二人は
化けモンだ。ってうなされてるらしい!それで・・・」
とか言ってた。
・・・2人?
その言葉を聞いて、なにげに播磨クンの席を見たけど
・・・もうそこには播磨クンの姿はなかった
- 381 名前:BAD BOYS TWO BAD :04/06/26 16:16 ID:87uZqOJE
- そして翌日
ジムで先輩達が話してるのを偶然耳にした
なんでも、ギャング達を壊滅させたのは播磨クンと天王寺で
天王寺が播磨クンに果し合いを申し込み
その決闘場で偶然にも播磨クンがギャングの襲撃にあい
そして果し合いは一時中断、共闘という形になったらしい。
「いや、そのときの天王寺の”オレ以外には播磨はたおせん!”
ていう台詞、おれしびれちまったね。あれこそがまさに”強敵”同士だぜ」
オレは一瞬耳を疑った
え・・・?だって、天王寺、播磨狩りの日時と場所知ってたはずだよな?
どうしてわざわざ同じ場所、時間で決闘を・・・?
・・・・・・
あとは二人でばったばったと敵をなぎ倒していった・・・と
相手は凶器持ちだったのに。敵は100人以上いたのに。
2人は、互いの背を預けあい、笑っていたという・・・
- 382 名前:BAD BOYS TWO BAD :04/06/26 16:16 ID:87uZqOJE
- 後日、
オレはたまたま
新聞部のやつが「カツアゲ」の特集をやっていたので見せてもらった。
なんかうちの学校の地域ってそんなに被害多くないな。
っていうか少ないだろ、これ
それに、1学期のある時期から急速に被害が拡大し
夏休み直前に急速に減っている
「そこに何があったのかっていうのも、いい記事になると思うんだ」
何があったか・・・
何気なく、ホントに何気なく教室をみわたし、そして・・・
播磨クンの・・・復学・・・?
・・・・・・
また街を歩いていると、
人気のない路地で数人の男が1人相手に粋がっていた
・・・はあ、おれ、大分あいつらの影響受けてんなぁと思いつつ−−
「おい、お前ら、何やってんだ」
了
- 383 名前:蕗月 :04/06/26 16:18 ID:87uZqOJE
- 面白い本編のうらの二人でした
播磨大ファンです
- 384 名前:Classical名無しさん :04/06/26 16:35 ID:i5IND.Ik
- >>383
乙!
2のCモブ男子からの視点、ってのはいいね!
それに播磨と天王寺の共闘という、週マガの漫画らしいエピソードもGood!
本編でもたまにはこういう話やればいいのにと思う。
- 385 名前:Classical名無しさん :04/06/26 16:51 ID:Z1t788nA
- GJ!
播磨格好良すぎ!痺れました
天王寺も格好いいし、燃えますな。
新鮮で面白かったです。
しかしホントに本編でこんな話も見てみたいもんだな
- 386 名前:Classical名無しさん :04/06/26 16:59 ID:TShaintE
- 燃えちった。(・∀・)Good!!
- 387 名前:蕗月 :04/06/26 17:53 ID:87uZqOJE
- >>384-386
どうもサンクスです。
けっこう含みもあったんで、それと2人vs100人
の戦いとか想像して燃えて、
いっそう播磨ファンが増えたらいいなーと思ってます
- 388 名前:Classical名無しさん :04/06/26 18:37 ID:9u9mt3js
- >>387
OK、GJだ。
しかしsageようか
- 389 名前:344 :04/06/26 19:58 ID:sjS764LA
- 皆様、こんな拙い文章に感想を頂き、本当にどうもありがとうございます。
あまつさえ、過分なお褒めのお言葉までいただき、感謝の言葉もございません。
>>355
ありがとうございます。八雲がちょっと、本編と別人のようになっているかも
しれませんが、そう言っていただけると、嬉しく思います。
>>356
八雲って、恋を意識したら、変わると思っていまして。それが書くきっかけでした。
>>357
動物園デート、一回で終わるはずが、二回にわけることに相成りました。
>>359
はい、頑張らせていただきます。柱についての御意見、どうもです。
>>360
俺もそう思います。自分のではなく、本編の八雲がですがw
- 390 名前:344 :04/06/26 20:02 ID:sjS764LA
- >>361
皆様のお言葉には、本当に励まされています。
「、」については、確かにリズムを作ろうとしていました。ただやはり、ちょっとくどいかとも
思ったので、今回は意識して減らしてみました。
>>362
>「吊り橋効果」 予想通りですw
>「マァオ」 予想外ですw
>>370
期待していただき、まことにありがとうございます。
ということで、さらに続編です。
『Without Me』『Crossing Border』『She wants to move』に続いて。
『Don't go away』
よろしくお願いいたします。
- 391 名前:Don't go away :04/06/26 20:03 ID:sjS764LA
- 土曜日。明日は、約束の日。
脱衣所の鏡の前に立ち、素裸の自分の姿を映す。
よくスタイルが良いと言われる。羨ましい、とも。
そう、としか応じられず、戸惑うばかりだった。
今もきっと、同じ風にしか答えられない。他に答えようがないから。
ただ、思うのは。
どんなに、誰に褒められても。
好きな人に言われなければ、意味がない。
School Rumble
♭−δ Don't go away
「ごちそうさま」
お箸を置いて立ち上がろうとすると、
「ちょ、八雲?まだ半分しか食べてないじゃない」
「あ……」
姉の言う通り、おかずにほとんど手を付けておらず、たっぷりと残されている。
「ごめん……ちょっと食欲なくて」
本当は、胸がいっぱいで。期待、喜び、そして……不安。
「ふうん……八雲、もしかして?」
座ったまま、見上げてくる姉の真っ直ぐな視線に、八雲は見透かされたかと固まる。が、
「もしかして、寝不足?」
「違……ううん、そう」
あまりに見当はずれな答えに、否定しかけて、しかしやはり肯定する。
八雲は天満に、播磨とのことを何も語っていない。以前のように、止められるかもと、思ったか
らだ。
勿論、そんなことはないのかもしれない。だがもし、『お姉ちゃんパワー』が発動したら、それを
跳ね除ける自信がなかった。
ごめん。姉さん。
心の中でだけ謝る八雲は、気付いていなかった。
自分の中の、姉のポジションが揺らぎ始めていることに。
- 392 名前:Classical名無しさん :04/06/26 20:04 ID:sjS764LA
- 大好きな『続・三匹が斬られる』を見ることもせず、自室に戻る。
不思議そうにしていた天満だったが、今はもうテレビに夢中になっているのだろう。万石っ、と
いう声がここまで聞こえてきていて。
八雲は姉の様子に少し笑った後、勉強机の横に置いてあった袋の中から、服を取り出す。
前の日曜日に、サラに連れられて行ったショップで買ったもの。姿見の前で、体に合わせてみる。
店員と一緒になって、あれこれと試着させてきたサラ。普段、それほど服選びに時間をかけない
八雲がほとほと疲れ果ててきた頃に、
「うーん、しっくりくるものがないわね〜。次、行こっか」
「………………」
結局その後、三軒の店を見て回り、一通りの買い物を終えた頃には、足が棒のようになっていた。
「疲れた?八雲」
喫茶店のテラス、白いパラソルの下のテーブルに座る二人。アイスティーを飲みながら尋ねてく
る彼女に、八雲は答える。
「……ちょっと……」
本当は、だいぶ。だが満面の笑みを浮かべるサラに、はっきりとそう言うことも出来ず。
何より、サラは自分の服を全く見繕っていないのだ。つまり、その日一日を、八雲のためだけに
費やしてくれた、ということ。
それがわかっているから、八雲はあまり強くも言えなかった。楽しくなかったわけではないし。
「これで、播磨先輩に可愛いところ、見せられるね」
カァ。突然出た想い人の名前に、一瞬で顔を真っ赤に染める八雲。わずかにうつむいた彼女の姿
に、サラは微笑む。
「まあどんなカッコしてても、八雲は可愛いんだけどね」
それでも、と言いながら、ストローでアイスティーをかき混ぜる。
「一番綺麗なとこ、見せたいもんね……好きな人には」
「………………」
さらに赤くなった八雲、しかし、その口は嬉しそうに微笑んでいて。
「じゃあ最後に、化粧品を買いに行かないとね」
「……まだ回るの?」
珍しく、愚痴のような響きの混じる八雲の言葉。しかし、サラは笑顔で、
「後悔しないように、やれることは全部やっとかなきゃ。ね?」
そんなものなのかもしれない。八雲は頷いて、彼女の後に続いて立ち上がった。
- 393 名前:Don't go away :04/06/26 20:05 ID:sjS764LA
- 結局、二人が家路に着くころには、西の空が夕焼けに染まっていた。
「じゃあね、八雲」
「うん、ありがと……サラ」
胸の前で小さく手を振って、走り去る友人を見送る。
両腕にぶら下げた二つの袋、その重みが、彼女の友情の証のような気がして、そっと。
八雲は、感謝する。サラ=アディエマスという優しい女性と、巡り合えたことに。
もの思いをやめて、鏡に映る自分を見る。
あれこれと迷って、やっと決めた服。姉の部屋からこっそりと、ファッション雑誌を借りてきて、
研究もした。
まだ試着の時の一度しか袖を通していない服。可愛い、と思う。だがそれを着た自分は、本当に
可愛いのか、どうか。はなはだ、自信が持てない。
机の上に並ぶ化粧品。店員のお姉さんに教わった仕方は、帰ってきてからメモにしている。だが
それも、上手くいくかどうか。
鏡の前で、笑ってみる。だがぎこちなさは、どうしても抜けなくて。そもそも、素の表情が硬い
から、と落ち込む。
初めての、デート。
ややもするとうつむいてしまう気持ちを、しかし、自ら奮い立たせる八雲。
『後悔しないように』
サラの言葉が、頭の中をグルグルと回って。
そう。後悔だけは、したくない。八雲は願う。
初めて、好きになった人だから。
綺麗に、しわの残らないように服を折りたたんで、そっと枕元に置く。
唐突に響くメロディ。播磨からのものとは違う、メールの着信音。
携帯を見ると、ちょうどその顔を思い浮かべていた友人からのもの。
『明日だね。頑張れっ!!』
心のうちに広がっていく、暖かな想い。改めて、感謝を捧げる。
『ありがとう。頑張る』
短いやりとり。だが、それでも気持ちを受け取り、送り。
そして、明日が、今日に変わる頃。
三日月に見守られながら、八雲は、夢の世界へと落ちていった。
- 394 名前:Don't go away :04/06/26 20:06 ID:sjS764LA
- 翌朝、早く。八雲は台所に立っていた。
トントントン。響く規則正しい、包丁の音。
姉は随分と遅くまで起きていたのだろう。ついさっき彼女が部屋を覗いたら、烏丸君、などと寝
言を言いつつ、寝返りをうっていた。
起こさないように、そっと扉を閉める。幼いその寝顔に、微笑を浮かべつつ。
ギュッ、ギュッ。おにぎりを握る八雲。それぞれに違う味。おかか、しゃけ、こんぶ。
天満の朝御飯でもある。が、もちろん本来は、二人で食べるためのお弁当用だ。
おいしいと、言ってくれた、おにぎり、いや……にぎり飯。
『にぎり飯うまかったぜ。サンキューな』
思い出して、ふと笑う。時代劇とか、好きなのかな。
だとしたら、昨日の『続・三匹が斬られる』、見ておけば良かったかも。
そんな想いを抱きつつ、しっかりと握る。あの時と同じように。
違うのは……一つずつに、想いを込めていること。
カリカリカリ
「めっ、伊織……これ、あげるから」
匂いにつられてやってきた伊織のために、シャケを一切れ置いてやる。
美味しそうにかぶりつく彼を見て、もう一度、八雲は笑った。
家を出る前にもう一度、姿見の前に立つ。
髪や服をチェックしていて、ふと姉の気持ちがわかったような気がした。
毎日のように、鏡の前で大騒ぎをしている天満を、八雲は半分、呆れながら見ていたのだが。
その姉は、まだ眠っている。起こさないようにして、そっと家を出る。
『友達と出かけてきます』
おにぎりと一緒に、残してきた置手紙。少しだけ考えて、書き加える。
『遅くなるかもしれません』
何を期待してるんだろう、私。思わず、真っ赤になってしまう八雲。
閉園は七時。遅くなるわけがないのに。だが、消すことも出来ず。
「行ってきます、姉さん」
玄関で、小さく一言。
起こさなかったのは、彼女の寝顔があまりに幸せそうだったからなのが、一つ。
もう一つは。
普段と違う八雲の様子に、姉が尾行などと考えるのを恐れたからだった。
- 395 名前:Don't go away :04/06/26 20:07 ID:sjS764LA
- 待ち合わせは、駅前に十時。その三十分前に来てしまった八雲。
道行く人々が、彼女を見て、その美しさに目を引かれているのにも気付かず、腕時計の針を、そ
わそわと見つめている。
そして、九時五十五分。
「よう。もう来てたのか」
ハッと顔を上げる。
いつもと変わらない格好の、播磨がいた。赤のタンクトップの上に、ボタンを全部開けた、無地
の黒シャツ。そして、ジーンズ。
「あ……今、来たところ……です……」
感じる高揚と、ほんの少しの落胆に、浮かべる微苦笑。
やっぱり、デートだなんて、考えてくれてないのかな……
自分の姿を見つめなおす。
黒のチューブトップに、白のYシャツ。ボタンを三つ開け、胸の谷間を覗かせて。下は動きやす
いように七分丈のジーンズ。シルバーのネックレスに、人差し指にはプラチナの指輪。サラから借
りた、星を模ったイヤリング。
どう……思ってくれてるのかな。
見つめてみるが、播磨は、鼻歌など歌いながら、
「うっし。じゃあ行くか」
一人、改札へと向かう。
「あ……待って、下さい……」
慌てて追いかけ、横に並ぶ八雲の鼻に、そっと漂ってくる甘い香り。
普段は香水など、付けていないのに……
もしかして……淡い期待を抱いてしまい、跳ねる鼓動。
その彼女の前に、差し出された動物園のチケット。回数券の一枚なのは、彼がよく行くからか。
「ほらよ、妹さん。持っときな」
「あ……お金……」
「いらねえよ。何たって、いつも世話になってるからな」
どこかぶっきらぼうに言う彼。だが、その優しさが、嬉しくて。
「ありがとう……ございます……」
「や、いいってことよ」
そっと受け取ったチケットは、ただの切符ではなく。
彼からもらった、初めての、形ある贈り物。
- 396 名前:Don't go away :04/06/26 20:08 ID:sjS764LA
- 電車の席は、隣同士。それだけで緊張してしまい、何を話したか、ちゃんと覚えていない。
ただ、揺れるたびに触れ合った肩、そこだけが。
とても、熱く。
半券を渡し、動物園へと入る。
「うっす、ピョートル」
「……ひさしぶり……」
二人が最初に向かったのは、キリンのピョートルのところだった。
最初はわからなかったようだが、すぐに近づいてきて、顔を近づけてくる。
だけど、触れることは出来ない。
ふと、隣に立つ、彼の顔を盗み見る。
いつか、サラと一緒に来た時にも、横顔を見たことがあった。
すごく、寂しそうだったことを覚えている。
ほんの少しの距離なのに、とても遠く、感じていたのだろう。
別れの時に流していた、涙。男の人が泣いているところを、初めて見たから、とても印象的で。
今日の彼の顔は、だが少し、違っていた。
寂しそうでもある。だけど、どこか落ち着いていて。
また跳ねる、心臓。
一つしか年の差はないはずなのに。何だか彼が、とても、大人の男に見えて。
「ん……?どうした、妹さん」
「あ……いえ……」
いつの間にか、まじまじと見つめてしまっていたのだろう。気付かれて、向けられる視線に、さ
っと顔を背けてしまう。
一瞬、訝しげな顔を見せた播磨だったが、すぐにピョートルに向きなおり、
「お前、今、幸せか?」
そう、尋ねた。
ピョートルの、心の声は、八雲には視えない。だがその顔がほんの少し、悲しそうで、だけど、
笑っているように見えて。
「そっか。良かったな」
言った播磨の顔も、似たような表情を浮かべていて。
バカだな、自分。心の中に芽生えた感情に、理性が苦笑する。
私、ピョートルにまで、嫉妬してる。
- 397 名前:Don't go away :04/06/26 20:08 ID:sjS764LA
- 次に二人が向かったのは、ライオンの檻だった。
陽射しの強さにうだって横になっていたうちの一匹が、跳ね起きて駆け寄ってくる。
「よお」
手を挙げる播磨。それに合わせて、大きく吠えるライオン。
「すごいですね」
思わず出た言葉に、彼は不思議そうに見つめてきた。
「心が通い合ってるみたい」
見上げた八雲は、サングラスの奥の彼の瞳を見つめる。はっきりとは見えないけれど、とても、
優しそうな光をたたえていて。
「んー、まあなー」
ポリポリと頬をかいて、視線をそらす播磨。
「なんか、なつかれちまってな……まあ俺にとっても、大切な奴らなんだけどよ」
「……そういうの、羨ましいです」
そこに様々な意味を重ねて、八雲は言った。
「ば、バカ。照れるじゃねぇか」
言ってから、トイレ行ってくるわ、と走り去る播磨。
残された八雲は、ライオンの檻を見つめながら、物思いにふける。
羨ましい。心の底から、そう思った。
だけど、それは……何を、羨ましいと思ったのだろう。
動物達の気持ちがわかる、力?
他人の心が視える自分。だけど、それは彼女にとって『枷』でしかない。播磨のように、心を通
い合わせるなど、とても。
それとも……
播磨がいなくなった途端、ぐてっと横になるライオン。
彼との間に、確かに絆を持つ、動物達に?
私と、播磨さんの関係って、何だろう。
柵の上に両手を組んで、顎を乗せる。その瞳に浮かぶ、愁い。
そこに、絆はあるのだろうか。動物達とのような……あるいは……沢近さんとのような。
目の端に、綺羅綺羅と光る金の髪が映ったような気がして、視線を向ける。
それは、全然、別人の女性だったけれど。
何故か、胸が、痛かった。
- 398 名前:Don't go away :04/06/26 20:09 ID:sjS764LA
- 「あれ?彼女、一人?」
背中からかけられた声に、振り向くと。
若い、二人組み。真金に髪を染めた男と、ドレッドヘアーの男。両方とも、ダブダブの服を着て
いるが、その下の体はかなり鍛えられているようだ。
「すっげえ可愛いじゃん。なに、彼氏に置いてかれたの?じゃあ俺らと遊ぼうよ」
「あ……いえ……私は……」
連れを待っているだけ。そう言おうとしたが、手首を掴まれて。
「いいじゃん、俺らもさ、ちょうど暇してたんだよね」
引きずられ、もう一人の男に肩を抱かれる。痛みが走るほど、強く。
体をよじって離れようとしても、抑え付けられてしまう。
「やー、ラッキーだよな。結構、動物園って穴場だって聞いてたけどさ」
「こんな可愛い子が一人でいるんだもんな。俺ら、超ラッキー」
ゾワゾワゾワ。ねちっこい声に感じた嫌悪感に、鳥肌が立つ。
助けを求めて周りを見回すが、誰も、視線を合わせようとはしてこない。
声を出して叫ぼうとしても、喉が恐怖に凍ってしまって。
「とりあえずさ、もう出ようぜ、動物園なんて」
「そーそー。もう十分、見たっしょ?」
体を寄せられ、二人に挟まれて、無理やりに歩かされる。
男たちの手が、肩から少しずつ下がっていき、今まで誰にも触らせたことのない場所へと、向か
おうとしていて。
そして、徐々に近づいてくる出口。
播磨さん……!!
恐怖にかられたまま、声にならない声を、八雲が心の中で発した、その瞬間。
「播拳蹴!!」
吹き飛ぶ、ドレッドヘアー。勢い良く転がっていき、虎の檻の前の柵に当たってやっと止まる。
目を丸くする八雲と、金髪の男。その一瞬の隙を逃さず、
「播拳龍襲!!」
突き出された拳が、腹に突き刺さり、男を崩れ落ちさせた。
- 399 名前:Don't go away :04/06/26 20:10 ID:sjS764LA
- 「てめえら、いい度胸じゃねえか」
男二人を瞬殺したのは、もちろん、播磨拳児、その人だった。
一瞬、唖然としていた八雲だが、慌てて彼に駆け寄る。
うめき声を上げながら、それでも立ち上がってくる男達。
播磨の顔に、危険な表情が浮かぶ。
「面白ぇ、まだやるってか?」
「あ、あの……播磨さん……」
止めようと、声をかけた八雲の肩を、ぐっと、播磨は引きつけた。
「俺の連れに手ぇ出しやがって。覚悟はいいな?」
どさっ。彼の胸に、まるで倒れこむかのように体を寄せる八雲。
一瞬、わけがわからずに、目をぱちくりとさせる。
次の瞬間。
自分が、彼に抱き寄せられているのだと知って、体を強張らせた。
頬が、熱い。頭の芯が溶けそうで、何も考えられなくなる。
たくましい胸板。わずかに残る香水の匂い。そして。
聞こえてくる、鼓動。
その全てが、刻まれていく。八雲の中に。心に。体に。
微かに震える手を、彼の胸に這わせる。
もっと、もっと、近くにいたくて。
「げっ、播磨っ!?」
「やべ、逃げるぞっ!!」
フラフラと逃げていく男達を、厳しい目つきで睨み、追いかけようとした播磨だったが、
「……大丈夫かい、妹さん?」
微かに震える彼女に気付いたのだろう。思いとどまって、優しい声をかけてくる。
「すまねえ、動物達に聞いて、追っかけてきたんだが……遅くなっちまったかな」
その手が、八雲の頭を軽く、撫で始めた。
とても、大きな手なんだ。
彼の体温を感じながら、八雲はふと、そんなことを思ったのだった。
――――次回、動物園デート、後半――――
- 400 名前:390 :04/06/26 20:15 ID:sjS764LA
- また上げちゃった……orz
とりあえず、今回は、柱をなくしてみました。後、書き方なども、ちょっと変えてみました。
柱に関しては、ただいいのが思い浮かばなかったで……これは、と思えるのがあれば、
今後も使っていきたいとは思っているのですが……どっちがいいのでしょうね?
それにしても、改めて拙い文章で、お目汚しすいません。
もう一度、推敲しなおして、書き直してみたいものですね……
それでは皆様、よろしくお願いいたします。
- 401 名前:Classical名無しさん :04/06/26 20:20 ID:I8QmN2Q2
- >>390
連載の場合は
>>345からの続きです。
とアンカーを張っておくと良いと思います。
つーか、お願いします。
- 402 名前:Classical名無しさん :04/06/26 20:25 ID:44iwDcsc
- >>400
(´∀`)<GJ!
いよいよ神懸かってきましたね。
ピョートルにまで嫉妬する八雲可愛すぎ。(*´Д`)
やはり八雲の心理描写が巧い。引き込まれます。
続き待ってますよ。筆が早いのも凄いですね
- 403 名前:Classical名無しさん :04/06/26 20:39 ID:eyY0mLtI
- >>400
お疲れ様です。
本当八雲萌えます。
次号は後編ですね、まだ続きそうなんでとても楽しみです。
結構長編になりそうですね。
- 404 名前:札幌のイナカッペ ◆lQJB6p9w :04/06/26 21:23 ID:eddaQKdg
- ___
/ \
/ / \ \
| (゚) (゚) |
| )●( |
\ ▽ ノ
\__∪ /
/  ̄ ̄ \
| | | |
| | | |
|⌒\| |/⌒|
| | | | |
| \ ( ) / |
| |\___人____/| |
| | λ | |
( ヽ
( )
(____)
- 405 名前:Classical名無しさん :04/06/26 21:28 ID:wzNZNqco
- やっぱり読点が多いのが気になるなあ。癖なのか狙ってやってるのか。
リズムを表そうとしているのかもしれないけど、読点っていうのは基本的に音楽で言う
スタッカートと同じで流れを止めるものだから多用はしない方がいいと思います。
少なくとも文節ごとにいちいち付けるものではないです。
よほどのことがない限り一行に一つくらいで十分だと思いますよ。
内容は言うまでもなくGJ。>>395のラスト2行が個人的にお気に入り。
- 406 名前:Classical名無しさん :04/06/26 22:00 ID:7VBN8m9c
- 俺は読点は別に気にならなかったけどなぁ。
地の文が八雲の一人称に近い形だから、リズムを作るのは良いと思った。
- 407 名前:Classical名無しさん :04/06/26 23:50 ID:wkl7Ykgo
- GJです。
ヤクモンの心情の移り変わりがわかりやすくて素敵ですね。
柱に関してはメール欄に入れてもらえると読みやすくていいかなと思います。
(自分が専ブラ使いだからかもしれませんが)
デート後半楽しみにしてます。
- 408 名前:Classical名無しさん :04/06/27 02:36 ID:m8e/wPvs
- 八雲連載してる人凄いね。
上手だウラヤマシイ。
- 409 名前:Classical名無しさん :04/06/27 02:59 ID:.eJsTDHc
- >>400
お疲れ様です。
素晴らしいですね。
八雲萌えというわけでもないのに、萌えます。
個人的に沢近ではなくて、実の姉との対決が
見たいところですが
・・・そこまでの道はまだ長そうですね。
- 410 名前:Classical名無しさん :04/06/27 05:42 ID:JZmhiykM
- >>405の言うとおり読点の多さは読んでる時ちょっと気になったけど、俺は
これは作意的に置いてるものと判断した。読点で小刻みに切ることで八雲の
拙い気持ちの変化を伝えてんのかなぁ、と。
個人的に連載モノは好きじゃないんだけどこの方は上手いし何より一作一作
のスパンスが早いんで見てます。GJ。
ただ、八雲のSSとなると皆三点リーダ使いすぎのような気が…
- 411 名前:Classical名無しさん :04/06/27 07:04 ID:jCJ2GJLk
- これはやばい
続きが気になる気になる
- 412 名前:Classical名無しさん :04/06/27 11:51 ID:1PDD2ZAY
- ミウラ風のあおりでも入れとくと良いのでわ
- 413 名前:412 :04/06/27 11:52 ID:1PDD2ZAY
- 誤爆
- 414 名前:412 :04/06/27 12:09 ID:1PDD2ZAY
- >>383
グッジョブ!
モブからの視点というのが良いなぁ。
一般人の常識からするとメインのやつらがいかに突き抜けた存在かとか。
当事者でないが故に見えてくる”主観を含まない事実”とか。
昼休みの播磨登校時の情景が妙に説得力がある。
もちろん燃え展開にも熱くさせていただきました。不器用で意地っ張りで漢な天王寺に惚れ。
主人公の動きも良し。
お時間があれば、またなんかやってください。
- 415 名前:Classical名無しさん :04/06/27 13:29 ID:vEyHh0W6
- >>400
実にGJだ。
続きが気になってたまらん。
- 416 名前:Classical名無しさん :04/06/27 14:48 ID:dg3DlDP2
- >>400
GJですね。
マジにあなたの書く八雲は非常にかわいいです。
次も頑張れ。超頑張れ。
- 417 名前:欲深なまどろみ :04/06/27 15:01 ID:j3yz7ek6
- SS投下してもいいスか?
- 418 名前:Classical名無しさん :04/06/27 15:02 ID:vP2ab9E2
- どうぞ。
- 419 名前:If :04/06/27 15:05 ID:j3yz7ek6
- 播磨拳児十四の夏――
「っがあ」
路地裏で初めて敗北を経験する。
相手はさっきまでやりあっていたチンピラではなく
同年代の少女だった。
「おまえの名は?」
「名を尋ねるときは自分からだろ、播磨拳児」
「けっ、知ってるじゃねーか」
「この辺じゃ、あんたは有名だからな。
私の名前は周防美琴」
「周防か、さっきの約束は守る。負けた以上ケンカは
もうしねぇ。その代わり……」
- 420 名前:If :04/06/27 15:06 ID:j3yz7ek6
- 数日後、播磨は周防達の道場に通っていた。
その代わり俺にお前のやってる武術を教えろ。
播磨はそう言って入門するや、たちまち頭角を現し、
花井と共に全国大会出場までしていた。
いつの間にか道場にとけ込み、周防の進学する
高校にまで合格し、以前の狂犬のようだった播磨とは
まるで別人になった頃――
日曜の道場では朝早くから播磨と花井が組み手をしていた。
お互い道場でまともな相手になるのが一人なのと、
稽古時間はもっぱら師範として(主に花井が)
使われてしまうため、こうして時間外に腕を磨いているのだった。
「昨日の一発が効いてるんじゃねーか? 動きが悪いぜ」
「僕は君と違って筋力トレーニングもしているから問題ない」
猛者といっても二人には違いがあり、
基礎を積み重ねた攻守バランスの良い花井に対し
播磨はケンカで培った感と、攻撃を特化させた
戦い方をする。
播磨の一撃は重く、当たればそれだけで相手を倒す。
しかし、猛者レベルにしては撃たれ弱いという欠点があった。
結局その日は相打ちになり、やはり播磨よりも
一足早く回復した花井が道場の掃除を始める。
- 421 名前:If :04/06/27 15:07 ID:j3yz7ek6
- 「播磨。スタミナはあるんだから、もう少し守りをだな」
「守る暇があったら攻める。それが俺のやり方だ」
二人がそんなやりとりをしていると周防がやって来た。
戸の開く音を聞いた播磨が大の字で寝ていた畳から飛び起きて
雑巾掛けを始めた。
「相変わらず早いなーおまえら」
「あたりめーだろ」
周防がやって来る頃になると、早めにやってくるものが
ちらほら出てくる。
その中に珍しい顔があった。
「おはようございます」
「あっ神津先輩」
道着に着替えて戻ってきた周防の顔がほころぶ。
「大学合格おめでとうございます」
「ありがとう。今日の練習に参加させてもらっても
いいかな?」
「もちろん」
道着に着替えて出てきた神津と何事か話している
周防をつまらなそうに観る播磨。
そこに振り向き様に声をかける周防。
「播磨、先輩の相手してやってよ」
「……断る。弱いヤツとやったら拳が鈍るぜ。
メガネにでも相手して貰え」
「この時間花井は小学生の師範だろ。意味なく暇なの
播磨だけなんだよ」
何故か不機嫌な播磨に首を傾げ、周防が言った。
「先輩、私が相手するよ」
それを聞いて、座り込んでいた播磨が立ち上がる。
「俺の方はいつでもいけるぜ」
- 422 名前:If :04/06/27 15:09 ID:j3yz7ek6
- 組み手は三秒で終わった。
神津の攻撃をかわした播磨がそのまま手加減無しで
一撃を加えたのだ。
「なにやってんだバカ!」
周防は播磨の頭を殴ると、壁まで吹き飛んだ神津に
駆け寄る。
「先輩、大丈夫か?」
「いてて、とりあえず生きてるみたいだ」
やせ我慢で笑顔をみせる神津に周防もひとまず安心する。
「入ってきたのは俺と同じ頃だったのに……
凄いな播磨は」
表情一つ変えなかったが褒められるのは悪くない。
そっぽを向いていたが、ぽつりと。
「もう一回やるか?」
苦笑して頭を振ると神津は言った。
「いや、やめておくよ。怪我でもしたら引っ越しが
できなくなるからね」
- 423 名前:If :04/06/27 15:11 ID:j3yz7ek6
- 「引っ越し?」
「ああ、今日の午後大学の近くへ引っ越すんだ」
「そう……なんですか」
急に周防の表情がくもる。
「……」
その様子を播磨は、ただ黙ってみつめていた。
神津は道場に残した荷物を引き取って帰っていた。
「なぁ」
「……」
「引っ越したら、次はいつ会えるかわかんねぇぞ」
「……」
「いっとく事があんなら……」
播磨の言葉に返事もせずに周防は道場へ戻ってしまう。
「ちっ、しゃーねぇーな」
昼過ぎになって、播磨がバイクに乗って道場へ来た。
家へ帰ろうとしていた周防を捕まえて、
強引に後ろに乗せると走り出す。
「どうしたんだよ播磨」
「神津のヤローは、一時半の電車に乗る。
今から行けば間に合うだろ」
「え?」
「お前も腹くくれ。今行かないと一生後悔するぞ」
「そんなの播磨には関係ないだろ」
「ああ、俺のお節介だよ」
「それなら、私に構うな!」
信号で止まったバイクから飛び降りて周防が
前方へ逃げる様に走り出す。
「周防、信号!!」
「え?」
- 424 名前:If :04/06/27 15:12 ID:j3yz7ek6
- 播磨が信号で止まったと言うことは、周防が
走った方向は――
周防の目に運悪く大型ダンプが走ってくるのが見えた。
それからの時間はとてもスローで、周防の身体は重く
反応さえできず、ただダンプが迫って来ることだけが
確認できた。
(やるだけやっときゃよかったかな?)
音も聞こえないその空間の中、播磨だけが普通に
動いていた。
「周防!」
その瞬間、武道家としての周防は播磨にやられた
と思った。
一瞬で懐まで入り込んで手を伸ばしてきたのだ。
しかし、その手は決して拳ではなく周防を突き飛ばした。
転倒した周防が顔を上げると播磨の身体が
宙を舞っていた。
突然動き出す時間――
タイヤがアスファルトに擦れる音と、
播磨が地面に落下する音がした。
- 425 名前:If :04/06/27 15:14 ID:j3yz7ek6
- 「播磨!」
慌てて近づくと道路で大の字になった播磨が目を開ける。
「死ぬかと思った……」
「生きてるのが不思議な位だ! お前大丈夫なのか?」
「ああ。それより周防、ここからなら駅まで
走って行けば間に合うぞ」
「何言ってんだバカ!」
「バカはお前だ、これじゃ俺が轢かれ損じゃねーか」
「ぐっ、わかった。私が戻るまで生きてろよ」
「あたりめーだろ。それを聞かねぇ事には……」
播磨が言い終わる前に周防は走っていた。
駅前の時計がもうすぐ一時半になろうとしていた。
自動改札を飛び越えホームへ向かう。
「神津先輩!」
- 426 名前:If :04/06/27 15:16 ID:j3yz7ek6
- 播磨が目を覚ましたときは、ベッドの上だった。
「気が付いたか?」
「周防……」
「ダンプにはねられて全治二週間だって」
「……」
座っていた周防が立ち上がって窓辺へ来ると
そっと開いて外の空気をいれる。
「先輩はね、私のこと教え子とか
妹みたいな存在としかみてなかったって」
駅での告白の結果を播磨に報せる。
窓の外を見ているのは顔を見せられないから
かもしれない。
「でもすっきりした。播磨のお陰だな」
振り返った周防は、播磨を釘付けにした。
- 427 名前:If :04/06/27 15:18 ID:j3yz7ek6
- 「それよりダンプにはねられる前、播磨は
何をやったんだ?」
「周防を突き飛ばしたんだよ」
「突き飛ばす前だよ。あの瞬間播磨だけが
動いて見えたんだ」
播磨は暫く考えてから言った。
「今から教える事はメガネには秘密だぞ。
実はすんげー集中して相手の攻撃位置を予測
すると、俺の瞬発力があがるんだよ」
「……」
「今度の大会で使う切り札だからな。黙っておけよ」
「……」
「どうしたんだ? 黙りこくって」
「いや、今更だが播磨って凄いやつ?」
「今頃気が付いたのか?」
「だってそれってどっかの流派の秘奥義じゃないか」
「違う! 俺のオリジナルだ」
「それを一人で考え出すってのが凄いな」
「そんなに凄いか?」
「ああ、凄い」
「じゃその凄い俺が言ってやる。周防
お前はいい女だ」
視線を逸らして言う播磨に一体何を言われたのか
判らないといった顔をした周防。
- 428 名前:If :04/06/27 15:19 ID:j3yz7ek6
- 「だから、お前はすげーいい女なんだから
落ち込むなと俺は言いたいのであって、
弱みにつけ込んで告白しているわけではないぞ」
「……ぷっ、なんだよそれ」
周防は笑うふりをして上を向き目頭が熱くなるのを
堪えた。
「播磨……」
「なんだよ」
「ありがとう」
「……」
おわり
- 429 名前:欲深なまどろみ :04/06/27 15:22 ID:j3yz7ek6
- 以上です。
閃きで世界を変えてしまいました。
あと省略されてるのですが、
みなさんが読めるか心配です。
忌憚無い意見をどうぞ。
- 430 名前:Classical名無しさん :04/06/27 15:29 ID:Fxxuq7bM
- >>400
GJ!! 八雲の心情がわかりやすい文体でした。
ただ、一人称と三人称が混じっているのが、狙ってなのかどうなのかが少し気になったかな。
読点については、個人の癖とか意識的なものとかもあるので、俺は気になりませんでした。
鬼ごっこに比べれば、よっぽどですw
>>429
はっきりと、地の分が足りない。もし意識的にやっているなら、会話そのものに意味をもたせないと難しいでしょう。
- 431 名前:Classical名無しさん :04/06/27 16:08 ID:pH2URZq.
- >>400
GJとしか言いようがない。
>>429
違和感が・・・
- 432 名前:Classical名無しさん :04/06/27 16:21 ID:vEyHh0W6
- >>429
一言で言えば、「あまり面白くない」。
いや、どこが面白くなかったかを指摘できないヘボ読者ですが。
- 433 名前:欲深なまどろみ :04/06/27 16:33 ID:RuC/chls
- すんません!!精進して出直してきます。
- 434 名前:大魔神宮球場に現る。 :04/06/27 16:34 ID:H6Qj3oYA
- http://www5f.biglobe.ne.jp/~seigo/468ogata.JPG
http://www.masato-i.com/030911zinguu/030911zinguu-1.jpg
- 435 名前:Classical名無しさん :04/06/27 16:35 ID:MVKMq5JU
- >>429
んー、なんというか、IFにしてもあまりにIF過ぎるのが問題だと思う。
キャラの名前が同じだけの別の話になっているように思える。
というよりか、流石に播磨→天満の流れを消去したスクランは
最早スクランじゃないと思う。
- 436 名前:shape of my heart :04/06/27 17:01 ID:iyj1TxGk
- 絃子SS投下します。
少しばかり長いかもしれませんが……
後、微妙に15禁に近いところが入ってるかもしれないので、
まずい方は、あぼーんしておいてください(;´Д`)
- 437 名前:shape of my heart :04/06/27 17:02 ID:iyj1TxGk
- 「おーい、イトコ、あがったぞ」
風呂からあがり、Tシャツと短パンに着替えた播磨が、居間でのんびりとテレビを見ながら、
酒を飲んでいるイトコに声をかけた。
「ふむ、わかった。ありがとう、拳児クン」
絃子は、視線をテレビに固定したまま、返事を返す。
そんな返事を確認すると、播磨は、そのまま自分の部屋に戻ろうとした。
「──まぁ待ちたまえ、拳児クン」
ふと後ろから呼び止められた播磨は、足を止めると、くるりと後ろをむいたその瞬間、
突然、目の前にビール缶が放り投げられる。
「っとっと……! あ、危ないじゃねえか!……ったく、いきなりなんだよ?」
空中で、見事にビール缶をキャッチした播磨は、わずかに声を荒げながら答えた。
「明日は日曜日だ。たまには二人で飲まないか?」
そう言うと、絃子は、自分の座っているソファーの横の指さす。
絃子の前には、既にいくつかの空き缶が積み上がっていた。
そのせいか、わずかに絃子の頬が赤い。
「ふーん……まぁいいけどよ。イトコから誘ってくるなんて、珍しいな」
播磨は、そう言いながらも、絃子のとなりに、どっかりと深く腰掛けた。
そして、そのままプルタップを倒すと、ビールを喉の奥に流し込む。
「ふう──」
播磨は、一息つくと、絃子がぼんやりと見ていたテレビを、同じように見る。
どうやらニュース番組が流れているようだ。今日一日におこった出来事が、次々と紹介される。
播磨は、しばらくニュースを眺めていたが、やがて飽きたのか、ちらりと隣にすわっている絃子を見た。
暑いせいか、珍しく髪をポニーテールにまとめていた。そのせいか、絃子のうなじが、播磨の目にダイレクトに飛び込んでくる。
胸元をややゆるめた大きめのシャツと、体のラインが浮き彫りになるようなスパッツ姿という、
非常にラフな格好をした絃子は、ぼんやりとニュースを見ていた。
いや、見ていたと言うよりは、眺めていたといったほうが正確かもしれない。
そして、時折ビールを、その形のよい唇に近づけると、そのまま勢いよく喉に流し込んでいた。
時折、唇の横からわずかに漏れたビールのしずくが、絃子の頬を伝わり、そのまま細い顎へ。
そして、播磨の位置からわずかに覗く、絃子の胸元へと落ちる。
- 438 名前:shape of my heart :04/06/27 17:05 ID:iyj1TxGk
- 「──どうした、拳児クン? 私のほうをじっと見て……」
播磨の視線に気付いた絃子が、突然播磨のほうに顔を向ける。
「い、いや。別に……な、なんでもねえよ!」
知らぬ間に、自分が絃子の横顔を見つめていたことを知られたくなかったのか、
播磨は、照れを隠すように、ビールを一気にあおった。
そんな様子を見た絃子は、小さくクスリと笑う。
「──ふふ。拳児クン、私に見とれていたのか?」
「──ッ! ごほっ、ごほっ!!……い、いきなり何言い出すんだ!!」
内心あたっているだけに、思わず咳き込んでしまう。
「先ほどから、ちらちら私のほうを見ていたじゃないか」
絃子は、いたずらな笑みを、播磨の方に向ける。
「──だ、だれがテメエなんかに見とれるかよ! 気のせいだ、気のせい!」
「ふむ……それは心外だな。一応これでも、スタイルには、多少の自信があるのだがね」
絃子は、半分冗談めかしてそう言うと、細いウエストから、すらりと伸びる両足を組み、
そして、両腕で自分の髪をかき上げる仕草をしてみせた。
その仕草が、「女性」を播磨に感じさせ、播磨の鼓動を、より一層速くさせる。
「ば、バカヤロ! 変なことしてねぇで、さっさと風呂でも入ってこい!」
播磨は、視線を外すと、そうぶっきらぼうに答えた。
「ふむ。そうだな。酔い覚ましも兼ねて、入ってくるか」
そう言うと、絃子は、わずかにふらつきながら立ち上がり、髪を結んでいた紐をスルリと解く。
その瞬間、つややかな黒髪が、ハラリと背中に流れ落ちた。
そして、辺りに広がった絃子の髪の香りが、播磨の鼻をわずかにくすぐる。
「ではな、拳児クン」
絃子は、そう言い残すと、バスルームへと消えていった。
一方、居間に一人残された播磨は、ちびりちびりとビールを飲んでいた。
先ほどから流れているニュース番組は、既に今日一日の出来事が終わり、
いくつかのスポーツの結果を報道していた。
播磨の視線は、確かにテレビのほうを向いていたが、頭の中では、全く別のことが浮かんでいた。
- 439 名前:shape of my heart :04/06/27 17:07 ID:iyj1TxGk
- (ぐ……イトコの野郎、一体どうしちまったんだ。なんつーか、今日はその……妙に色気があるっていうかなんていうか……
そ、そりゃ確かに、イトコはどっちかっていうと美人の部類に入るかもしれねえけどよ……
でも、「あの」イトコだぞ?……大体、俺は天満ちゃん一筋じゃねえのかよ!
イトコなんかにドギマギしてどうするよ!!……うおおーッ、天満ちゃん、すまねー!!)
とかなんとか。ある意味、年齢相応の悶々とした考えが、播磨の頭の中で渦巻いていた。
そんなとき、突然バスルームのほうから、絃子の声が飛んできた。
「拳児クン、悪いがちょっと来てくれないか?」
「なんだよ……ったく」
播磨は、ぶつぶつ言いながらも、バスルームの方へと向かっていった。
「おい、どうした?」
脱衣所へと続く扉の前で、播磨は大声で呼びかける。
「どうやらボディソープが切れてしまったようなんだ。
すまないが、取ってくれないか?」
「……そんなもん、自分でとりゃいいだろ」
播磨は、そう言うと、一つ大きなため息をついた。
「確かにそうなんだが、私は既にシャワーを浴びてしまったからな。
このまま取りに行くと、脱衣所が濡れてしまうだろう?」
ドアの向こうから、絃子の、ややくぐもった声が聞こえてきた。
「で、でもよ……」
「頼むよ、拳児クン。このままだと、私は湯船にもつからずにずっと立っていることになってしまう
……君は、同居人が風邪をひいてもいいのかね?」
「だぁー! わかったよ! とりゃいいんだろ!……ったく、屁理屈こねやがって……」
播磨は、ぶつぶついいながらも、脱衣所へつながっているドアのノブに手をかけた。
「ん? 何か言ったかね?」
「なんでもねぇよ。んじゃ、入るぞ」
播磨は、絃子の「頼む」という言葉を確認すると、ゆっくりとドアノブをひねった。
がちゃりという金属的な音を立てて、ドアがゆっくりと開く。
やや大きめの脱衣所の向こうには、バスルームへとつながる、前面全てにすりガラスをはめ込んだ
簡単なドアがついていた。
- 440 名前:shape of my heart :04/06/27 17:10 ID:iyj1TxGk
- その奥から、ザーッというシャワーの音が聞こえてくる。
すりガラスごしに、ぼんやりと映る絃子の姿。
もちろんはっきり見えるはずもないのだが、ガラス一枚の向こうに、一糸まとわぬ姿の絃子がいるかと思うと、
播磨はドアの方を正視することが出来なかった。
「そ、それで……ど、どこにあるんだよ?」
「あぁ。その洗面台の下だ。そこの扉の中にあると思う」
すりガラスごしに見える絃子の影が、ドアに近づいてきたせいか、先ほどよりも少し大きくなる。
「わ、わかった! さ、探してみる!」
そう言うと、播磨は慌てて洗面台の方に向かった。
脱衣所から入ってすぐ右のところに、比較的大きな鏡を貼り付けた洗面台があった。
播磨は、その洗面台に近づくと、目的の品を探すためにしゃがみ込む。
「えーっと……どこだ?」
播磨が、洗面台の下にある、物容れのドアに手をかけたとき、ふと視界に洗濯籠が飛び込んできた。
その中にあったのは、無造作に突っ込まれた絃子の服、そしてその上には黒い一組の下着があった。
それを見たとたん、播磨は自分の鼓動が、一層速くなるのを自覚した。
(ば、バカヤロ! こ、こんな見えやすいところに置いておくんじゃねーよ!
しかも黒かよ……テメーにはお似合いだよ──って、俺は何を想像してるんだぁ!!)
播磨は、一瞬自分の頭に浮かんだ、よこしまな考えを吹き飛ばすかのように、自分の頭を左右に2,3度振る。
そして、やや大袈裟に、自分の頭を洗面台の扉のなかに突っ込んだ。
「え、えーっと……お、多分これだな?」
普段絃子が使っているであろうボディーソープをみつけると、それを手に取り、
なるべく洗濯籠の方を見ないようにして、バスルームの扉の方を向く。
- 441 名前:shape of my heart :04/06/27 17:12 ID:iyj1TxGk
- 「絃子、あったぞ」
「そうか、すまないな」
播磨は、コホンと一つ咳払いをすると、ためらいがちに扉に近づいた。
「そ、それじゃあ、ここに置いておくからな。俺が出て行ったら、取ってくれ──ってオイ!?」
ボディーソープを床に置いた播磨の目に飛び込んできたのは、すりガラス越しにも分かるほど、
大きくなった絃子のシルエット。
「ありがとう、拳児クン。すぐ取るから──」
「バ、バカ!! 俺がまだいるって──」
──ガラリ
脱衣所に、乾いた音が響き渡る。
お互いの姿を遮っていたドアが開くと同時に、バスルームの方から、勢いよく湯気が流れ込んできた。
そして湯気に混じって、ゆっくりと現れてくる絃子の姿。
左手に持ったタオルで、自分の前面を申し訳程度に隠してはいたが、その体のラインは丸見えだった。
うなじから肩にかけてのなだらかなライン。
片腕では、覆いきれないほどの胸の谷間。
同姓からもうらやまれるほどの、くびれたウエストから伸びる、ゆるやかなカーブ。
そして、そこから伸びる、スラリとした二本の足。
女性として完成されたラインが、播磨の脳裏に一瞬にして焼き付いてしまう。
播磨は、急いで後ろを向くと、背中越しに怒鳴りつける。
「ば、バカヤロウ! 俺がまだいるだろうが!!」
「ふむ……一応見られたら困るところは、隠しているつもりだがね」
播磨とは対照的に、飄々とした口調で語る絃子。
「そういう問題じゃねえだろ!」
「そうか……? 昔はよく一緒にお風呂へ入ったじゃないか」
絃子は、ゆっくりとボディーソープを取り上げながら言った。
「いつの頃の話をしてんだ!……と、とにかく! お、俺はもう行くからな!」
そう言うが速いが、一目散に出て行ってしまう播磨。
後に残された絃子は、しばらくそのボディーソープをじっと見ていたが、
やがてクスリと小さく笑うと、バスルームの奥へと消えていった。
- 442 名前:shape of my heart :04/06/27 17:15 ID:iyj1TxGk
- 一方、バスルームから飛び出した播磨は、そのまま自分の部屋に飛び込むと、ベッドの上にどっかりと腰を落とす。
そして、思わず両腕で自分の頭を抱えてしまった。
「い、イトコのヤロウ……一体何を考えてるんだ!?
チクショウ! 俺をからかってそんなに楽しいかよ!
──だが、確かにキレイな体をしてやがるなぁ……って、こんな事を考えてちゃダメだろ、俺!!
あぁッ、天満ちゃん! こんなふしだらな俺を許してくれ……」
悶々と自問自答を繰り返す播磨。ケンカには滅法強い播磨。だが、こういう事になると
とことん弱いのも播磨である。頭の中には、先ほどのイトコの姿が焼き付いて離れなかった。
そうやって、播磨がしばらく唸っていると、ドアのほうから乾いたノックの音が聞こえてくる。
「私だ、拳児クン。いるのか?」
ドアの向こうから、絃子の声が聞こえてくる。播磨は、驚いてドアの方を見た。
「な、なんだよ?」
「入るぞ──」
その声と同時に、播磨の目の前で、ゆっくりとドアが開く。
そこにいたのは、タンクトップに短パンという、非常にラフな格好をした絃子の姿があった。
普段見慣れているはずの姿。だが、先ほどのこともあり、やけに生々しく思えてしまう。
「さっきはありがとう、拳児クン。助かったよ」
絃子は、そう言うと、酔っているせいなのか、ややふらつきながら播磨の方へ近づいてきた。
未だ酔いが覚めてないためか、顔が赤い。
「お、おい。なんかフラフラしてるが、大丈夫か?」
さすがに心配になったのか、播磨が絃子にむかって声をかける。
「なに、心配するな。これぐらい、大丈──」
だが、そこまで言った瞬間、絃子の体が大きく揺れる。
そして、播磨に体を預けるように、倒れ込んできた。
- 443 名前:Classical名無しさん :04/06/27 17:19 ID:fab4xAPk
- 支援?
- 444 名前:shape of my heart :04/06/27 17:19 ID:iyj1TxGk
- 「──っと、危ねぇ!」
思わず立ち上がると、そのままがっしりと絃子の体を支える。
急なことだったので、半ば、絃子の体を抱き寄せる形になってしまった。
二人の体を隔てているのは、わずか数枚の布だけ。
その布を通して、絃子の柔らかい体の感触が、播磨の肌に痛いほど感じられた。
「っと──ありがとう、拳児クン」
絃子は、播磨に自らの体を預けたまま、つぶやいた。
「い、いや。べ、別に──」
鼓動が、ますます速くなっていくのが、自分でもはっきりと分かってしまう。
その鼓動が、絃子に伝わってしまうのではないか?
ふと、そんな考えが播磨の頭をよぎった。
だが、絃子は、スルリと播磨から、体を抜くと、そのままベッドに腰を下ろした。
その瞬間、風呂上がりのせいなのか、石けんの香りが辺りに広がる。
「──拳児クン、キミも座ったらどうかね?」
ちらりと上目がちに播磨をみると、そうつぶやく絃子。
「お、おう……」
そして、播磨は、絃子が腰掛けている横に、自分も腰を下ろした。
絃子は、両手を組み一つ大きく伸びをすると、ふぅと大きな息をついた。
「お、おい、イトコ。お前、随分酔ってるみたいだし、早く寝た方がいいんじゃないのか?」
播磨は、ゴホンと咳をすると、絃子にそう勧める。
だが、絃子はその質問には答えず、しばらくじっと播磨の顔を見ていた。
そして、何を思ったのか、突然立ち上がると、目の前にぶらさがっていた紐を引っ張ると、
部屋の電気を消してしまった。
「お、おい! 何やってんだよ!」
驚いた播磨が、非難するかのように言う。
だが、絃子はそれには答えず、そのままゆっくりと窓ガラスの方を指さす。
「──見たまえ、拳児クン」
ふと絃子が指さした方をみると、そこには綺麗な満月が、静かな空にこうこうと輝いていた。
窓ガラスから差し込む柔らかな月の光が、部屋の中を、そして二人の姿を淡く照らし出す。
- 445 名前:shape of my heart :04/06/27 17:21 ID:iyj1TxGk
- 「──綺麗だとは思わないか?」
絃子は、ふと播磨の顔を見上げる。
その瞳は、月の光を反射して、わずかに揺れ動いていた。
「あ、あぁ……ま、まぁな」
思わず、跳ね上がってしまう自分の心臓。
そんなとき、自分の横から、わずかに布の擦れるような音が聞こえる。
──コツン
そこには、播磨の肩に自分の頭をのせ、さらに全身を預けるように、
播磨のほうへもたれかかっている絃子の姿があった。
絃子の柔らかい体が、自分のTシャツごしに、否応なしに感じられる。
「い、イトコ?」
驚いた播磨が声をかける。
だが、絃子はそのままのゆっくりと目を閉じると、静かにつぶやく。
「──少し、酔ってしまったかな」
「そ、そうか」
二人は、それからしばらくの間、一言もしゃべらなかった。ただ、じっと月を見る。
二人に聞こえるのは、お互いの息づかいだけ。
ふと、播磨が絃子を見た。
淡い月の光に照らし出された絃子の姿。
切れ長の瞳の奥には、漆黒のダイヤモンドのような光が瞬き、
スラリと通った鼻筋は、月の光によって、わずかにかげりが生まれる。
そして、その下に続く形のよい唇は、かすかな微笑をたたえていた。
白磁のような絃子の肌は、月の光によって、青く照らし出され、
背中に流れる長い黒髪は、つややかなきらめきを放っていた。
播磨は、そんな幻想的な雰囲気をただよわせる絃子を見ると、なぜか顔が赤くなってしまった。
- 446 名前:shape of my heart :04/06/27 17:23 ID:iyj1TxGk
- 「──そろそろ寝ることにするよ。酔いのせいか、随分と眠気が襲ってきたようだしな」
どれほどの時間がたったのか分からない。
絃子が、その沈黙を破るかのように、静かに口を開いた。
そして、ゆっくりとその体を播磨から引き離した。
「そ、そうか。まぁ今日は疲れているみたいだし、ゆっくり休んでくれや──って、オイ!」
ふと横を見ると、そこには、播磨のベッドの上に上がろうとしている絃子がいた。
「な、何やってんだよ!」
播磨の非難をよそに、絃子は播磨の使っている枕を引き寄せると、そのまま倒れ込むように、
自分の体をベッドの上へ横たえた。
その瞬間、絃子の長い黒髪が一瞬宙に舞い、やがてベッドの上に音も立てずに広がる。
「何って……見たままなのだが」
絃子は、そのまま、自分の顔を半分枕に埋める。
「ば、バカヤロ! ここは俺のベッドだぞ。自分の部屋で寝ろよ!!」
「固いことを言うな、拳児クン……キミが私の部屋で寝ればいい」
そう言うと、絃子は、静かに目を閉じてしまう。
「そ、そう言う問題じゃねーだろ!」
一瞬、自分が絃子のベッドに寝ている姿を想像していまい、顔が赤くなるのを自覚してしまう。
そして、その考えを振り払うかのように、頭を軽く左右に振った。
- 447 名前:shape of my heart :04/06/27 17:24 ID:iyj1TxGk
- 「──どうしても、ダメなのか?」
「あ、当たり前だ!」
「やれやれ、仕方ないな。それなら──」
絃子はそう言うと、ゆっくりと自分の上半身を起こす。
そのまま播磨の顔を覗き込むように見ると、クスリと小さな笑みを浮かべ、
ゆっくりと自分の顔を播磨の耳元に持っていく。
そして、暖かい吐息とともに、小さくつぶやく。
「──私と一緒に寝るか?」
一瞬、心臓が止まったかのように錯覚する。
絃子の顔は、わずかに赤く、その目は艶めかしく揺れていた。
そんな瞳を見た瞬間、播磨は、絃子の肩を抱くと、そのまま自分の方へ勢いよく抱き寄せる。
「い、絃子! お、俺は、俺は──」
- 448 名前:shape of my heart :04/06/27 17:25 ID:iyj1TxGk
- 「──それで、その後どうなったんですか?」
笹倉は、自分の隣で、半分からになったグラスをカラカラと回している絃子に、先を促した。
バーの中には、絃子と笹倉の二人だけ。
壁に立てかけてあった、アンティークな置き時計の針は、既に10時を回っていた。
絃子は、息を一つ吐くと、そのままガラスに残った酒を、一口喉に流し込む。
「別に──どうもならなかったよ」
カタン、とグラスをカウンターに置く。
絃子は、そして、もう一度軽いため息をつくと、そのままグラスに残った酒を、
一気に飲み干した。
そして、空になったグラスをぼんやりと覗き込んだ。
そこに映り込んだ自分の顔を見つめる。
あの時、自分はどんな顔をしていたのだろうか?
「──どうしたんですか? なんだか、嬉しそうですけど……」
笹倉は、自分の横で、空になったグラスを、なぜか楽しそうに見つめていた絃子に、
優しく問いかけた。
「べ、別に……どちらかと言うと、私は哀しいのだがね。
何せ、私を前にして墜ちなかったのだから……女としては、ちょっとショックなんだが」
いつになく饒舌な絃子。
だが、絃子を昔から良く知る笹倉にとっては、それが単なる照れ隠しでしかないことが、
手に取るように分かった。
「ふふ……まあ、そう言うことにしておきましょうか」
笹倉はクスリと笑うと、そのままグラスを口につけた。
絃子は、やや憮然とした表情をしていたが、そのまま次の酒を、カウンター越しに注文した。
そして、ふと、あの時の事を思い出す。
- 449 名前:shape of my heart :04/06/27 17:29 ID:iyj1TxGk
- 「──俺は、俺は──」
一瞬、絃子の両肩をきつく抱きしめる播磨。
だが、わずかな逡巡を見せた後、両肩を押しのけるようにして、絃子の体を静かに離す。
「──拳児クン?」
わずかな悲しみ、ためらい、怪訝──そう言った様々な感情が入り交じったような視線を向ける絃子。
そんな視線を、播磨は真っ向から受け止める。
「い、イトコ──俺、まだよく分わかんねえけど──その、こういう事ってさ、
酔った勢いなんかでやることじゃねえと思うんだ」
「──」
「そ、その……イトコが何を考えているのかよく分かんねえけど、
こういう事って、お互いの気持ちをちゃんと大切にしなきゃいけないと思う」
一言一言、ゆっくりと、そして言葉を選ぶように言う。
そんな播磨を、絃子は静かに見つめていた。
「──どうして?」
「どうしてって……そ、そりゃ……お、俺にとって絃子は……絃子は──」
播磨は、そこまで言うと、わずかに顔を赤らめる。
そして、ゆっくりと、だがはっきりと言う。
「──大切な人だから」
播磨の声が、部屋の中に染み渡る。
夜も更けてきたせいか、辺りには物音一つしない。
二人の姿は、先ほどよりも傾きかけた月明かりにより淡く照らし出され、
ベッドの上には、二人の長い影が伸びていた。
- 450 名前:shape of my heart :04/06/27 17:32 ID:iyj1TxGk
- 絃子は、しばらくじっと播磨を見つめていたが、やがてふっと目を閉じると、
そのまま播磨から視線を隠すように、うつむいてしまった。
「だ、だからさ、その──って、イトコ?」
播磨は、絃子の両肩がわずかに震えているのに気付く。
「──ふ、ふふ」
「い、イトコ? どうしたんだ!?」
「ふふふ……あっはっはっは」
突然、ころころと播磨の前で笑い始める絃子。
一方播磨は、訳が分からないといった感じで、目を白黒させていた。
そして、絃子は、ひとしきり笑うと、そのまま播磨に声をかける。
「いや、すまない、拳児クン。ちょっとキミをからかいたくなって、誘惑してみたんだが……
いやいや、なかなか面白いものを見せてもらったよ」
「な──ッ! てっ、テメエ!!」
播磨は、思わず頭に血が上ってしまったのか、顔を真っ赤にしながら立ち上がった。
「すまないな、拳児クン……だが、キミもなかなか純情なのだね」
そこまで言うと、絃子は再びクスクスと笑い出した。
「──クッ! 謝ってすむ問題かよ! やっていい冗談と悪い冗談があるぞ!」
播磨は、本気で怒っているのか、かなり語気が荒い。
「ふぅむ……そこまで怒るとは思わなかった。
本当にすまなかった、拳児クン。許してほしい」
そう言うと、絃子は、素直に播磨にむかって頭を下げた。
普段、絃子の頭を下げる姿なぞ、めったに見ていない播磨である。まして、それが自分に向けられて
頭を下げているのだから、尚更、毒気を抜かれたかのようになってしまった。
「ふ、フン! 分かったならもういいけどよ……とにかく、俺はもう寝るから。
イトコも自分の部屋に戻れよ」
- 451 名前:shape of my heart :04/06/27 17:33 ID:iyj1TxGk
- わずかに顔を赤くしながら言う播磨。
そんな播磨を見ると、絃子は小さな笑みを浮かべる。
「──そうだな。だがせめてものお詫びだ。
拳児クンに、私の大切なものをあげよう──」
絃子は、やや伏せ目がちにそう言うと、ゆっくりと立ち上がった。
そして、一瞬の逡巡の後、播磨に笑顔を向ける。
今まで見たことのないような、優しい、そして面映ゆい笑顔。
播磨は、優しい光を湛える絃子の瞳に吸い込まれてしまったかのように、視線を外すことが出来なかった。
「──い、イト──」
次の瞬間、絃子は、播磨の顔を掻き抱くように、自分の両手を播磨の首に回す。
そして、そのままつま先立ちになると、素早く自分の唇を播磨のそれに押しつけた。
部屋の中に伸びる、一つの長い影。
時間にして、恐らくほんの数秒ほど。だが、二人にとっては、とてつもなく長く感じられただろう。
やがて、名残惜しそうに、ゆっくりと唇を放す絃子。
お互いの唇をつなぐ、唾液と言う名の橋が、月明かりに照らされて、つややかにきらめく。
そして、絃子は、ややはにかむように笑うと、優しくつぶやく。
「──私の『心』をキミにあげよう。大切にして欲しい」
絃子は、自分の顔が、赤くなっているのが分かった。
多分それは、酒のせいだけではないだろう。
そして、絃子は、真っ白になって固まっている播磨に「お休み」と声をかけると、
そのまま静かに部屋を出て行った。
- 452 名前:shape of my heart :04/06/27 17:40 ID:iyj1TxGk
- 「大切な人──か」
絃子は、自分の部屋に戻ると、ゆっくりとそうつぶやいた。
そして、人差し指を、自分の唇の部分に持っていく。
ふと、先ほどのことが思い出される。
自分のしたことを思い出すと、思わず顔が赤くなり、心臓が速くなる。
どうしてあのようなことをしてしまったのだろう?
お酒の勢い? 彼の困った顔をみたかったから?
様々な想いが交錯し、絃子の心の中を掻き乱す。
──いや、多分、どれも正しくない。本当の理由はもうわかっているはず。本当の理由、それは──
絃子は、そこまで考えると、顔が赤くなり、鼓動が速くなる。
だが、それは、決して嫌なものではなく、どこかなつかしいものだった。
「──今夜はいい夢が見られるかもしれないな」
ふと、絃子は、空に輝く満月を見上げながら、つぶやいていた。
(了)
- 453 名前:shape of my heart :04/06/27 17:42 ID:iyj1TxGk
- 以上です。
微妙な表現が多いかもしれませんが……
5巻限定版の、イトコ先生のイラストを初め、
様々なものにインスパイアされて書きました。
感想、指摘、批判要望はどんどんどうぞщ(゚д゚щ)カモーン
それでは( ´∀`)
- 454 名前:Classical名無しさん :04/06/27 17:48 ID:NQQ.sBpA
- >>453
⊂⌒〜⊃*。Д。)-з
絃子さん萌えの俺にとってはまさに神SSでした。
永久保存ですなこれは。
もうひたすら播磨を誘惑する絃子さんが最高です。
描写もとても上手くて情景が浮かんでくるようでした。
とにかくGJでした。最高
- 455 名前:Classical名無しさん :04/06/27 18:15 ID:Fxxuq7bM
- ふむ、てぃるもん氏のナデSSといい、ここといい、今日は良作に出会える日だw
ちょっと気になったのが、誘惑のシーン。もう少し斜に構えてたほうが個人的には垂涎だったり。
(;゚∀゚)y−~~しかし、これだけ良作があると、私の作品の出番がなくなるな。
- 456 名前:Classical名無しさん :04/06/27 18:37 ID:Z1t788nA
- >>453
GJ!!
ああもう、やばいなぁこれは(*´Д`)ハァハァ
なんですかこの萌えは、マジで突き抜けてる。
途中で笹倉先生とのシーンが入るのがまた良い味だしてますね。
次回作を切に望んでおります。
- 457 名前:A nightmare on Yagami Street(1/6) :04/06/27 18:56 ID:GvT2LPOw
- 夕暮れの人が行き交う街の中、播磨拳児と修治の兄弟が肩を並べて歩いていた。
「なあ兄キ、何か食い物買ってくれよ。俺、歩きつかれて腹減っちまったよ」
修治はふてくされた顔で兄のシャツを引っ張りながら言った。
「なーに言ってるんだ。家いたら夕飯だろーが。我慢しろ」
立ち止まって引っ張られたシャツを引き離す拳児。肩には小さなボストンバックを肩にかけている。
「えー、ケチだなー。大体バイクで迎えに来てくれたら良かったのによー」
「ガキ乗せてバイク乗れるわけ無いだろ。とっとと歩け」
修治を無視して歩き出した。
「何だよー。ガキ扱いすんなよー」
拳児に慌ててついていく修治。
「あー、うるせーなー。ったく何で俺がこいつのお守りなんて。こんなところ誰かに見られたら」
スタスタと歩く速度を上げ通りの角に差し掛かったところ、拳児は見知った二人と突然出会わせた。
沢近愛理と高野晶の二人組みだった。
- 458 名前:A nightmare on Yagami Street(2/6) :04/06/27 18:56 ID:GvT2LPOw
- (げ、お嬢)
「あ、ハ」
ゲ、と愛理が発しようとしたが、下の方から聞こえた元気な声にかき消された。
「晶ねーちゃん!」
さっきまでのふてくされた顔はどこにいったのやら、修治が笑顔で言った。
「あら、修治君じゃない。こんにちは」
軽く屈んで修治に挨拶する晶。
「晶、知り合いの子?」
「播磨修治君よ」
「播磨?って、えっ?」
思わず拳児の方に目をやる愛理。
「るせーなー。俺の弟だよ」
拳児はその愛理の目線を外すように顔を横に向けて答えた。
「え、アンタ弟なんていたの?」
その拳児の姿を見て、愛理は笑いを堪えるように口に手をあてている。
(っていうーか、何で晶がハゲの弟と知り合いなのかしら。
ハゲの携帯の番号といい、晶の情報網ってどうなってるのかしら?)
と晶に顔を向けた。
- 459 名前:A nightmare on Yagami Street(3/6) :04/06/27 18:57 ID:GvT2LPOw
- すると、
「こ、こ、こんにちは。は、播磨修治といいます」
修治が愛理に大きな声で挨拶した。気をつけの姿勢で全身をガチガチに固めており、
その愛理を見つめる顔は真っ赤である。
大きな声に驚く愛理。そして拳児と修治の姿を交互に見やりしばらく思案すると、
何か思いついたのか突然笑顔になった。
(な、なんだ!)
その笑顔に驚く拳児。
「こんにちは、修治君。私は沢近愛理よ。よろしくね」
愛理はしゃがみんで修治に顔を近づけると、満面の笑顔で挨拶を返した。
「は、はい。愛理ね、ね。愛理おねーさん」
愛理に見つめ返されてますます顔を赤くし、修治は下にうつむきながら答えた。
愛理はその修治の姿を見て微笑む。
「ふふふ、可愛いわねー。播磨拳児君にこんな可愛い弟さんがいたのね」
修治の頭を撫でながら拳児に笑顔を向けた。
(播磨・・・拳児君だあ?)
驚いた顔のまま半歩ほど後づさりする拳児。
「愛理おねーさんも、アニキ、じゃなかった、兄のお知り合いですか?」
修治がちらちら愛理の顔を見やりながら尋ねる。
「ええ、クラスメイトよ。晶もいっしょよ。いつもあなたのお兄さんには『大変お世話』になっているわ」
なぜか『大変お世話』の当たりを強調している。
(な、何企んでやがるんだお嬢は。「お世話になってる」って報復する気か。もしや街のど真ん中でこいつを。。。)
さっと頭の帽子を両手で押さえる。顔は既に真っ青になっている。
- 460 名前:A nightmare on Yagami Street(4/6) :04/06/27 18:57 ID:GvT2LPOw
- 「修治君はお兄さんと一緒に何していたの?」
「えっと、りょ、両親が旅行に行ったので、兄の所に泊まりに行くところです」
「あら、お兄さんご家族と一緒に住んでいないんだ」
「はい!絃子ねーちゃ、うごぉっ」
拳児は背後から修治の口を両手で押さえて自分の方へ引っ張った。
「いやなんだ、ほら、俺は親戚んちに世話になってるんだ」
「ふがふが(何するんだよアニキ!)」
拳児の両腕の中で暴れる修治。
「へー、それで迎えに来てもらってたんだ。弟思いの『とっても優しい』お兄さんね、修治君」
と、愛理は拳児に笑顔を向けた。拳児の顔は真っ青を通り越して白くなっており、
汗がダラダラと流れ出ている。
「あー、じゃ、俺らはもう行かなくちゃなんねーから。
そうだ、修治お前腹減ってるって言ってたよな。何か買ってやるから早く行くぞ」
拳児はしゅたっと右手を上げると左手で修治を抱え込み、今にもこの場から離れようとしる。
「またね、修治君」
愛理は立ち上がると小さく手を振った。それに倣って晶も手を振る。
「バイバーイ、愛理おねーさん、晶ねーちゃん」
拳児に抱えられたまま、修治は大きく手を振った。拳児は後ろを振り向かずドンドン前に進んでいく。
- 461 名前:A nightmare on Yagami Street(5/6) :04/06/27 18:59 ID:GvT2LPOw
- 「どういう風の吹き回し?」
播磨兄弟を見送った後、一部始終を脇で傍観していた晶が尋ねた。
「ん、今のどういう意味?風がどうかしたの?」
愛理は表情を戻すと、と不思議そうな顔で晶に顔を向けた。
「まあいいわ。でも播磨君、顔色悪かったわよ」
「あんなハゲの顔色なんて知らないわよ。行きましょ」
愛理はぷいっと不機嫌な顔で前を向くと歩き出した。
- 462 名前:A nightmare on Yagami Street(6/6) :04/06/27 18:59 ID:GvT2LPOw
- 「すげーよ、アニキ。俺見直しちゃったよ」
修治はまだ抱えられたままだ。拳児の歩く速度も変わっていない。
「何言ってるんだ、お前」
「今のおねーさん綺麗だったなー。八雲ねーちゃんも綺麗だけど、また違った感じの美人だったなー。
アニキあんな人と知り合いなんだ」
「ん?誰のことだ?」
「アニキこそ何言ってるんだよ。愛理おねーさんだよ」
(・・・。天満ちゃんより美人何ていねーよ)
「それに優しくてさー」
(優しいだあ?)
「上品だしさー」
(上品なやつが人の髪を剃るかよ)
「いかにもお嬢様って感じだったなー」
(・・・・・・。それだけは合ってるな)
「またすぐに会えないかなー」
「うるせーぞ。黙ってろ」
(ううー、思い出しただけでも寒気がするぜ。大体俺は被害者だぞ。ったく、今夜は夢にうなされそーだぜ)
「なあ、アニキ」
「まだ何かあるのかよ」
「その帽子何なの?全然カッコよくねーぞ」
「うるせぇっ」
拳児は修治を抱えていた腕を放した。地面に落とされ尻餅をつく修治。拳児はそのまま歩き出した。
「痛ぇなにすんだよアニキー!」
抗議の声を上げ、修治は尻を撫でるとすぐに立ち上がり、拳児を追いかけるため走り出した。
おしまい
- 463 名前:HAL :04/06/27 19:04 ID:GvT2LPOw
- トライ2回目です(前回のは208-211)。
- 464 名前:Classical名無しさん :04/06/27 19:44 ID:fUhTnEgE
- >463
うーん、ちょっと消化不良です・・・
起承転結の、転が無いかもしれません。
>383
熱いSSをどうも有り難うございました。
GJです!
- 465 名前:Classical名無しさん :04/06/27 20:28 ID:n8TKa92Q
- >>453
ネ申が居る。
もうこのSSでご飯三杯くらいは軽いな(*´Д`)ハァハァ
- 466 名前:Classical名無しさん :04/06/27 20:35 ID:t55ySa6A
- >>453
GJ!!!
これが21禁だったらもっと神なんだけどなぁ・・・
21禁化禿しくキボンヌ
- 467 名前:Classical名無しさん :04/06/27 20:36 ID:p5TLkS1c
- >>453
GJ!
>>440シーンをみた瞬間、分校過去絵の
ttp://yakumo.web.infoseek.co.jp/past/img14/true14/no1498.html
を思い出しましたよ。
今後も絃子さんのSS期待してます。
- 468 名前:空振り派 :04/06/27 20:50 ID:v/7J0PxY
- 初めまして、初投稿になります。
一方通行こそ、スクランの醍醐味。
ということで今更ですが、ふと思いついた花井ネタです。
それでは、どうぞ。
- 469 名前:The Man in the Curry Rice :04/06/27 20:51 ID:v/7J0PxY
- 夏の終わりを惜しむかのように命を急ぐ蝉達が競い鳴く−
まさか愛する人と争うことになろうとは・・・。
花井春樹 この夏最後の戦いが今始まろうとしていた−
事の起こりはそう、夏のキャンプの話しだ・・・。
「あ〜、よく眠れた。」
沢近が気持ち良さそうな声をもらす。
いつもは二つに束ねている金髪に朝の太陽の光がきらきらと反射していた。
「ログハウスも鍵がかかるから、いつぞやの海のときみたいに変な心配も
無かったしな。」
と周防。さすがの今鳥も手が出せなかったようだ。
「しかし、アンタらはまた自転車で帰るのか?」
すでにテントをたたみ始めていた男連中。どうも帰りのことを思うと足取り
が重いようだ。
「流石にそれは酷ってものよね。それじゃあ、皆が乗れるバスを呼ぶわ。」
とさらっと事もなげに携帯でバスをチャーターする沢近。
一体、このお嬢様はどんな環境で育ってきたのか・・・。
- 470 名前:The Man in the Curry Rice :04/06/27 20:52 ID:v/7J0PxY
- 和気藹々とたわいの無い談笑が弾むバスの中、一人沈んだ男がいた。
「せっかくのキャンプがレトルトなんて台無しだ・・・。」
自分の思ったとおりに行かないと気がすまない花井。
どうやら昨日の事をまだ気にしていたらしい。
「まだ、そんなこと気にしてたのか。おいしかったからいーじゃねぇか。」
周防がフォローを入れるも、まったく聞いていない。
「是非、僕の料理を八雲君に食べてもらいたかったのに!」
また始まった。と皆半ば呆れ顔・・・。
が、次の瞬間突拍子もなく、こんなことを言い始めたのだった。
「僕はリベンジを要求する!」
「今度こそ僕の秘伝のスパイスで作ったカレーを皆に食べてもらいたい!」
誰も相手にしたくなかったが、この暑苦しい男を治めるために高野が重い腰
を上げた。
「ふぅ、やれやれ・・・。じゃあ、こうしましょう。」
「八雲と花井君の作ったカレーどっちがいいか勝負するの。審査員は他の皆。
場所は学校の調理室。オーケー?」
- 471 名前:The Man in the Curry Rice :04/06/27 20:52 ID:v/7J0PxY
- 高野の提案に感動して喜ぶ花井。
「何?それは最高だ!八雲君の手作カレーが食べれるなんて!」
「サ・イ・コ・ー・だ!」
「しかし・・・、愛する人と争わなければならない、このジレンマッ!」
シェークスピアの悲劇役者のように苦悩する姿がどことなくおかしい。
「だが、あえてその勝負受けよう!」
「ライバルとして競い合えばもっとお互いのことを認め合えるかもしれん!」
「決まりだね。八雲は大丈夫?」
「・・・はい。私はいいです・・・。(播磨さんも来るのかな・・・)」
「それで高野君、僕が勝った暁には茶道部への入出を許可してもらいたいのだが。」
勝負にかこつけて八雲に近づこうと算段する花井。
「じゃあ、負けたら夏休みが終わるまで、茶道部に近づかないことね。」
「ク・・・。だが、良かろう!」
「やるからには全力を尽くすぞ!よろしく頼む!」
「あ、それと播磨君も必ず来ること。」
播磨に念を押す高野。ひょっとしてこっちの方が目的だったのか・・・。
「あ?当然だろ。(一食分浮くしな、ラッキー♪)」
- 472 名前:The Man in the Curry Rice :04/06/27 20:56 ID:v/7J0PxY
- ・・・夏休みの学校に続々とカレーを求めてメンバーが集まってきた。
「でも夏休み中なのに、学校の調理室なんて借りれたの?」
と不安そうな天満。
「大丈夫。刑部先生にお願いしたから。」
高野いわく、刑部先生は面白そうなことなら、大抵許可してくれるそうだ。
「はっはっは!皆、今日は僕のために集まってくれてありがとう!」
いつにも増してテンションの高いこの男がすでに場を仕切っていた。
「しかし、晶君。」
「キャンプのときと関係無い人物まで混じっているようだが?」
「ギャラリーは多いほうがいいからね。」
笹倉先生はたぶん、刑部先生が連れてきたのだろう。
それにしても烏丸君は呼んでないはずだが?
カレーの匂いにつられてきたのか・・・。
(いつもどおり作ればきっと大丈夫・・・。)
ポニーテールに束ねた髪にエプロン姿が良く似合う。
八雲はいたってマイペースだ。
対照的に無駄に暑苦しいこの男。
「見よ!この包丁さばきを!百花虎拳!!!」
料理に格闘がどう関係あるのか・・・。
そしてついに双方のカレーライスが完成した。
少し自信の無さそうな八雲と異常に自信たっぷりな花井。
勝利の女神が微笑むのは果たしてどちらか・・・。
- 473 名前:The Man in the Curry Rice :04/06/27 20:57 ID:v/7J0PxY
- −審査員長烏丸−
「では、各自おいしいと思ったほうの票をあげてください。」
烏丸【花井】
「・・・500円。」
カレーにうるさい烏丸が花井に票を!(ザワ
刑部先生【花井】
「私は辛口のほうが好きだな。」
笹倉先生【花井】
「花井君って、料理も上手なのね。」
いきなり花井優勢。
やはり文武両道は伊達じゃないのか!?
今鳥【八雲】
「男の作った料理なんていらねぇ・・・。」
奈良【八雲】
「流石、塚本さんの妹さんだね!(女の子の手料理・・・)」
サラ【八雲】
「花井先輩のは複雑な味がする・・・。」
高野【八雲】
「おいしいよ。八雲・・・。(花井君のカレーは食べたくない)」
おっとここで八雲が追い上げてきた!
多少、偏見の思惑も感じられるが・・・。
- 474 名前:The Man in the Curry Rice :04/06/27 20:58 ID:v/7J0PxY
- 沢近【花井】
「うちのシェフといい勝負ね。」
周防【花井】
「いい味だしてんじゃねーか。」
天満【八雲】
「やっぱり、八雲の作るカレーが一番だね!(花井君の辛い・・・)」
これで五分五分だ。
誰がこのような好勝負を予想しただろうか!?
そして最後、果たしてカレー好きの播磨はどっちに票をあげるのか?
(・・・播磨さん・・・。)
「播磨なら僕の味がわかるだろう!」
・・・緊張の一瞬。
そして運命を決める一票が高々と上げられた!
播磨【八雲】
「・・・おふくろの味ってこういうのを言うんだろうな。
(天満ちゃんがいつも食べてるカレー)・・・幸せだ!」
- 475 名前:The Man in the Curry Rice :04/06/27 20:59 ID:v/7J0PxY
- 結果は・・・。5対6で八雲の勝利!
「・・・あ、ありがとうございます・・・。」
何故か顔を赤らめる八雲。
そして、負けたにも関わらず、清々しい顔の花井。
「八雲君、いい勝負だった!また一つ勉強になったよ。」
「そう、料理に必要なのは愛情!なんだな・・・。」
「さーて、じゃあ、僕も八雲君のカレーをいただくとするかな!」
しかし、八雲の鍋はすでに空だった・・・。
「何故、僕の分が無いんだ!!!」
「それは競技者だから(キッパリ)」
と容赦なく吐き捨てる高野。
辛い・・・_| ̄|○
(花井春樹 やっぱりオチ担当・・・。)
- 476 名前:空振り派 :04/06/27 21:07 ID:v/7J0PxY
- 投下完了です。
しかし、>453 はスゴイな・・・。
私にはこんな萌えは無理だ・・・orz
- 477 名前:Classical名無しさん :04/06/27 21:31 ID:F1ocTJvE
- うーん、播磨に来させることを念押しした理由が弱い気がする。
判定の人数合わせだけならそんなに念押ししなくても良かった気が…。
他のキャラ絡ませてもう一捻り欲しいとこです。ともあれ今後に期待。
- 478 名前:Classical名無しさん :04/06/27 21:58 ID:jqCpvrE2
- >>453
こんなシチュ、ベリーъ(´д`)グッ
>>445の『自分』の数々が何を指しているのか、少し混乱気味。人称も少し混乱気味。
それ以外はGJとしか言いようがない。
>>463
結局、何を表現したかったんだ?
何気ない日常のひとコマとしてなら、まあ、なんとか。
>>476
すこし意味不明で強引な話の流れがスクランっぽくて良いと思う。
以上、感想。
俺の読解力の無さに呆れさせたとしたら、正直スマン。
- 479 名前:Classical名無しさん :04/06/27 22:33 ID:cUrJJ65Q
- >>473
>奈良【八雲】
>「流石、塚本さんの妹さんだね!(女の子の手料理・・・)」
キャラハンの奈良の八雲に対する呼び方をそのまま引用しているのに
思わず笑ってしまった…
- 480 名前:Classical名無しさん :04/06/27 23:05 ID:d.GQh2IE
- 奈良イラネ
第一、キャンプにはきてねーじゃんか。
・・・ゴメン、その名前を見るとどうしても・・・orz
- 481 名前:HAL :04/06/27 23:33 ID:GvT2LPOw
- >> 464
>> 478
コメントありがとうございます。
播磨兄弟って、好みや性格が全然違うんで面白いなあと思って書いてみました。
次回はもうちょっと話の展開とか考えながら書いてみます。
- 482 名前:shape of my heart :04/06/27 23:38 ID:AYDQwJ9c
- レスがイパーイヽ(´ー`)ノ
読んで下さった皆さん、ありがとうございます。
>>454
>描写もとても上手くて情景が浮かんでくるようでした。
そこまで言ってもらえて光栄です。
ありがd( ´∀`)
>>455
なるほど…少し斜に構えたほうがよかったですか。
確かに、そうした方が絃子らしいかもしれませんね。
ありがとうございます
>>456
萌えが突き抜けてますか(・∀・)
>途中で笹倉先生とのシーンが入るのがまた良い味だしてますね。
このシーン、実はいれるかどうか迷ったのですが(話の流れを一度止めてしまうため)
喜んでもらえたのなら、入れたかいがあります。
どうもでした( ´∀`)
>>465
>もうこのSSでご飯三杯くらいは軽いな(*´Д`)ハァハァ
萌えてください。
ありがとうございます(*´д`*)ハァハァ
>>466
21禁化でつか……
21禁の話は、あまり書いたことがないので、出来るかどうか分かりません(;´Д`)
15禁ぐらいにして、表現をキドワクすることぐらいが限界かもしれません。
申し訳ない(;´Д`)
- 483 名前:shape of my heart :04/06/27 23:49 ID:AYDQwJ9c
- >>467
多分、その絵にもインスパイアされていると思います。
というより、ありとあらゆる絃子先生にインスパイアされてるかも…(゚∀゚)アヒャヒャヒャヒャ
個人的に絃子先生のSSは大好きでつ(・∀・)
>>476
そちらもお疲れさまでした。
お互いがんばりましょう( ´∀`)
>>478
ありがとうございます。
確かに、「自分」という単語が多すぎますね。読み直した時点では、大して気にもとめなかったのですが、
指摘されると、独りよがりになっていたのが分かります。
元々、「絃子が〜」「播磨が〜」といった、説明的な文章が多すぎたとおもったので、
なるべく個人名詞を使うことを避けたのですが、それが裏目に出てしまったのかもしれませんね。
こういった技術的な指摘は、大変参考になります。ありがとうございました。
絃子先生ネタは、今回で2回目(前回はmore than words)でしたが、
元々、幼馴染みで年上で、美人だけどちょっとそっけないといった感じのキャラが、
漏れ的にはもろストライクで、(*´д`*)ハァハァでした。
書いている途中、姉しよ2のせいで、うっかり執筆中断してしまい、勢いがなくなってしまった恐れがあったのですが、
おおむね好意的にうけとってもらったようで、書いた本人としても嬉しいです。
指摘は、その大小にかかわらずどんどんお願いします。次回書くときに非常に参考になりますので。
読んで下さった方々、そしてレスを下さった方々ありがとうございました( ´∀`)
- 484 名前:「AKIRA」 Er ◆i//qLXXY :04/06/28 00:02 ID:SMYnl9Mc
- 円、舞ときたら次はこの人を……って情報なさすぎ_| ̄|○
- 485 名前:○恋に恋するお年頃。○ :04/06/28 00:03 ID:SMYnl9Mc
高野 晶さん。彼女は、私の憧れのひと。
クールな眼差しに、洗練された物腰。
ボーイッシュな外見でありながら、常に雅びやかな雰囲気があって…何をするにも華があるというか。
成績は優秀。テストでいつも学年上位をキープしているけれど、決してそれを鼻にかけることはありません。
運動神経だって抜群だし。月並みな言葉だけれど、まさに文武両道を地で行くひとなんです。
あれは──ホームルームでソフトボールをした時のこと。三塁を守っていた私を、鋭い打球が襲いました。
思考が停止して人形のように立ちつくす体とはウラハラに、私の感覚はキンと研ぎ澄まされて。
眼前にみるみる迫る白いカタマリ。縫い目をかたどった模様のひとつひとつが見えるほどなのに、
それを眺めながら……かろうじて両手で顔を覆うことしかできずに。ああダメだと思ったそのとき……
視界を遮られた私の左脇から誰かが飛んでくる気配がしたかと思うと、パァンという乾いた音が響きました。
ボールの直撃を覚悟していた私の鼻面を叩いたのは、空気の振動と…まあたらしい革のにおい。
血の気のひいた頬に空気がひんやりと冷たく感じられ、棒のように強張っていた足は
まるで芯をなくしたかのごとくグンニャリと力を無くし……腰からくだけるようにその場に座り込んでしまいました。
おそるおそる目を開けた私の視界に飛び込んできたのは──ボールを納めたグラブを構え、
私を守るようにすっくと立つ遊撃手の姿。すっくと立つ……高野さんの姿。
「大丈夫?」
「え!?あ…ありがと……」
肩越しに私を見つめる瞳。深く穏やかな色の中、優しさの光を水面いっぱいにたたえた泉のような……。
その凛とした佇まいに、私の目は ──そして心までも── 一瞬にして奪われてしまったのです。
それが、彼女に惹かれ始めたきっかけ。
あの日以来、ことあるごとに彼女を目で追っている自分がいます。
彼女のことを目で追って、見とれて、目が離せなくなっている自分がいます。
女同士でこんなこと言うのって、おかしいでしょうか。
高野 晶さん。私は、彼女に恋しています。
- 486 名前:○西本会議、女子には評判悪い。○ :04/06/28 00:03 ID:SMYnl9Mc
いま、男の子には正直魅力を感じることができません。
クラスの人たちがときどき物言わずに机を並べ替えて怪しげな会議を開く姿を見るにつけ……
イヤなものが胸にこみあげてきます。ちなみに今日も一回ありました。
……オトコギライなんていうつもりはありません。
梅津くんと付き合いだした円とかを見てると、いいなー、うらやましいなーとは思うのだけれど、
少なくとも私の周りにいる男子は、だれもかれもがクセのある人ばかり。
舞ちゃんもよく言っています。「2-C(ウチ)の男どもにはロクなヤツがいない」って。
(もっと彼女とお話できたらどんなに素敵だろう──?)
高野さんは、たいていいつも周防さんや沢近さんたちと一緒にいます。
周防さんも沢近さんも、キレイで格好よくて……他の人たちとは持っている雰囲気が違います。
空気が華やぐというか、周りより一ランク明るく見えるというか。
私みたいなフツーの子じゃ……その輪に加わろうとしても、どうしても気後れを感じてしまいます。
あのメンバーに違和感無く溶け込んでしまえる塚本さん。その屈託のなさがうらやましい。
一人でいるときは、小説を読んでることが多い高野さん。
ほんの少しでも彼女に近づきたくて、同じ話題を持ちたくて……同じ本を本屋で探してみたりなんかして。
そのワリには、彼女の世界を邪魔してしまうようで、声をかける勇気が持てなくて。
同じ教室。こんなにも近くにいるのに、こんなにも遠い。
このまま、高野さんを遠くから眺めるだけで……一ファンで終わってしまうしかないの?
それはイヤ。
こんなハンパな気持ちを抱えて、同じ空間にいるなんて。学校が苦しくて仕方ありません。
はじめの一歩を踏み出すことが、歩き出すことができれば。何かきっかけが欲しい。
放課後の教室に残っている人は今や私を含めて数名のみ。
意を決した私は、今日こそ大いなる第一歩目を踏み出すべく教室をあとにしました。
- 487 名前:○予備知識、ナシ。○ :04/06/28 00:05 ID:SMYnl9Mc
人気の少ない旧校舎。その場所に近づくにつれ、私の心臓が早鐘を打つように高鳴るのがわかります。
古い造りの扉の横に見える貼り紙。きっとそこには、そこが私の目指す場所であることを示す文字が──
「 花 井 の 立 入 を 禁 ず 」
じゃなくて。
その隣に、そこが私の目指す場所であることを示す札が掛かっていました。
「 茶 道 部 」
この扉の向こうに高野さんがいる。着物姿で、優美な仕草でお茶を点てる高野さんの姿が目に浮かびます。
扉の前で深呼吸。とにかく落ち着こう。右手はノブに伸ばしかけたまま、軽く握った左手を胸に押し当てて。
『茶道部に入りたいんですけど』
『日本文化に興味があって』
前もって準備してきた台詞を小声で復唱します。大丈夫。大丈夫。あなたならできる。
ノブを握ってさらに二度深呼吸したあと、いち、にの、さんで右へ90度ひねりました。
ガチャ……。
扉に手をかけたまま、私は廊下から部室の中をのぞきこんでいました……口をパクパクさせながら。
目の前に広がる光景は、私の想像していたものとは、ちょっと違っていて。
かなり違っていて。大幅に違っていて。
テーブルの上の茶器は、お菓子ともども洒落た西欧風のそれ。その横に、申し訳程度に置かれた湯飲みと急須。
「伝統ブンカ」 「茶セン」 「ニガイ」 「三回マワス」 「ワビ」 「サビ」
そんな言葉が空しく頭の中をぐるぐる回って、かき混ぜられて、緑色に泡だっています。
みんながきょとんとした顔で私を見てる。何か言わなきゃ。何か……練習を重ねた言葉は前段を大幅にすっ飛ばし……
「ケ、ケッコウな御点前でッ!?」
- 488 名前:○なにやら、誤解を生みそうな予感。○ :04/06/28 00:05 ID:SMYnl9Mc
湯気をたてるティーカップを前に……私はまんじりともせず、一同の好奇の視線を浴びていました。
「ヌワラエリヤとウバを混ぜてみました」
そんなことを言われても、知識のない私は、あいまいにうなずくことしかできません。
説明によると通常は今日みたいに、高野さんいわく「自称部員」を除く三人で活動をしているそうです。
茶道部といってもいわゆる「茶の湯」にこだわらず、紅茶や煎茶、烏龍茶など
広くお茶を「楽しむ」のが活動内容なんですって。
たどたどしい言葉ながら、やっとのことで私は彼女らに入部希望であることを告げました。
「お茶に興味が?」
「えと…あの…あんまり」
用意してきた台詞など、とうに頭の中から吹っ飛んでしまっています。
だいいち、高野さんに黒目がちな瞳で見つめられると、何もかも見透かされているようで……。
「? それじゃあどうして茶道部に?」
サラちゃん、ごもっともな質問です。思わず言葉に詰まります。
ゆるゆると視線を上げると、高野さんがこちらを見てる。頬がカッと熱くなるのが、止められません。
『そこにあなたがいるから』。 言ってしまっていいんだろうか、そんな不純な理由。
どうしよう。どうしよう。目が泳いでいるのが、自分でもわかります。キョドってる? 私。
私の右前に座っている八雲ちゃんと、目が合いました。キレイなひと。大人びた雰囲気が漂っていて。
……年上の私がこんなこと言うのもなんだけど。
彼女目当てという極めて不純な理由で堂々と入部した人を、私は知っている。そうだわ。いっそ正直に言ってしまった方が。
「あの…は、花井くんと同じ……その……茶道……理由で……」
「つまり、好きな人とお茶をしたいと?」 キラーンと瞳が光ったような気がします。
高野さんの質問に、真っ赤な顔でコクコクと頷くのがやっと。まともに言葉を交わすことができません。
まあっ、と両手を胸の前で打ち合わせるサラちゃん。
「素敵じゃないですか! 私、ダンゼン応援しちゃいます!」
- 489 名前:○生んだ。○ :04/06/28 00:05 ID:SMYnl9Mc
「わざわざ茶道部に入らなくてもいいんじゃない? 同じクラスなんだから」
「でも、だいぶ前から声をかけたい、お話したいって思ってたんだけど……教室じゃどうしても……声がかけづらくて」
考えられない。本人を相手にこんなコト……どうかしてる。でも、ここまできたらもう前に進むしかない。
「でもココにはあんまり来ないよ、カレ」
いいんです。たくさんのバイトであまり来れないことは知っています。それでも放課後のひとときを一緒に過ごせると思えば──
カ レ ?
カ レ ?
ダ レ ?
「でも根は真面目なヒトですし、これをきっかけにしてきちんと気持ちを伝えたら応えてくれますよ、きっと!」
「甘いわねサラ。八雲会いたさにここに来て舞い上がったカレに聞く耳を持たせるのは大変だよ」
「うーん、それは問題ですよね。八雲目当ての人を振り向かせるには、どうしたらいいか……」
「…………」
何 か 勘 違 い さ れ て る !!
そんななか、八雲ちゃんが一瞬ビクッとして、少し怯えた顔で扉の方を見つめました。
廊下を勢いよく駆け抜ける音。
高野さんはきこえよがしの溜め息。私に向かって含みありげに微笑むサラちゃん。
八雲ちゃんは、やや困ったような表情で私をじっと見つめています。
「ウワサをすれば──」
「話題の主が、ですね」
扉が大きく開かれて、古びた部室の壁を震わせるほどの快活な声が響きました。
「 八 雲 く ん !!」
……話題にしたつもりはなかったんですけど。それにしてもなんて間の悪いタイミングで現れるんだろう、このひとは。
- 490 名前:○流されやすい性格。○ :04/06/28 00:06 ID:SMYnl9Mc
「八雲くん、今日は確かバイトのない日だったね。さあ今日は存分に語らおう」
「え……あ、はい……」
「彼女は話すことなんかない、ってよ」
高野さんと花井くんの間に緊張が走ります。クラスでも感じたけど……この二人って、ひょっとして仲悪い?
「花井先輩、お久しぶりです! ゆっくりしていって下さいね」
サラちゃんがオーバーなアクションで私の横の椅子をひき、花井くんに勧めます。
なんて気が利く娘でしょう。……でも間違ってます、その気遣い。
「おや、君は──」 ようやく私の存在に気づいたみたい。
「入部希望者よ」
「ほう……そうか。それではひとつ、今後ともよろしく頼むよ」 はっはっは、という笑い声がまた響きます。
気のせいか、なんだかぞんざいなアイサツ。いかにも八雲ちゃん以外は眼中にないみたいな。
「アナタを部員にした覚えはないけど?」
「高野くん! この期に及んでまだいうかッ!!」 鼻血を出すほど興奮しなくても。
「あの……私、お湯を沸かしてきます……」
サラちゃんと目配せを交わし、そそくさと八雲ちゃんが席を立ちました。
なんて見事なアイコンタクト……でも今は要りません、そういう連携。
サラちゃんの「想いを伝えるなら今です!」と言わんばかりの笑顔が私に無言のプレッシャーをかけてきます。
さあ。さあ。さあ。言って。さあ。こういうのは、初めが肝心なんです。
「ん? どうしたのかね? そんな思いつめた顔をして」
花井くんが私の異変に気づいたみたい。気づかないでいいのにぃ。
それを合図に、横からはより一層のプレッシャーが……。
さあ。さあ。言うなら今。さあ。早く。
や゛ーめ゛ーでーぢょーう゛ーだーい゛ー。
なんだかわからないうちにどんどん追い詰められていく私。なんで、なんでこんなことに。
- 491 名前:○開き直ると、強い。○ :04/06/28 00:08 ID:SMYnl9Mc
おずおずと立ち上がる私。明らかに自分の発言待ちなフンイキに、重い口を懸命に開くしかなく……。
「あの、私、私は……」
「? どうした? 言いたいことがあるならハッキリ言いたまえ」
私の隣で、ずいっと胸を張る花井くん。
「私は、ずっと、前から、あの……」
口ごもる私。でも、誰もフォローしてくれる者はいません。
「……好きです。ずっとずっと、憧れてました」
「!!!」
思いがけない告白に対する、動揺。
言っちゃった! という高揚。 物陰から息を殺しながらの、心配。
静かに見守るような……優しさ。
いろんな感情が渦巻いているのが、手に取るようにわかります。
その中心にいる自分の気持ちだけが、ただただ混沌としていて。
──決めました。しっかり告白、しちゃいます。
隣の花井くんを見ているわけじゃ……花井くんに言うわけじゃない。
みんながどう思うかは知らない。知ってもらおうとするだけの余裕が、今の私にはない。でも……
目を伏せてはいるけれど、私の顔は、正面に座っている高野さんに向けられています。
私の言葉は──まっすぐ、ひたすらまっすぐに──彼女に向けられています。
「私の好きな人は……勉強もできるし、運動だってすごいし、クールで、ミステリアスで、
周りに関心ないようでいて、だけどちゃんと見てくれていて、優しくて、面倒見がよくて……」
なんかヘンだという空気、感じます。けれど、今さら止められない。
「とっても、とっても強いひと。離れて見つめるだけの弱い自分から抜け出したくて、ここに来ました……」
ぐすっ。 えぐっ。 じゅるっ。
涙が止まりません。激してしまった感情が、抑えられません。
- 492 名前:○塚本 天満、あるイミ最強。○ :04/06/28 00:09 ID:SMYnl9Mc
「あーあ、泣かしちゃった」 「なっ! ぼ、僕か!?」
「花井くん、退場! ていうか、退部!」 「んなあっっ、何故ぇっ!?」
「サラ、八雲、お願い」
二人に両脇を抱えられるようにして、花井くんが強制退場させられていきます。
花井くん、まきこんじゃってゴメンナサイ……って、
八雲ちゃんに左腕を抱えられたからでしょう、はうっという幸せそうな声。 ま、いいか。
テーブルに両手をついて立ちつくしたまま泣きじゃくる私。
高野さんがつと立ち上がると、テーブルを回り込み……私の頭は、静かにその胸に抱き寄せられました。
「!!」
制服に染み込んだ紅茶の匂いが鼻をくすぐり、いくぶん落ち着きを取り戻すことができました。
「私……高野さんみたいに、強くなりたい……何事にも動じないで……ぐすっ、氷みたいに冷静で……
あと……周防さんみたいに、なんでもできて……沢近さんみたいにコワいもの知らずで……」
「あなたの言ってる”強い”って、痛みに鈍感になるっていうこと。本当の強さじゃない」
「!?」
思わぬ言葉に高野さんの顔を見上げるけれど、彼女の表情は涙に曇ってよく見えません。
「美琴さんだって……なんでもできるように見えて、ままならない悩みをいくつも抱えてる。
愛理にしても、強がってはいるけれどホントは寂しがりで、泣き虫で……」
にわかには信じ難い言葉。たかぶった私の頭では、理解することはとうてい困難でした。
「私だってそんなに違わない。塚本さんみたいになれたらって、よく思う」
「塚本さん? 塚本天満さんのほうです……よね?」
「彼女は強いよ。私なんかよりも、ずっと」
塚本さんが、高野さんよりも強いなんて。考えたこともないし、信じられない。だけど、彼女が嘘をついているとは──思えない。
「ムリに変わろうとしないでいい。今のまま──繊細なままでいて欲しい」
私はただ、高野さんの体に回した手にギュッと力を入れることしかできませんでした……。
- 493 名前:○何かが、確実に変わった秋。○ :04/06/28 00:11 ID:SMYnl9Mc
結局、入部は取り消しました。
やっぱり、お茶にさほど興味のない私が不純な動機で入部するのは、失礼なことに思えて。
もう大丈夫。だって教室でいつでも会えるんだもの。
「いつでもおいで。歓迎するよ」 ──高野さんはそう言ってくれました。
サラちゃんも、八雲ちゃんも、たびたび部室を訪れる私を笑顔で受け入れてくれます。
キモチは伝わったと思う。
応えてもらえるとは思わない。応えてもらおうとは思わない。
焦がれるようなこの想い……恋というよりは、きっと憧れと呼ぶ方がふさわしいんでしょう。
どちらかというと一方通行なキモチ。知ってもらえたことで十分だったりして。
あとは私次第。吹っ切ってしまえた今は、学校が楽しくてしかたがありません。
もう大丈夫。一歩はもう踏み出したから。
今日も私は、笑顔で話しかけます。
「おはよう、高野さん! こないだ借りた小説だけど──」
〜fin〜
- 494 名前:Classical名無しさん :04/06/28 00:56 ID:tpW4qW3Y
- サードの娘キター━━━━(゚∀゚)━━━━!!!
限定版ネタもイイ!
- 495 名前:Classical名無しさん :04/06/28 01:23 ID:HuyQrJ.Q
- これはまた奇抜なとこいきましたね。
しかし舞ちゃんや円や隣子はある程度スレ共通のイメージがあるんですが
この場合完全オリジナルなのがちょっと、という気はします。しかも百合キャラとは
- 496 名前:400 :04/06/28 01:30 ID:sjS764LA
- 神様クラスの上手な方々の中、拙い文章を投稿するのは気恥ずかしいですね……
どうも。八雲連載をさせていただいているものです。
こんなにもたくさんの方から、励ましと感想を頂き、嬉しくて仕方ありません。
改めて、拙作を読んでくださいまして、皆様、ありがとうございます。
>>401
御指摘、ありがとうございます。今回から、そのようにさせていただきます。
>>402
神だなどと、畏れ多いです。まだまだ未熟者ですから……
>>403
当初の構想より、長編になってしまいましたw 構想の段階では、もう少し短い
はずだったんですが。
>>405
読点は、癖もあれば、狙っていることもあります。これは私が、読点を八分休符
のように考えていたからでして……御指摘、ありがとうございました。ちょっと考え
させていただきます。
>>406
フォローありがとうございますm(_ _)m
>>407
柱に関しては、今回、実験的に、その形式(メール欄に入れる)を取り入れてみます。
- 497 名前:400 :04/06/28 01:39 ID:sjS764LA
- >>408
お褒めのお言葉、ありがとうございます……って私でいいんですよね?
>>409
話の展開を、お楽しみ下さいませw
>>410
フォローありがとうございます。作意的においているところもありますが、
ただの癖のところもありました。修正したい……三点リーダーは、本編で
八雲の台詞でよく用いられているので、使っています。
>>415
気にしていただき、光栄です。
>>416
はい、頑張らせていただきますっ!!
>>430
狙って、のところもありますが、下手だから、というのもありますね。精進
いたします。
というわけで、次作を投稿させていただきます。
『Without Me』 >>191->>197
『Crossing Border』 >>318->>330
『She wants to mobe』 >>345->>355
『Don't go away』 >>391->>399
の続編。
『Where I End and You Begin』
- 498 名前:Where I End and You Begin :04/06/28 01:40 ID:sjS764LA
- 「変なこと、されたりしなかったか?」
「あ……はい……大丈夫、でした」
そう口で言いながらも、彼の手を離そうとはしないでいて。
こんなに大胆な性格だったかと自分で思うほどに、八雲は彼に強くしがみつく。
「悪ぃな。怖い思いさせちまって」
申し訳なさそうに言う播磨は、彼女の行動を勘違いしているらしい。
優しさに甘えて、私、ずるい。
だが八雲は、もうほんの少しだけ。例え、ずるくても。
こうしていたい。そう思った。
School Rumble
♭−ε Where I End and You Begin
「ほんと、大丈夫かい?妹さん」
何度もそう尋ねられ、果ては、
「やっぱ今日は、もう帰るか?」
とまで言われ。さすがに心配をかけられなくなって、
「いえ……本当に……もう大丈夫ですから」
掴んでいた手と、彼の左腕に預けていた体を離す。
そうしてから、赤面する。体中に残る、彼のぬくもりと匂いに、体の芯が刺激されて。
「あ、あの……ありがとうございます」
改めて、頭を下げる八雲。それは彼の視線から、真っ赤な顔を隠すためでもあり。
「いや、ほんと、俺が悪かったぜ。妹さんに何かあったら天……塚本に悪いし、な」
ふと。
感じた、違和感。
だけど、その正体を探し、見つける前に。
「うし。じゃ、次に行くか」
「……!は、はい」
走り寄って、並ぶ八雲。
ついさっきまで握っていた手が、今はポケットにしまわれていて。
その距離を、いつかまた埋めることが出来るのか、どうか。
八雲は少し、不安に思うのだった。
- 499 名前:Where I End and You Begin :04/06/28 01:41 ID:sjS764LA
- 腹が減った、と言ったわけではない。ただ、お腹が大きな音で鳴っただけ。
「……朝、食べられなくてな」
明後日の方向を見つめて言う播磨。
八雲は小さく笑って、
「お弁当……用意してますから……播磨さんの分も」
そして今、二人はベンチに並んで座っている。
「これ……どうぞ……」
弁当箱を渡す八雲、頭をかきながら受け取った播磨は、すぐに蓋を開けて。
「お、にぎり飯!!」
両手に持ってばくつく彼の姿を、微笑んで見つめる八雲。
「あの……おいしいですか……?」
「ん?ああ、もちろんだぜ」
勢い良く。良すぎて、御飯粒を口の周りにつけるほど、美味しそうに食べる播磨。
八雲は、自分のお弁当を食べるのすら忘れて、見入ってしまう。
「……?食べねぇのか?」
「あ……いえ……」
俯いて、そっと箸で一口、おかずを摘む。
何だかこうしている時間が、夢のようで。
男の人と二人きりになること自体、それほどないのに。
横目で、彼を盗み見る。リスのように頬を膨らませて、もしゃもしゃと食べている播磨。
思い出す。ついさっき、彼に抱きしめられた時に、間近に見たのだった。彼の顔を。
精悍だと、思った。例えるなら、狼、のような。
そして厚い胸板。タンクトップからはちきれそうな筋肉。太い二の腕。
ただ、力が強いだけじゃないと、八雲は感じていた。左の手首、先ほどの不埒な男に握られたそ
こには、まだ微かに痛みが走る。同じように乱暴に掴まれた右肩も。
しかし、播磨に引き寄せられた時。
男達に負けないぐらいに強く、だけど、比べ物にならないほど優しく扱われたように思ったのだ。
ふと、考える。播磨は、見るからに不良だし、自他共にそれを認めている。
だが、彼はその手で漫画を描き、動物との別れに涙することが出来る人で。
播磨としては、野生的に思われたいのかもしれない。事実、そういう部分もあるだろう。
だけど、本当は彼は、とても繊細な人なのではないのだろうか。
もし彼にそう言ったら、きっと、笑われてしまうだろうけれど。
- 500 名前:Where I End and You Begin :04/06/28 01:42 ID:sjS764LA
- 「いや、うまかったぜ。さすがだな、妹さん」
物思いにふけっていた八雲は、その声にはっと面を上げる。
見ると、綺麗に空っぽになったお弁当箱。そして播磨は、親指についた御飯粒を、舐め取ってい
るところで。
「あ……いえ……」
褒められて、嬉しくて。
だけどいつもの癖で、何も言えず。口を、パクパクと開け閉めする。
「料理、うまいんだな。毎日、作ったりしてるのかい?」
そんな彼女に気付いたのか、優しい口調で尋ねてくる播磨。コクコクと頷いてから、
「いつも……姉さんの分も……作ってますから……」
「ほ、ほう」
何故か、嬉しそうな播磨の声に、彼の顔を見るが、サングラスに隠れた瞳から表情は読めず。
そして、心の声は視えず。
「あ……あの……良かったら……」
唐突に心に浮かんできた、アイディア。
播磨さんのお弁当、作ってあげたい。
これからも。出来れば、毎日。
そうすれば……きっと、朝が楽しくなる。
「お弁当……」
勇気をふりしぼって、口を開くが。
「?ああ、もう食べられないのか?だったら、俺が頂くぜ?」
言った側から、手を伸ばし、おにぎりを取られる。
呆気にとられる八雲の目の前で、あっという間に平らげる播磨。そして、次の一個へとまた手を
伸ばすが、
「あれ?そういう意味じゃなかった?」
「いえ……そういう、意味です」
微笑む、八雲。そして、まだたくさん残っているお弁当を、彼の方に差し出す。
「よく、食べられるんですね」
「ま、成長期だしな」
他愛もない、会話。だけど、本当においしそうに食べる彼の顔を見ていると、何だか嬉しくて。
今は、これでいい。
そう、八雲は心の中で呟いた。微笑みながら。
- 501 名前:Where I End and You Begin :04/06/28 01:43 ID:sjS764LA
- 「あ、これ……」
割り箸を折ってゴミ箱に捨ててしまった彼に、自分の箸を差し出す。
高校生にもなって、とは思う。だけど、間接キスという言葉が、頭に浮かんできて。
「おっと、悪ぃな、妹さん」
じっと、播磨の口元を見つめてしまう。
箸の先が、彼の口に含まれる度に、ドキドキしてしまう自分は、本当にウブなんだな、と考えた
りもした。
食べ終わった彼の、口の周りにはまだ御飯粒がついていて。
「ついてますよ」
「ん?」
気付いてないようなので、八雲は近づいて、彼の頬から米粒を取ってあげる。
そのまま、人差し指を口の中に含んで、食べてしまってから、気付く。
自分の行動の大胆さに。
「…………!!」
そのまま真っ赤になって、固まってしまう八雲。
つい、姉にいつもしているようにしてしまった。
バクン、バクンと大きな音を立てて暴れるハート。首筋を、血が上っていくのが感じられて。
不思議そうに見つめてくる彼の顔に、何とか平静を取り戻そうとする。が、
「何だ、妹さんも付いてるぜ」
ヒョイッ。パクッ。
「……!……!……!」
心臓、破裂するかも。
本気で、そう思った。
化粧室に入って、鏡の前に立つ。
頬にまだ残る赤は、チークでありえず。
そっと、手を添える。ほんの一瞬のことだったし、触れたのは人差し指の、ほんの先だけ。
ついさっきは、彼に抱きしめられたのに。しがみついていたのに。なのに、この程度のことで。
違う。顔に触れられたのが、初めてだから、だ。男の人に、いや。
好きな人に。
目を閉じて、思い出す、あの一秒にも満たない接触。
そして、忘れないように、心の奥底に仕舞いこんだ。
- 502 名前:Where I End and You Begin :04/06/28 01:45 ID:sjS764LA
- 「しっかし、今日も暑いなぁ」
次にどこへ行くかを話し合っている時にふと、燦々と照る太陽を見ながら、播磨が愚痴る。
「じゃあ……あれ……」
最後まで言う前に、八雲は細い指先で彼の視線を誘導した。
その先には、黄色に塗られた車。のぼりに書かれているのは、『ソフトクリーム』という単語。
「お、いいねぇ」
二、三人の行列の後ろに並んで、ほんの少し待つ。八雲はバニラ、播磨はチョコ。
猿山の周りの柵にもたれかかって、並んでソフトを舐める。
「可愛い……」
仲睦まじくじゃれ合う子猿を見て、八雲は思わず呟く。
「猿、好きなのかい?」
「え……はい……」
そっか。頷いた播磨が、じっと猿の群れを見つめて、しばらく後。
「あっ!!」
息を飲む少女の前で、次々と芸を見せる猿達。
宙返りをうったり、手と手を取り合って踊ったり、組体操を見せたり。
「どうよ?」
「すごい……」
得意げな播磨に、八雲はただそれだけしか言えず。
ただ、ただじっと、見入る。
「あいつらも、綺麗なお姉さんが見てるからって、張り切ってるからな」
「え……?」
その声に、彼の顔を見上げる。
今、何て。
綺麗?
綺麗って、言われたのは……私?
「妹さん、溶けてるぜ?」
また、見入ってしまったのだろう。持っていた右手にたれそうになった、ソフトクリーム。
「そんなに夢中になってくれて、あいつらも嬉しいだろうな」
笑う播磨は、また勘違いをしているのだろう。
そして、あの言葉も、深い意味など、きっとない。猿達の言葉、なのだろう。
わかっていて、こんなに嬉しい。自分は、現金なのかもしれない。
- 503 名前:Where I End and You Begin :04/06/28 01:47 ID:sjS764LA
- エーーン
振り向くと、子供が一人。八雲の膝ぐらいまでの背しかない、男の子。
大声で泣きながら、ママ、ママと叫び、辺りを見回している。
「何だぁ?迷子か」
播磨の呟きを背に受けながら、八雲は彼に駆け寄る。
「どうしたの?」
腰をかがめ、視線を合わせる。
「ヒック……ヒック……ママ……ママが……」
「はぐれちゃったの?」
べそをかきながら頷く彼の手をそっと取って、八雲は立ち上がる。辺りを見回すが、子供を探し
ている、という風の女性の姿は見えず。
どうしようか。困惑しているうちに、また火がついたように泣き出す少年。その状況に、ますま
す八雲は慌ててしまって、おろおろとするばかりで。
「おら、泣くんじゃねぇ」
言って、男の子の頭をくしゃくしゃとしたのは、いつの間にか側に来ていた播磨だった。
「男の子だろぉが。女の子、困らせてんじゃねえよ」
彼はとりあえずは黙り込むが、八雲の目には、その言葉にというよりも、サングラスをかけた大
男に威圧されたからだ、と見えて。
「播磨さん……」
抗議しようとした瞬間。
軽々と子供を持ち上げ、肩車をする播磨。呆気にとられる八雲を尻目に、さっさと彼は歩き出す。
「坊主、これで探しやすいだろ?」
おそらく、今まで見たことがない景色に、だろう。瞬時、言葉を失っていた彼だったが、何度も
首を縦に振る。
「播磨さん……」
「ま、これで向こうからも、見つけやすいってもんだろ」
追いついてきた八雲に、ぶっきらぼうにいう播磨は、まるで子供の重さなど感じていないかのよ
うに、楽々と歩く。
「ママー、ママー」
大声で叫ぶ少年の目にはもう涙はなく、ただ必死に叫んでいる。
すごいな。私じゃこんな風には。そう思う八雲をよそに、播磨は言った。
「坊主。帽子には絶対に触んじゃねえぞ」
- 504 名前:Where I End and You Begin :04/06/28 01:48 ID:sjS764LA
- 播磨の想像通り、だったのだろう。さして時間もかからず、母親が彼らを見つけて、駆け寄って
きた。
「ありがとうございます。ありがとうございます」
何度も深々と御礼をする母親に、
「いえ、私は、何も……」
と言葉を濁す八雲。播磨はと言えば、少年に向かって、
「坊主。良かったな。もうはぐれんじゃねえぞ」
「うん!!ありがとう!!お兄ちゃんっ!!」
むずがゆい、と言った風な播磨の横顔に、八雲は目を細める。
やっぱり。優しい人、なんだ。
「播磨さんて、すごいですね」
親子と別れて、すぐ。八雲は歩きながら、隣の播磨の顔を見上げて言う。
「あ?何がだよ?」
「さっきの、ことです」
自分は何も出来なかった。
もし一人ならば、少年と二人、ただおろおろするばかりで、どうすればいいかも思いつかなかっ
たに違いない。
ましてや、播磨のように、肩車などと。
「ああ、あれか」
微かに笑って、彼は肩をすくめた。
「修治がいるからな、俺には」
播磨修治。彼が、播磨の弟だと知った時は、正直、驚いたものだった。似てない、と。
今は、思う。似ている。不器用なところとか、考えるより先に行動するところとか、……優しい
ところが。
「あいつがあれぐらいの頃は、俺によくなついてたからな」
「……今でも、そうじゃないですか?」
かもな。苦笑する播磨に、微笑み返す八雲。
その時、ふと、八雲は腑に落ちたことがあった。
播磨さんって、姉さんに似てるんだ。
兄と弟が似ているように、彼女の姉と播磨は似ていて。例えば、面倒見の良さ。
だからなのかもしれない。八雲が、自然に彼と向かい合えたのは。
- 505 名前:Where I End and You Begin :04/06/28 01:49 ID:sjS764LA
- やがて、陽が落ち、鮮やかな紅が西の空を彩り始めた頃。
動物達に別れを告げて、二人は園を出た。
駅へと向かうのに、公園を横切る道を選んだ播磨と八雲。
「疲れたんじゃないか?妹さん」
「あ……はい、少し……」
頷く八雲の、胸の内をわずかによぎる罪悪感。
疲れていることに嘘はない。だけど、本当は、このまま帰ってしまいたくなかったのだ。今日と
いう日が、もう少しだけ、続いて欲しい、と。
「うし。じゃあ、そこで待ってな。ジュース、買ってくるわ」
また変な奴が来たら、大声で叫ぶんだぞ。そう言い残して、足早に去る彼の後姿を見送って八雲
は、近くのベンチに腰を下ろした。
そして、空を見上げる。
流れる雲の、足は速く。空を焼く夕の紅、だが少し目を移せば、黒い雲がそこには広がっていて。
そういえば、朝の天気予報で、所によりにわか雨、と言っていたように思う。
もしかしたら、鞄にしまってある折りたたみ傘の出番があるかもしれない。
ぼんやりとそこまで考えたところで、八雲は顔を真っ赤に染める。
播磨は鞄を持っていない。ということは……
「あ……雨……」
「ちっ。しょうがねえ、濡れて帰るか」
「播磨さん……もし良かったら……入ってください……」
「いや、そりゃ悪ぃぜ、妹さん」
「いいんです……送っていきますから……」
「……すまねえな、八雲ちゃん」
目を開けると、薄闇が広がっていて。夕焼けの赤を無意識に探すが、どこにも見つからず。
左頬に感じるぬくもり。あまりの心地よさに、再び目を閉じそうになる。暖かい……そして、い
い匂い……播磨さんが付けてた香水と、同じ……
「……!!」
唐突に、現実へと浮上する意識。辺りを見回すと、公園の電灯にはすでに、灯が入っていて。
おそるおそる、彼女は視線を上げる。
そして八雲は、自分が播磨に寄りかかって眠っていたことを知った。
- 506 名前:Where I End and You Begin :04/06/28 01:50 ID:sjS764LA
- 「…………!!」
硬直する、体。今日、そして人生で二度目に、間近で見た、播磨拳児の顔。
気付いていないのだろうか。彼は、寄りかかられた方とは逆の手で携帯を操っていて。
意識は、彼から離れようとする。立ち上がって、迷惑を詫びなければ。そう命令してくる。
だが。
彼女は再び、目を閉じる。
今日、何度目だろうか。ずるい女になることにする八雲。
神様……いるんだったら、ごめんなさい。
この、甘い幸せを、もう少しだけ、味あわせて下さい。
楽しませて下さい。
心の中で祈りながら、気付かれないように、彼の匂いを吸い込む八雲。
いい、香り。
その祈りは、届かなかった。
神様は、彼女が思っていたよりも意地悪で。
「あ……」
「え……?」
重なる、少女の声、二つ。そのどちらも、驚愕に震えていて。
そして両方に、聞き覚えがあって。
八雲は、はっと目を開けた。
「ヒゲなし……?」
「や……八雲……!?」
そこにいたのは。
金髪の少女、沢近愛理と。
八雲の姉、塚本天満。
見詰め合う二人と、二人。
時が、凍ってきしむ音が、聞こえたような気がした。
- 507 名前:Where I End and You Begin :04/06/28 01:51 ID:sjS764LA
- 「つ、塚本……?」
かすれた声で呟いたのは、播磨。
絡み合っていた四対の視線が、その声をきっかけに。
弾けた。
「!!」
彼の言葉を聞いた金髪の少女の顔色が、さっと変わった。
赤く、そして、青く。
次の瞬間、駆け出す彼女は、隣に立っていた少女、塚本天満の腕を握っていて。
「え、愛理ちゃん!?」
引きずられて走り出す彼女が一度、振り返った時。
八雲は我知らず、視線をそらした。姉の目を、見つめられなくて。
押し寄せる、痛み。そして、後悔。
だが。
「ま、待ってくれっ!!塚本!!天満ちゃん!!」
叫ぶ、播磨の声を聞いた時。
全てのピースが集まって、一つの絵を作り上げた。
ああ、そうか。冷たい声が、八雲の心の中で響く。
そうか。そうだったんだ。
播磨さんが好きな人は。
私じゃなくて。
沢近さんでもなくて。
二人を追いかけて、走り出そうとする播磨。
その背中に、八雲は、しがみついて。ギュッ、と力強く抱きしめて。
「行かないで……下さい……」
――――そして動き出す、それぞれの想い――――
- 508 名前:496 :04/06/28 01:55 ID:sjS764LA
- 何か前回との配分を間違えたような気が……詰め込みすぎたかもorz
そして柱……やっぱ、センスないんですね、自分……
というわけで、皆様の暖かいお言葉に励まされつつ、書かせていただいております。
私は本当に幸せ者だなぁ……
これからも頑張っていきますので、よろしくお願いいたします。
- 509 名前:Classical名無しさん :04/06/28 02:19 ID:dCua5Qmg
- >>508 毎回毎回よぉ、甘甘のおにぎりをよぉ、よくも書きやがってよぉ。
涙が出ちゃうじゃないかYO!!
すんません、本当にいつもいつも良質のSSを有難うございます。
- 510 名前:Classical名無しさん :04/06/28 02:23 ID:fn86/Of2
- >>496
ぶっちゃけた話しかるべきところできちんと学んだら本出せるんじゃないかと思う。
出たら間違いなく買うし。そんくらいいいよ。
いろんなSS読んだけどあなた以上の人はいない。
修羅場っぽくなって先読みできないからますます楽しみだし。
俺んなかであなたは仁丹にもっとも近い神だね。まさにGJ
- 511 名前:Classical名無しさん :04/06/28 02:43 ID:UkbhxS72
- 本当に凄い。
低偏差値の僕にはこれしか言えない。
本当に凄い。
ありがとう>>496
- 512 名前:Classical名無しさん :04/06/28 02:46 ID:Fxxuq7bM
- 今回は、ちょっと文章が落ち着いていない気がする。
具体的にいうと、体言止や、置換の文章が多すぎる。
特に、〜〜て、〜〜で。などの短い文章にばかり使っているのが目に付いた。
文章のリズムを作ってるんだろうけど、一本調子になってる。
展開を進めることに気が急いているかと思うのは、邪推が過ぎるかもしれないけど、
念のため、一晩寝かすとか冷静に見直すことをお勧めします。
- 513 名前:Classical名無しさん :04/06/28 03:17 ID:Fxxuq7bM
- 書き忘れ。
レスアンカーの絨毯爆弾を書かなくてもいいような感想を一度キボン。
「纏め」の練習になるかもしれない。
- 514 名前:496 = クズリ :04/06/28 05:26 ID:sjS764LA
- 一度寝て、起きて、読み直してみました。
_| ̄|○
何て作品を投稿してるんだ、私……
>>512さんの言葉が身に染みます。的確な御指摘、本当にありがとうございました。
色々と、ためになりました。
>>509 >>510 >>511
お褒めのお言葉、とても嬉しく思います。ありがとうございました。
でも、まだまだ私は未熟です。これからもっと精進しますので、出来れば、暖かく
見守っていただけると嬉しいです。
そして皆様に、もっと楽しんでいただけるようなSSを書けるようになりたいと思います
ので、どうかよろしくお願いいたします。
関係ありませんが、以後、クズリと名乗らせていただこうと思っております。
それでは、失礼いたしました。
- 515 名前:Classical名無しさん :04/06/28 07:35 ID:jqCpvrE2
- >>496
ほのぼの(らぶらぶ)からの急転直下。基本を押さえていてディ・モールト良い。
まぁ、あまりにもお約束な展開のほのぼの部分だったので、すこし冗長に感じられた。
――いや、これは多分に個人的な感覚なので、あまり気にしなくても良いと思うが。
それにしても、このシリーズは素晴らしいの一言に尽きる。
手放しに史上最高のおにぎりSSと言える。
そう確信している。
- 516 名前:Classical名無しさん :04/06/28 09:12 ID:I8QmN2Q2
- >>507
最後の部分読んだらTVドラマの東京ラブストーリー
思い出しちゃったよ。いい加減おっさんだな…
- 517 名前:Classical名無しさん :04/06/28 11:48 ID:3IKxlhS.
- 八雲の一人称的視点なのに「播磨」とか表記されてるのが気になりました。
- 518 名前:Classical名無しさん :04/06/28 11:55 ID:RopKxP9E
- >517
八雲中心の三人称視点だと思うよん。
- 519 名前:クズリ :04/06/28 13:10 ID:sjS764LA
- 自分で納得がいかなかったので、『Where I End and You Begin』(>>498->>507)を
書き直してみたんですが、これの投稿ってしていいんですかね?
- 520 名前:Classical名無しさん :04/06/28 13:12 ID:iuRALbOI
- >>519
分校の掲示板が良いと思われ
- 521 名前:クズリ :04/06/28 13:25 ID:sjS764LA
- 了解です。避難所に投稿させていただきます。改訂版。
- 522 名前:Classical名無しさん :04/06/28 14:04 ID:jPNF5FfE
- >>484
お疲れさまです。
相変わらず、安定した文章表現と、クローズアップするキャラクタの選択のしかたなど、
レベルが高いSSだと思います。
微妙に百合が入っていて(*´д`*)ハァハァでした。
お疲れさまでした。
>>497
連載形式、そして八雲の一人称に近い形式で語られる文章は、読んでいて楽しかったです。
このレベルを維持しながら、このハイペースでの投下速度、驚嘆に値すると思いました。
お疲れさまでした。
- 523 名前:ジャージ返却 :04/06/28 14:59 ID:6gWpwnUI
- 体育祭が終わった。
ウチのクラスの優勝だった。
あのハゲが活躍したから……
体育祭後のダンス。
アイツは一人ぼっちだった。
ハゲを皆に晒したから…
私はアイツに近付いて、言った。
「踊るわよ」と。
アイツは抵抗したけど、一緒に踊ってくれた。
私が恥ずかしくなんかないって言ったから…
そんな事があった、翌日。
私は後悔していた。
- 524 名前:ジャージ返却 :04/06/28 14:59 ID:6gWpwnUI
- なんで、あんな目立つコト しちゃったんだろ…
まるで、私があのハゲと「つきあう?」みたいな流れ…
ベッドの上で、悩む。
アイツのいい所…浮かばない。
アイツの悪いところ…バカ、学がなさそう、単純そう、…
だめだ。 悪い所しか思い浮かばない。
「いいヤツかもしれないけど、彼氏としては、ちょっとね――」
でも…あのときだけは…嬉しかった。
ジャージを羽織ってくれた時だけは…
視線を部屋の片隅に移す。
そこには、アイツのジャージがあった。
あの日、そのまま持ち帰ってしまったジャージ。
ちゃんと洗濯もしてある。
胸の所には、アイツの名前を縫い付けた。
お礼の意味を込めて…
アイツは判ってくれるだろうか?
アンタ名札がないから、縫い付けておいてやったわよとでも言えばいいか。
そんなことを考えながら、登校する決心をする。
時間は11時過ぎだった。
今からなら、昼休みに渡せばいい。
そう思って、家を出た。
- 525 名前:ジャージ返却 :04/06/28 14:59 ID:6gWpwnUI
- キーン コーン カーン コーン
昼休みを告げるチャイムが鳴り、校舎に入る。
2−Cは、いつもの活気があった。
私が教室に入るまでは。
私が教室に入ると、ざわめきが収まった。
判ってはいたが、恥ずかしかった。
(なによ、もう。 そんなに見なくてもいいじゃない!)
そんな私にいつもの3人が、声を掛けてきた。
「あ、愛理ちゃん。 遅刻だね」
「おう、怪我はどうだ?」
「これで4人揃ったわね」
うん、なんとかねと言いつつ、いつもの昼食の席に座ろうとする。
それは、アイツの席。
でも、いつもと違って、何か書いてあった。
ハートマークに、アイツと私の名前。
名前の上には、傘のようなモノが描いてあった。
- 526 名前:ジャージ返却 :04/06/28 15:01 ID:6gWpwnUI
- 「え…何これ?」
意味が分からない私に晶が解説をしてくれた。
「これはね、相合傘といって、一つの傘を男女が共有すること。 転じて男女の仲をいいはやす落書きよ」
それを聞いた私は、大声をあげた。
「な、なんですってぇ? 私がアイツと? ありないわ! 馬鹿げてる!」
途端に皆が疑問の顔をする。
私は更に言った。
「大体ね、踊って恋人になんてなるのなら、美琴は天王寺君と恋人になるってことじゃない!」
「な、なんでそこにアタシが出てくるんだよ?」
「そうゆうコトでしょ! 違わない、美琴?」
「わ、わかった。 判ったから、座れ。 な?」
興奮している私を、美琴はなだめて席に座らせた。
「じゃ、愛理ちゃん、播磨君とは?」
尚も聞いてくる天満に答えた。
「騎馬戦やリレーで貸し借りがあったから、踊ってチャラにしだだけよ。 それだけ」
なあんだ、残念と言う天満をよそに、お弁当を広げる私。
ふっと、アイツのコトが気になった。
「そういえば、コレを見てアイツはどうしたの?」
「犯人は誰だって騒いでたけど、屋上に行っちゃったみたいね」と晶。
私はそれを聞いて、立ち上がった。
「何で勝手にいじけてんのよ! いいわ、私が皆に説明させてやるんだから!」
- 527 名前:ジャージ返却 :04/06/28 15:01 ID:6gWpwnUI
- カバンを手に屋上を目差す。
中には、例のジャージが入っている。
別に、アイツの事は何とも思ってはいない。
ただ、嬉しかった。 あの時だけは。
少しだけ、アイツに近付いていよう。
そう思って、階段を駆け上げッた。
名札を見た、アイツの顔を思い浮かべながら…
おわり
- 528 名前:ジャージ返却 :04/06/28 15:03 ID:6gWpwnUI
- 沢近視点でSSです。 30号の数時間後ってことで。
- 529 名前:Classical名無しさん :04/06/28 16:09 ID:nd4HPEb6
- >>508
いつもお疲れ様です。
うぉ、これは続きが気になりますな。
次回は対決?
うーん、気になります。
- 530 名前:Classical名無しさん :04/06/28 17:44 ID:NcTtGEcA
- >>508
あああああ貴方はなんというものを!
死ぬ! なんか切なくて死ぬ! そして萌え死ぬ!
- 531 名前:ジャージ返却 :04/06/28 19:41 ID:6gWpwnUI
- >>508 お疲れ様でした。
個人的に、妹さんと言った後に、八雲ちゃんと呼ぶのは、違和感がありました。
本編でも、天満以外は名前で呼んでませんし。
- 532 名前:護身してるのに神がイパーイ :04/06/28 20:08 ID:4IuKXFcg
- >>436
播磨は絃子さんの魅力にすっかりまいってますねw
こんな話が本編にあったりしたらみんな前屈みになっちゃうやろな。GJ!
>>HALさん
修治と沢近の話ですか、ちょっと沢近が猫かぶり過ぎなきもしますが
おもしろかったです。
修治のSSは少ないのでもっと読みたいです。GJ!
>>468
結局花井のカレーはおいしかったんですか?
毎日料理してる八雲にはさすがにかなわないと思うんですが。
でもおもしろかったです。GJ!
>>484
サードの女の子キター、ってまだ名前ないんでしたね(orz
晶と名前もない女の子の難しいSSなのに違和感がないのはさすがです。
花井はアホですねw
GJ!
- 533 名前:Classical名無しさん :04/06/28 20:34 ID:4IuKXFcg
- >>クズリさん
修羅場ですな。ちょっと大胆な八雲がかわいすぎる!
神様ってイジワルですね。続きが気になって今日も眠れないです。GJ!
>>528
沢近が学校に来たとしたらこんな感じになるんでしょうね。
播磨以上に暴れそうな気もしますがw
GJ!
- 534 名前:Classical名無しさん :04/06/28 23:48 ID:ZEUAPc3E
- >>508
面白かったです。
ただ、512さんが書いていますように、
文章や文末が似たような表現が多かったのが目に付いたかも。
まぁ 萌 え 死 ん だ 訳 で す が
- 535 名前:Classical名無しさん :04/06/29 02:00 ID:19PaYkSs
- >>508
サイコー
萌え死ぬ、萌え死ぬ、萌え死ぬ、萌え死ぬ、
萌え死ぬ、萌え死ぬ、萌え死ぬ、萌え死ぬ、
GJーーーーーー
- 536 名前:Classical名無しさん :04/06/29 04:02 ID:8LQnzxik
- >>508
あなたは私を萌え殺すつもりですか?
死に顔がにやけ顔なんて・・・GJ!!
- 537 名前:クズリ :04/06/29 07:39 ID:sjS764LA
- どうも、皆様、おはようございます。
拙作に感想をたくさん寄せていただき、まことにありがとうございます。
クズリです。
予想外の好評に、ついつい自分を忘れてしまいそうになりますが、やはりまだまだ
未熟の身。皆様により一層、楽しんでいただける作品を書けるよう、精進していこうと
思っていますので、どうかよろしくお願いいたします。
>>513
うーん、個人的に、一通一通に返した方が誠意が伝わるように思うので……私が
このペースを維持できる限りは、この形式で行きたいと思います。御指導、ありがとう
ございます。
>>515
改訂版にて、ほのぼの場面をじゃっかん、削りました。御指摘ありがとうございます。
>>516
リアルタイムで見れたはずなんですが、何故か未見……
>>522
続けられるうちは、このペースで行きます。いつまでもつかわかりませんが。
>>529
というわけで今日も投稿させていただきます。
>>530
過分な褒め言葉、嬉しく思います。
>>531
御作、拝読させていただきました。とても面白かったです。個人的には、その後の展開
が気になりますね〜
「八雲ちゃん」は、彼女の夢の中での台詞だったのですが、わかりづらかったですね。
すいません。
- 538 名前:クズリ :04/06/29 07:44 ID:sjS764LA
- >>533
本編の八雲のイメージから離れていないかどうか……ちょっと心配です。
>>534
今回、御指摘の部分に特に気をつけて書いてみました。
>>535
もう一つのところと合わせてw 期待していただき、ありがとうございます。
>>536
皆様が萌え死ねる作品を書けるよう、精進いたしますw
というわけで、次作を投稿させていただきます。
『Without Me』 >>191->>197
『Crossing Border』 >>318->>330
『She wants to mobe』 >>345->>355
『Don't go away』 >>391->>399
『Where I End and You Begin』 >>498->>507 同改訂版→SS避難所スレ@分校
に続いて。
『Rollin'』
- 539 名前:Rollin' :04/06/29 07:46 ID:sjS764LA
- 降り始めた冷たい雨が、少女を濡らしていく。
髪を、頬を、首筋を、雫が伝う。白のYシャツは水を吸い素肌に張り付き、艶かしい体のライン
を浮き彫りにする。
鞄の中には折りたたんだままの傘、だがそれを開けることをせず、彼女は歩く。
うつむいた瞳に深い闇を宿して。
彼女は。
歩く。
School Rumble
♭−ζ Rollin'
「行かないで……下さい……」
ドクン。ドクン。
それが自分の心臓の音なのか、それとも彼の音なのか、八雲にはわからなかった。
強く播磨の背中に押し付けた耳、その奥で鼓動が跳ねる。ドクン。また、ドクン。
触れ合っているのに。こんなにも近くにいるのに。二人を今、隔てるのは薄絹の二枚だけだとい
うのに。
ぬくもりはとても遠くに感じられた。
冷え冷えとした影が胸の中に広がっていく。
それはあの時……体育祭の終わりに彼が金の髪の少女と踊っていたのを見た時と似ていて、しか
し比べ物にならないほど深く、暗い。
心の全部を黒に塗りつぶされる前に、八雲は瞳を閉じて、自分の想いを凍らせようとする。
……それがほんの一時しのぎにすぎないことは、わかっていたけれど。
立ち尽くす播磨、その体を支えるかのように、八雲はしっかりと抱きつき彼を離さない。
一つに重なり伸びる影。だが心は千々にちぎれていて。
どれぐらいの間、二人はそうしていただろうか。
止まっていた時が、動き出す。
- 540 名前:Rollin' :04/06/29 07:47 ID:sjS764LA
- 「妹さん」
声をかけられてやっと、八雲はその体を離す。
がっくりと肩を落とす播磨の背中を、少女は見つめることしか出来ずにいた。
胸の前で軽く握り合わせた手には、彼の体を留めていたという感触は微塵も残っていなかった。
肩越しに見える魂の抜けたような顔。自分が抱きしめていたのは播磨拳児ではなく、ただその名
と体を持つ人型だったのかもしれない。
そんな疑惑すら抱いてしまうほどに、播磨は生気を失っていた。
また痛む心。
体を投げ出してまで引き留めたのにも関わらず、彼は八雲を一度も見ようとしない。そして変わ
らず、
『妹さん』
そう呼ぶのだ。彼女のことを。
「姉さんには、私から言っておきます……誤解だって」
猛る心。暴れる心の臓。燃え盛る想いに焼かれる体。
その全てを抑えて、八雲は播磨にそう言ってみせた。
言ってから彼女は、下唇をわずかに噛み締める。痛みが、去ってしまいそうな自制を引き止めた。
「播磨さんが言っても、姉さんは聞かないと思いますから……だから、私が……」
作られた言葉を、八雲は無理やり押し出す。
体も、感情も、理性ですら、その行為を非難する。
何をやっているの、八雲?彼に伝えたい言葉は、それじゃないでしょ?
頭の芯が痛むほどに、内なる声は止むことなく叫び続ける。
それでも八雲は言葉を覆すことはせず、口を動かすのをやめない。
「私と播磨さんとは……何の関係もないんだって……」
足元の地面が消えて落ちていくような、そんな感覚に八雲は襲われる。
膝の力が抜けそうで、意識を強く保たないと、ただ立つことですらもう難しくなっていた。
渦を巻く冷たい風が一陣、八雲の髪を揺らして通り過ぎて行く。
出来ることなら。八雲は思う。
風と共に、去ってしまいたい。この場所から。
- 541 名前:Rollin' :04/06/29 07:48 ID:sjS764LA
- 「ああ、そっか……悪ぃな、妹さん」
そうとだけ言って歩き出した播磨は、結局、彼女の顔を一度もまともに見なかった。
ついさっき、彼の肩に寄りかかってまどろんだ時に見た幸せな夢を八雲は思い出す。
その中で、播磨は彼女を『八雲ちゃん』と名前で呼んだ。あれは願望の表れだったのだろう。
改めて思いを馳せる。
『妹さん』。その言葉に含まれた意味に。
「どうしたんだ?妹さん」
公園の入り口でわずかに振り返った播磨が、声をかけてくる。
もうそう呼ばないで下さい。私は八雲です。塚本天満の妹だけど、八雲という名前なんです。
言いたかった。そう叫びたかった。
喉元まで出かかった声を、しかし、八雲は飲み込んで歩き出す。
その足取りは、とても重い。
胸弾ませて迎えた今日という日は、楽しく幸せなものだった。
だけど、それはほんの一瞬で壊れてしまうような、儚いものでしかなかった。
多くを望んでいたわけではない。いや、何も望んでいなかった。そう言ってもいい。例えば、八
雲と呼んでもらいたい、などとも。
なのに。
どうしてこんなに、辛いのだろう。悲しいのだろう。
「……行きましょうか」
追いついた背中。チラリとだけ見てきた彼に、八雲は微笑んで見せる。
どんなにぎこちない笑みだったろう。だけど彼はそれに気付くことなく、
「おう……送ってくわ」
優しいんですね。声に出さず八雲はそう呟く。
それは今日、二度目の思いだった。
だが感じる想いは正反対のベクトルを持っていた。今はただ、苦しくて仕方がない。
彼の優しさを、彼と共にいることを、苦痛だと感じ始めた自分に、八雲は気付く。
そしてもう一度、願った。
この場所から消えてしまいたい。風に乗って去ってしまいたい、と。
- 542 名前:Rollin' :04/06/29 07:49 ID:sjS764LA
- 帰りの電車の中、並んで座った二人は、しかし一言も言葉を交わさずにいた。
窓側の席に座り、延々と流れる景色を見つめ続ける彼の横顔に透けて見えるのは、彼の機嫌の悪
さだけだった。
いや、あるいはそれは絶望だったのかもしれない。
……そのどちらでも、八雲は良かった。
彼女は播磨とは反対、通路側の肘置きに寄りかかり、視線を遠くへ置いていた。
ビル、ネオン、その合間に星が見え隠れしている。だがそんなわずかばかりの天の明かりも、雲
が少しずつ覆い隠し始めていた。
やっぱり、雨が降るんだ。
痺れたように思考停止していた彼女の頭に、ふとそんな思いが宿る。
だがすぐに消えて失せて、後に残るのは真っ黒な意識だけだ。
何も考えたくない。このままずっと、何も。
綺麗な子だよな可愛いし声かけたいけど隣にいる男って彼氏なのかな
突然、宙に浮かび上がったイメージに、八雲はわずかに体を強張らせた。
そういえばそろそろだった、と彼女は思い出す。
心が視える力が強くなり始めているのだろう。通路を挟んで隣の席に座る少年の想いが、透けて
視え始めていた。
こっち見てるうわっすげぇ美人だ彼氏だったらもっとくっついてるもんな
ちらちらと彼女の方を盗み見る少年の視線、そして心の声に八雲はわずかに顔をしかめた。
彼氏。
その言葉がとても不快なものに思えたのだ。
男と女。私達はそんな言葉で表される関係じゃない。そう心の中で呟いた八雲の胸に、鈍い痛み
が走る。
そして気付いてしまう。自分がまだ彼を好きだということに。
- 543 名前:Rollin' :04/06/29 08:01 ID:sjS764LA
- ダメ……!!
心の中で叫ぶ声が聞こえたような気がした。
もちろんそれは幻聴でしかなく、そして弱々しい最後の抵抗に過ぎなかった。
ゆっくりと想いが溶け始める。
せめて……せめて彼と別れるまでは、凍らせておこうと思っていたのに。そんな誓いすらあっさ
りと……あまりにもあっさりと流されてしまった。
切ないあえぎが胸の奥に溢れ出した。脈打つ心臓が送り出す流れに乗って、爛火が体中に運ばれ
ていく。
今日の思い出が脳裏をよぎる。
もらったチケット、その残りの半券は大切に財布の中にしまってある。ぐいと引き寄せられた肩
にはまだ、彼の力強く大きな手の感触が残っている。寄りかかった彼の胸の逞しさ、そしてわずか
に漂っていた香りは意識に刻み込まれている。
嗚呼、嗚呼と叫ぶ声が、胸に木霊する。
好き。好き。好き。
好きで仕方がない。
気付いたのはほんの少し前のことだ。一月も経っていないだろう。
だがこの想いは本物なのだと、八雲は知る。時間は関係ないのだ。
おっと可愛い子がいるなすげぇスタイルもいいし美人だし高校生かなやべえよまじ超綺麗じゃん
モデルとかなのかな
駅に止まった電車、乗り込んできた若い男達の内なる声が、宙に溢れかえる。
普段の八雲ならば、この状況に耐え切れず心を閉ざし、自らの内面世界に篭ってしまったことだ
ろう。
だが今日は違った。
誘う声が脳裏に生まれる。それはいけないことだと止める声もする。
それはありきたりな、とてもありきたりな、天使と悪魔の問答。
視てしまえばいい。彼の心を。悪魔はそう囁く。
視えないわよ。彼の心は。天使はそう止める。
だけど、結論が欲しい。少女はそう求め、悪魔に加担する。
知ってどうするの。女は冷たく語り、天使に加担する。
- 544 名前:Rollin' :04/06/29 08:05 ID:sjS764LA
- 唐突に、猛りが響いた。
ワタシハ、ハリマサンガ、スキ
心の一番深い場所で愛を叫ぶ獣の前に、恋すら知らなかった八雲は無力だった。
天使も悪魔も、少女も女も、見境なく獣が大きな顎で屠る。
何もかもが消えた後に残された獣が望んだことは一つ。
八雲はゆっくりと顔を上げ彼を盗み視た。
そこには何も視えなかった。
心の声は聞こえなかった。
左頬を一筋の涙が伝った。
わかっていたはずだった。あの時、彼の叫びを聞いた時に知ったはずだった。
彼にとって自分は、『塚本天満の妹』という存在でしかないのだ。
だけど。
今日、二人で動物園を回ったのに、彼の一挙手一投足に胸をときめかせていたのに、最高の思い
出の日になると思っていたのに。
そう考えていたのは自分だけだった、という事実が八雲をうちのめす。
わかっている。それは彼が一途だからということは、十分にわかっている。だけど。
期待していたのだ。ほんの少しだけでも、彼の想いがこちらを向いてくれることを。
優しくされて、守られて、わずかにでも二人の距離は近づいたと思っていた。それがどんなに鈍
い歩みでも、いつか届くと信じていた。
だが全ては幻想に過ぎなかった。
- 545 名前:Rollin' :04/06/29 08:09 ID:sjS764LA
- 自分を好いてくれる男の心が視えると言う力。
その力さえなければ、こんな痛みを抱えることもなかった。
今までは視えることで苦しんできた。どうしてこんな力が、と思ったこともあった。
だが視えないことで、これほどまでに傷つくことになるとは想像だにしていなかった。
八雲は生まれて初めて、自分に備わったこの『枷』の存在を恨んだ。
心の底から、憎悪した。
気付かれないようにうつむいて、八雲は涙を掌でぬぐう。
望みどおり、播磨は気付くことなく外を眺め続け、八雲の様子に気付いた素振りは見せなかった。
そう。望みどおり。なのに、いや。
だから。
たくさんの人で溢れる電車の中で彼女は、自分が孤独だと感じていた。
駅を降りた二人は、待ち合わせた場所で別れることにした。
歌う天使を模ったモニュメント、朝は幸せを願うように八雲を見下ろしていた彼の顔が、今は見
えない。
「大丈夫です……そんなに遠くないですし」
送っていこうか、という彼の申し出を、八雲はやんわりと断る。
……一秒でも早く一人になりたかった。
「そっか……じゃあ、気をつけてな」
ポケットに手をつっこんで歩く彼の後姿はいつもと変わらないのに、何故かとても小さく見えて、
そしてそれがとても悲しくて、
「あの……」
八雲は思わず声をかけていた。半身を返してこちらを見る彼に、八雲はしばしの逡巡の後、
「姉さんには、ちゃんと話しておきますから……元気、出して下さい」
「ああ……ありがとよ」
播磨は微かに笑って見せるが、それは力のない作られた笑顔にしか見えず、八雲の胸はまた痛む。
そして立ち去る彼の背中を、彼女はその場に立ち尽くしたまま見送った。
- 546 名前:Rollin' :04/06/29 08:10 ID:sjS764LA
- 月はその大半が削られ、星も雲に覆われた空に光はなく、ただ人工の灯火だけが彼女の足元を照
らす。
確かに、駅から塚本家までの距離は、それほどあるわけではない。
だが彼女は最短の道を通るのではなく、出来るだけ遠回りになるように帰途を選んで歩いている。
人通りの少ない道だろうと構わずに。
そして彼女の歩みは、蝸牛のように鈍い。
少しでも帰る時間を遅くしたい、八雲はそう思っていた。
家には姉がいる。だから、帰りたくなかった。
顔を合わせたくなかった。声を聞きたくなかった。
何を言えばいいのかわからない、そんな恐怖もある。
何を言ってしまうかわからない、そんな恐怖もあった。
だが一番は、ただ辛いからだった。
『想い人の想い人』。姉をそんな目で見ることになるなどと、夢にも思わなかった。
しかし現実に、彼は塚本天満を好きなのだ。
空から冷たい雫が零れてくる。見上げた彼女の頬にも落ちて、跳ねる。
涙の通り道を伝う雨粒。
途端に、必死になってこらえてきた想いが堰を切って溢れ出した。
喉の奥で弾ける嗚咽は、唇を噛んで必死に漏らさないようにするが、瞳から熱い涙が流れるのを
止めることは出来なかった。
とめどなく溢れて、繰り返し溢れて、やむことがない。
彼女の心に同調したかのように、少しずつ雨が強くなっていく。ほどなく八雲は全身びしょ濡れ
になってしまっていた。
鞄の中には折り畳み傘が入っている。だがそれを開ける気にはなれなかった。
何故か無性に、このまま雨に打たれていたいと思ったから。そして、悲しみとも絶望ともつかな
い心の痛みに火照った体に、この雨は心地良かったから。
両手で顔を覆い、彼女は立ち止まって、泣いた。
冷ややかな秋雨に打たれながら、泣き続けた。
「播磨さん……」
震える小さな呟きは雨の音にまぎれ、彼女自身の耳にすら届くことなく、宙へと溶けて消えた。
- 547 名前:Rollin' :04/06/29 08:12 ID:sjS764LA
- 「……ただいま」
八雲がそう言って自宅に戻った頃には、もう時計の針は十時を回っていた。
駅に着いたのが八時過ぎだったから、二時間も歩いていたのか。背筋を走る寒気に体を震わせな
がら、八雲は回らない頭で考える。
「あ、八雲っ!?おかえり……ってどうしたのよ、そんなにびしょ濡れでっ!!」
玄関を上がる前に奥の部屋から飛び出してきた天満が、驚きに目を丸くする。
そしてやっと、八雲は自分の格好に気付いた。体にべったりと張り付いたYシャツ、そしてジー
ンズは水を吸って重くなっている。
左手を開いて見ると、人差し指にしていたはずのリングがない。どこかで落としたのかな。八雲
はただ事実を確認するかのようにそう考えただけで、惜しいとすら思わなかった。
「ほら、タオル、タオルッ!!あーもう何やってるのよー。傘、持っていかなかったの?」
靴を履いたままの八雲の髪を、山のように持ってきたバスタオルの一枚で拭く天満。雫があちこ
ちへと飛び散るのを、八雲はぼんやりと見つめていた。
「ほら、ぼーっとしてないで、お風呂入りなさい、八雲。もう沸いてるから」
コクン。姉の言葉に頷いて、八雲はミュールを脱いで上がり、着ている物をその場で脱ぎ始める。
Yシャツ、ジーンズ、チューブトップ、ヌーブラ、ショーツ。常ならば服は綺麗に折り畳むのが
習慣の彼女だったが、今日は乱暴に脱ぎ捨ててしまう。
一枚脱ぐごとに、水滴が弾ける。髪の先からもポトポトと零れ落ちていく。
バスタオルの一枚を体に巻いて、八雲は風呂場へ向かおうとした。
が。
「全く〜。あんまり遅いから、播磨君に電話しようと思ってたところだったんだからね!?心配か
けさせないでよ」
天満の言葉に、歩を止めて、振り返る。
「姉さん……播磨さんの携帯の番号……知ってるの?」
「え?」
彼女の言葉に自分の携帯をチェックした天満は、
「あれ、入ってないや。教えてもらったと思ってたんだけど」
「……そう……」
自分だけの『特別』がまだ、残っていたことに、少しだけ八雲はほっとする。
微笑の形を作った唇は、しかしすぐに歪む。
だから、何だというのだろう。こんな『特別』に、何の意味があるというのか。
- 548 名前:Rollin' :04/06/29 08:13 ID:sjS764LA
- 「でも、よく知ってたね。私が播磨君の番号、知らないって」
訝しげな姉の言葉に答えず、八雲はまた廊下を歩き出す。
思ったよりも、平気。彼女は心の中で呟く。姉を前にして自分が、どんな風になるかわからな
かったけれど、意外と落ち着いていられる。
たくさん泣いたのが、良かったのかな……明日はきっと目が腫れているだろうけれど、姉の前で
いつもと変わらない自分でいられるなら、その方がいいに決まっている。
ほっと、彼女は安堵の溜息を一つ吐いた。
「まあいいや。明日、播磨君にはちゃんときつく言っておいてあげるから」
姉のその言葉を聞いた時、八雲の心がきしんだ音を上げた。
「大体、雨が降ってるのに、女の子を一人で帰すなんて。播磨君って、もっと優しい人だと思って
たのに」
胸の奥で、頭の中で、何かが弾け、目の前に閃光が煌く。
- 549 名前:Rollin' :04/06/29 08:19 ID:sjS764LA
- 「それに、愛理ちゃんって人がいるのに、八雲にまで手を出すし」
唇を強く、強く噛み締める。
腹の底、体の芯からふつふつと沸き上がる想いが、口を割って出ないように。
「まったく、お猿さんだねっ!!あんなにキャンプで約束したのに」
拳を握り締める。血が止まって、色を失い、親指の爪が食い込みそうになっても、八雲は止めよ
うとしない。
ダメ。ダメ。こらえて。私。
「とにかく、播磨君にはお姉ちゃんが言っておいてあげる。八雲には手を出さないでって」
ダメ。こらえ……られない。
想いを止められない。
「だから、安心……」
「姉さんっ!!」
廊下に耳をつんざかんばかりの大声が響いた。
振り向いた八雲は、姉の目を真っ直ぐに見つめる。
くすぶっていた想いを叩きつけるように、強い視線で。
「播磨さんのこと……悪く言わないで」
遠くで時期はずれの雷鳴が響いた。
雨はまだ止むことなく降り続け、窓を叩いている。
――――姉と妹、ではなく、女と女――――
- 550 名前:クズリ :04/06/29 08:23 ID:sjS764LA
- とうとう柱なし……orz
いや、いいのが考えられなかったので……と言い訳は置いておいて。
様々な方に御指導いただいたことを踏まえて、文体をちょっと意識して変えてみました。
どちらにしても、下手なことに変わりはないのでしょうが、努力だけは怠らないようにしたい、
頑張ったつもりです。
それでは皆様、よろしくお願いいたします。
- 551 名前:Classical名無しさん :04/06/29 08:32 ID:6gWpwnUI
- お疲れ様です。
うわ、なんという展開。
本編同様に、続きが期待できます。
自分も、もっと精進しようと思いました。
- 552 名前:Classical名無しさん :04/06/29 08:32 ID:YKUt3mVs
- クズリさんに一生ついてきます。ともかく、素晴らしかったです。
- 553 名前:Classical名無しさん :04/06/29 08:45 ID:3lA40hs6
- >>550
言うべきことは、ただひとつ。
ъ(゜д゜)グッジョブ!!
- 554 名前:Classical名無しさん :04/06/29 09:16 ID:9vGUIyyE
- 悶絶。
- 555 名前:Classical名無しさん :04/06/29 09:47 ID:nd4HPEb6
- >>550
クズリさん、やっぱいいなぁ。
やっぱり続きが気になりますね。
そしてその執筆スピードに驚くばかりです。
- 556 名前:Classical名無しさん :04/06/29 12:37 ID:iKoM5fSg
- なんつーか、読んでて目が乾いた。
一気に読んでしまって瞬きできなかった。
俺をドライアイにする気ですか?
- 557 名前:Classical名無しさん :04/06/29 16:06 ID:JChUdtVw
- 明日 中村(執事)話投下します。
需要ないと思いますが。
- 558 名前:412 :04/06/29 18:08 ID:aMl6YvTQ
ン中村キタ━━━(゚∀゚)━━━!!!!!
- 559 名前:412 :04/06/29 18:10 ID:aMl6YvTQ
- >>558
名前欄まちがえた。
- 560 名前:Classical名無しさん :04/06/29 18:10 ID:aMl6YvTQ
- >>559
またやった_| ̄|○
- 561 名前:Classical名無しさん :04/06/29 18:15 ID:9zHzwU5A
- クズリさん乙です。 あなたの八雲は可愛すぎてやばいっす。 続きが待ち遠しいぃ。超グッジョブ!!
- 562 名前:Classical名無しさん :04/06/29 21:13 ID:aMl6YvTQ
- >>550
GJ!
”塚本八雲の立っている場所”というものがどのようなものかがリアルに伝わってきます。ついに
弾けた八雲の想いに胸が震えました。
愛、優しさ。人の善意が痛いです。
追伸。
細かいことですが、疑問符、感嘆符の後ろに文が続くときはスペースを一つ入れるといいかも
しれません。それから、同じく疑問符、感嘆符を使うときに二つワンセット(!!とか!?)にする場合は
半角にすると良いかも。
もし意識的に現在のような形式にされているのならお聞き流しくださいませ。
- 563 名前:Classical名無しさん :04/06/29 22:53 ID:dfeJTr8.
- >>550
続きを〜 早く続きを〜
- 564 名前:Classical名無しさん :04/06/29 22:57 ID:1KKsFzR.
- >疑問符、感嘆符の後ろに文が続くときはスペースを一つ入れるといいかも
>しれません
一応文章作法的には今のままのであってるらすい。
、とか。とかと同じ扱いなので。
まあこういう文章の書き方は荒れるのであまり文句はつけない方が。
- 565 名前:Classical名無しさん :04/06/29 23:55 ID:QhYrPMuY
- >>550
萌え…いや、切な死にました
「私と播磨さんとは……何の関係もないんだって……」
この部分が読んでて辛かった
でもGJです
- 566 名前:Classical名無しさん :04/06/30 01:44 ID:ZCGTAP1c
- そうねー。天満って勘違いが過ぎてちょいとムカツク。
- 567 名前:Classical名無しさん :04/06/30 13:13 ID:Vc5HHn9I
- 今夜以降、本編の展開予想SSが続々とくる……のか?
- 568 名前:Classical名無しさん :04/06/30 15:03 ID:vkKqsNZM
- クズリさん乙です。思わず部屋で転げまわるかと思いました。
もう萌えすぎ。可萌物指定です。
- 569 名前:Classical名無しさん :04/06/30 15:09 ID:snL65dx2
- >>550
クズリ氏のSSは 非 常 に危険です。
危うく萌え死ぬところでした。
あー、もー! 嫉妬八雲が可愛すぎて可哀相過ぎてー!
- 570 名前:Classical名無しさん :04/06/30 17:56 ID:aMl6YvTQ
- >>564
文句をつけているつもりは無かったのですが、そう取られたのなら申し訳ないです。
ご容赦を。
- 571 名前:髭 髭 髭 :04/06/30 18:14 ID:RoajgOsY
- 「中村、何か変わった事は無いか?」中村の一日は毎日日付が変わる頃、きっかり午後11時47分にかかってくる
主からの定時連絡を以って終了する。
その連絡先はロンドン、モスクワ、モナコ、シアトル ヨハネスブルグと世界中の多岐にわたっている。
月に1度日本に来れれば良い方の主だが、どんなに忙しかろうと毎日の妻や娘の様子を聞く定時連絡だけは欠かさない。
(はて?伝えた方が良いものだろうか)ここ最近のお嬢様を見ていてとある結論に辿り着いた中村だが、
果たして本人がそうであると認識しきっていない状態で、其れを告げて良いものなのか
少し悩んだ。 「何かあったのか?」 返答が無いので少し焦ったような口調が受話器から聞こえてくる。
ここで,否何でもありません.と申し上げた方が疑心暗鬼になられるやもしれない そう思い、
私の見立てでは御座いますが、 と前置きを振った上で 中村は 話し始めた。
「愛理お嬢様は多分好きな方が御出来に成られたかと思われます。」
「………」息を呑む音が受話器の向こうから聞こえ、
「そ そうか 何故中村はそう思ったのだ」 動揺を隠し切れない声で 尋ねてきた。
「私が、大旦那様の所に勤め始めて間もない頃の、奥様が旦那様とお知り合いに成られてた時と
似てみえますので。」中村は元々、沢近の家に代々仕える執事の家系だった。
他国からの留学生と地元の名家の令嬢の恋 陳腐なメロドラマにあるような親の反対と駆け落ち
娘が生まれた事に因る和解。その全てを、駆け落ち中は澤近の家と若夫婦の唯一
の連絡手段として、和解後は若夫婦の執事として中村は見てきた。 無論屋敷の主は雇い主一家ではあるが、中村に
は主も又その義父である沢近の大旦那様も微妙な所で頭が上がらない。
- 572 名前:Classical名無しさん :04/06/30 18:16 ID:RoajgOsY
- 「中村、貴方もいいますね」苦笑する主。そして、一息置いて「愛理を幸せにさえしてくれさえすれば私は構わない」
と静かに言った。裏返して取れば「不幸にしたら許さない」そう言っているのだ。
「無論で御座います」中村は相槌を返しながら、(義理とは言っても親子、旦那様も大旦那様と同じ事を言いなさる)
そう思っていた。20年前、娘が好きになった相手を探らせようとした時の沢近の大旦那様も同じ事を言ったのだ。
「中村、頼むぞ」色々な意味の篭った言葉で電話は切れた。「はてさて、何から始めましょうか、 しかし
私や旦那様を納得させるのは、大変ですぞ 播磨君とやら。」 ジャージの名札から判った愛理の想い人らしき
青年を想像しながら中村は、受話器を置いた。
- 573 名前:Classical名無しさん :04/06/30 18:29 ID:H6nAMYN6
- 支援?
- 574 名前:Classical名無しさん :04/06/30 20:09 ID:6gWpwnUI
- えー、31号後予測SS,投下します。
- 575 名前:名札縫い付け :04/06/30 20:10 ID:6gWpwnUI
- 体育祭が終わった。。
私は、アイツにジャージを借りたままだった。
リレーの前に、羽織ってくれた、ジャージ。
羽織った私に、アイツは言った。
「お嬢、お前の為に勝ってやるよ」と。
言葉通りに、勝ったアイツ。
全校生徒に、自分のハゲを晒してまで…
そんなアイツの行動が、嬉しかった。
だから、アイツとオクラホマミキサーを踊った。
足の痛みも気にならなかったし、他の生徒からの視線も、恥ずかしくなかった。
ただ、アイツと踊りたかった。
- 576 名前:名札縫い付け :04/06/30 20:11 ID:6gWpwnUI
- そして、翌日。
昨夜の自分の行動が、今頃恥ずかしくなってきた。
何で、アイツと踊ってしまったんだろう?
あの時は、恥ずかしくなかったハズよね?
まるで、アイツと付き合ってるみたいじゃない?
悶々と自室で考える。
アイツのいい所は、コレと言って浮かばない。
むしろ、悪いところばかり思い浮かぶ。
バカ、単純、暑苦しい…
ろくでもない単語しか、思い浮かばない。
でも。
アイツのあの行動は、嬉しかった。
なにか、お礼をしよう。
そう思って、名札を縫いつけた。
確かに、見た目はよくない。
でも、自分としては、良く出来た方だと思う。
こういうのは、気持ちが大切なんだ。
そう言い聞かせて、ウサギの袋に入れた。
- 577 名前:名札縫い付け :04/06/30 20:12 ID:6gWpwnUI
- 学校への足取りは、重かった。
やはり、前日の事を思い出すと、恥ずかしかった。
でも、悶々と考えていたことや、縫い付けに時間が掛かり、今は放課後。
道行く八坂高生徒の数も少ない。
おかげで、噂話などの類は気にせずに登校できた。
教室に入り、アイツの机の前に立ち、逡巡する。
どんな反応をするだろう。
単に、ジャージを返すワケではない。
縫い付けられた、名札。
自分なりに、一生懸命になって縫い付けた。
まさか、面と向かっては、渡せなかった。
「ちょっとは驚きなさいよね」
そう言いながら、ジャージの入った袋を置いた。
アイツの反応を楽しみにしながら…
- 578 名前:名札縫い付け :04/06/30 20:15 ID:6gWpwnUI
- 「さてと」
メインの用事は済んだ。
しかし、今日一日、丸々さぼってしまった。
(今日の授業のノートを写させて貰おう)
今日は、午前中が体育祭の片付けだったから、授業は午後だけだ。
(さっさと写して帰ろう。 ノートは、晶のを写させて貰えばいいわね)
晶はこの時間帯なら、クラブ活動をしているはず。
早速、茶道部の部室に向かった。
「晶いるー?」
そう言いながら、茶道部の扉を開ける。
そこには、八雲がいた。
アイツのジャージを持った八雲が。
名札を縫っていた。
私のものとは比べ物にならないくらい、綺麗に縫い付けられていた。
「あ……」
私を見たまま、手を止める八雲。
私は八雲に聞いた。
「どうして? どうして八雲がアイツのジャージを持っているの?」
八雲は俯いて答えた。
「あの、播磨さんがネームを直すから取ってきてくれって… 戻って来たら播磨さんいなくて… 怒られると思ったけど、直していたんです…」
私は、ひきつりながら、言った。
「そ、そう。 私がやるより、八雲が縫った方がアイツも喜ぶわよね。 ジャマしちゃったみたいね、それじゃ」
「え? これ、沢近先輩が? あっ」
八雲の質問には答えず、私は茶道部を後に、走り出した。
- 579 名前:名札縫い付け :04/06/30 20:15 ID:6gWpwnUI
- どうして? どうして? 悔しい 悔しい
色々な思いが、頭を駆け巡る。
八雲がアイツのジャージを縫っていたから?
自分の縫い付けを否定されたから?
ううん、違う。
八雲の顔を見たから。
アイツのジャージを嬉しそうに縫う、八雲の顔を。
八雲は、アイツのこと好きなんだ…
そして、私は八雲に嫉妬していた?
でも、それは、アイツが好きだと言うこと。
認めたくない。
でも、この気持ちは止められない。
そんなことを考えながら廊下を走る。
向こうから、アイツが歩いてくるのが見えた。
何か、あったのだろうか?
トボトボと歩いている。
瞬間、私はアイツにシャイニング・ウィザードを叩き込んでいた。
「ヒゲのバカァ!」と叫びながら…
おわり
- 580 名前:名札縫い付け :04/06/30 20:17 ID:6gWpwnUI
- 沢近から見れば、こんな感じではないかと思い、SSしました。
八雲側は…難しいです
- 581 名前:Classical名無しさん :04/06/30 21:28 ID:mKmp.yTo
- >>580
GJ!
この頃旗派?(おにぎき派?)少ないからよかったす
播磨は踏んだり蹴ったり、ふられたり蹴られたり大変ですね〜
- 582 名前:Classical名無しさん :04/06/30 22:23 ID:jCJ2GJLk
- >>571-572
ナカムラSSはいろいろ想像できていいですね。
ただ改行はもう少ししたほうが
グッと読みやすくなると思います。
次作はぜひ読み手を意識して書いてみてはどうでしょう?
>>580
沢近の気持ちがわかりやすくて面白かったです。
グッジョブ!
- 583 名前:Classical名無しさん :04/07/01 00:48 ID:VJlnk.2o
- >>550
なんか足がガクガクシテキマシタヨ・・・スゴスギデスヨアナタ
- 584 名前:Classical名無しさん :04/07/01 01:32 ID:/mH4omYo
- しかし誰一人として幸せにならねー漫画だな
- 585 名前:Classical名無しさん :04/07/01 01:37 ID:ulYyCGCQ
- >>584
きっと言うから――
あなたのおかげで幸せだったって
- 586 名前:Classical名無しさん :04/07/01 02:19 ID:K4D8HxEM
- >>584
それが青春さ
- 587 名前:Classical名無しさん :04/07/01 02:58 ID:snL65dx2
- >>584
思い通りにならないのが現実なのではないかね?
まあ漫画なわけだが。
- 588 名前:クズリ :04/07/01 09:56 ID:sjS764LA
- 今週号の内容に _| ̄|○
展開速すぎ……改めて仁丹が神だと思いました。出し惜しみなし?
そんな中、恐れていた時期遅れになってしまった私の連載ですが……もうちょっと、
この展開を想像出来るだけの時間的余裕があると思ってたのに。
と愚痴は置いておいて、それでも書き始めた以上、書き続けようと思うわけです。
ちょっち時間がないので、皆様へのレスは一まとめにさせていただきます。
感想と励ましのお言葉を下さった皆様、本当にありがとうございます。皆様のお言葉に
支えられて書き続けることが出来ます。感謝の言葉もございません。
疑問符、感嘆符は、色々と試してみた結果、とりあえず現状を維持させていただこうかと
思います。これは私の感覚の問題で、スペースを開けたり、二つワンセットにすることに
違和感を感じてしまうのです。御指導いただいた>>562さん、>>564さん、どうもありがとう
ございました。
さて、では投稿させていただきます。
『Without Me』 >>191->>197
『Crossing Border』 >>318->>330
『She wants to mobe』 >>345->>355
『Don't go away』 >>391->>399
『Where I End and You Begin』 >>498->>507 同改訂版→SS避難所スレ@分校
『Rollin'』 >>539->>549
に続いて。
『You Just Don't Know Me At All』
- 589 名前:You Just Don't Know Me At All :04/07/01 10:00 ID:sjS764LA
- 幼い頃からずっと、姉の背中を追っていた。
優しく手を引かれて向かった縁日で、天満が言った言葉は心の奥底に刻まれている。
『だって あたしはやくもの おねーちゃんだよ?』
ずっとずっと、大切な人だった。だからどこにいても、いつも姉を探していたように思う。
そしてどんな時でも、姉を心にかけていた。
八雲の姉は天真爛漫で、ところどころ抜けているところがある少女だ。思い込みや勘違いなど日
常茶飯事だし、そのせいで周囲に被害が及ぶのもままあることだった。
そんな姉を支えなければいけない。そう意識したわけではなかったけれど、何時の間にか八雲は、
姉の影になっていた。
天満に足りない部分は自分が補う。そんな図式に、しかし八雲は不満を覚えたことなどなかった。
何故なら彼女は、姉を愛していたから。
心が視える八雲にとって、愛情とは時に残酷なものだった。優しさの裏には欲望があった。対価
に彼らが心の奥底で求めるのは八雲の体であり、交際という関係であり、時にその双方だった。
無償で愛してくれたのは天満だけだった。そしてその愛は限りなく深く、優しかった。
時折、彼女は、『お姉ちゃんパワー』を発動させる。普段は八雲に甘えることの多い天満だが、自
分が姉であるということを忘れているわけではない。
妹を守るのは自分しかいない。自分は『お姉ちゃん』なんだから。そう信じている天満の、いざ
という時のパワーは、いつでもすさまじいものだった。
時にそのパワーの強さに呆れながらも、しかし八雲は嬉しく思っていた。
そして感じるのだ。自分が天満の妹に生まれてきて良かった、と。
だからいつでも、八雲にとっては姉が一番……だった。
だった。そう。それは、過去形になってしまった。
「播磨さんのこと……悪く言わないで」
向かい合う姉と妹。凛と八雲が放った言の葉は、確かに天満を打っていた。
「や……八雲……?」
パサッ。
天満の手からタオルが一枚、床に落ちた。
雷鳴がまた轟いた。降り続ける雨は、やむことを知らないようだ。
- 590 名前:You Just Don't Know Me At All :04/07/01 10:01 ID:sjS764LA
- School Rumble
♭−η You Just Don't Know Me At All
「え、と……八雲?」
「姉さんは……播磨さんのこと、何も知らない」
今まで見たことのない妹の顔に、天満は戸惑いながらおずおずと声をかける。だが八雲はその声
が聞こえなかったかのように鋭く、言葉を返した。
その口調は静かなものだった。先に彼女が見せた叫びに比べるまでもなく、普段の穏やかな話し
声と大差がないように聞こえる。
だがそこに秘められた激情に、気付かない者はいないだろう。剥き出しの想いは、刃の鋭さを持
っていた。
そしてその眼差し。
茫洋と掴みどころのなく、どこか浮世離れをしていて、まるでここではないどこかに意識を置い
ているような瞳、それが常だった。
だが今は、青白い炎がその目の中で燃え盛っている。見つめられた天満は、射すくめられたかの
ように、身じろぎ一つ出来ず固まってしまった。
「播磨さんは……姉さんが言うような人じゃない」
心の奥底から噴き上がる想いにかられるままに八雲は言葉を紡ぎ、投げつける。頭の芯が痺れて、
脳裏を真白の光が支配する。何も考えられない。あるのは怒りと哀しみと……体を突き動かす衝動
だけ。
再び獣が現れた。全てを喰らい尽くさんとする大きな顎と牙と、爛々と赤く目を光る目を持ち、
心の中で咆哮する。
「姉さん。どうして私が播磨さんと話すのがいけないの?」
問いかけるように語尾を上げるが、しかし八雲は姉の答えを待たなかった。
「二人で出かけるのが、そんなにいけないことなの?」
それはいつか二人が交わした会話の続きだった。
あの時も天満は、八雲が播磨と話そうとするのを止めさせようとした。そしてそれは確かに、八
雲を心配してのことだった。姉の目には、彼はケダモノに見えていたのだ。
もっともそれが取り越し苦労であったことを、今の八雲は知っている。
ゆるんだ顔でサングラス越しに彼が見ていたのは、自分ではなかった。
- 591 名前:You Just Don't Know Me At All :04/07/01 10:03 ID:sjS764LA
- あの時はまだ、彼のことを好きではなかった。
そもそも、ほとんど話したこともなかったのだ。彼がエアコンの修理のバイトで家に来た時にわ
ずかに会話を交わしただけで、接点などなかった。名前すら知らなかったのだから。
だから心配されてると知った八雲は、姉の言葉を受け入れようとした。もっともその前に天満の
『お姉ちゃんパワー』が発動したため、ちゃんと伝えることもなかったのだけれど。
しかし今は。
「播磨さんは……姉さんが思ってるような人じゃない」
天満は知らない。彼が動物に優しい人だということを。
天満は知らない。彼が漫画を描く人だということを。
天満は知らない。彼が本当はとても傷つきやすい人だということを。
「播磨さんのことなら、私の方がよく知ってる」
そう。
二人だけの秘密……彼が描く漫画……すらあるのだ。出会ってからほんの少しの交わりしかなく、
共にした時間も少ないにも関わらず、絶対に自分の方が姉より彼を知っているという自信がある。
姉より彼に近しい人間だという自信だってある。なのに。
なのに播磨の想い人が、自分ではなく姉だという事実が、八雲の心で暗く燃える炎に油を注いだ。
「姉さんだって、烏丸さんと二人で出かけてるじゃない……」
言葉は止まらない。色を失った天満の顔に、しかし、八雲は己を抑えることが出来ずにいた。
「私が播磨さんと出かけちゃダメなの?」
- 592 名前:You Just Don't Know Me At All :04/07/01 10:03 ID:sjS764LA
- 『今日ね〜烏丸君と偶然、街で出会っちゃってね、プロレス一緒に見に行ったんだよ〜』
『姉さん……』
今、何時だと思ってるの。すっかり暗くなってから帰ってきた彼女にそう言おうとして、八雲は
しかし言葉を飲み込んだ。あまりにも姉の顔が嬉しそうだったから。
最初に姉がその人のことを口にしたのがいつだったか、覚えていない。どうしてその人のことを
好きになったのかも知らない。
しかし天満は、彼のことをいつでも笑顔で話していた。ほんの些細なことや、日常の一コマです
ら、彼が関わるだけで特別なことになるらしかった。
だから八雲は、姉の恋を応援した。幸せになって欲しいと祈っていた。そしてずっと、姉が笑顔
でいて欲しいと願っていた。
八雲はまた、いつか自分も姉のように人を好きになろう。そう心に誓ってもいた。
そして彼女は今、恋をしている。
- 593 名前:You Just Don't Know Me At All :04/07/01 10:04 ID:sjS764LA
- 「で、でも……」
強張っていた喉を無理やり動かして、天満が反論しようとする。
「播磨君は、愛理ちゃんと……」
「恋人同士でないと、二人で出かけちゃダメなの?」
だが八雲は、姉の言葉を静かに遮る。気圧されるように天満は口を閉ざした。
「だいたい、播磨さんが沢近さんのことを好きだって、誰が言ってたの?」
「え!?ち、違うの!?」
うろたえる彼女の姿に、八雲は苛立ちを募らせる。それが八つ当たりのようなものだと知ってい
て、八雲は言葉を繋ぐ。
「違う……播磨さんの好きな人は……」
記憶が蘇り、閃光のように瞬く。
『ま、待ってくれっ!!塚本!!天満ちゃん!!』
彼はそう叫んだのだ。沢近の名前ではなく、姉の名前を呼んだのだ。その声はきっと、本当に伝
えたいと彼が望んだ女性には届いていなかったのだろう。
だが八雲にはそれだけで十分だった。
絶望を感じるには、その一言で十分だったのだ。
「好きな……人は……」
「……八雲?」
怪訝そうな顔の姉の言葉に、八雲はふっと我に返った。そして気付く。
目の前の世界が揺らいでいる。ほんの数歩しか離れていない姉の顔が、ぶれて見える。
自分が泣いているのだと理解するまでに、一瞬の間があった。
炎が消えた。
獣も姿を隠した。
嵐が過ぎ去った後の心に、自らが口にした言葉の数々が重くのしかかる。流されるままに、自分
は、何て事をしてしまったのだろう。しそうになってしまったのだろう。
凍えるように寒い、八雲はそう感じた。ただ溢れる涙だけが、まるで先の名残のように熱い。
そして、決壊してしまった涙腺を止める力は、彼女の中に残されていなかった。
- 594 名前:You Just Don't Know Me At All :04/07/01 10:03 ID:sjS764LA
- 「八雲……もしかして……?」
次々に溢れ来る涙を拭くこともせず、呆然と立ち尽くす妹の姿に、何かを感じたのか。天満はお
ずおずと、八雲に声をかける。
「播磨君のこと……好きなの……?」
「…………!!」
その言葉に、八雲は体を強張らせた。また跳ねる鼓動、だが冷え冷えとした感情しか心には生ま
れなかった。顔からさっと血の気が引く、その音が聞こえた気がした。
「違う……好きじゃない……」
それでも涙は止まらない。心と、体と、意思。混然とする八雲の意識は、千切れそうに乱れた。
好きなのだと言ってしまえれば、どれほどにいいだろう。愛しているのだと言えれば、心は軽く
なるだろう。
だがそんなことをしても、彼が自分の方を向いてくれるとは思えなかった。それどころか、嫌わ
れるかもしれない。
何故なら、八雲は彼と約束をしたのだ。
姉に、天満に、二人の間には何もないのだということを言うと、約束してしまったのだ。
だから、言わない。言えない。自分が彼を想っている、などと言える訳がなかった。
「違う……好きじゃない……好きじゃない」
八雲は両手で顔を覆う。
涙よ、止まれ。そう心が、意思が命令する。だが余計に溢れるばかり。
おかしくなってしまいそうだった。相反する力に引き裂かれてしまいそうだった。
こんなに泣いてしまっては、認めたも同然だ。だが八雲は繰り返し、かすれた声で言い続ける。
「好きじゃない……違う……好きじゃない……」
どうすればいいのか、わからなかった。
彼のことが好きだったから、嫌われたくなかった。だが嫌われないためには、嘘をつかねばなら
なかった。
嘘をつくだけならば、平気だったのかもしれない。だがその嘘は彼の想いを叶えるためのもので、
もしも彼の想いが通じれば、自分の恋は終わってしまう。
だから八雲の体は、涙を欲した。千切れそうな心に耐えられなくて。
「好きじゃない……私と播磨さんとは、何の関係もない……」
嗚咽を漏らしながら必死に、何度も何度も口にする言葉はいつか、天満にではなく自分に向けら
れたものに変わっていた。
そう。好きでないならば……こんなに辛くないのだから。
- 595 名前:You Just Don't Know Me At All :04/07/01 10:09 ID:sjS764LA
- 「八雲……」
近づいてきた天満が伸ばした手を、泣きじゃくりながらも八雲は身をよじってかわす。
「……八雲……」
妹が初めて見せた拒絶の態度に、天満はショックを受けたようだった。はっとする八雲だったが、
言葉を見つけることが出来なくて、いたたまれずに体を返す。
脱衣所に身を滑り込ませる直前に、彼女は振り向いて天満に言った。
「本当に何の関係もないから……姉さん……播磨さんに、何も言わないでね……何もしないでね」
そして返事を聞くこともなく、扉を閉めようとする。
あんなに泣いておいて何もないなんて信じられないよ八雲
その直前、伝わってきた姉の心の声は、とても悲しそうなものだった。
また一粒、涙が頬を濡らした。
機械的に髪と体を洗い、八雲は湯船に浸かる。凍えて鳥肌が起っていた体に心地よいはずだが、
彼女はただ天井を見上げるだけ。
真っ赤になった瞳には何も映っておらず、少女はさながら、壊れた人形のようだった。
一度だけ、磨りガラスの向こうに影が映った。おそらく天満が着替えを持ってきたのだろう。
だがその時も、彼女は声をかけることなく、湯煙の浮かぶ宙を見つめ続けていた。
どれほどの間、そうしていただろうか。八雲はのろのろと湯船を出る。
脱衣所で服を着る時、彼女は決して鏡を見ようとしなかった。今の自分がどんな顔をしているか、
知りたくなかった。もし絵に描いたならば、『みじめな女』としか名付けようがない自画像が出来る
だろうとわかっていたから。
部屋に戻った彼女は、一瞬の逡巡の後、部屋の扉に鍵をかけた。姉と妹、女二人の生活に必要を
感じなかったから、今まで一度もかけたことがなかったのだが、何故か今日だけは姉に入って来て
欲しくなかった。
つまりは、一人になりたいという彼女の意思の表れだった。
鍵を下ろすその音が、重く部屋の中に響いた。
――――そして夜はまだ続く――――
- 596 名前:クズリ :04/07/01 10:14 ID:sjS764LA
- 今回は色々と疲れました……でも一山、越えたかなぁ……いや、まだか。次も
まだ夜ですよ、と。
相変わらず上達しない文章、すでに八雲じゃないような気もする八雲ですが、
皆様、よろしくお願いいたします。
- 597 名前:Classical名無しさん :04/07/01 10:45 ID:w1OogcAE
- とてもGJ
読んでて素で胸が痛くなってきたyo
とてもスクランSSとは思えない怒涛の展開(良い意味でねw
八雲つらすぎ、クライマックスは是非にともハッピーエンドに
なりますよーに
- 598 名前:Classical名無しさん :04/07/01 11:38 ID:yQEyAffc
- >>596
GJ!
いやー願ってもない展開になってきましたね←
姉に反抗する八雲、良いです。
八雲が一方的に捲くし立ててるのが
感情が凄く伝わってきてナイスでした。
- 599 名前:Classical名無しさん :04/07/01 12:25 ID:8LQnzxik
- >>596
ううっせつなすぎる・・・
心が折れて体も折れてしまいそうだ・・
⊂⌒〜⊃*。Д。)-з
GJデース
- 600 名前:Classical名無しさん :04/07/01 13:24 ID:xkYvoitM
- GJ!GJ!GJーーー!!
ああ…最高…(涙
- 601 名前:名札縫い付け :04/07/01 13:44 ID:6gWpwnUI
- うわ、切ない。 こんなヤクモンには、幸せになって貰いたいと感じました。
- 602 名前:Classical名無しさん :04/07/01 14:31 ID:ZCGTAP1c
- >「だいたい、播磨さんが沢近さんのことを好きだって、誰が言ってたの?」
そう! これを言って欲しかったんだ!
- 603 名前:Classical名無しさん :04/07/01 14:41 ID:KVCCAwvo
- >>596
GJ!
せつねぇよ、せつねぇ。
俺も八雲に幸せになってほしいと思った。
- 604 名前:Classical名無しさん :04/07/01 15:31 ID:U4lA4wAM
- クズリさん乙です。相変わらずよいですね。これからもこの調子で頑張って下さい。
- 605 名前:Classical名無しさん :04/07/01 15:34 ID:SxUPFpZY
- 昼間っから泣かせるなや・・・。・゚・(ノД`)・゚・。
激しくGJ!
- 606 名前:Classical名無しさん :04/07/01 15:40 ID:0YLRv.H6
- >>602
>「だいたい、播磨さんが沢近さんのことを好きだって、誰が言ってたの?」
お嬢と美琴が言ってたね。
しかしこれは誤爆告白のフォローをしない播磨が問題では……?
- 607 名前:クズリさんのファン :04/07/01 17:37 ID:4IuKXFcg
- グッジョブです!
クズリさん新作ペースが激速くてファンとしてはすごいありがたい
八雲の人間的な成長がすごい見て取れてて
すごい面白いです
- 608 名前: :04/07/01 17:40 ID:c87hpEa.
- >>596
これからの展開が気になるー、八雲が幸せになりますように (-人-)
ところで、>>190で他の作品のSSも書いてるって書いてあるけど詳細キボン
- 609 名前:Classical名無しさん :04/07/01 22:31 ID:SHOtNNFU
- >>602
この後、天満がどう動くんでしょうかね?
八雲に言われたとおり播磨に何も言わないのか、姉として見過ごせないのか。
この天満って、原作以上に独善的な感じだから、
「八雲の為にも、やっぱり・・・」とか言いそうですね。
そしたら、本誌みたいに播磨失恋で、話が進むかな?
まあ、天満に関してはどうでもいいので。
とにかく、八雲が報われますように。
でも、一緒にいた沢近の絡みも少し楽しみかも。
というか、播磨×八雲で落ち着く為には、
あらゆる障害(という名の女達)を乗り越えなくてはいけないから、
八雲もまだまだ大変ですねぇ。
- 610 名前:Classical名無しさん :04/07/01 22:53 ID:.eJsTDHc
- >>609
キャラの好き嫌いは人それぞれだから別にいいけど
もう少し表現に気を配ってほしいんですが・・・・
どうでもいいと思ってるのならわざわざ言及しないでください
すみません、ひとりの天満好きとしての思い上がりです。
ただ天満派の身でも、毎回とても楽しくかつ切なく、心痛くして
読んでいます。
- 611 名前:Classical名無しさん :04/07/01 23:23 ID:Z1t788nA
- SSスレでまで訳の分からん言い合いをするな
- 612 名前:Classical名無しさん :04/07/01 23:50 ID:lFikt/XA
- クズリさんグッジョブ!
スクランではなかなか難しいシリアスな展開見事です。
おれ何度も最初から読み直しまくってますよ。
連載ペース速いですけど体壊さないように気をつけてください。
- 613 名前:空振り派 :04/07/02 00:34 ID:gthoWUqs
- クズリさんのおにぎりでいつもお腹一杯です。
補給早すぎw
もし、文化祭で演劇が実現したら・・・。
と気持ちが先走って書いてしまいました。
ちょっと長いですが、どうぞ。
- 614 名前:Classical名無しさん :04/07/02 00:34 ID:SHOtNNFU
- >>610
609です。
確かに配慮が足りませんでした。
申し訳ありません。
- 615 名前:sleeping beauty :04/07/02 00:35 ID:gthoWUqs
- いつものように賑やかな2−Cの教室。
文化祭の出し物について話し合っていた。
どうやら、『眠り姫』を演劇でやるらしい。
学級委員長兼監督の舞。
「オーロラ姫候補は周防さんと沢近さんね。」
「あたしは姫っていうガラじゃねぇよ」
「王子が花井君じゃね・・・。私は辞退させてもらうわ」
劇なんかやってられるか!
そう言って、出て行った播磨を少し恨めしく思った。
「お、おい、沢近」
「決まりね。オーロラ姫役は周防さん」
- 616 名前:sleeping beauty :04/07/02 00:36 ID:gthoWUqs
- ―放課後―
演劇の練習が始まった。
もともとスタイルが良いだけあって、お姫様の衣装がよく映える。
「じ、じろじろ、見てんじゃねぇ」
中世風の衣装なので少し空いた胸元が恥ずかしい。
「D! D!」
と飛び込んで行こうとした今鳥がカカト落としで瞬殺された。
しかし、その表情は満足げだ・・・。
「頼むから劇ではカカト落としは無しだぞ」
花井は過去に嫌な経験があるらしい。
舞の演技指導。
「あとは口調ね。もっとお姫様らしい話し方をしないと」
慣れていないせいか恥ずかしそうな周防。
「そ、そうか」
コホン。
「あ、あまりじろじろ見ないでくださいます?」
なぜか周囲から笑いが漏れる。
「ちょっと発音がおかしいわね。私が本番まで特訓してあげるわ」
と沢近はノリ気だ。
- 617 名前:sleeping beauty :04/07/02 00:37 ID:gthoWUqs
- そんなこんなで本番の日が訪れた。
次は2−Dによる演劇『眠り姫』です。
脚本 :高野晶
妖精 :塚本天満、一条かれん、城戸円
魔女 :沢近愛理
貴公子:麻生広義、今鳥恭介、梅津茂雄、菅柳平
フィリップ王子:花井春樹
オーロラ姫 :周防美琴
「これは八雲君じゃないか。僕の雄姿を見ていてくれたまえ。ハッハッハ!」
次の出し物が1−Dのため、舞台袖で待機する八雲。
しかし、めずらしく今日は花井の心が見えなかった。
- 618 名前:sleeping beauty :04/07/02 00:37 ID:gthoWUqs
- ―第一幕―
とある王国の物語です。
新しく生まれたお姫様の命名式がおこなわれていました。
その名前はオーロラ姫。妖精たちも招かれ口々にその生まれたばかりの赤ん坊
を祝福しました。
赤ん坊を囲んで祝いの踊りを踊る妖精達。
妖精塚本:「この子が電気な子になるように」
――電気は大切にね!
って、いきなりセリフ間違えてるぞ!
晶からのダメだしサインに気付いて、言い直す。
妖精塚本:「この子が元気な子になるように」
妖精一条:「この子が美しい子になるように」
妖精城戸:「この子がやさしい子になるように」
しかし、それを妬んだ魔女がオーロラ姫に呪いをかけます。
魔女沢近:「オーホッホッホ! 世界で一番美しいのはこのワ・タ・シ」
――白雪姫か・・・?
魔女沢近:「この子はリンゴが当たって永久の眠りにつくでしょう」
と呪いをかけて去っていきました。
心配した王様はリンゴを全て無くしてしまうよう国中におふれを出しました。
「クッ。かわいいぜ。天満ちゃん! 本当に妖精のようだ」
舞台傍から、天満を見つめる播磨。
――練習には全く参加していない。
- 619 名前:sleeping beauty :04/07/02 00:38 ID:gthoWUqs
- ―第二幕―
さて、オーロラ姫はすくすくと育ち。
国中の誰よりも美しく、元気でやさしいお姫様に育ちました。
その噂を聞きつけて遠い国から4人の貴公子が求婚にやってきました。
しかし、お姫様はあまりノリ気ではありません。
貴公子麻生:「貴方の美しさには適いませんが、この薔薇の花束をどうぞ」
姫周防:「時と供に枯れてしまうものなど、何になりましょう」
貴公子梅津:「貴方のために上等なシルクのドレスを用意しました」
姫周防:「そのようなもの、すでに何着も持っております」
貴公子菅:「貴方のために宮殿を建てましょう。召使いも百人付けます」
姫周防:「私はこの住みなれた城から離れたくありませぬ」
貴公子今鳥:「貴方のためにたくさんの食べ物を持ってきました」
と言って、リンゴを差し出す。
姫周防:「まぁ、それは見たこと無い食べ物ですわ。おいしそうですわね」
するとおもむろにリンゴを胸に入れ。ゆさゆさとゆらしながら、
「D♪ D♪」
とスキップする今鳥。
――何してんだ。コイツは!
もう少しで姫周防のカカト落としが発動しそうになったとき、今鳥の胸から
勢い良くリンゴが飛び出し・・・。周防の顔面に命中した。
倒れる周防。
「台本とちょっと違うけど・・・。早く幕を!」
舞の指示で幕が降りる。
観客席は大爆笑の渦となった。
- 620 名前:sleeping beauty :04/07/02 00:39 ID:gthoWUqs
- ―第三幕―
そして、棺の中で眠りにつくオーロラ姫。
眠りを覚ます手段も見つからないまま百年が過ぎ去り、すでにオーロラ姫を
知る者も無く。城はいばらに覆われていった。
しかし、姫の姿だけは生前、眠りにつく前のままだった。
三人の妖精たちはそれでもあきらめずに姫を眠りから覚ますことができる王子
を探していた。
妖精天満:「はー。いないねー。ダウジングも反応しないよ」
妖精城戸:「なんでも笛の音を奏でるステキな人だとか」
――天満の間違いをさりげなくスルー。
そのとき、どこからともなく流れるゴッドファーザーのテーマ。
妖精一条:「縦笛!?」
王子花井:「ハッハッハ! 僕が来たからには心配はいらない!」
妖精一同:「この人が王子? ちょっと心配になってきた・・・」
妖精の心配をよそに城をはばむ茨をばっさばっさと切り抜けていく。
が、ここで魔女沢近があらわれた。
魔女沢近:「ここを通りたければ、この人食いライオンを倒して行きなさい」
――って、それ本物じゃないか?
しかし、全くひるむ様子を見せない花井。
王子花井:「良かろう! 虎だ! 僕は虎になるのだ!!」
王子花井:「吼えろ!! 奥義百花虎撃!!」
ゴッ!
魔女沢近:「ふ、ふん。やるじゃないの」
と捨て台詞を残し、魔女は去っていった。
- 621 名前:sleeping beauty :04/07/02 00:40 ID:gthoWUqs
- ―舞台裏―
次はいよいよ、王子がオーロラ姫に目覚めのキスをするシーンだ。
フリだけでいいからね。と言われてはいるが、なぜか花井の胸も高鳴る。
しかし、先ほどの転倒からずっと周防が起きてこない・・・。
「周防! ひどい熱じゃないか!」
「す、すまねぇ。どうしても最後までやりたかったんだが・・・」
「バカ! すぐに病院に行くぞ!」
衣装もそのままに周防を抱きかかえ、花井は走り去っていった。
客席からはすでにざわめきが起こり始めている。
「ど、どうしよう。誰でもいいから代役を立てないと・・・」
突然の事態に混乱する舞。
「塚本さん! オーロラ姫お願い!」
「大丈夫。このシーンはセリフも無いし、暗いからなんとかなるわ」
有無を言わさず棺に入れられ、オーロラ姫が舞台へ押し出された。
「王子役は・・・」
「塚本さんが相手なら僕が・・・」
と奈良が手をあげようとしたが、そこへ登場した播磨。
「配役交替だ! 俺がやらねば誰がやる!」
ベレー帽の代わりに王冠をかぶり、王子のコスも完璧だ!
- 622 名前:sleeping beauty :04/07/02 00:41 ID:gthoWUqs
- ―第四幕―
ついに茨や魔女の障害を打ち破り、オーロラ姫の眠る部屋へとたどり着いた
フィリップ王子。
妖精達からオーロラ姫の目を覚ますことができるのは心から愛する人のキス
だけだと打ち明けられます。
棺に近づき、そっと顔を覗き込む播磨。
周りでくるくると回りながら、応援のダンスを踊る妖精たち。
「・・・ク、暗くて良く見えねぇ」
って、良く考えたらサングラスしてるじゃねぇか。
サングラスを外す播磨。
しかし、それでも眼が慣れてくるまでには時間がかかる。
ゆっくりと顔を近づける。
ん?かすかに寝息が・・・。
――本当に寝てんじゃねーか!
と思わず突っ込みそうになったその時。
ガッ。首の後ろに腕を回された。
「好き・・・・・・」
こ、このシチュエーションは!
あのときと同じ・・・か!?
しかし、今はお互いよく知っている仲だしな・・・。
いや、待て。やっぱり良くねぇ。と
一人悩む播磨。
さぁ、どーする!?
- 623 名前:sleeping beauty :04/07/02 00:40 ID:gthoWUqs
- ―フィナーレ―
が、そのとき妖精の一人がつまづき、播磨に突進してきた。
身体のぶつかった勢いで思わずくちづけをしてしまう二人。
・・・し、してしまった・・・。
感動でよろめきそうになった瞬間・・・。
「ゴメン。播磨くん」
え!? その声は・・・。
じゃあ、このお姫様は・・・?
スポットライトがあたり、祝福の鐘が鳴り響く。
サングラスを外した播磨の素顔に一瞬どよめきが起こったが、播磨の頭の中は
――真っ白だった。
天満を始め、妖精たちの祝いの踊りが繰り広げられる中、ゆっくりと最後の幕
が降りてゆく。
もう、何が何だか・・・・・・○| ̄|_
- 624 名前:空振り派 :04/07/02 00:41 ID:gthoWUqs
- 2巻の書き下ろしオマケマンガ2と3巻の#46
を見て、この姉妹って寝顔は似てるよなと思ったのが、そもそもの発端です。
強引な感じはいななめませんが、オチも大方の予想どおりです。
最後まで縦笛を期待した方、ごめんなさい。
あえて結末は書きませんでしたので、おにぎりより旗という方はあれは沢近
だったと脳内補完してください。
- 625 名前:Classical名無しさん :04/07/02 00:42 ID:xhLII6OE
- 支援?
- 626 名前:Classical名無しさん :04/07/02 00:44 ID:/He8rH72
- クズリさん、あんた凄いよ。
続きが気になって寝付けねぇよ。
次のピークには、ちょこっとだけでも播磨の心が視えるといいな。
『よく見るとかわいいな』とか視えて喜び
『さすが、天満ちゃんの妹だ』とか視えて黒くなる。
そんな八雲をキボンヌ。
まあ、上の妄言は気にせず頑張ってください。
- 627 名前:チェンジング・ナ○【1】 :04/07/02 07:45 ID:kczMw2dY
- 「名前には魂が宿る」
言い始めたのは誰だったのでしょうか
これは、そんな疑問の答えを探す、ある放課後のお話です
梅津「なあ、奈良」
奈良「どうしたの?梅津君」
梅津「俺さぁ、自分の名前が嫌いなんだ」
奈良「どうしたの?急に」
梅津「いや、この前、円のヤツにさ…」
円「茂雄って、”茂”雄だから、あそこがボーボーなのね。 ボボボーボ・ボー○ボもまっ青ってカンジ?」
梅津「…なんて言われちゃってさ」
奈良「ふ、ふ〜ん(それって自慢?自慢なの?)」
梅津「何とかしてよ、奈良」
奈良「…どうして僕に聞くの?」
梅津「だって、いつも『○本ってやわらかい…』とか言ってるしさ、女とかに詳しいと思っ…」
奈良「ワー!ワー!ワー!」
梅津「…なんだよ?急に」
奈良「そういうことは聞えないように、頼むよ…」
梅津「ごめんな、奈良」
………こいつ…絶対…見下してやがる………
奈良「う〜ん、そうだね、そんなにボーボ…じゃなくて”茂”が嫌なら”重”なんてどう?」
梅津「”重”?あっ、なるほど。”茂雄”じゃなくて”重雄”か。」
奈良「うん。読みも”しげお(shi・ge・o)”のままだしね。」
梅津「”梅津重雄”か…いいね、悪くない」
奈良「でしょ?」
梅津「ありがとう、奈良。これからは”梅津重雄”でいくよ。それじゃっ」
奈良「あっ!待って、梅津君。」
- 628 名前:チェンジング・ナ○【2】 :04/07/02 07:47 ID:kczMw2dY
- 梅津「?まだ何かあるのか?」
奈良「うん。ちょうどいい機会だし、僕の話も聞いていってよ。」
梅津「?…まあ、いいけど」
奈良「実は、僕も自分の名前が嫌いなんだ」
梅津「なっ、お前もか…」
奈良「ほら、”奈良”だよ、”ナラ”。語路が悪すぎるよ。」
梅津「あ〜、”オナラ”とか”ナラ漬け”とか、確かにな…」
奈良「あげくの果てに、パンチ連打されながら”ナラナラナラナラナラ…(繰返し)”とかね」
梅津「お前、いじめられやすそうだからな〜♪」
奈良「う、うん、そうだね…(何?その”♪”は?何なの?ねえ?)」
梅津「で、どうしたいわけ?」
奈良「それはね…」
…商談中…
- 629 名前:チェンジング・ナ○【3】 :04/07/02 07:50 ID:kczMw2dY
- 梅津「…なるほど。”奈良”を捨てて、俺の”梅津”が欲しい、と?」
奈良「うん」
梅津「でも”ナラ”だしなぁ。語路がなぁ。”マサル”とかカッコイイ名前ならともかくなぁ〜。」
奈良「…でも”梅津”も”ウメ”で語路悪いよ」
梅津「な、なんだとっ」
奈良「”ウメぼし”〜♪”ウメ仁丹”〜♪」
梅津「ぐあっ」
奈良「あげくの果てには”ウメで埋め”♪」
梅津「ぐああああああああっ!」
……はぁはぁ……ハァハァ………………「ハァハァ」?…………塚○(;´Д`)ハァハァ……………クスッ…
梅津「はぁはぁ…、わ、わかった…わったよ、交換すればいいんだろっ」
奈良「素直な梅津君は好きだよ。いや、もう”奈良”君だったかな?」
梅津「あ〜あ、もう『円を”俺の”で”ウメ”ちゃうぞ〜』」とかできなくなるんだな…」
奈良「で、でも、”ナラナラナラナラナラ…(繰返し)”で責めれば燃えられるんじゃないかと…」
梅津「う〜ん、確かに。勢いはありそうだしな。最近マンネリだったし。」
奈良「…それじゃ、交換成立ということでいいかな?(コイツ、イツカ、ヌッコロス)」
梅津「OK。それじゃなっ!」
こうして二人は分かれた
- 630 名前:チェンジング・ナ○【4】 :04/07/02 07:52 ID:kczMw2dY
- そして、次の日
重雄「つくしちゃうぞ〜」
円「奈良重雄キモイ」
重雄「ガーン…」
〜 終 〜
- 631 名前:チェンジング・ナ○【あとがき】 :04/07/02 08:01 ID:kczMw2dY
- 図で示すと、こんな感じです
【1.元の名前】
奈良 健太郎
梅津 茂雄
【2.茂→重】
奈良 健太郎
梅津 重雄
【3.奈良←→梅津】
梅津 健太郎
奈良 重雄
題名は
ナウ(Now)・ナメ(Name)・ナ○(○ra)をかけてみました。
スレ汚し、すみません。
少しの間ネットできそうになりそうなので急いで投下してしまいましたが、
こんなSSは無視しちゃって、前の人の作品の感想を続ちゃってください。
それでは。
- 632 名前:Classical名無しさん :04/07/02 08:39 ID:VaU.I.s6
- ポカーン
- 633 名前:Classical名無しさん :04/07/02 09:04 ID:rCEqVewo
- ワロタ
- 634 名前:Classical名無しさん :04/07/02 10:04 ID:lYIYpbSM
- GJ!クズリさん!
アイディアもさることながら、卓越した表現にも溜飲が下がる思いです。
所で、旗のSSなんて需要無いですかね?
本誌の神展開と比較されると苦しいので、出し惜しみしているのですが。
- 635 名前:Classical名無しさん :04/07/02 10:38 ID:JZmhiykM
- ↑
そんなことはないぞ。旗支援。
- 636 名前:Classical名無しさん :04/07/02 11:25 ID:EWLW9O.w
- >>634
早く上げろや(゚Д゚)ゴルァ!!
- 637 名前:Classical名無しさん :04/07/02 12:04 ID:6gWpwnUI
- さて、いいかな? 投下します
- 638 名前:名札縫い付け八雲サイド :04/07/02 12:05 ID:6gWpwnUI
- 体育祭の翌日。 旧校舎。
播磨さんが、茶道部にいた。
呆然としていて、虫が止まったのにも気付かない。
思い切って、、声を掛けた。
「播磨さん… どうして茶道部に……?」
播磨さんは、暫く黙ったままだったけど、話し始めた。
「妹さん……」
「はい?」
私は跪いて、播磨さんを見上げる。
「ネーム… ネームを… 教室の… 俺の机… ネームを… 直さなくてはならねえ… 机の… 袋に…」
そう言って、うなだれてしまった。
「ハ、ハイ! 取ってきます!」
私はすぐに2−Cに向かった。
教室に入り、播磨さんの机を探す。
「えっと、姉さんの隣の席… ここ?」
机の上には、ウサギの顔がプリントされた袋が置いてあった。
「袋って、これ…かな? 確認してから…」
袋の中身は、ジャージだった。
播磨さんの名札が縫い付けてあった。
「ネームを直すって… 名札? 播磨さん、お裁縫が苦手なのかな…」
多分、これでいいのだろう。 早速、茶道部に戻ることにした。
- 639 名前:名札縫い付け八雲サイド :04/07/02 12:08 ID:6gWpwnUI
- ジャージの入った袋を手に、部室へ戻る。
「播磨さん」
そこには、播磨さんはいなかった。
縫い付けられた、名札。
どこかに行っているのだろう、そう思って待つ事にした。
コチ、コチ、コチ、コチ…
部室の時計の音が、やけに大きく聞こえる。
播磨さんは、まだ戻ってこない。
なぜだか、ジャージに縫い付けられた、名札が気になって仕方がなかった。
迷ったけど、決めた。
「直しておこう… 怒られるかもしれないけど…」
裁縫箱を取り出し、直し始めた。
縫い付けられている糸を外し、新たに縫い付ける。
播磨さんに何かしてあげるのは、おにぎりを作って以来、これで二度目だ。
あの時は、美味しかったって言ってもらえた。
どんな顔をするだろう?
喜んで貰えたらいいな…
そんな事を思いながら、縫っていった。
- 640 名前:名札縫い付け八雲サイド :04/07/02 12:08 ID:6gWpwnUI
- もう少しで、直しが終わる時だった。
「晶いるー?」
そう言いながら、沢近先輩が茶道部の扉を開けた。
「え……」
私を見たまま、硬直する先輩。
少ししてから、先輩は聞いてきた。
「どうして? どうして八雲がアイツのジャージを持っているの?」
私は俯いて答えた。
「あの、播磨さんがネームを直すから取ってきてくれって… 戻って来たら播磨さんいなくて… 怒られると思ったけど、直していたんです…」
先輩は、震える声で言った。
「そ、そう。 私がやるより、八雲が縫った方がアイツも喜ぶわよね。 ジャマしちゃったみたいね、それじゃ」
「え? これ、沢近先輩が? あっ先輩!」
先輩は背を向け、走り出した。
どうしてだろう?
追いかけられなかった。
袋を机に置いたのは、先輩だったから?
播磨さんのジャージに名札を縫いつけたから?
ううん、違う。
体育祭の後で、一緒に踊っていたから。
それを見た人たちが、2人のことを噂していたから…
- 641 名前:名札縫い付け八雲サイド :04/07/02 12:10 ID:6gWpwnUI
-
先輩は、播磨さんのこと好きなんだ…
そして、私は先輩に嫉妬していた?
でも、それは、先輩をライバルと認めると言う事。
認めたくない。
でも、この気持ちは止められない。
そんなことを考えていると、播磨さんが戻ってきた。
- 642 名前:名札縫い付け八雲サイド :04/07/02 12:11 ID:6gWpwnUI
- 「ワリイな、妹さん。 ネーム、カバンの中にあったぜ」
「え? ネームって、原稿の事なんですか?」
「ああ。 正確には、原稿の下書きのことだがな」
「え…」
それを聞いて、私は絶句した。
どうしよう。 血の気が引いた。
播磨さんが、心配して聞いてきた。
「どうした? 妹さん」
私はジャージを差し出した。
「あの… これ… ネームを名札だと思って直したんです。 そしたら、沢近先輩がやってきて…」
さっきの出来事を包み隠さず話した。
播磨さんは、黙って聞いてくれた。
「そうか、お嬢がな… 妹さんは悪くねえ。 説明しなかった俺の責任だ。 すまねえ」
播磨さんは、そう言って頭を下げた。
「そこらへんも含めて、アイツに説明しなきゃな」
椅子から立ち上がり、部室を出ようとする播磨さん。
反射的に、私は播磨さんの手を掴んでいた。
- 643 名前:名札縫い付け八雲サイド :04/07/02 12:18 ID:6gWpwnUI
- 「? どうした?」
振り向く播磨さんに、私は首を振った。
「行かないで……下さい」
涙が浮かんできた。 でも、構わなかった。
追いかけて欲しくなかった。 傍にいて欲しかった。
「お願いです…播磨さん… そばに…いて…ください…」
「妹さん…」
そんな私を見て、播磨さんは肩を抱いてくれた。
嬉しかった。
播磨さんの手。 播磨さんの温もり。
(このまま、ずっとこうしていたい)
そう思いながら、播磨さんに寄り添っていた…
おわり
- 644 名前:名札縫い付け八雲サイド :04/07/02 12:20 ID:6gWpwnUI
- 八雲側からみたら、こうなるかなと予想です。
- 645 名前:Classical名無しさん :04/07/02 16:18 ID:vU9R.UnA
- まあそうなるだろうな
- 646 名前:Classical名無しさん :04/07/02 16:33 ID:4IuKXFcg
- 予想をここに書くのはよそう
- 647 名前:誰か次スレよろ :04/07/02 16:43 ID:1oMOmETo
- 週刊少年マガジンとマガジンSPECIALで連載中の「スクールランブル」は
毎週9ページの週刊少年漫画です。
物足りない、もっとキャラのサイドストーリー・ショートストーリーが見たい人もいる事でしょう。
また、こんな隠されたストーリーがあっても良いのでは?
有り得そうな展開を考察して、こんな話思いついたんだけど…といった方もいるはずです。
このスレッドは、そんな“スクランSSを書きたい”と、思っている人のためのスレッドです。
【要はスクールランブルSSスレッドです】
SS書き限定の心構えとして「叩かれても泣かない」位の気概で。
的確な感想・アドバイスレスをしてくれた人の意見を取り入れ、更なる作品を目指しましょう。
≪執拗な荒らし行為厳禁です≫≪荒らしはスルーしてください。削除依頼を通しやすくするためです≫
≪他の漫画のキャラを出すSSは認められていません≫
SS保管庫
http://www13.ocn.ne.jp/~reason/
【過去スレ】
スクールランブルIF09【脳内補完】
http://sports2.2ch.net/test/read.cgi/entrance2/1087097681/
スクールランブルIf08【脳内補完】
http://sports2.2ch.net/test/read.cgi/entrance2/1084117367/
スクールランブルIf07【脳内補完】
http://sports2.2ch.net/test/read.cgi/entrance2/1082299496/
スクールランブルIf06【脳内補完】
http://sports2.2ch.net/test/read.cgi/entrance2/1078844925/
スクールランブルIf05【脳内補完】
http://sports2.2ch.net/test/read.cgi/entrance2/1076661969/
スクールランブルIf04【脳内補完】(スレスト)
http://comic3.2ch.net/test/read.cgi/wcomic/1076127601/
- 648 名前:Classical名無しさん :04/07/02 16:49 ID:TShaintE
- >>646
『よそう』 をここに書くのは 『よそう』
(゚∀゚)b
- 649 名前:Classical名無しさん :04/07/02 17:40 ID:sa5WumdQ
- 予想でも別にかまわないと思うけど……
本編を踏襲した上で、想像して書いてるわけだから、そう言う意味では他のSSと同じなのでは?
- 650 名前:Classical名無しさん :04/07/02 17:57 ID:kczMw2dY
- 同意
>644
の人も、「これは予想です」と宣言しなければ、普通の一SSとして終わってたと思う。
- 651 名前:Classical名無しさん :04/07/02 17:57 ID:iSeTEpto
- >>648
( ゚д゚)ザワ(゚д゚)ザワ(゚д゚ )
- 652 名前:空振り派 ◆SwiNgZaM :04/07/02 19:17 ID:gthoWUqs
- トリップ付けて見た。
あれこれ言えるほどの者でも無いのですが・・・。
>>631 一要素として他の漫画のネタが入るのはいいのですが、それがメイン
になると元ネタを知らない人にはつらいです。
普段、ネタにならないキャラを使ったところはすごいですが。
>>644
本編に少し予想が付け加えられたくらいなので、もう少しふくらませてくれれば、
良かったかなと思います。
しかも、旗では無くおにぎりという罠。
というわけで私も、次週が明らかになる前に今週号からの派生SS行きます。
- 653 名前:Yakumo The Rival ◆SwiNgZaM :04/07/02 19:18 ID:gthoWUqs
- 播磨のネームを・・・。という言葉を勘違いし、ジャージのネームを
滑らかな手さばきで直していく八雲。
そこに当のネームを縫い付けた沢近本人がやってきた。
「八雲、あなた何をしているの?」
「・・・あ、播磨さんが『ネームを直さないと・・・。』と言ってたので」
「あいつに命令されたの?」
と今にも怒り出しそうな沢近の様子におびえる八雲。
「いえ、すみません・・・。私が勝手に・・・」
「あのヒゲにそこまでしてやる必要は無いわ! 貸して!」
と八雲からジャージを奪い取る沢近だったが・・・。
う、上手い・・・。
「・・・あの、私が好きでやったことなので、播磨さんを怒らないであげてください・・・」
オロオロする八雲に苛だちを隠せない沢近。
「あ、あなた。播磨のこと好きなの・・・?」
「はい」(恋人としては考えてない)
ショックを受ける沢近。
「あ、あなたには負けないんだからぁ!」
と目に涙を浮かべ走り去っていった。
?何が起こったかわからず、教室に一人取り残された八雲だった。
――八雲、恋愛オンチは変わらず。
- 654 名前:Yakumo The Rival ◆SwiNgZaM :04/07/02 19:21 ID:gthoWUqs
- 「まさか、あのヒゲを好きなんていうモノ好きがいるとは思わなかったわ」
「こうなったら、あのヒゲに私こそが最高の女だって認めさせてやるんだから!」
――沢近、負けず嫌い。
放課後、沢近に話しかける周防。
「おぃ、沢近。最近つきあいが悪いけど何かあったのか?」
「特訓中よ。ほっといて!」
ギン! と目を光らせる沢近。その目には鬼気迫るものがあった。
そして冬になった・・・。
「完璧だわ! これでもうあいつに文句は言わせない」
みんなの人目につかないよう、播磨を屋上に呼び出す。
「俺はこれから用事があるんだけどな。用件ならさっさと済ませてくれ」
「練習用に作ったものだけど、出来が悪いからあんたにあげるわ」
可愛いウサギの模様がついた袋を差し出す。
播磨が袋を開けてみると出てきたのは真っ赤なマフラーだった。
「なんだこりゃ? まぁ、とりあえずお礼を言っとくぜ。サンキューな」
恥ずかしさで播磨の顔を見れずに立ち去ろうとしたその時・・・。
「あ、妹さん。すまねぇが用事はまた今度にしよう」
八雲が何故、ここに・・・?
「・・・そうですね。あ、播磨さん。この間、くしゃみして寒そうにしてたので」
「差し出がましいようですが、これ・・・。着てください。」
と言って、手渡された黄色いセーター。しかも手編みのようだ。
ま、負けた・・・orz。
――沢近、放浪編に続く。
- 655 名前:空振り派 ◆SwiNgZaM :04/07/02 19:22 ID:gthoWUqs
- ごめんなさい、続きません。
これで少しは旗補給できたかな?
スレ立て初めてですが、ちょっとチャレンジしてみます。
- 656 名前:空振り派 ◆SwiNgZaM :04/07/02 19:38 ID:gthoWUqs
- 次スレ立てますた。
http://sports2.2ch.net/test/read.cgi/entrance2/1088764346/
うまくできたかな?
- 657 名前:Classical名無しさん :04/07/02 19:53 ID:woHGmh4U
- >>655
まず地の文が少なすぎる。
とりあえずここを見て猛練習するのが吉だと思います。
ttp://www.asahi-net.or.jp/~mi9t-mttn/cstory/index.html
- 658 名前:Classical名無しさん :04/07/02 19:55 ID:4IuKXFcg
- >>649
>>650
確かに予想というよりかはSSに近いですもんね。
すいません、脊髄反射してたみたいです。
>>637氏も不快にさせてしまったらすいませんです。
- 659 名前:Classical名無しさん :04/07/02 21:28 ID:z92PwtFc
- スレ立て乙
- 660 名前:Classical名無しさん :04/07/03 02:38 ID:2CBo.p6c
- ここではSSの続きを予想したらどうか。
天満「私が播磨君に一言言っといてあげる!」
八雲「姉さん、播磨さんは何も悪くない!」
天満「いや、ヤツはとんでもないものを盗んでいきました。」
- 661 名前:Classical名無しさん :04/07/03 03:06 ID:gFdEljq2
- 何故急にカリオストロ
- 662 名前:埋め :04/07/03 06:43 ID:IvSqTY0s
- >12
なんて美しい文章。その優しい物語に読みながら零れる笑みを隠せませんでした。
サラも魅力的だし麻生もすごくいい奴だし、どちらにも惚れてしまいそう。
>26
相変わらず何にも気付いちゃいない播磨に本編っぽい雰囲気が出ていていい感じ。
絃子先生は完全に聞き役に回すよりも途中で皮肉を混ぜていたほうが効いたかも。
>32
常に先手を読む絃子先生と泰然自若とした態度のお姉さんの対比がなんとも素敵。
対立していると考えるならお姉さんがイニシアチブを取る場面もあってほしかった。
>48
おちゃらけているからといって何でもご都合主義で粉砕してしまうのはいかがなものか。
バーサーカーモード発動中の天満の追撃をことごとく回避するNT伊織萌え。
>72
沢近はなかなか素直になれない所こそが萌えどころ。とろけてしまいそうです。
今鳥は苦戦した一因だった気もするので、水曜が来てしまったのが最大の問題?
>92
細めの長身で足も速く、熱意を持って取り組める趣味も持っている冬木は実はいい男。
舞ちゃんとの掛け合い漫才、最高!! こんなに笑ったのは久しぶりです。
>106
幼馴染みだからこそ気楽に話せること、気楽には話せなくなること、色々あります。
花井の思いやりがこちらにも伝わってきて、ちょっと幸せになりました。
>117
目撃者としての「誰か」に花井を選ぶのは美琴にとってどうでもいい男な証拠のような。
それはそれで正しい気もするので、ここはいい歌いっぷりの天満に全力で萌えよう。
>136
播磨があきらめない人だという確信を持っている八雲がかわいー。懐かしいなぁ地球儀。
でも人の性として決意が揺らぐ時もあると気付くヤクモンも見てみたく。
>140
バイト仲間とクラスメイトの妹を同列で扱う方がおかしいわけで即ち彼女の言いがかり。
シスターなのに妙に「汝の欲するところを為せ」な言動の増えてきた黒サラ萌え。
- 663 名前:埋め :04/07/03 06:43 ID:IvSqTY0s
- >167
不良でハゲなくらいであのクラスメイト達が優勝の功労者を避けるとは思えないので、
「播磨自身が勝手に作っていた心の壁」についても触れてみてほしかった。
>172
八雲かわいいよ八雲。心理描写満載で実にボリューム感がありました。GJ。
明確には意識していないけれど積極的にはなっているこういう八雲が一番好きです。
>185
面倒見がいいというか、すべてにおいて優しいのが美琴。肘鉄もきっと愛情表現(違
サイズに対する言及を一切省くと今鳥の客観的評価はやっぱり相当いい奴ですよね。
>191
いつのまにか神社へきていたというくだりに痺れ、伊織への独白で萌えたぎり。
だからこそ恋愛音痴のはずなのに播磨を意識してしまうまでの部分が少なめなのが残念。
>208
あれだけ簡潔な描写で晶の胸のうちを表現できるその技術に惚れ―の八雲に惚れ―の。
晶の口調は本編でもころころと変わる厄介な代物なので、かしら連呼は苦肉の策か。
>216
八雲が不可解なまでに積極的なのに理由付けがないのはどうも落ち着かなかったり。
そしてなにより「〜でもいいんじゃないか」というコメントは流石にどうかと思います。
>223
コーヒー牛乳を噴きつけられて茶色く濡れた夏服が肌に張り付く美琴に萌…… 違う?
相変わらず二言しかしゃべってないけど、そんな事言う隣子は反則だと思います。
>232
会者定離とはいうものの、親友と会えなくなるのはどうやっても悲しくなるもの。
あなたに逢えて良かったと喜びを伝え合えるその優しい関係、大満足です。
>318
普段との細かな違いを書くことによって出る臨場感に引き込まれてしまいました。
本人も八雲が別人なことは気付いているようなのでここは包容力のある白サラ萌え。
>341
ネタ被りは後出しが圧倒的に不利だと知ったうえで書いてくれるその姿勢が好き。
心が見えるように努力してきたとまで書くと嘘っぽくなるのでもう少し抑え目が吉かと。
- 664 名前:埋め :04/07/03 06:44 ID:IvSqTY0s
- >345
むずかゆくなるようなとんでもない破壊力のラブコメをありがとう。胸が苦しいです。
八雲から主張する進歩を描くよりは意識していない播磨から誘う方がそれっぽかったかも。
>364
幽霊に対してさえ強気に接する沢近の啖呵が素晴らしい。これでこそ沢近。
地の文に雑然とした部分もありましたが、書き慣れれば自然に良くなるものですしね。
>375
鍛錬は怠らず、仁義は守る。巨大化までできる謎多き怪人のくせに漢すぎるぜ天王寺(w
名無しの男子の視点という誰も試さなかったSSでこれだけのものが読めて嬉しいです。
>391
八雲ほどの美人が不安がるという状況をきれいに短くまとめられるその上手さ。ああもう。
でも、「形ある贈り物」はしばらく前に万石のサインという天満も羨む最高のプレ(ry
>419
閃きで読者の愛するキャラの過去を全否定されても戸惑う事しかできないもどかしさ。
アイデアの出し方に何らかの問題がある気がするので最初はベタな話からにしたほうが。
>437
高校生ならドキマギして当然の環境にいるのに精一杯禁欲主義者している播磨萌え。
最強の不良なのはこれだけの衝動をまとめて拳に昇華してきたからなのかもなんて。
>457
年上のお姉さんにことごとく弱い修治と傍でガクブルする播磨。ワクワクするシチュだ。
播磨との確執を知らずに沢近を見るとやっぱりそういう評価になりますよね。
>468
呼んでもいない烏丸を加えた上で判定者が奇数。晶の花井イヂメも相当なレベルですね。
最後が唐突すぎるので八雲を落ち込む花井か満足している播磨と会話させておいたほうが。
>485
いつもおどおどしているあの娘まで一人称で主役に押し上げますか。GJ!
晶はクールで成績優秀でかっこいいと女の子に惚れられる要素が揃ってますもんね。
- 665 名前:埋め :04/07/03 06:45 ID:IvSqTY0s
- >498
長男としての頼りになる播磨がとにかくもうかっこよくて。兄弟っていいなぁ。
修羅場にまで持っていってSSとして決着させることができるのか、期待というより心配。
>523
屋上に行ったのは天満が先じゃないと困るんじゃないかというツッコミはさておき。
沢近の思考が本編同様あまりに抽象的なのでそこはSSらしく多少脚色しても良いのでは。
>539
男にとって理想的な存在としての虚像の意味合いが強かった八雲の、女としての強さ。
脳髄がクラクラするようなすさまじい展開にこのまま溺れていましそうです。
>571
つまりお父様は入り婿? 播磨の気持ちと真逆にずれている中村の思考が面白かったです。
でもさほど幅を取るSSでなし、もう少し改行があったほうが読みやすかったかも。
>575
寂しそうだと気がついていながらも播磨に当たらずにはいられなかった沢近かわええ。
補完部分がいつもよりだいぶ多くて満足して読めました。晶に会いに来たのはそのためか。
>589
誰が悪いわけでもないのに八雲が悲しすぎて、そして惨めすぎて。……泣いてもいい?
絶対に口にはできない二種類の言葉を懸命にこらえるその姿に身を裂かれる思いです。
>615
主語を抜かしすぎなとことか気になったけど、こういうアイデアはわりと好き。
花井の性質や舞ちゃんがそれをするかどうか等ツッコミ所もあるけれど、楽しめました。
>627
こういうバカネタも2スレ目あたりのなんでもありな雰囲気なら通用したのでしょうが……
進んでNGワードを使用してあぼーんされる自虐的な笑いを誉めていいものか。
>638
本編から外れた描写をするならば、納得できるだけの理由付けをお願いしたいところ。
沢近が播磨を好きだという事を一瞬で察する八雲は超人すぎると思うのですよ。
>653
説明文のような印象を受けたけれど、沢近の負けず嫌いっぷりがいい。いきなり冬て(w
あと老婆心ながら、感想を述べる際には名無しでいたほうがお互いのためかと。
(・∀・)しながらの絨毯爆撃ももう5回目。そろそろ叩かれ時かもしれません。
- 666 名前:Classical名無しさん :04/07/03 06:46 ID:zTo1drnw
- しさしぶりに大爆笑♪
- 667 名前:Classical名無しさん :04/07/03 11:05 ID:qmlfIyEQ
- むしろ毎度この絨毯爆撃が楽しみなのですよ。
しかし、いつのまにかスレも二ケタに。思えば遠くに来たもんだ、と。
- 668 名前:Classical名無しさん :04/07/03 12:55 ID:6gWpwnUI
- どんなSSにも、よい、悪いの感想があると思います。
絨毯爆撃を快く思わない人もいます。
それは分かってほしいです。
- 669 名前:埋め :04/07/03 20:09 ID:oybZGIuI
- 個人的な感想ですから相性の悪さがもろに出てしまう場合もありますね。
職人の救済にもなると思い上がりそうになっていたのは確かなので、現行スレを最後にします。
あと一回だけ、お見逃しを。
- 670 名前:Classical名無しさん :04/07/03 20:15 ID:qQs0aFQ2
- 俺は、基本的にマンセーの感想でも、感想ないよりいい思うけどな。
少なくとも次書こうという気になるし。
- 671 名前:Classical名無しさん :04/07/03 21:25 ID:EWLW9O.w
- まどろっこしいな
んーと
セロリ
ー
- 672 名前:Classical名無しさん :04/07/03 21:26 ID:Ur5yrgpw
- 別にいいんじゃね?目的は埋めなんだし
ほとんどは新スレに移行してるだろうし
うざいなら見なけりゃいいだろう
- 673 名前:Classical名無しさん :04/07/03 21:45 ID:kczMw2dY
- 個人的には色々な作品の感想をまとめて読める絨毯爆撃は好きですよ。
どうせ埋めだし。
しかし、やはり男同士ネタは最近の需用に合ってないのですね…。
以後自粛します…。
- 674 名前:Classical名無しさん :04/07/03 23:42 ID:gFdEljq2
- >>671
んーと
セロリ
ー
ワロタ
- 675 名前:Classical名無しさん :04/07/04 07:41 ID:XzELou.U
- >673
需要うんぬんじゃなく、奈良重雄は奈良厨と煽られた素人の不毛な争いに使われた過去があるから。
スクランスレではギャグとして使うのはイメージが悪すぎるのさ。
つーわけで落ち込まず次もネタでいっちまいなー(AA略
- 676 名前:Classical名無しさん :04/07/04 07:58 ID:jCJ2GJLk
- 結局リレーSSってどうなったの?
- 677 名前:Classical名無しさん :04/07/04 14:34 ID:Ur5yrgpw
- 分校のBBSでやってる
- 678 名前:たれはんだ :04/07/05 00:44 ID:35SedIeg
- 皆様、はじめまして。
先日友人に薦めなられ、このサイトを覗くようになりましたが、
ここに上がっているSSを読むうち、よせばいいのについ、妄想
したままを勢いで書いてしまいました。
ここにいらっしゃる神様の方々と比べること自体おこがましいの
ですが、良かったら読んでみてください。
一応、沢近のみ?の独り言と思ってください。